或る話。

ちょろんちょ

1 旅行先にて

 俺とOとKの男三人は旅行で関西に来ていた。初日は大阪で、大阪城や天守閣とかの有名スポット見たりタコ焼きやらなんやら(まぁ大体は粉物だったけど)を見つけて食べてなんかして一日が終わるような計画も何も決まってない手当たり次第の気楽な旅行だ。

 

 そんでビジネスホテルに泊まって、部屋で俺らはコンビニで買った酒を飲んでいた。旅行とは言ってもやることは一緒で、俺ら三人はいつも通りにどうしようもないことを喋ったり、罰ゲームありのポーカーやら大富豪やらをして過ごしていた。


 「今日で大阪は終わって明日は京都やん。どっか行きたい場所とかある?」


 Oが言う。俺は祇園に行きてえって答え、Kは嵐山にある竹がむっちゃ生えてる道に行きたいって言ってた。


 「そこは見ておくべきところだよなぁ。でもさ、ぶっちゃけそれだけだと満足できへんやろ?」


 何か考えてるんだろうなって感じのニヤけ顔をしたOがエセ関西弁で言う。


 「だとしても、あとは飯ぐらいだろ?」


 俺が言うと、Oは「違うんだなぁ」って言って手にあるスマホを俺とKに見せて来た。


 スマホに表示されている画面には『絶対に行ってはいけない京都の心霊スポット』みたいなのがあって、いかにもって感じの写真がズラリと並んでいる。


 「マジで?」って俺とKが言うと、「マジもんや」ってOが返す。


 まぁ、そんな感じで俺らは心霊スポットに行くことが決定になった。


 んで次の日。俺らはレンタカーで大阪を出て、京都に向かう。京都までの運転は俺が担当で、意外と走りやすかった。京都に着いて、まずは伏見稲荷大社に向かう。次は清水寺で、その次は金閣寺。見るべき名所を見て回って、ホテルにチェックイン。いろんなとこに休みなしでまわったせいか少し疲れていたし、俺らは少し寝ることにした。夕食の時間ぐらいに起きるはずだったが、俺らが目を覚ましたのは午後の九時だった。


 夕食にと決めていた蕎麦屋は既に閉まっている時刻だったので、結局は近くにある某牛丼屋で飯を食った。少し勿体無い感じはしたが、まぁ休みは必要だし仕方がないって感じで俺らは納得することにした。


 「それじゃぁ飯も食ったし、行くかあ。心スポ」


 外に出る支度を終えたOがやる気半分って感じで言う。正直俺はもう休んでいたかったが、思い出としてはいいだろうぐらいに思って支度を終える。Kも支度を終えて、俺ら三人はレンタカーで向かうことにした。向かう先は京都一番の心霊スポットといわれているトンネルで、ネットで調べればすぐに出て来た。住所もあったのでカーナビに登録する。目的地までは十キロもないので、運転する俺は少しだけ気が楽になった。


 「じゃぁ行くでー」って俺は車を発進させる。


 意外と車は多く、人も多かった。狭い道や暗い道なんか通ったりして三十分もしないで目的地の近くの山道まで来た。走っている車は俺ら以外見当たらないし、ガードレールの外には鹿がいるしで少し雰囲気が出て来た。


 「おっ、あれじゃね?」


 助手席のKが指を差す。その先にはいかにもって感じのトンネルがあった。


 カーナビを確認する。どうやらここらしい。俺は車を止めた。


 トンネルの中は暗く、赤かった。赤かったっていうか、赤みがかかっているというか。電灯はあるみたいだが暗い。中は霧がかかっているみたいで先が見えなかった。


 で、トンネルの前には信号があった。


 「この信号な、来た時に青だと幽霊が導いてるから通るなって言われてて、赤になるまで待たなきゃいけないらしいんだわ。で、青になったら渡るらしいで」


 Oがわざとらしく低い声で言う。信号は青になっている。今は渡ってはいけないってことか。


 他にも噂があり、中で停まってクラクションを鳴らすと変な音が聞こえるだとか、ボンネットに女が降ってくるとかの噂だ。どれも怖いが、どうせ起こりはしないんだろうって俺は思っていた。


