ときどきあの頃、

鳥野そぼろ

第1話

 あなたの気持ちを知っていたのに、あなたの気持ちを利用した。自分でも理解している事を、自分は正しいことも悪いことも分かっているのよと、正当化させるなんて。


それをあなたは理解しているの? と聞くなんて、なんて意地が悪いのだろう。


 一つの行為が終わり、私は彼に言う必要のない言葉をはなっていく。

「ねぇ、お互い気持ちよかったとして、あなたは満たされた?」

スッと鼻を鳴らす彼に、私は続けていく。ありきたりで陳腐な言葉しか出てこない。中身のない人間が、私が、放つものなど、意味がないと分かっているのに。

「恋人がいるのに、あなたはアプローチし続けた。断り続けたのに、あなたはしつこかった。折れるしかなかったのよ」

 言い訳をだらだらと、一人ずっと放ち続ける。時折、私の髪の毛先をいじりながら、彼は静かに聴く。

「私にはね、すごく大好きな恋人が居て大切で、こんなことしたくなかったけど、あなたとの。世間的には許される行為ではない。背徳的で、卑劣で卑怯で、でも私はあなたと寝た。意味分かるかな、なんでか分かるかな」


「よく聞いて。私があなたと寝たのはね、寂しそうだったから、可哀想だったから。ただ、それだけなの」

 いつの間にか互いに目を逸らし、抱きしめあって、現実とは裏腹に温かさを求める。もしかしたら彼は、俺だからここまでこれた、と考えているかもしれない。これが俺の実力だと思っているのかもしれない。今まで、その快楽のために彼と寝た人はたくさん居るのだろう。きっと同じだと思われてしまうのだろう。そうだろう、だって私は彼とセックスをしてしまったのだから。


 それでも私は、快楽のためにしたのではないと、どう伝えればいいのだろう。


「恋人がいるのに」

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ときどきあの頃、 鳥野そぼろ @SBdrp

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