ゲーム開始!
新世代VRMMO特殊対応機関『オルディネ』
世界を震撼させた発表の後、急速に立ち上げられた組織である。主に魔法やそれに連なる犯罪行為を取り締まりを目的としている。様々な国が加盟し、各国の至る所に支部がある。本拠点はアメリカのニューヨークだ。
そしてニューヨークのとあるビルにて年配の男女が数人でテーブルを囲い話し合っていた。
『I didn’t think that such times came over.』
話はある程度終わった所で1人の男性がポツリとそんな事を漏らす。
『However, as for the thing which has come there is no help for it.』
もう1人の男性が苦笑しながら言うと男性も苦笑いをする。
『We only do that we do it.』
女性はそれを言うと他の人もそれに賛同するかのように頷く。
『Yes, it is.』
今日は世界を揺るがした新世代VRMMOの発売日であり、オルディネの正式稼働日である。
★
ソフトを買い終えるとそのまま家に直行する。
家までバスで約30分かかるが、そんなに急ぐ必要は無い。ゲームのサービス開始時間が午後の1時からだからである。最も注意すべきはソフト狩りだ。
ソフト狩りとはその名の通り、発売されたソフトを奪う連中のことだ。
既に十数人が被害にあっているとヤホーニュースで記事にされている。実際はもっと被害にあっていることだろう……ここは慎重にいかねば。
まっでもとりあえずはメールだ、今はメールをするのも一瞬で出来るようになっている。
まずは首元にある機械のスイッチを入れる、すると半透明の画面が目の前に浮かびあがる。これに''メール''と少し強めに思うと、画面がメール画面に変わる。ここから画面に文字を打つイメージで入力される。
ちなみに首元にある機械は''脳とリンクする''がテーマの通信機器[コネッキング]だ。首に刺して付けるものではなく、貼り付けるだけで脳にリンクすることが出来る。
人の脳に電子的犯罪をしようとする輩もいるけど、脳がプロテクトを掛けているから大きな影響を及ぼすことはなかなか難しいのだ。もし危険なら機械を首から取ればいい、貼り付けているだけだからすぐ取れる。気付いて取るくらいの時間は脳そのもののプロテクトが守ってくれる。
まぁ今はそんなことよりも、メールの宛先を選びメールを打とう。
〈無事買えたよ(o ̄∇ ̄o)♪
今帰宅中! みぃ の方はどう?〉
『みぃ』 というのは家が向かい合わせの幼馴染だ。フルネームは高江 美唯菜(たかえ みいな)。本当は一緒に並ぶ予定だったのだが……落ち合う場所を みぃが違う店と勘違いして、やむなく別行動をしている。
しばらくするとメールの返信が来る。メールがくると、視界の右端にメールマークが浮かび上がるからすぐに分かる。
〈いまソフト狩りにあってる!(ㅇㅁㅇ;;)
走って逃げてるとこ、あっちなみに私も買えたよ!✧ °∀° )/ ✧
そのお陰でソフト狩りにあってるけどぉぉ!((((;゜Д゜))))〉
顔文字のお陰で大変なのか余裕なのかイマイチわかんないぞ……。
いやいや余裕なわけないか、これは早く助けに行かないと。みぃが危険だ!
とりあえず場所を聞かない事には動けない、そう思い電話を掛けようとしたところで……辞めた。
いやなに、目的の女性が複数の男に追いかけられて自らこっちに来てるではないか。周りの人の目もあるのによく追いかけれるね、アホなんじゃないかな?
