努力の尊さを君は知っているか

吉田 志乃

第1話


努力の尊さ。

私がそれに気付くまでの物語。



それは、ある梅雨明けの暑い日のこと。

先生に呼び出された私は、何の話かなと思いつつ重い足取りで職員室へ入る。

職員室はクーラーが他の部屋よりも何度か温度設定が低くて、ひんやりとした心地良い風が私の心を躍らせたけれど、呼び出された事実は変わる事など無く、手招きされて先生の隣へと行き、用意された椅子に座る。


先生は何やらメモをする為の紙を机の上に数多ある紙から厳選し、それを終えると私に向き直り、私に問い掛けたのだった。


「…竹中さん、あなた進路どうするの?」


え。

まだ高校2年生だし、考えてなかった。


「…一応、就職のつもりで」


その場しのぎに就職だと答えたけれど、私は勉強が好きだから、勉強は続けたい。

けれど、ウチは裕福な家では無い。

だから、早く就職して家を手伝わなきゃ。


「そう、…就職するなら何系のお仕事が良いとか希望はある?」


「いえ…、強いていうなら、事務系…でしょうか」


「事務系ね、わかったわ。…話はこれだけだから、もう帰って良いわよ」


何か怒られるのかと思ったけど、そうじゃなかったらしい。

…だけど、本当に就職で良かったのだろうか。

本当は進学したい。だけど、何を学びたいかと聞かれると困る。

だって、なりたいものはないから。



私に夢が無いのは、中学時代の出来事が関係している。


中学時代、私はいじめに遭った。

上手く友人関係を築けていると思っていただけに、自分の事を嫌いだと主張するような靴の中の画鋲や、私の描いた絵がカッターで切り裂かれている光景、ひそひそと囁かれる悪口に、自分で思っているよりも深くショックを受けたのを覚えている。


ショックで、逃げ出して、その後1年半もの間、家に引きこもった。

卒業するまで、学校には行けなかった。


そんな、周囲の人から嫌われて傷付けられるような底辺の人間が、一体何になれるのか。

あの頃の苦しみが、辛さが、…そして逃げ出したという自覚が、私から自信というものを一切奪い取って、未だに返してはくれない。


…私なんて、私なんて。

……何も出来ない、最底辺の人間。




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