マスクドガールズ(仮)

三ノ月

ぷろろーぐ


 米座ヨネクラアカネという少女の話だ。


 僕とは、幼稚園、小学校、中学校、はては高校まで同じ。その上、家も隣同士だというのだから幼馴染と呼んでも差し支えないはずの彼女は、しかしそんな印象を僕には与えない。なぜなら、彼女はその姿をほとんど見せることが無かったからだ。


 いわゆる引きこもり。けれど時折出席する辺り、彼女が抱える問題というのが見えてこない。特に教室にいづらそうにするでもなく、出席すれば堂々と己の席に腰を落ち着ける。そんな彼女のことを不気味に思う生徒は数知れず。いつしか名付けられた、多分に悪意を込められた『根暗メガネ』というあだ名は、本人がかける眼鏡も相まって、彼女が持つ本名以上に知られることとなった。


 ゆえに、僕は米座アカネと家が隣同士でありつつ、通う学校も高校までずっと一緒だというのに、彼女を幼馴染と呼ぶことに抵抗があった。

 考えてみれば当たり前のこと。幼馴染とは、幼い頃からの馴染みの顔と書くのだ。しかし僕と彼女は接点も無く、本当の本当に、家が隣同士というだけの赤の他人。家族ぐるみの付き合いがあるわけでもない。


 ……ということを前提にして、だ。


 僕は、彼女とこれまで接点を持たなかったことが非常に悔しくて仕方がない。なぜ、これほどまでにラブコメにおあつらえ向きな男女でありながら、僕らは友達にすらなれていないのか。


 家が隣同士だぞ、高校までずっと学校が同じなんだぞ。ついでに言えばクラスだってずっと一緒だったんだぞ。それなのにどうして僕らは赤の他人なのか、普通に考えておかしくはないだろうか?


 ゆえに、高校では積極的に顔を見せるようになった米座アカネに、僕はアプローチをかけることにした。


 無論、仲良くなるため。もっと言えば、その先の関係にまで至るため。

 人生十五年を生きてきて、僕に交際相手ができた試しなし。交友関係も決して広いとは言えず、このままでは何もないまま青春を終えてしまうに違いない。草食系が覇権を握っていた時代は終わったのだ。


 ……まあ、有り体に言えば。


 僕は、僕と彼女の設定を活かして、カノジョを作りたいというだけの話。



 米座アカネと、ラブコメをしたいというだけの話。

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