第6話 マンションと倉庫
昨日の片付けから一日。
龍太郎は今、車に乗って移動していた。何も片付けを放棄して遊び呆けているわけでもなく。ドライブを楽しんでいるわけでもない。というのも、龍太郎は茅の家に向かっている。
会社を辞めたニートが花の女子高生の住まいに向かうとは何を考えていると、世間は思うだろう。それには理由がある。遡ること昨日、茅と龍太郎がロフトベッドを解体した後のことだ。
「龍兄さん」
「ん。どうしたの茅ちゃん」
「解体したロフトベッドですが。切断しようと先にノコギリを拝見しましたが、手入れがされていなかったので錆だらけです」
「えっ。本当だ」
いつの間にノコギリを拝見したのかを気にはなりながら、確認すると刃の両面が斑点のように錆ている。
「酷いな。これは買い替えた方がいいかな」
「これぐらいなら買い替えなくても、油系のものを鋸刃部分につけて木材を切ると綺麗になりますよ」
「あ、だったら。その油ものを塗ってから切ればいいのか。何がいい?」
「油系だったらなんでも大丈夫です。ただ、油を塗っても木材と接触する部分のみの錆だけ取れて、全体的には綺麗になりませんのでオススメしません」
「切った箇所だけ?」
「切った箇所、だけです」
断言する茅に龍太郎は困り顔で、
「あ~、それなら茅ちゃんのオススメ教えてくれる」
「オススメですか?」
少し思考して、茅は口を開く。
「専用の錆取り剤で落とすのが一番ですかね」
「……普通だね。もっと何かあるかと思ったよ」
「当たり前です。そもそも手入れをしっかりしていれば錆取り剤なんて使わなくて済むのですから」
「スミマセン」
どこか怒った風に語る茅に龍太郎は申し訳ない気持ちになる。
「こんな状態のノコギリはあまり使いたくありませんね。龍兄さん明日は何か予定はありますか?」
「特にはないよ」
「でしたら、明日は私の家で続きをしましょうか」
「……え?」
「決まりですね。では、また明日。解体した木製パーツを持ってきてくださいね」
「ええぇぇぇ」
そんな訳で半ば無理矢理と言っても過言ではない感じで、流れるように約束された。龍太郎として、茅に感謝の気持ちがない訳ではないが、少し気に病む。
龍太郎の自宅から十分程の移動でようやく到着した。
移動中、後ろのトランクと後部座席を倒してまで載せた元ロフトベッドである木製パーツが、車という密閉空間に独自な匂いが漂っていたがようやく解放される。
「っと、此処かな……?」
たどり着くは三階建てのマンション。橙色を基調とした明るい外装で、どことなく新築のような雰囲気が漏れている。
「龍兄さん」
マンションの一階の角部屋から茅が顔を覗かせる。そこが茅の部屋らしい。
「おはようございます」
「おはよう、茅ちゃん。車を停めたいんだけど、どこに停めとけばいい?」
「でしたら、奥の通路に入って貰っていいですか」
「分かったよ」
ハンドルを操作して車を指定された奥の通路に進んで行く。マンションの脇の通路に進むと広い駐車場と三つの倉庫がある。その内一番手前の倉庫に先回りした茅が手招きしている。車を近づけバックで倉庫の前に止めた。
龍太郎は車から降りる。
「マンションなのに倉庫があるんだ」
「予約制ですけど。マンションの住人なら事前申請すれば何時でも使うことができます」
倉庫のシャッターを上げる。
「おお、以外と広い」
「共有用の倉庫なので、それなりのスペースはありますよ」
「共有用? 三つも倉庫があるのに?」
「二つは作業用の倉庫ですが、残りの一つは材料置場になってます。それより、早く車から下ろしましょうか。車を長く停めとていても邪魔ですから」
茅と協力して二人で車から下ろし、倉庫内に広げる。それでも倉庫内にはまだスペースが残るほど広い。
「さて、龍兄さん作業を始めましょうか」
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