123 門出は悲しみと共に3
館を飛び立ったルークとエアリアルは、一心不乱に皇都を目指した。幸いにして天候が良かったので体力の消耗も少なく、休息も真冬ほど必要としない。今回は砦には一箇所だけ立ち寄り、他に途中にある水場で2度ほど小休止しただけであった。
砦では軽く食事をさせてもらった後、少し休憩しただけで一時もしないうちに飛び立とうとすると、砦の責任者に無茶だと止められた。しかしルークは、早く皇都に着けばそれだけあちらでゆっくりと休めるからと言って、彼を振り切るようにしてそのまま飛び立ったのだった。
日が沈み、辺りが真っ暗になってエアリアルの方向感覚だけで飛んでいると、皇都の灯りが見えてきた。本宮の着場に彼等が降り立つと、数名の竜騎士や竜舎の係りが飛び出してきた。逆に本宮の奥へ彼らの到着を知らせに走って行く者もいる。
「ルーク!」
真っ先に出てきたのはユリウスだった。グロリアの危篤という知らせは、小竜の連絡網で既に本宮へ届いていた。それから間を置かずに喪章を付けたルークが来れば、どういう知らせか聞かなくても分かる。
「ユリウス、エアリアルを休ませてくれるか?」
「分かった」
ルークの頼みを彼は
「ルーク卿、良く来た。遠路疲れただろうが……」
「大丈夫です、ヒース卿。ハルベルト殿下の元へ案内お願いします」
冬に来たばかりなのでハルベルトの執務室の場所も覚えていたが、ルークは礼儀として頭を下げて案内を乞う。
「分かった、案内しよう。こちらだ」
ヒースはルークについてくるように身振りで示し、着場から本宮西棟を抜けて南棟へ入り、ハルベルトの執務室へと向かう。途中、何人もの竜騎士や侍官とすれ違うが、皆、ルークの姿を驚いた様に振り返った。
「ヒース卿、ルーク卿の案内ありがとうございます。ルーク卿、ハルベルト殿下がお待ちでございます。こちらへどうぞ」
冬に訪れた時と同様に南棟に入ったところでハルベルトの補佐官、グラナトが迎えに出てくれていた。
「それでは、後はお願いします。エアリアルの世話は任せておいてくれ。ルーク卿」
「ありがとうございます」
ヒースは2人に頭を下げると、西棟に戻って行った。ルークはヒースに礼を言って案内をしてくれるグラナトの後に続く。
「さ、こちらへ」
「はい」
今度はグラナトに先導されてハルベルトの執務室に向かう。重厚な扉をグラナトが叩いてルークが着いた事を告げると、すぐに返事があって中へ案内される。
「失礼致します」
執務室の奥にある、暖炉の前のソファにはハルベルトの他に2人の人物が座って待っていた。1人はソフィアの夫のサントリナ公でもう1人はユリウスの父、ブランドル公。夏至祭の折に顔を合わせ、ルークも見知った相手だった。3人は彼が入ってくると、立ち上がって迎えてくれる。
「疲れたであろう、とにかく座って休め」
役目を果たしたグラナトが無言で頭を下げて退出すると、ハルベルトはルークをねぎらうように席を勧めてくれた。同席するにはあまりにも高貴な人達ばかりだが、ハルベルトが勧めるのを固辞する事の方が返って失礼にあたる。ルークは素直に言葉に従った。
「ありがとうございます」
彼の席の前には既にお茶が用意されていた。喉がカラカラに渇いていた彼は勧められるままに一気に飲み干した。その様子を見たハルベルトは、手ずから次のお茶を注いでくれる。結局ルークは続けて3杯お茶を飲み、やっと落ち着いたところでハルベルトが本題を切り出してきた。
「本当に遠路良く来てくれた、ルーク卿。その喪章をつけていると言う事は、良くない知らせだな?」
「はい。本日未明にフォルビア大公グロリア様はお亡くなりになりました」
「そうか……」
ルークが沈痛な面持ちで答えると、3人はその場でしばらくの間瞑目する。
「こちらをエドワルド殿下より預かってまいりました」
今回、ルークが預かった手紙はハルベルト宛ての1通だけだった。時間が惜しかった事もあって、後はハルベルトから伝えてもらおうと思ったのだろう。
「ありがとう。聞きたい事もあるが、今はとにかく休め。部屋へ案内させよう」
ハルベルトは呼び鈴で侍官を呼ぶと、ルークを客間へ案内するように命じる。彼は立ち上がると、一同に礼をしてハルベルトの執務室を後にした。
偶然なのか、ハルベルトの計らいでそうなったのか、今回も部屋を案内してくれたのは冬に来た時と同じ侍官だった。気安い相手でルークも少しほっとする。しかも侍官だけでなく、案内された部屋も冬の折と同じ部屋だった。既に食事の支度も整っていて、ルークはありがたく腹を満たし、一息ついてから汗を流した。仮眠してから出発したとは言え、道中ろくに休息をしなかった事もあってクタクタだったルークは、そのままフカフカの寝台に潜り込むと、深い眠りについたのだった。
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12時に次話を更新します。
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