ダークコスモス
ブルワイト
第1話
『エルバート セシルの回想録』
人類文明の終焉。
それはまるで四季がうつろうがごとく、しごく自然な体をして訪れた。
元来、決して賞賛されるような品性も知性も持ち合わせていない種族、人類。
ことさら知性の面においては、学習能力が著しく欠落していることは彼らの争いの歴史がそれを如実に証明しているのだが、神もいったい何の代償としてこのような災厄を彼らに課したもうたのか。まったく憐れと言うほかにない。
人間達をあのように醜悪で、本能のまま血肉を貪る獣以下の生物に貶めた元凶が、いったい何であるのか。いまだその問いを満たすに十分な答えは見出されてはいない。
いずれにせよ困ったものだ。
なぜかと?
食料不足の問題だ。
そう、人類は私たちにとってかけがえのない食料。
我と我が一族、そして眷族を生かし、この星の食物連鎖の頂点たらしめる唯一無二の糧。それがそなたたちだ人間だ。
とは言え、今のように変わり果てた醜い元人間、彼の国では「屍畜」と呼ばれているようだが、その屍畜のように人の肉に歯を突き立てて食いちぎるような蛮行とは異なる。我らはそなたらの肉には、一片の、興味もない。
我らが愛してやまないもの。それは、そなたらの体をめぐる熱き命の潮流。芳醇極まりない香りと、舌に触れた瞬間、この世の快楽の頂点へといざなう究極の美味。
そう、血だ。
我らの舌を歓喜させ、喉を潤し、灼熱の魂を癒し、神に通じる力の扉を開くもの、それがそなたら人間の血である。
その貴重な糧が、いまや絶滅の危機に瀕している。なんとも由々しき事態である。
屍畜となった人間の血は汚染され、我らに何の益ももたらさなかった。
屍畜は人間に噛みつくことで同胞を爆発的に増やしていった。幸いなことに我らには抗体が備わっているらしく、眷族も含め、いまだ我が一族の中から感染者が出たという報告は入って来てはいない。だが、喰い殺された者はいる。奴らは見境なしに生き物を喰う。なんとも醜く忌々しい。
この物語は彼の国、かつては日本と呼ばれていた島国での物語である。
謎のパンデミックと「終末の災火」によって荒廃し、無政府状態となり果てた技術先進国。
文明の終焉からおよそ半世紀の歳月が流れた。わずかに残された人間たちは我が眷族による庇護のもと、「貴畜」と呼ばれ、糧として生きることを余儀なくされている。
我が眷族は自らを「騎士」と称し、領地の中に貴畜を囲い庇護を与え、対価として血を得た。だが、いつかは貴畜がいなくなってしまうことは明白であった。セックスを促し人口を増やそうとしても、それを支える食料が不足していたからだ。
滅びゆく定めの我が眷族たち。なんとも、哀しいことだ。
だが語らねばなるまい。
過ぎ去りし時のことを。
彼らの、美しくも儚き、愛と血の物語を。
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