幕間 もしもアルが小さな巨神兵の「作ろう!彼ごはん」を読んだら

……気が付くとそこはイタリアだった。

彫りの深い顔の気さくなイタリア人たちが俺に笑いかける。

イタリア人たちの向こうには、一心不乱にトマトを投げあう人々が見える。

どうやら祭りが開かれているようだ。「イタリアトメィト祭」と書かれた横断幕が建物と建物の間にたなびいている。トメィトだけ発音よくてなんかむかつく。

と、祭りの中心のステージの上にいるイタリア人が俺を手招いた。

「ボンジョルーノ!カモンヒア!」

俺も参加しろってことかな?よっしゃあやったるでえ!

俺は腕まくりをするとトマト、いやトメィトの汁で赤く染まった人々の中へと飛び込んでいった!

「あたたたたたたたたたた!」

俺はトメィトを掴んでは投げ掴んでは投げ、とまさに百人力の活躍をする。そのたびにおもしろいように人が倒れていく。

「ウィーアーウィン!サンキュー!」

「おっけーおっけー!」

どうやら、俺の活躍のおかげで俺たちのチームは勝利したようだ。

周り中から俺をたたえる声が聞こえてくる。

「オ―!コングラッジョレーション!」

「デンドウイリ!デンドウイリ!」

「はっはっはっはっは!さんきゅー、さんきゅー!」

俺たちの勝利を祝うため、たくさんの料理が運ばれてきた。

ピザやパスタなど多くのイタリア料理が、いつの間にか用意されていたテーブルに並べられる。

その中でも、一際目を引くのが、真ん中に盛りつけられたナポリタンだ。

…ん?ナポリタン?あれ…?






「はっ!」

なんださっきのは。

「よがっだぁあああああ!ファスト生ぎでだああああ!」

「ぬぐおおおっ!?」

鼻水でベショベショになった顔が猛接近してきたので、咄嗟に体をひねってかわす。ナイス反射神経、俺!

なんなんだ、何が起きたんだ。

「突然ぶっ倒れたから死んじゃったかとあwせrftgyふじこ」

「分かったからいったん落ち着け!」

その後、落ち着きを取り戻したアルに聞いたところによれば、俺は料理を一口食べた瞬間にぶっ倒れたらしい。何度話しかけても起きず、ピクリとも動かなかったので、アルは俺が死んだと勘違いしたらしい。恐るべし彼女飯。

…ん?待てよ?

「お前、材料は何を使った?」

彼女飯には二種類ある。

化学変化ケミストリ・レボリューション型と科学超越サイエンス・ニュージェネレーション型である。

一般的に、前者はどう考えても食べられないような食材を入れ、その化学反応による生成物を駆使して愛する人を倒す科学準拠型。なぜそれを入れるのかという疑問は残るものの、科学的には人が倒れても問題のない料理が出来上がる。(料理で人が倒れるということ自体問題だが。)また、本人の努力次第では治る可能性もある。

一方、後者は科学を超えた超反応で闇物質ダークマターを製造するファンタジー型。まともな物質しかいれていないのに、出来上がった料理は大量殺戮兵器と化す。全く持って謎である。

料理方法に問題があるというのが今の主流理論であるが、他にも偶発的発生説や大魔王の呪い説、大宇宙の真理説などがあり、学界では熱い議論が交わされている。

がしかし、未だにその原因は解明されておらず、原因究明に成功した者はノーベル賞確実とまで言われている。

なお、本人にもなぜそうなるのかわからないため、努力によって治すのは不可能な場合が多い。

ちなみにアルはというと……

「うーんとねえ、ユーレイ・ガガーリ……

「うん!よくわかった!」

なんでソ連の宇宙飛行士が出てくるんだ。謎じゃないか。

……というかどうやって使ったんだ!?ロシア人って結構おっきいぞ!?どこにそんなのが入るスペースがあった!?

「あ、ごめん、暗黒超神混沌龍ダークソウル・ゴッドドラゴンだった。」

「なんだか強そうだけどそれ食材として使っていいの!?」

絶対ダメなやつだろ!ゴッドとかついてたし!

そもそも入るのか?ドラゴンって言うからにはガガーリンより大きいよな?

