第5話

30分後、面談を終えた、《彩多キミトシ》が神妙な表情で応接ルームから戻ってきた。


応接ルームで待っていたのは、何と《冥界重工》社長。 そして日本国軍の軍服を着た、軍人。


やっと解放され応接ルームから自分の作業ブースの座りなれた作業イスに体を預け、ため息をつく。


さっきまでいた応接ルームでの出来事を思い出し、考える。


この架空世界に本物の人間が侵入していたとは…

しかも、自分がデザインした人物が改ざんされ、その人物になりすまし利用されてしまっていたことにもショックを受けていた。


本物の人間が自分の意識をデータ化させ《森谷タダシ》となって架空の戦場に侵入していたのだ。

前々から架空世界に本物の人間が侵入することは理論上、出来ると噂では聞いた事はあった。

が、本当にヤル奴がいたとは…


数値世界に入り、戻って来れる確立はかなり低い。

戻れたとしても何らかの脳への障害が残る可能性は、かなり高い…


《彩多》は時計を確認した。「後、2分か…」

そう、あと2分で戦争報道ジャーナリストの《森谷タダシ》は政府に批判的立場を取り続けている独立系のネットテレビ局のメインニュースショーに生出演する予定だ。


世界の国々、世界的大企業がこぞって参加しているこの《戦争ゴッコ》の無意味さを実際に体験した立場で訴えようと得意顔で画面に現れるつもりなのだ。


そして、ニュースショーが始まる時間がきた。

だが《彩多》はテレビモニターの電源は入れなかった。


わかっていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る