第4.5話屋上の過ち
やっと来たと思ったら佑二は黒のスーツを着こなしていて、遊園地にはそぐわない格好だった。かく言う自分も遊園地に合ったファッションなんてわかるはずもなく、どうせアトラクションにも乗らないのだからと、職場と同じ格好をしている。いずれにせよ、自分が持っている服と一般庶民が利用する催事場では不釣りあいなこと請負なのだが。
「待ったじゃないの。でも、ちょうどブルーが動きを見せたわね。あの中に紛れ込んで、女子をブルーから遠ざける。そして男子が催事場を去ってくれれば私たちの仕事はオールコンプリートね。男子の方は星奈が見張っているわよね」
「ええ、そうですね。く、くまのぬいぐるみはありますか」
佑二の様子が少しおかしい。どこかたどたとしいような、怯えているような。佑二は子供が苦手なのだろうか。彩はそれとなくとってつけたような理由をあてつける。
「きちんとあるわよ。これでうまく女子をおびき寄せるのよ」
「かしこまりました。い、行ってまいります」
佑二はぬいぐるみを抱え、ブルーと女子がいる場所へと走っていった。佑二なら問題なく成功するだろう。彩はたかをくくっていた。
しかし、佑二は女子にぬいぐるみを渡した後、どこかへ去っていった。ブルーと女子が別の方角へと走っていく。
作戦が違う。失敗したのだろうか。彩はいてもたってもいられず携帯を取り出し佑二に連絡を取ろうと試みた。すると画面には着信履歴がずらりと並んでいて、すべて佑二からのものだった。私と話している間にも着信が来ている?ちょうど電話をかけようとしたところで、佑二から着信がかかってきた。
「社長やっと出てくれましたね、何回もかけたんですよ。携帯の電源でも切ってたんですか」
「マナーモードのままだったのよ。ビジネスにおいてマナーモードは必須よ。ところで佑二、どうして失敗しているのよ」
「失敗?そんなことより大変です社長。私と星奈は今、観覧車の頂上で監禁されているのです。なので私はまだ社長のところにはたどり着けていません。さらに、ゴメンジャーに私たちの作戦は筒抜けだったのです」
「えっ」
彩は頭の中で今までの五分間を回想する。確かに、佑二は黒のスーツで私のところにたどり着き、ぬいぐるみをもって女子のところへ向かったはず・・・。でも、この作戦をゴレンジャーが知っていたとすれば。
「佑二、あなたは今何を着ているの?」
「私ですか?最初はカップルを装わなければいけなかったのでパーカーにジャケット姿でしたよ。もしかして・・・」
「ああ、そのもしかしては当たっているよ・・・」
彩は携帯を切った。あれは佑二ではなかった・・・・。であればあのスーツを着た男は誰だったのか・・・。答えは一つしかなかった。
「また失敗か」
彩はひとりでに呟き、秋風に怒りを乗せた。シルクのコートに両手を突っ込み、観覧車がある方向を確認する。今は部下を回収することだけに集中したかった。
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