③温め続けてきたネタをぶちまける爽快感
……あほなことをして二日も時間をつぶしてしまった。(前回参照)
アルはいまだに怒っている。
女っていうやつぁ根に持っちまうからいけねえぜ。
さてと、そんなことは置いておいて、とにかく情報を集めないといけない。
本当なら初日に町を探索する予定だったのだ。しかし、アルの暴飲暴食によって一日目がつぶれ、食い過ぎたアルが動けないと言い出したため、二日目もつぶれた。
ついでに、アルの体調が治れば二日目の夜に探索に行く予定だったのだが、昼に風呂に入った時(グリシスは温泉郷として売り出しているが、あまり売れていない小さな村である。当然日本人である俺は昼風呂に入った。)俺が女湯を覗いたので、アルが切れて、夜の探索は中止になった。
よって、本日は滞在三日目である。
「さてと、とりま教会に行ってみるか。」
情報によれば、『黒山羊さん』は教会にいるらしい。いいねえ。厨二心がうずくぜ。
この手のラスボスってのは、だいたいが教会とかその関係者なんだよ!(偏見)
そして、俺たちでは到底敵わないような強い能力を持ってて、いったんは俺たちを追い詰めるものの、なんやかんやあって俺が覚醒して、ものすごい力でラスボスを倒す、っていう筋書きだろう。
……『黒山羊さん』は別にラスボスじゃないけどね。
「ファスト、あれがこの村の教会らしいよ。」
「おお、でっかいなあ~。」
でかい教会であった。
具体的には、モンハンのギルドくらいの大きさと言い表せばいいだろうか。
中に入ってみると、四方の壁には悪魔と戦う天使の絵が描かれており、祭壇の両脇には、こちらを睨む天使と悪魔の像が置いてある。
どうやら外見だけでなく中身も豪華なようであった。
そして、最重要設備である祭壇の側の壁には女神アシエスの像が掘られており、横の通路には水瓶が置かれていた。これを作る金があるなら、貧しい方々に分け与えればいいのに。と思ってしまうほど金ぴかのやつである。
爪ではじくと、コン、と乾いた音が鳴ったが、すぐやんだ。
「………………。」
「どうしたの?」
「…………いや、何でもない。」
と、
「私共に御用ですかな。」
「!」
「結婚式を挙げに来た。………違いますかな?」
今までいなかったはずの司祭が唐突に話しかけてきた。居たんだ司祭。気づかなかったよ。…って、え?なんだこいつ。
「………。」
「え、ええ!?……はわ、はわわ…………!」
もちろん俺は動じなかったが、動じる奴が俺以外にいる。アルである。
そしてすぐに、ちらちらと目だけでこちらを見てくる。
いや、違うから。そんなに期待したような眼で見られても困る。
「違うぞ?」
「え、ええ…。もちろんわかってたもん!…………ばか。」
首を下げ、目に見えて落ち込むアル。何にも悪いことしてないのに、なんか悪いことをした気分になるな、これ。何かごめん。まあ、でも。
「どうせいつかするだろ。今じゃなくてもいい。」
ボソッとつぶやく。だって……そうじゃん。
「……///」
照れるアル。これは言った俺も照れるな。今の顔は真っ赤になっていることだろう。
「あの、いい雰囲気のところ悪いのですが、何をしに来たのかだけ聞いてもいいですかな。」
「「すみませんでした」」
ごめんなさい忘れてました。あまりにも存在感がなかったもんで。
だが、今までので何となくわかっている。
「単刀直入に言います。『黒山羊さん』について何か知っていますか。」
俺はいきなり本題に踏み入って聞く。
普通、この手の情報を得るためには、相手に警戒されないようにする必要がある。この質問をしたとき、もしも司祭が『黒山羊さん』の仲間だった場合、確実に警戒されるだろう。
にもかかわらず俺がこうしたのには訳がある。俺はあることを確信していた。
「もちろん知っていますよね、『黒山羊さん』?」
彼は『黒山羊さん』だということ。
まずこんな村にこんな立派な教会があるのがおかしい。この村は小さい。別に鉱山村でもないので、資源が取れるというわけでもない。でかい教会を立てて管理する必要はないはずだ。なのにこんなに大きな教会があるということは、人外の力が働いたとしか考えられない。その時点ですでに、この教会に『黒山羊さん』が関係しているのは確実であると思っていた。
そして決定打は、俺が水瓶をはじいた、あの時。
水瓶からコンと乾いた音がして、しかもすぐ止まった。
本当に純金ならば、はじけばコーンという鐘のような音が鳴り響く。響かないということは、中身が金属ではないということだ。そしてこの世界にメッキという技術はない。つまり、あの水瓶はこの世界に存在するはずのないものである。
その時点で俺は確信した。
その上で、もう一つ確信していることがある。
こいつは音もなく現れた。俺はともかくアルさえも気配に気づかなかった。
気配も姿も消し、相手に自分を見えなくさせる能力を持つ奴を、俺は一人だけ知っている。そしてそいつは、俺が最も嫌いな奴の一人だ。
俺は司祭を睨みつける。
俺を見た司祭は、にやりと口元をゆがませる。
その口が。
「ああ、そうだよ。ファストくん?」
俺の名を、呼んだ。
そして、顔の前で手を一振りする。それと同時、瞬時に顔が変わる。
司祭らしい、恰幅のいい顔から、やせ細った、病人のような顔へ。
「……………やはりお前か。」
「君と会うのも久しぶりだね。随分と男らしい面構えになりましたねえ。」
「ああ、お前は変わらねえなクソ野郎。」
「クソとはひどいなあ。せっかく呼んだんだから、もっと楽しめばいいのに。」
「ふざけるなゴミ。俺をさっさと元の世界に返しやがれ。」
前にアルに故郷はどこかと聞かれたとき、俺はこう答えた。
―――――異世界。――――こことは全く違う世界で普通に暮らしてたらある日突然この世界に
お分かりいただけただろうか。「瞬間移動」のルビが「よびだされた」となっているのだ。
そう。つまり俺は呼び出されたのだ。
目の前にいるやせ細った元司祭…いや、『黒山羊さん』に。
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