第13話「不安の影」
「こいつは酷いな……」
白地の服にブレストプレートと軽めの鎧を装備した騎士風の男――竜騎士ディオン・ハーディングが呟く。
ディオンの目の前には飛竜の躯が転がっていた。
白い岩肌をのぞかせる山の斜面に、赤黒い血痕をぶちまけ、辛うじて飛竜だとわかる程度に、バラバラに砕かれた躯が転がっていた。
「うっぷ」
ディオンの後ろで不快なえずく様な声が上がる。
「どうした?」
ディオンは自分の後ろに立つ若い竜騎士目に向けながらに声をかける。若い竜騎士は真っ青な顔色をして手で口を覆っていた。
「すみません。ちょっと見るに堪えないもので……」
「そうか。俺もここまでのものを見るのは初めてだ」
若い竜騎士から目を外し、ディオンは再び飛竜の躯へと目を向ける。
「どうやったら……うっぷ、こんなことが……」
「さぁな。それをこれから調べるんだ」
ディオンはゆっくりと飛竜の躯へと近付いていく。
「団長! こちらにもう一騎発見しました!」
遠くの岩陰から別の若い竜騎士が、顔色の悪い顔で岩陰から顔を出し、大声でディオンに呼びかける。
「おう、ご苦労さん! 後は俺が確認しておく。お前は何処かで休んでいろ!」
少しふらつく若い竜騎士の姿を見てディオンはそう告げる。
「お前もつらいなら休んで良いぞ」
そして、同じようにふらつく、ディオンの直ぐ後ろに立つ竜騎士にも声をかける。
「いえ。俺も竜騎士です。この程度、どうってことありません」
若い竜騎士は気丈に振る舞って見せる。
「そうか、あまり無理をするなよ」
「はい」
ディオンは歩みを進め飛竜の躯の下まで近付く。そして、一度片手で胸元に印を結び、静かに黙祷を捧げる。
ディオンに倣うように若い竜騎士も黙祷を捧げる。
黙祷を終えるとディオンは片膝を付き、じっくりと飛竜の躯を眺め、何かないかを探す。
バラバラになった飛竜の躯に混ざる様に、所々金属片と、飛竜のものとは思えない人の四肢の様な肉片が混ざっていた。
おそらく、飛竜に騎竜として装備された鎧の破片と、主であった竜騎士のものと判断できる。つまりこの飛竜の躯は、何者かによって殺された、あるいは食い荒らされたものだろう。ただ山の斜面に激突したものとは考えにくかった。
よく見ると丁寧に腸等の食べやすい部分はなくなっており、骨ばった部分だけが残されていた。
密猟者の可能性を少し考えたが、その可能性はなさそうだった。密猟者であれば、使い物にならない腸などより、素材として貴重な骨や皮、牙などを重点的に持ち帰る。見た限りでは、そのほとんどが残っていた。
死体の中からディオンはあるものを見つけだし、手に取る。それは、鈍く青白い色のごつごつとした石片の様なものだった。
「なんですか? それは」
ディオンと共に死体を探っていた竜騎士が尋ねる。
ディオンはそれに応えることなく、その石片らしきものを地面に置き、腰から剣を引き抜くと、剣の柄で思い切りそれを叩く。
ガツンと鈍い音が響く。しかし、叩き付けられた石片らしきものは砕けることは無く、代わりに地面の岩肌が少し崩れる。
「なんですか、それ」
ディオンの行動を見て若い竜騎士は驚きの表情を浮かべ、再度尋ねる。
「鱗だな、それもかなり新しい」
傷一つない鱗を再び持ち上げディオンは答える。
「飛竜のですか? でも……」
「ああ、色が違う。おそらく悪竜(ドレイク)のものだろう」
「悪竜!? しかし、いくら悪竜相手とはいえそう簡単に竜騎士が負けるだなんて!」
「簡単にやられたとは思いたくないな。悪竜は狩りの時に群れを作る。それにやられたか……あるいは、奇襲を受けたか……だな」
ディオンは眉を顰め、手に持った鱗を睨みつける。
「群れだなんて、我が国の悪竜は相当数駆除されているはずです。今更、群れを作る規模の悪竜がいるだなんて――」
「なんにせよ。竜騎士二騎がやられたんだ。これは相当大きな問題だ」
ディオンは立ち上がり、手にしていた鱗を腰のベルトポーチへと仕舞う。
「お前とシリルは先に戻って、この事を報告しろ」
「隊長はどうされるんですか?」
「俺は向こうの死体を調べてから戻る」
「わかりました。では」
指示を聞くと若い竜騎士は踵を返し、立ち去ろうとする。
「キーファ! 問題はないと思うがくれぐれも帰りは注意しろ。いいな!」
「はい!」
ディオンの注意に若い竜騎士は大きな声で答え、その場を立ち去って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます