第8話 いよいよ魔王城へ

 魔王の居城に踏み込んでからの近衛兵との戦いはまさに死闘であった。


 城の構造を知り尽くした相手側の圧倒的有利の中、時にゲリラ攻撃に翻弄され、刀剣を振り回すには不利な狭所での肉弾戦を余儀なくされた。

 そんな窮地を、俺達四人は息の合ったコンビネーションや臨機応変にスタイルを変えていく頭脳戦で戦い抜き、ついに玉座の間の扉まで辿り着いた。


 ここに至るまでに地下牢なども探したが、おかんはいまだ見つからない。


 レンの回復魔法のおかげで八割方の体力は戻っているものの、太刀傷のあった肩はいまだ微かな痛みが残るし、万全の態勢で魔王に挑むというわけではない。

 それは他の仲間も同じなのだが、敵の本陣で一晩を過ごし完全回復を待つなど、安全面でも俺の保身という面でも選択肢に入れるわけにはいかなかった。


「ユウト。先ほど解封魔法で、お前の長剣に込められた “終焉の力” を解いておいた。

 俺たちが護衛を引きつけている間に、お前は一気に魔王に詰め寄り、その太刀を魔王の心臓めがけて突き立てろ。

 伝承によれば心臓に突き立てた太刀を右一直線に薙ぐことで、魔王を絶命させることができるはずだ。

 ドゥ・アズ・インフィニティ!

 お前の可能性は無限大だ!」


 レンの囁きに、俺は無言で、しかし力強く頷いた。


 ここまで来たら、やるしかない。


 魔王に怪我を負わせることさえできれば、混乱に乗じておかんを探し出すこともできるだろうし、魔王を人質にしておかんの居場所を聞き出せるかもしれない。


 決戦の前にいつもそうするように俺たちは右の拳を重ね、それから互いに突き合わせた。


「行くぞ!」


「「「おうっ!!!」」」


 俺が木製の巨大な扉を開け放った瞬間、背後から三人が飛び出した。


「何奴っ!?」


 誰何すいかする声より先に刀剣のぶつかり合う音が暗い石造りの空間にこだまする。


 俺は仲間を信じ、構うことなく一直線に突っ走る。


 闇に溶け込んでいた玉座の間の最奥が見えてくる。


 玉座に座るそいつは──


 漆黒の上着ジュストコールを身に纏い、満月のように白い仮面で素顔を隠していた。


 あまりにも不気味で巨大で威圧的。


 だが恐怖したら負けだ。


 それにしてもこの巨体、心臓に刃を突き立てようにも飛び上がって届く高さではない。


 突進する足は止められない。




 どうする──!?




「ユウトッ!!」


 視界を一瞬掠める影。

 目で追えば、それは大鷲に変身したレンだった。


 一度吹き抜けの天井近くまで舞い上がり、走る俺に向かって再び滑空してくる。


 石畳すれすれのところで飛び乗り、上昇しながら太刀を構える。


「ぃやああああああああっっっ──!!」


 レンの背中から蹴り出し、半身で太刀を目っぱい引く。

 魔王の胸に降り立つより先に、全体重をかけた終焉の太刀を左の胸に突き立てた。




 ──グザアッ!!




『…………』




 ──えっ!?




 心臓を貫かれたはずの魔王は、微かな呻き声すら漏らさない。


「うりゃああああっ!!」


 ジュストコールの壮麗な胸飾りを足場に踏ん張り、力任せに横一閃に薙ぐ。




 ズグググググググゥッ……




 それでも──




 何の反応も、ない……?




 長剣を胸に突き刺したまま呆然とする俺の頭上、不敵な笑みが掘り刻まれた仮面の中から低い声が響いた。




『小僧……。

 残念だったな。

 それでは儂は倒せんぞ……』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る