みぃは僕に気付いての近くまで来ると、「あと、たのんだ」と無表情のまま言って少し距離を取った。
「おらおら!ソフトよこせや!」
「ギャッハハハ!」
「ソフトの後は可愛い子ちゃんも奪っちガッ!」
なんか素通りしそうだったから取り敢えずハイキック。綺麗に決まって1人退場だ。
「なんだテメェ!」
「兄ちゃんもソフト持ってんじゃねーか! 兄ちゃんはこの後お楽しみだぜぇ」
残り2人は僕に狙いを定めたようである。倒れた奴には一言も声をかけないで僕に近づいてくる。というか最後のやつ……。
汚物を消毒し終えると、誰かが通報したのか警察が連行していく。みぃは離れた場所からこっちに戻ってくる。
「ありがと、かなと」
『かなと』 ってのは僕の名前だ、相馬 奏(そうまかなと)。
みぃとは頭一つ分くらいの身長差があるから見上げる形になる。
「いや、まぁ無事で良かった」
「うん」
複数の男に追いかけられるなんて恐怖以外の何物でもないだろう。
僕達はバス停まで歩き始める。
「それにしても相当走ったんじゃないか?」
「うん、けっこう」
周りの助けも借りられなかったのだろう。さっきだって周りは見ているだけだった。交番まではちょっと遠いし。
「よくここまで来れたな、大変だっただろ」
「でも、たよれる、の。かなとだけ」
「ったく、早く連絡くれたらすぐに行ったのに」
「そしたら、かなとが、そふと、かえない、かもだから」
ちょっとドキッとする台詞セリフである。
可愛い、がしかし……うーん。
「僕としてはソフトよりみぃの方が大事なんだよ」
「うん……えと、ごめん」
「分かればよろし」
「よろし」
バス停に近づくと、タイミングがよくバスが来るから少し早歩きでバスまで向かった。
ちなみにこのバスは、通信機器のコネッキングがバスに降りる時に自動で支払いをしてくれる。ネットマネーが足りない限り現金要らずだ。
バスは2人用の席が空いていたのでそこに座る。人が多いのに何故か席が結構空いている時ってあるよね。
「みぃは何を買ったんだ?」
次世代VRのソフトの3種の内、なにを買うかは買った後に教えようという話なのだ。
みぃは袋からタイトルが見えるように少しだけ出す。
「わーるど、くりー、ちゃー。かなとは?」
みぃはWORLD CREATUREを買ったんだな。
僕もタイトルが見えるように少しだけ袋からソフトを出す。
「僕はWORLD FANTASY」
「……もっかい、買ってくる」
「いやいや、もう流石に売ってないだろ」
「……じょーだん」
店舗にあるソフトも限りがある、あれだけ並んでいたらまず残っていないだろう。再販されたら買いに行きそうな気がしてならない。
同じソフトがいいなら始めから何を買うか教え合えば良かったんだが、それでは欲しいソフトじゃなくなるかもしれない。特にみぃは言ったそばから買うソフトを変えそうな気もするし。それに自分で選んだやつの方が楽しめると思うのだ。
「じゃあまたVRバーチャルで」
「VRで」
バスから降りて歩いて5分。家の前まで着くと、みぃと一旦別れてから家に入る。
「ただいまー」
家には誰もいないけど言わないとムズムズする。
僕はそのまま自分の部屋に入り荷物を置く。
現時刻は11時30分。時計を確認すると、部屋から出て風呂場へ。シャワーを浴び終えると昼ご飯の用意、長期ログインになると思うから腹ごしらえは大切である。食べないとログアウトした後に凄くお腹がすくのだ。
12時25分。部屋に戻り置いてある謎カプセルにソフト入れてから中に入る、電源を付けると間を置いて意識が沈んでいった。
★
【正常なログインを確認しました】
【WORLD FANTASYのディスクを確認しました】
【WORLD FANTASYのインストールを開始します】
【アカウント名·ソウ·を認識しました】
【これより''ツリー''へダイブします】
【オフィシャルネットワーク[ツリー]へようこそ】
意識が浮上すると、そこは白い空間だった。
ここは僕とみぃの個人ネットワーク、いわゆる部屋である。
ツリーにはこうやって決まった人だけが入れる部屋を作ることが出来る。部屋には鍵が掛けられてあり、登録者以外のひとは46桁の英数字を入力しないといけない。学校のクラスで部屋を作るのもよし、1人だけハブるのも容易い。
暫らくするとみぃが部屋にやって来る。
リアルとは違い、髪が銀髪になりネコミミと尻尾が生えている。ツリー内での外見は少しだけなら変えられるのだ……といっても色を変えるとかそういった類だけど。
「おまたせ!」
「いや、それほど待ってないよ」
「そう? ならいいんだけど、それにしてもここいつ来ても殺風景だね」
さっきとは一転して感情豊かなみぃである、みぃはVRの中だと別人の様に明るくなるのだ。クラスで静かな子が友達だけになると喋り出すみたいな感じだろうか。リアルと喋ってる内容は変わらないからほんとに感情豊かになったみぃという感じだ。
リアルだと「そう? ……ここいつも殺風景」ってなるだろう。何が言いたいかというと、みぃはみぃだ。何も変わらない。
「まぁ何も無いただの白い空間だからな」
「ずっとここにいたら気が滅入っちゃうよー」
「何か買いたいな」
「ねー」
設置できる家具等はほぼ全て課金要素である。しかも普通の家具と同等の値段なのだ、いったい誰が課金するのだろう。……でも安いのなら買ってもいいかとか思ってしまう僕がいる。
「絨毯でも買おうか」
「あっそれなら私もお金出すよ!ハート柄とかいいよね」
「柄付きにすると高くなるぞ、中古ならあるかもしれないけど」
「えー、じゃあ奏はどんなのがいいの?」
