EP.02 0X陣: D-part <2ジ終1希望>
デルは、一つの問題にぶつかっていた。
「ちい、これじゃあまた逃げてるだけじゃねえか‼︎」
敵機に向かって突進したのは良かった。
デルが苛立っているのは、また敵機に背を向けることになってしまったからだ。
理由は、黒アイリスの武装、パナセル式ホーミングレーザーと呼ばれるビーム兵器に行く手を阻まれたから(レーザーは通称であり、実際はただのビーム兵器である)。
「しつこく追って来やがって……ジェームズ、大丈夫か!」
『は、はい! ビームは全てあなたのところに行ってますからこちらは何とも……』
「それは良かった。じゃあお前はここから離れろ!」
『ど、どうして⁉︎』
「あいつは危険だ! 犠牲はオレ一人で十分なんだよ‼︎」
『で、でも!』
「早く行け!」
ビームより機体を早く飛ばすことに努めながらも、懸命にジェームズを諭す。
相手は凄腕だ。それが分かっているから退避を勧める。
『わ、分かりました』
「よし、それで良い」
ジェームズからの通信が切れたことを確認すると、デルは操縦桿を握り直した。
アクセルは踏んだままだ。
「たくっ、キリがねえ!」
ジスタートから流れる粒子は、空に波を描く。
そのすぐ後ろを貫くビームも曲線を重ね合って無数の
納豆の糸のように光が機体を絡め潰そうと襲って来るのだ。
「こうするしか……ないのかあ!」
徐々に高度を下げ、機体を高速かつ低空飛行させる。
それが意味するところは、地表のトルム構造物に追ってくる光線を当てていくということで、デルにとっては罪悪感が伴うことだった。
自分を襲う光が消えたことを確認すると、機体を急旋回。またジスタートの顔を敵に向ける。
しかし、次なる一手が迫らんと発射されていた。
「くっそ、しつけえ!」
逆噴射する形で膝のバーニアを叩き起こす。
ある程度機体が後退すると左膝のバーニアの電源を切る。
そのまま右足を軸に機体が回転——敵機に背を向ける——するやいなや、また逃走の始まりだ。
「逃げているだけではダメだ! 何か武装は⁉︎」
それが音声検索となり、モニターに武装一覧が表示される。
「フレア! これだ」
直後、人工知能によってビームの数が即座に解析され、その数がモニターに浮かび上がった。
「よし、射出!」
デルのかけ声に反応し、ジスタートは十二発のフレアを発する。
ビームはそれらに引き寄せられてフレアは爆散。
デルの思惑通りの結果だ。
「よっしゃあ!」
次に、デルは機体を旋回させる。
フレアによる爆発雲で敵はこちらをロックオンできないはず。
その隙を利用して突撃しようと考えたのだ。
「接近戦ならァ!」
サイドスカートに刺さる剣の
ビーム剣を両手に二本。つまり左右にそれぞれ一本。
つまりは二刀流である。
「ビーム砲は使えねえよなァ‼︎」
アクセル全開。
雲を切り裂くジスタート。
そして、その先に——
「やっと……近づけたぞォ‼︎」
首を動かしていたよう数からすると、こちらの位置を探っていたのだろう。
空中に静止する漆黒のアイリス。
「ハッ、立ち止まってくれた方が丁度いいよ!」
デルはニヤリと頬を上げ、敵機に切りかかる。
だが、相手も馬鹿ではない。
黒アイリスは右手のライフルでビーム剣を受け止める。
「そんなものォ!」
溶けていくライフル。
それを見た黒アイリスは逆噴射でジスタートから距離をとる。
奴が次に行った行動は、サイドスカートからビーム剣を取り出すこと。
「フフフ……そうか。接近戦に応じてくれるか! いくらでも立ち向かってやるよ‼︎」
両者は加速し、そしてぶつかり合う。
黒は両手で振り下ろすのに対して、それを赤は右で受け止め、左でレイピアのように突こうとする。
しかし、黒いアイリスは膝のバーニアを用いて逆噴射。
突きを一寸のところで回避する。
「次ィ‼︎」
ジスタートは今度は左で受けつつ右で切り落とそうとする。
しかし、黒アイリスの押し込みに耐えきれず後退。
すかさず斬りかかろうとする敵に対し、両手でXの形に構えて耐え抜く。
そうしてまた両者は離れていく。
「まだまだァ‼︎」
アラビア数字で八の字を描くように蛇行する二機。
数秒後、それらは引き寄せられるうにまた激突する。
「終わらせてやるぜ‼︎」
剣を振りかざす敵。
それに向かって、デルはまたXの字で剣をぶつける。
さっきは攻撃を凌ぐために行った挙動で、今度は押し込んでいく。
「うおおおおおおおおおお‼︎」
デルがアクセルを全開で踏み込むと——
両機は、そのままジスタートの力に任せて地上へ激突——降下した。
「いってえ、やり過ぎた」
顔をぬぐう。
デルが見る先は、舞い上がる砂埃の向こう。
「こいつが……」
視界が晴れ、そこに現れる黒アイリス。
デルは、ジスタートが確実に抑えつけていることを確認する。
そして、行動を起こした。
「オープンチャンネル、オープン。そこの黒いアイリスのパイロット、聞こえるか」
この悪魔の素顔を知りたい。そんな好奇心がデルを導く。
『聞こえている』
たった一言。たった一言だが、数々の衝撃や情報を伴った言葉が返ってくる。
デルは、自分が口だけで息を吸うのを感じた。
「……お前の目的は何だ。なぜ一般市民を殺す」
驚きを棚に上げて、一番聞きたいことを問う。
流れ弾なら仕方ないとしても非戦闘員、一般市民を狙って撃つことは、古来から許される行為ではない。
デルが今戦う理由はまさにそれで、四人家族を目の前で失ったことへの怒りにある。
だから、敵がなぜ一般市民を襲うのか、何よりも根本的な問題としてトルムを襲うのか聞き出したかったのだ。
そう思っているうちに、敵パイロットは口を開く。
『命令だから。それで?』
麗しくなるほど透き通り、酷く無機質な
「そうか……よく分かった……」
唇を震わせながら、噛みしめるようにデルは言葉を発する。
そして——
「し、しまった!」
ギギギ……と機械が動き出す音。
目の前の敵機はジスタートを押し倒し、立ち上がる。
デルは操縦桿に手を伸ばそうとするが時は既に遅く、剣先がジスタートの首を向いていた。
『私たちの目的は、世界にパナセアを取り戻し、文明を再興すること』
「何を……言っている」
『そのためにはこの
「ど、どういうことだ」
『そして、この都市に残されたもう一機のΩ級決戦機動兵器を破壊する。そして、この都市も。それが私たちの目的である』
「な……⁉︎」
『コンタクトを終了したい。命令により、敵との接触は禁止されている。そのため——』
一斉に体から発される汗。
——何かが来る!
無機質という名の純粋は不気味さとなって青年を襲う。
『貴方を殺す』
その少女と思わしきΩ級X式パイロットの言動は、全てにおいて虚無を感じさせた。
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