第14話 走り出す少年たち
コガネくんは、コガネくんのお母さんと一緒にこの町にやって来たらしい。
あの日、僕がコガネくんのお母さんに「もし、探している人がいるなら花屋さんに行ってみてください」と言ったのを聞いていたコガネくんは、どうしようかと迷うお母さんをひっぱって、よく行く花屋さんに行ったそうだ。
そこにいたのは、コガネくんのお母さんの幼馴染みで、若いころに絶交したまま長年会っていなかったホナミさんという女性だった。
絶交した理由はコガネくんは聞いていないから、僕たちも知らない。けど、コガネくんのお母さんはずっと後悔していたんだって。「私が止めなきゃいけなかった」って、泣きながらホナミさんに謝っていたお母さんを見て、コガネくんは思わず「お母さんを泣かせるな!」って怒ったそうだよ。
かっこいいね、コガネくん。
コガネくんのお母さんは、ホナミさんと無事に仲直りすることができたんだってさ。それじゃあ、コガネくんがこの町にいるのはホナミさんとの仲直り記念に遊びに来た……とか?
「それで……、そのホナミさんがこの町に住んでいるの?」
「ううん、ちがうよ! ホナミおばちゃんは、港町の向こう側の町に住んでいるんだって。ぼくがここにいるのは、ぼくのおじいちゃんとばあちゃんのおうちがあるからだよ!」
コガネくんが指さしたのは、コガネくんが出てきた家だ。
中にはコガネくんのお母さんとお父さん、おじいちゃんとおばあちゃんがいるらしい。コガネくんは、これから近くに住んでいるイトコの家に行く途中だったんだって。
「へえ、里帰りってやつかな?」
「それじゃあ、コガネくんのお母さんはこの町出身なんだね」
「うん! お父さんと結婚して、この町からおひっこししたんだってー。ここは遠いから、ぼくがもっと小さいころはお正月にしか来なかったんだよ!」
なるほど。確かにあの町からこの町に来るまでの道を考えると、小さいコガネくんを連れて長時間移動するのは大変だろう。
コガネくんは、コガネくんのお父さんの運転する車に乗って来たと言うけれど、僕たちでさえ疲れ果ててお屋敷のベッドでぐっすりだったんだから、もっと疲れたんじゃないかなあ。
それでも元気なのは、道中の町や村で休憩をしたんだろうな。家族旅行みたいなものだし、僕たちみたいに四時間以上連続でバスに揺られなくていいからね。バスの移動は、もうこりごりだよ。
元の世界に戻ったら、しばらくはバスじゃなくて徒歩と電車で移動しようと思う。もちろん、お父さんたちが運転する車には乗るけどね!
「あ、そうだ! そう言えばね、昨日、アカリちゃんがおうちに泊まっていったんだよ」
なんだってっっっっっ?
「アカリちゃんね、南美橋の近くで大事なものを川に落としちゃって、それを探して港町まで行ったんだって。でもね、全然見つからなかったから、お世話になった人の言う通りに、大事な物をなくしちゃった場所に戻ってきたって行ってたよ。お母さんは、南美橋の近くで落としたんだったら早く言ってくれればよかったのにーって言ってた」
そりゃまあ、言うだろうね。
アカリさんは僕たちと同じようにバスに揺られて、ここまで来たはずだ。ガタゴト揺れるバスの中は、言い方は悪いけど地獄みたいでとてもつらかった。
コガネくんのお母さんは、それを知っているから、そう言ったのだろう。車での移動なら、バスで移動するよりも休憩は多く取れるし、なにより快適に過ごせる。車の大きさにもよるけど、シートを倒して寝ることだってできるし、それほど揺れもしないだろう。
ううん、まあ……。今さら言ってもしょうがないんだけどね。
「アカリさんは、もう家から出たの?」
「うん。アカリちゃん、昨日は雪であまり探せなかったから、今日は頑張って探すって言ってたよ」
コガネくんと別れた僕たちは、足早に大通りを抜ける。
川沿いの道に出ると、上流に大きな橋がかかっているのが見えた。あれが、南美橋だ。
「なかなか大きな橋だね」
「ええ。掲示板にも、ここら辺では一番大きな橋だって書いてあったわよ」
南美橋は赤い色をしているそうだが、雪が積もっているおかげで赤い色はほとんど見えない。
橋の上を数台の車が行き交うが、歩行者がいないのはお昼も近いからだろうか?
……とは言っても、まだ十一時を過ぎたところなんだけどね。
あれ?
誰かがこっちに向かって走ってくるよ?
「ねえ、ヒロト。こっちに向かって走ってくる子がいるんだけど」
「あ、僕の見間違いじゃなかったんだね」
「ボクにも見えるよ~。なんだか、とってもあせってるみたいだね」
こちらに向かって川沿いの道を走っている少年は、泣きそうな顔をしているように見える。
上流のほうでなにかあったのかな?
「あっ、人っ! た、助けてくださぁ~い!」
僕らに近づいてきた少年は、メルを抱っこしている僕ではなく、僕の隣にいるショッパにしがみつきながらそう言った。
おおう、足が速いな。
「え、ええっ?」
「なにかあったの?」
「猫がしゃべった! じゃなくて、助けてください!」
「いやだから、なにがあったのさ」
ショッパがたずねると、少年は泣きそうになりながら南美橋近くの川岸で、川の中に入ろうとしている子がいるらしい。
今日は雪が降っていないとはいえ、気温は十度以下と低いし、水温も冷たいだろう。ジュンと名乗った少年の友人がその子を引き留めているらしいが、その子は川の中に入ると言って聞かないため、ジュンが人を呼びに町のほうへ向かって走っていたというわけだ。
「ああ、どうしよう! このままじゃアカリちゃんが!」
「えっ」
「え?」
「その子、アカリって言うの?」
「うん、オレの友達なんだ!」
僕とショッパは目を見合わせて、「見つけた!」と声をそろえて言った。
「君たちもアカリちゃんを知っているの?」
「僕たち、その子を探して港町のほうからやってきたんだよ!」
「えええ、港町ってとっても遠いとこだよね?」
「ほらほら、アンタたち! ここでしゃべってる暇があったら、アカリのところに行くわよ!」
そして、僕たちはメルの言葉と同時に三人そろって上流のほうへ向かって走り出した。
雪がとけはじめた道はすべりやすくて危険だけど、急がなきゃアカリさんが川の中に入って風邪をひいてしまうかもしれない。
早く、早く行かなきゃ!
「頑張って探すって、川の中に入って探すって意味だったのね!」
「その言葉の意味を、今、知りたくなかった!」
「ボクもだよ!」
「うわああん! アカリちゃんの手を離したら許さないからね、
マサキって言うのは、もしかしてアカリさんをひきとめているというジュンの友人だろうか。
急いで行くから、ふんばってよマサキくん!
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