 信号は赤になっていた。俺は車のライトをハイビームに変えてトンネルの中を照らしたが、やはり霧みたいのが深くて奥までは見通せない。


 正直な話、少し怖い。Oはウキウキして「幽霊でてきたらどないしよー」とか言ってスマホで車の外を撮影している。Kも同様で、フロントガラスの先を撮影している。


 信号が青になる。「よし、行くぞ」と俺はゆっくりとアクセルを踏んで進み始める。


 やっとかと騒いでいた俺らだが、トンネルに入り進んで行くうちに静かになっていく。OとKはトンネルの中の異様な雰囲気に怖気付いて黙っていたと思うが、俺はトンネルの中が予想以上に狭くて、レンタカー擦ったらヤバいみたいなことしか考えてなくて別の意味で怖かった。


 「えっ、ちょっ、停まって!!」


 助手席で前を撮影していたKが言う。驚いて俺は咄嗟にブレーキを踏む。急ブレーキで俺らは前のめりになった。


 「えっ、なに。どうした?」


 俺はKを見て言って、前を見る。あるのはフロントガラス越しに見える車のライトで照らされたトンネル内だけだ。Kのいたずらかって思った俺は、マジで危ないからやめろってKに言おうとしたが、その前にKが俺に「は?見えねぇの?」って言ってきた。


 「見えねぇのって、何もねえじゃん」って俺が言うと、Kは青ざめて下を向いた。Kは「まじかよ」って何回も呟いてから、また前を向く。手にはスマホがあり、前を撮影しているらしい。


 「いや、いるわ。マジで。見て。多分、幽霊」


 Kは泣きそうな声で俺にスマホの画面を見せてきた。


 いた。女がいた。撮影画面の中のフロントガラスの先、車の先に当たるか当たらないかの場所で女が立っている。


 裸だった。何もかも見えてるが、顔は変に黒くなっていて見れなかった。というか、俺とK、後ろで画面を見ていたOの三人はフリーズした。


 俺は横目でスマホの画面から目をそらし、フロントガラスの先を見る。


 何もいない。つまり、画面にしか女は映っていない。


 行くしかないと思った俺はアクセルを踏むことにした。KとOはフリーズから解け、なんやら騒いでいる。既に女が立っている場所は通過した。レンタカーを擦らないようにと慎重かつ早くトンネルを抜けなくては。


 出口が見えてきた時だった。車のルーフの部分でゴンって大きな音がした。俺はビビってブレーキをする。するとフロントガラスからボンネットへと転がって地面に落ちる何かがはっきりと見えた。


 人だ。顔か、真っ黒な顔?女か?裸だった。レンタカーなのにどうしてくれんだ。俺はいろんなことを考える。多分、狂い始めていたと思う。俺はアクセルを踏んだ。車は縁石を乗り上げるような感じで、落ちてきたもの(たぶん女の幽霊)を踏み越えて進む。


 車の中は叫び声で包まれていた。何でかはわからないけど俺は笑っていた。人はやばい時になると笑うって聞いてたけど、本当だったんだなぁって思う。


 車はトンネルを抜けた。先は分かれていて、坂道の方が山道を抜ける道だと調べていたのでそちらの方に向かうことにした。


 心臓がはち切れんじゃないかと思うぐらいに鼓動が早かった。しばらく走らせると山道を抜け、普通の車道に出た。


 他の車のライトの明かりを見て俺らは恐怖から解放され、すぐに車内は騒がしくなった。


 「やばかったぁ!!」とOが言う。Kは泣きそうな声で「死ぬかと思った」とか言っていた。俺は終始レンタカーやばいんじゃねぇかしか言ってなかった気がする。


 途中のコンビニで車を駐車して、キズとかないか確認したがどこもおかしな点はなかった。


 それからは何も起きずにホテルへと向かった。部屋についてからOがKに撮った動画見せてと言ったので、俺ら三人はKの撮った動画を見ることにした。


 動画に女は映ってなかった。


 ただ一つ、変わったことっていえば音だった。


 車のルーフに幽霊の女(多分だが、おそらくそうだと思う)が落ちてきたゴンって大きな音。その音がトンネルに入ってから抜けるまで鳴り続けていた。


 ちなみに京都の次は奈良に行った。鹿とか東大寺の大仏が大きいとかで驚き、京都のことはどうでもよくなった。


 動画は気持ち悪いので消した。


 そのあとは何事もなく過ごしています。


 終


 


 


 

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