パンツが見たい
木ノ本迷路
彼らの青春
人が他の動物と違う点は?と問われれば皆、口をそろえて頭だと答えるのではないだろうか。
もちろん他の動物だって知能がないわけではないが人間ほどではないといっていい。
思考は人にだけ与えられた唯一のものなのだ。
そしてその人である俺、
放課後、部活動や下校などで人もまばらな教室の隅で俺と、友人である
「して、なんだ?重大な悩みとは。」
俺に「重大な悩みがあるから一緒に解決してくれ」と呼び出された幸平は眼鏡をクイッとあげ、妙な口調でそう問うてくる。
窓から侵入した風が俺の髪をゆらす。
その風がやむのを待ち、俺は重い口を開いた。
「パンツが見たい。」
「それは重大な悩みだ。」
幸平は間髪入れずにそう首肯した。
幸平もエロに関しては俺と同じ価値観を持っているといっていい。
むしろ、だからこそ友人なのだ。
「一応質問するがそのパンツってのは――――」
「愚問だ。」
そう、パンツといってもネットで調べればすぐ出てくるような画像でもなければパンツそのものを見たいわけでもない。
具体的に言うと”女の子にはかれているパンツ”がこの目で、生で見たいのだ。
見たくて見たくて仕方がないのだ。
「すまない、無駄な質問をした。」
幸平はそう謝罪し、頭を下げる。
「だが、どうするつもりだ?穴場スポットはもう全部対策されているぞ。」
俺達は過去に、似たようなことをやっているのでその都度女子からボコボコにされ、その後、相応の対策をされており、幸平の言う通り、俺たちが見つけたスポットは全滅だった。
女子更衣室の隣の部屋の壁の穴、プールの更衣室の天窓に部活棟の外階段の下などなど。
「大丈夫だ、あてはある。」
「あてだと?まだ見つけてないスポットが――――」
「直接頼むんだよ。」
俺は幸平の言葉を遮ると、目をらんらんと輝かせ、某名探偵さながら、そう言い放った。
幸平はあっけにとられ大口を開けたまま固まっている。ギャグマンガでしか見たことないような光景だった。
ようやく正気に戻ると、驚きをあらわに口を開く。
「頼んで見せてくれる当てだと…俺らにそんな当てなんて…」
「ギャルだよ」
「ギャルだと!?」
幸平は俺の発言にまたもや驚きを見せ、わなわなと震えていた。
いちいち映画じみたリアクションに俺の気分も高揚してしまう。
「あいつらはスクールカースト上位中の上位、そんな奴らに俺ら底辺が…」
「そこをつくのさ」
「なんだと?」
訝しげな顔をして幸平はそう問う。
そんな、幸平に俺はまたも自信満々に口を開く。
「あいつらは毎晩男をとっかえひっかえに決まってる。そんな奴らにとってはパンツなんてただの布切れにすぎないのさ」
幸平はより一層驚きを露わにする。
顎が外れそうだった。
もう一度驚かすと顎が外れるんじゃないかと俺のいたずら心をくすぐるが、今はそんなことをしている場合じゃない。
「なるほど…考えたな、これはいける…いけるぞ!」
「だろう?」
幸平は興奮し、一人鼻息を荒くしている。
自分で自分が恐ろしい、我ながら素晴らしい策を思いついてしまった。
この妙案は軍師官兵衛でも思いつかないんじゃなかろうか。
すっかり俺達以外誰もいなくなった夕暮れの教室では、二人の不敵な笑い声だけが木霊していた。
※
「おい誰だ、この案を考えた馬鹿は」
「は?お前も賛成してただろうが馬鹿みたいなリアクションして」
幸平は腫れあがった頬をさすりながら、そう悪態をついた。
それにイラっとしつつ、俺はすっかり視界が悪くなった左瞼をさすりながら反論する。
結論から言うとパンツは見られなかった。
それに加え、ギャル――
15分ほど前の俺をぶん殴りたい。
「うるせぇ、大体お前はいつもこうだ。馬鹿みたいな事に巻き込みやがって」
「何言ってんだ馬鹿、毎度毎度お前が止めないからこうなってんだよ」
「なんだ止めろって、お前が馬鹿な提案しなけりゃ済むことだろうが!」
「いーーや、お前がノリノリだったのが悪い!俺は途中で無理だと思ったんだよ!」
俺の悪態に幸平が反論してくるが、それに腹を立てた俺が反論し、また幸平が反論するという悪循環が出来上がっていた。
二人の口論はどんどんヒートアップしていく。
「だいたい、俺まだお前にコンビニでおごってやったプリン代かえしてもらってないしな!」
「それ今、関係ないだろ!じゃあ俺だって、お前の掃除当番変わってやったのに俺まだ変わってもらってないぞ!」
「はぁ!?プリン代の方が罪が重いだろうが!」
