⑥同情するなら金をくれ(切実)

「金がない!」

俺は激怒した。

「知るかボケ!」

元・お姫様は叫んだ。

「お姫様がそんなはしたない言葉を使うんじゃねえ。」

「へへーんだ、僕、もうお姫様じゃないもんねー!」

「まあそんなことは置いといて、だ。」

俺は真顔になって言う。

「な、なんだい突然改まって。ま、まさか正式にけ、けっこn…?」

「我が家の財政事情がやばいっす。」

「ア、ハイそうですか。」

あまり興味なさそうなアル。

わかってんのかな、この問題の重要性を。

やばいのだ、本当に。

元々、俺が持ってきた(盗んできたともいう)金は、日本円に直すと、6万円くらい。

それに、アルが王室から持ってきた(盗んできたともいう)金を合わせて、大体70万円くらいはあった。

がしかし、2人暮らしとはいえ、3か月以上もなにも働かずに暮らしていると、その金も底が見えてくる。

そのうえアルが高級なお布団を買ったりしたので、今の我が家の全財産は、

「銅貨10枚っ………!2000円っ………!小学生のお年玉並みっ………!」

「へえ~、そうなんだ~。」

適当に返事をするアル。

「―――――…なんだ、結婚はしてくれないのかー。―――――」

「…なんか言ったか?」

…アルがボソッとつぶやいたが、声が小さすぎて聞き取れなかった

「うっさい、ばーかばーか!この鈍感!」

と思ったら、突然起こられた。

なんなんだ、わけが分からん。

これは、あれですかねえ、女心と…なんだっけ、忘れちまった。

もやもやして、八つ当たり…そうか、思春期か!女心と思春期!


………絶対違う気がする。


などとくだらないことを考えていると、

「てか、お金ならいくらでも作れるよ。」

アルがさらっと爆弾発言をする。

「お前今なんつった!!?」

「え…?お金ならいくらでも作れるって……。」

「マジかよ!ちょっとやって見せてくれないか?」

「ええ~?なんかヤダ~。」

渋るアル。

まあ、お金を作るということに抵抗があるんだろう。

でもな、アル。もしお前が金を作らなかったら、


「…晩飯が、春キャベツオンリーになります。マジで。」

「よし作るぞー。」

アルは基本何でも食えるのだが、春キャベツだけはどうしても無理らしい。

だが春キャベツは安い。というかタダだ。

そこらへんにいくらでも生えている。

よって、切り詰める際には自動的に晩飯が春キャベツになる。QED!

と、アルが

「呪文を唱えるんだが、いくつか金属を用意してくれ。いらないもので頼む。」

と言って呪文を唱え始める。


「Fall. I follow Satanakiel and become the champion of the nomination party.

Solomon 72 pillar devil in our name, manifest its power. Shake,‘‘ Zagan.’’」


…今度は英語ですか。

かろうじてサタナキエルは(中二病時代の経験から)わかるが…。

ちなみに俺の成績(中3の時)

英・2 

数・3

国・2

理・1

社・3

音・1(一回も授業に出てない)

美・1(上に同じ)

技術/家庭・5/1(家庭科のみ上に同じ)

体・0(先生に暴言)


……0ってあるんだね。

おっと、そんなことはどうでもいい。

ええっと、金属金属…。

「あった!」

いい具合にサビてる鉄片を見つけた。

これは多分、……包丁ですね。

……なんで山奥に包丁があるかは追求しないでおこう。事件の香りがする。

しかし、でかい。これなら多くのお金ができそうだ。

「アル―!あったぞー!」

喜び勇んで家に帰ると、アルはすでに呪文を詠唱し終えていた。

俺がテーブルに包丁を置くと、アルがそれに手を向けて、

「―――――偽貨交換false・change―――――]

「解」を唱えると同時、包丁が光に包まれ、形が変わってゆく。

そして、金貨になる。

なるほど、呼び出したのは、金属を貨幣に変える悪魔、「ザガン」か。

警察の皆さん、今ここで、一つの殺人の証拠が消えました。

「おおー!すげえ!」

「へへー、すごいでしょー。」

できた金貨は3枚。

値段にして大体600万円か。

…すごいな。これならいつまでも暮らせるじゃないか

「アル、ありがとう。これで晩御飯がまともなものになるよ。」

「お、おう…。」

「疲れちゃったか。ごめんな。」

「大丈夫だよ。でも今日はもう寝たいかも…。」

魔法とは、精神力で無理やり悪魔を召喚し、その恩恵を受けとることだ。

発動するにはかなりの精神力を要する。

また、強い悪魔を呼び出すにはそれなりの精神力がいる。

この前、俺の首の焼き印を消したとき呼び出したのは、「ウィルオウィスプ」という下級の悪魔だったし、さらに前の「バルス」は不発に終わったので、どちらの時も疲れた様子を見せなかった。

しかし今回呼び出したのは「ザガン」という悪魔。

結構有名な「ソロモン72柱」の一人である。

だから結構疲れているのだろう、アルはベッドまで行くと、そのまま倒れこんで寝てしまった。

「ぐごー。すー。」

気持ちよさそうに眠りこけるアル。

「お疲れさん。」

俺はつぶやき、アルの頭をそっとなでると、アルが「むうー」という声を上げたので、俺は慌ててなでるのをやめた。

危ない危ない。危うく起こしてしまうところだった。

アルが起きてしまうと、内緒でに出かけることができなくなる。

俺は、音を出さないよう細心の注意をはらってベッドから離れると、壁にかかっている上着を取り、ドアへ向かう。


「お休み、アル。」


寝ているアルに向かってそう呟き、俺は夜の街へと繰り出した。

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