第106次世界大戦

アンクロボーグ

第1話

【第106次世界大戦】


 昨夜から降り続いている雨で未舗装の国道は、ぬかるんだ赤土でベタベタの道へと変わり、森谷タダシのブーツにまとわり付いた。


2026年、ここはロシア連邦の南方、黒海とカスピ海にはさまれたコーカサス地域。

戦場報道カメラマンの森谷タダシは、地獄を見ていた。


位置情報ナビにも無視されるような小さな村でも戦闘は続いている。

異国の兵士達は、なぜか同じ国で造られた同じ型の銃で撃ち合う。


 肉は当たり前のように砕け、裂けて赤い体液を流し、今まで、動いていた人型の生き物は命を失いタダの肉の塊となる。


この世界で戦争の意味を正しく理解している者はいるのだろうか。

いや、たぶん、理由など知る事に意味など無いのだろう。


この世界にとって戦争はいつも日常なのだから…


その時、村の住民の一人が遠くから大声で叫びながら走り寄って来た。


左側の1本だけ残った腕を振りながら。

その走りは障害の残った妙な動きをしていた…


「終わったぞ!終わったーっ。戦争が終わったんだーー!」

森谷は小さく一つ、ニセモノの呼吸をした。そしてゆっくりと空を見上げた。


そこにはきれいなニセモノの青空が広がっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る