「んー僕は、そうだな──」
僕のアカウント名は·ソウ·だけど、ここではいつも通りの呼び名で呼びあっている。
みぃもミーナと頭の上に文字が浮かんでいるが、この空間内は僕等2人はしか入れないしわざわざ変える必要は無い。勿論部屋から出ると呼び名は変えるけど。
結局オークションでハート柄の絨毯を買った、800えんなりー。中古だが果たしてネット空間に新品も中古もあるのだろうか。
絨毯を出した所でWORLD FANTASYのインストールが完了する。みぃもWORLD CREATUREのインストールが終わり時刻が13時丁度になる。
「じゃあ行くか」
「そだね、また後で会おうね」
僕はアプリの画面からWORLD FANTASYを選択するとすぐに視界が暗転する。
【ようこそ! WORLD FANTASYへ】
視界はすぐに戻ると、そこはまたもや白い空間だった。まぁそういうこともあるだろう。
【それではアバターを作って頂きます】
アバターを作れるのか。ツリーのアバターがそのまま使われるのかと思っていたよ。
【このアバターはWORLD FANTASY、WORLD CREATURE、WORLD CIMの全てに共有されますのでご注意ください】
【それでは性別を選択して下さい】
前の画面には男性と女性の選択肢が浮かび上がるが、女性の方だけ灰色になって押せない仕組みになっているみたいだ。
これは脳から情報を読み取っているからだろう。選択する意味があるんだろうか、むしろ女性を選べていたらリアルではどうなっていたのだろうか。
男性を選択すると、自分と瓜二つの身体が目の前に浮かんだ。
【年齢を設定してください、なお設定していただいた年齢は現実世界に影響されません】
たしかリミッターを掛けてるんだったよな。さっきの性別の選択はそもそも押せない仕組みだったし、伝える意味が無かったってことだろう。
試しに100と入力してみる。すると皺くちゃのおじいちゃんになった、自分の面影があるだけに少しショックである。ここは今と同じ17歳にしよう。
【種族を選択してください。なお選択していただいた種族は現実世界に影響させることが可能です】
種族は大丈夫なのか。つまり犬耳猫耳や羽付きがリアルでも見れるということか! あぁでも中年のおっさんが犬耳付けてる場合もあるのか……ただの社畜にしか見えないな。
選べるのは[人族][獣族][魔族][森族][海族][土族][龍族][天族][宙族]の9つ。
宙族ってのが気になって見てみると異形系だった、マジか子供が見たら泣くぞ。
他にも獣族だったら猫とか犬とか色々選べるみたいだ。
そして新情報で種族レベルと固有スキルってのがある。固有スキルは種族レベルが一定以上になると取得する。取得する固有スキルは種族によって変わり、どの種族も初めに一つ固有スキルを有している。
種族レベルは固有スキル発現の他に、固有スキル以外のスキルや魔法を派生させる役割を持つ。これも種族によって派生出来るスキルや魔法が変わるみたいだ。
映像を見れるらしいから見てみると、火球が真っ直ぐ飛んでいく[ファイアーボール]という魔法が、天族レベル5との組み合わせで[ファイアーボール]の火球が4つに分離して飛んでいった。
簡単に言うと種族レベルで固有スキルを取得したり、スキルや魔法が派生したりするってことだな。
どうしようか。龍族はなんかテンプレだし、宙族はキモイし、土族はなんかパッとこないし。土族はドワーフのことだな。獣族と魔族はしっくりこないし、森族は髪色が固定されるらしいし。森族はエルフや妖精のことだ。
残るは海族と天族だ。
海族は人魚みたいな感じだな。スキルで足が人と魚と変えれて、所々青色の鱗が見える。海とか楽に泳げるらしい。
天族は翼があって空が飛べるみたいだ。出し入れ可能。
やっぱり天族かな、空飛びたいし。龍族も空を飛べるらしいけどテンプレだから却下。天族もテンプレじゃないかとも思うけど、最近のVRMMOでは龍族……多いんです。
てことで天族に決定。
【それでは細かな設定をして頂きます、必要ない場合はそのままOKを押してください。なお設定していただいた詳細設定は種族によって影響される箇所があります】
浮かび上がったのは多数の項目。目や口から足の指までの詳細設定が出来るみたいだ。ただ形から違和感のないものしか選べないらしく、モノは限られている。
目を変えるなら、その顔にあった目の大きさ等しか表示されないのだ。凄い時間をかければ全くの別人も作れなくもないだろうが、流石にそれはやめておく。
髪は黒髪でいいな、オッドアイってなんか憧れるよねカッコいい……てことで目は水色と黄緑で決定。
髪の長さは少し長めで、目の大きさをちょっと大きくする。鼻を高くしようとして……やめた、違和感はないけど気持ち悪かった。
翼の色を変えれるみたいだったが、別に白でいいからそのままスルー。これ以上はもう変えないからOKボタンを押す。
【職業を選択して下さい。なお職業は転職可能です】
選べる職業は[村人][剣士][戦士][侍][武闘家][盗賊][弓使い][魔術師][聖職者][踊り子][冒険者]って結構選べるな。というか天族って聖職者一択じゃないのか。
あと村人とか如何にも弱そうな職業だな、どうしたんだよ村人。
なんだかノリで村人に決定。
【完了いたしました。それではどうぞお楽しみください】
システムの声を聞き終えると視界が暗転する。
目が覚めるとそこには幻想的な世界が広がっていた。
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