「いーーや、掃除当番変わってやることはプリン代より価値があるね!」
俺達は顔を突き合わせていがみ合い、口論を始めるが、やがてその気力も尽きてしまい、二人で地面にへたり込んでしまった。
「こうなりゃ、あいつしかいねえな…」
「あぁそうだな…土下座でもすりゃ見せてくれるかもしれねぇ」
※
「嫌よ、なんで見せなきゃなんないの」
「「そこを何とかお願いします!女神様!」」
俺達は最後の頼みの綱と言わざるを得ない、俺達と唯一交流がある、肩までの長さの爽やかなショートヘアーが特徴的な幼馴染の
「はぁ…なんであんた達っていつもこうなの、本当嫌になるわ…」
額に手を当てげんなりとした表情を見せるなずな。
「それでも、頼む、もう俺達にはお前しかいないんだ!」
「俺からも頼む!翔太がどうしてもって――――」
「俺だけに擦り付けてくんじゃねえよ!」
心底あきれた顔をしたなずをよそに俺達はまたも口論を始めようとするが、なずなに「みっともないからやめなさい」と諭され、俺達はしぶしぶ矛を収めた。
「取りあえず、そんな真剣な顔で言われても無理なものは無理、本当無理」
なずなはきっぱりとした口調でまたも強い拒否反応を示した。
「くぅ…神様はなんて残酷なんだ…俺たちにパンツの一枚も見せてくれないなんて…」
「俺たちが何をしたっていうんだ!」
「いや、散々覗き行為してるでしょ」
涙を流し互いにこの世の理不尽さを嘆く俺たちに、なずなは心許ない言葉を漏らし、侮蔑の視線を向けてくるがそんなツッコミは俺たちの耳には届かない。
そんな俺達を見てなずなは一つ溜息をつく。
「あたし、用があるからあんた達の馬鹿みたいな話に付き合ってらんないの、じゃあね」
「あっおい!」
「頼む待ってくれ!」
「「なずなああああああああああああああああ!!」」
なずなはそう言うと俺達の静止の声を気にも留めず、颯爽と去っていった。
人気のない廊下では俺達のすすり泣く声と、グラウンドで野球部の金属バットがボールを打つ、カーンという甲高い金属音が微かに響いていた。
※
話し合った結果、望み薄だが新しい穴場スポットを探すしかないという結論に至った。
二人で色々めぼしいところを回っていると、体育倉庫の裏に差し掛かったところで見慣れた姿を見つけた。
「おい、あれなずなじゃないか?」
「ん?あいつあんなところで何してんだ?」
「おーい、なず――――」
俺が声を掛けようとすると幸平に口を手で遮られた。
急な行動を不服に思いつつも、俺は幸平にその意図を促す。
「いや、あれ、さっき俺達をボコったヤンキー集団じゃねえか?」
「ん?あぁ確かに…なんか様子が…」
幸平に言われ、もう一度見てみると、確かに見覚えのある、三、四人のいかにもガラの悪そうな男の姿が見えた。
なんだが、揉め始め、ただ事じゃない雰囲気が立ち込めてくる。
「なんか…揉めてるな…」
「あぁ…」
俺の言葉に幸平がつぶやきを漏らす。
俺達二人は何をするでもなく只々その光景を眺めていた。
口論がひとしきりヒートアップすると、ヤンキー集団の一人がつかんでいるなずなの腕を引き、体勢を崩すと、それを皮切りに周りの奴らがなずなを抑え始めた。
なずなは必死に抵抗しているが、三、四人の男に抑えられていては意味をなさなかった。
すると、一人の男がなずなの服を脱がそうとブラウスのボタンに手を伸ばす。
これは…。
「おい、翔太これは…」
「あぁ…」
「「絶好のチャンス!!」」
※
二人と別れた直後、あたしは用を済ませに、体育倉庫裏に向う。
男子生徒に昼休み、放課後体育倉庫裏に来るよう言われたのだ。
正直あまり気は進まない、ガラは悪そうだったしなんだか面倒な事に巻き込まれても困る。
だが、断って波が立つのも嫌なので、それならすぐ済ませればいいか、という考えだ。
面倒な事というワードで二人の幼馴染の顔が頭に浮かぶ。
はぁ…なんであいつらって、いつも、ああなんだろ本当…。
あの二人とは小学生のころからの付き合いなのだが、昔から変態的な行動が目立つ二人だった。
子供の悪戯という名目にかこつけてスカートめくりは日常茶飯事だったし、覗きもしばしば。
最近はあまり目立った行動はしてなかったので、反省してるのかなと思った矢先これだ。
まさか直接頼み込んでくるとは思わなかった。
やっぱり根本的なとこは変わらないんだなぁ…。
あたしはもう一度大きなため息をついた。
