87 果たすべき役割4
朝方、リューグナーはいい気分で帰ってきた。持ち出した薬がいい値段で売れ、なじみの酒場で飲んでいたのだ。
いつもの年なら近隣の村人相手に風邪の薬や手荒れに効く
そこで昨日は思い切って薬を持ち出し、町にいる知り合いの商人に売ったのだ。オルティスによる監査も済んだばかりだし、どうせいつも古くなったものから領民に格安で払い下げられるのだ。管理は自分が任かされているから、その辺りをごまかすのも手慣れたものだった。持ちだした薬は予想以上に高い値段で売れ、景気づけに一杯やるつもりがこの時間になってしまった。
「リューグナー殿、グロリア様がお呼びでございます」
与えられている離れに戻るなり、オルティスが彼を呼びに来た。まだ早い時間に何の用だろうと思ったが、酔いが回った頭では何も思い当たらない。ふらつく足でグロリアが待つ居間に向かう。
「失礼……いたします」
形通り頭を下げて入室すると、そこにはグロリアの他にアスターとマリーリア、そしてバセットが渋い表情で待っていた。
「リューグナー、今までどこにおったのじゃ?」
「所用で町に……出ておりました」
明らかにグロリアは怒っている。きちんと答えるつもりが困った事にしゃっくりが止まらない。
「そなたの仕事は何ぞ?」
「貴女様の……専属の医者でございます」
リューグナーは恭しく頭を下げる。
「そのそなたが妾に無断で出かけるとはどういう事じゃ?」
「それは、その……」
「昨夜、負傷したエドワルドがここへ運ばれてきた。総督府よりも近く、そなたがいるからと思って頼ってきたのじゃ。フロリエがいなかったら今頃はどうなっていたか……」
グロリアが珍しく涙を流している。
「……」
「リューグナー殿、薬草庫を見させていただいた」
「!」
バセットの言葉にリューグナーはギョッとして一気に酔いが
「薬は良き値で売れたようですな。ですが、それは貴方個人の物ではないですよね?」
リューグナーはがっくりと膝をつく。
「……そなたはクビじゃ。荷物を
グロリアが冷たく言い放つ。何か言おうにも、オルティスが彼の腕を捕まえてさっさと居間の外へ連れ出してしまう。そして、半時もしないうちに彼は館を追い出された。
「殿下のご容体が安定するまで、わしはしばらくここにおる。総督府の方はヘイルがおれば何とかなるであろう」
リューグナーが追い出された後、バセットは竜騎士2人にそう告げる。食事もしてぐっすり眠った2人は疲れも取れて随分すっきりした表情をしている。
「分かりました。では我々は総督府へ帰ります。殿下の事、よろしくお願いします」
アスターとマリーリアは席を立つとグロリアに頭を下げた。
「分かった。そなた達も十分気をつけなさい」
「はい。ありがとうございます」
2人はもう一度頭を下げると、外套を手にして居間を出ていく。玄関前には2頭の飛竜が装具を整えてティムとオリガと共に待っていた。
「あの、アスター卿、ルークが怪我をしたって本当ですか?」
バセットから聞いたのだろう、オリガは不安気に恋人の上司を見上げる。
「ああ。だが、自分で動けていたからひどい怪我ではない」
「そうですか……。あの、これを彼に渡して頂けますか? ハーブティーなんですが、疲れがとれる配合をフロリエさんから教えていただいたんです」
「分かった。渡しておこう」
アスターはオリガが差し出した包みを受け取って
しばらく飛んでいると、ケビンと遭遇した。
「何かあったのか?」
不安に思い、訊ねてみると、彼は首を振る。
「せめてルークが良くなるまで総督府にいるようにとリーガスに頼まれた。お2人は揃ってどちらに?」
ケビンが不思議がるのも当然の事だった。アスターとマリーリアは道すがらエドワルドをグロリアの館に預けた
彼の事は心配ではあるが、後は医者に任せるしかない。一行は明るくなり始めた空を、自分達の役割を果たすために総督府へと急いだのだった。
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薬草の名前は全て創作です。
作者自身に医学的な知識が皆無なため、処置についてなどは想像で書いております。
粗ばかり目立つかもしれませんが、雰囲気だけ読み取って頂ければ幸いです。
ただ、効能までは覚えていませんが、甘草(かんぞう)という漢方薬は実在します。作中ではあまくさと読ませてその字の通り、ステビアみたいな甘味料という設定にしています。
金紋蔓は当初、黄金をこがねと読ませて黄金蔓にしていたんですが、黄金蔓は観葉植物のポトスの別名と判明し、急遽名前をかえました。何となく、イメージが違ったので……
あと、12時に閑話を更新します。
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