しかし、これで一つ分かったことがある。

アルは化学変化ケミストリ・レボリューション型だ。

これなら本人の努力によって治るかもしれない!まだ希望はあるぞ!

まずは食材とそうでないものの区別をたたきこんでやる。

というわけで俺はの手をひいて机のある寝室へと誘導しようとする。

「アル、ちょっとこっちへ来ようか。」

「ふぇ!?だ、だめだよファスト!こんな真昼間っから……!」

なぜか顔を真っ赤にするアル。何言ってんだこいつ。

「昼間じゃないと(食材が)良く見えないだろ!」

「ええっ!?見たいの……!?」

「見ないことには(授業が)始められないだろ?」

「でも、夜でも明かりをつければ……。」

「ランプの灯じゃちゃんと見えないだろ!(腐ってる食材を見分けるのには、)大事なところをしっかりとみる必要がある!」

「!?ううん…でも……いや、ファストがそういうなら……。」

「よし、茄子とかキュウリとか、(教材として)いろいろもっていかないとな。」

「ファストは僕に何をする気なんだよ!?いや別にいいんだけど!恥ずかしいかって言われると今更だし、もういいんだけど!でもっ……!アブノーマルっ………!」

「アブノーマル?(食材とそうでないものの見分けくらい)普通出来るだろ?」

「普通なの!?」

「これぐらい普通だろ。むしろ今まで(食材かどうかの区別をつける練習を)日常生活の中でしてこなかった方がおかしい。」

「ええええええええっ!?日常活ぅっ!?」

「何驚いてんだ?さて、を始めるぞ。」

「じゅ、授業!?スクールコス!?くぁwせdrftgyふじこl!?」

「どうした……?」

アルの顔は耳まで真っ赤である。真っ赤過ぎだ。まるでユデだこのようだ。関係ないけどたこ焼きはうまいぞ。でも作者はお好み焼きのほうが好きだ。

あ、もしかして具合が悪いのか?だとすればさっきから「夜がいい」って言ってるのも納得できる。「今はちょっと休ませて。夜になったらやるから」ってことだろう。

だとしたら大丈夫か?我慢してたりしないか?

だんだんと心配になってきた俺は、ストレートにアルに聞いてみることにする。

「熱でもあるのか?顔が赤いぞ?」

「にゃっ!にゃ…い……!ただっ……!はじゅかしいっ……!だけっ……!」

ああ、今まで食材とその他の区別を知らなかったことが恥ずかしいのか。気にすることなんてないのに。お嬢様だったんだから、それくらい当たり前じゃないか。

「気にするな!大丈夫だ、俺が手取り足取り教えてやるよ。」

「で、でも……!」

「恥ずかしがることなんてない!最初はだれだって知らないんだ!そこからだんだんと覚えていくんだ!」

「わ、わかった………………。」

「よしじゃあ授業を始めるぞ、椅子に座れ!」

「い、椅子!?……あの、先生、一つ聞いても…………、いいです………か?」

アルもやる気になってくれたようだ。早速質問をしてくる。俺はうれしくなって、少し弾んだ声で答える。

「ああ!」

俺の返事に、アルは少しためらうようなそぶりを見せた後、ゆっくりと


「ファストは……変態……なの?」


「はい?」

あっけにとられる俺。

え?オレ、ヘンタイ?何かやらかした?

「だって!大事なところを見たいって言ってたし!」

「えっ!?」

「キュウリとか茄子とか持ってこうとするし!」

「ちょ、まっ!」

「挙句の果てにスクールコスでやろうとか言いだすしっ……!」

「えっ……!?」

そんな発言してないぞ!?……ん?待てよ?

…………。

……………。

………………。

………………………やばいっすね。いや、でも誤解だ!誤解なんだ!

そんな俺の心の内は、当然アルに伝わるはずもなく

「うわあああああんファストの馬鹿あああああああああああああっ!」

「誤解だあああああああっ!」

アルは勢いよくドアを開けて飛び出していった。


今回の教訓。

日本語は 省略せずに 言いましょう。


この後俺がアルの誤解を解くまで三時間かかるのだが、それはまた別の話。

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