そんなことを考えているといつの間にか目的地の体育倉庫裏についていた。三、四人のガラの悪そうな男たちが目につく。
あたしはなんだか不穏な空気を感じ取り、さっさと用をすまそうと声を掛ける。
「それで用って何?」
あたしの問いかけに集団の一人が口を開く。
「あぁ土曜、俺ら暇なんだよ、一緒にカラオケでもどうだ?」
「えーっと、あたしその日用事あるのごめんね」
思ったよりまともな用件で少し安心し、あたしは少し考えるふりをした後、用意していた返事をすると、「それじゃ」と声を掛け、彼らに背を向けその場を去ろうとする。
すると、一人があたしの腕をつかみ引き留めてきた。
あたしはその行為にムッとして顔をあげると腕をつかんだ本人をにらみつける。
「なに?」
「おいおい、そんな怖い顔するなよ。じゃあ他の日はどうだ?空いてる日を教えてくれ」
「ごめんね、あたし、あなた達と遊ぶ気はないの。だからこれで」
彼らはあたしのタイプではないし、あまり一緒に遊びたいとは思えなかった。
あたしはその問いかけに努めて冷静に笑みを浮かべて、返答し、今度こそその場を去ろうと歩みを進めようとするが、つかんだ手は一向に放される気配がない。
「いい加減離してくんない?」
あたしは多少イライラしてきて、少し強めに言葉を放つ。
「じゃあ、俺らと遊んでくれるか?」
「だから遊ぶ気はないって言ってるでしょ、しつこいよ」
何度か同じようなやり取りを繰り返す。
いい加減我慢の限界だ。
「だから遊ばないっていってるでしょ、何回同じこと言わすの?猿でももう少し物分かり良いと思うけど」
「俺達が猿以下だって言いたいのか?」
あたしの挑発にイラついた様子を見せるが、こうなったあたしの口はもう止まらなかった。
「だってそうでしょ、何回も何回も同じこと言わせるし、馬鹿以外の何物でもないじゃない、そんな猿以下の馬鹿と遊んだらこっちの知能まで下がりそうだわ」
流石に言い過ぎたと思ったときにはもう遅かった。
完全に火が付いたであろう男は掴んでいた手を引き、あたしの体制を崩すと他の男たちが次々にあたしを押さえつけてきた。
「黙って聞いてるといい気になりやがって、調子に乗るなよ!」
「女一人遊びに誘えないだけでここまでするなんて本当ださい奴ら!」
「いつまでその威勢が続くだろうな!」
男はそんな散々使い古されたであろう台詞を吐くと、あたしのブラウスのボタンに手を伸ばし、ボタンをはずしにかかる。
あたしは必死に身をよじって抵抗し、助けを呼ぼうとするが男の手に阻まれてそれは叶わない。
ちょっと本気でやばいかも…。
そんな弱気な事を思っている間にも男の手は動き、あたしの衣服を脱がしていく、もう全部のボタンが外れ下着が露わになるところだった。
目に自然と涙が溜まっていく。
誰か助けて――――。
そう心で叫んだ時だった。
「警備員さん!こっちで女子が丸裸にされそうになってます!」
「警備員さん早く!もう丸裸です!」
聞き覚えのある二人の幼馴染の声がしたのは。
※
二人の声に慌てた男たちははすぐにその場を去っていき、事なきを得た。
あたしは袖で涙をぬぐうと、二人に見えないように後ろを向き、乱れた衣服を整える。
「ありがとう二人とも、助けてくれて…」
「いいってことよ」
「当たり前のことをしたまでだ」
二人のほうを向くと、あたしの弱弱しい感謝の言葉に二人は笑顔で答えてくれていた。
そうだ、前にもこんなことがあったっけ……小学生のころあたしが上級生の男子たちにいじめられたとき、その時もこうやって二人が笑顔で助けてくれて、二人はいつもあたしの味方で…。
なんか悪いとこばかり見過ぎてたかもなぁ…。
「それでさ…お礼と言っちゃなんなんだけど…。」
「あぁ…ちょっとお願いがあってだな…。」
二人が言い出しづらそうに何やら言いよどんでいる。
あたしは何だろうと不思議な顔をしてその続きを促す。
直後、先の回想の続きが現実と重なるように、フラッシュバックしてくる。
「「パンツを見せてくれないか?」」
あぁ…そうだった…。あの時もこれで感動が一瞬で冷めたんだった……。
まぁこの二人らしいっちゃらしいけど…。
その言葉にあたしは心底あきれた顔を返し、額に手を当て大きなため息をつくと、笑顔でこう返してやった。
「い・や・だ!」
あたしがその場を後にすると、そこには幼馴染二人の悲痛な叫びがひぐらしの鳴き声とともに響いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます