2日目 Part.a
第8話
「おはよう、委員長」
階段を登っている途中の、今日は茶色のセーターを着ている委員長の後ろ姿に声をかける。
「お、おはよ、チュウくん」
彼女は白い小さな顔を笑顔にした。隣に並ぶまで待ってくれているので、小走りで並び、三年生の教室へ向かう階段を登る。
自由登校なのに二日連続で来たのは、昨日任命された予餞会委員だとかいう、おそらく日本で一番認知度が低いマイナー委員のために登校するようにお達しを受けたからだ。それには当然、同じ委員となった委員長も含まれてる。
彼女が俺の顔を顔を見て小さく言った。
「だ、大丈夫? 顔、ちょっと悪いよ」
「それは親に言ってくれ」
正しく訳せばおそらく、顔色が悪い、だ。
委員長は一瞬なんのことかわからず首を斜めにしたが、すぐに思い当たったようで顔を赤くし、ごめんと小さく言った。
「ちょっと寝不足でな」
チカラがあるとしたら。なんだろうか。そんなことを一晩中考えていた。巫女に言われたことでずいぶんと寝付きが悪かった。ついで言えば坂を転がるスタントのせいで体の節々も痛い。
「も、もしかして星、見てた?」
「委員長は見なかったのか?」
彼女は小さく首を振って答える。
「み、見たよ、願い事もしたんだ」
委員長がなぜかほんのりとその白い顔を赤くして言う。
「委員長、星は願いを叶えないぞ」
「う、うん。知ってるよ」
「そうか、知ってたか」
「し、知らないと思われていたことがショックだよ……」
委員長が小さな息をついて続けた。
「で、でもね、きっと願うことが大事なんだよ。素敵な人じゃないかな、すぐに三回唱えることができるお願いがある人って」
委員長がこちらを見て、その台詞を言うのを照れるように笑った。
「わ、私は少し考えちゃったから三回は難しかったよ」
「それはわかる気がするな」
そうだな。星が流れた瞬間に三度すぐに願うことのできる願いがあるのは羨ましいことだ。
俺なんか何度聞かれても答えることができなかった。
「委員長は何を願った?」
なぜだかさらに赤くなった顔を俯かせる。
「ひ、秘密……」
「どうせ、志望校合格とかだろ」
「ど、どうせって、すごいね。日本中の受験生を敵に回す発言だよ……」
呆れるように言った。
「なら、星に合格祈願した?」
委員長は、恥ずかしがるように首を小さく横に振った。
「そ、その聞き方はずるいよ。秘密って言ったのに合格祈願じゃないってことはバレちゃった」
「それくらいはわかるさ」
そうだ、きっとこの子はそういうことは願わない。そういうことというのがどういうものか明確には言えないが、それではないだろう。
「チ、チュウくんは何をお願いした?」
「俺は……」
一瞬、昨夜のことを思い出す。あの時、俺は何かを願おうとしたのではなかったか。この世界が気に入らないゆえに、俺は何と願おうとしたのだろう。
「俺に願いなんてないよ」
委員長がそう言った俺の顔をじっと見る。
「う、嘘つき」
覗き込むようにした笑って委員長が言った。
「え、なんで? 急に嘘つき呼ばわりされるとは思わなんだ」
「チ、チュウくんはきっと願いがあるはずだよ」
最近同じようなセリフを聞いたな。
「ほう、その心は?」
「だ、だってチュウくん、文句ばかり言ってるから……」
「すげえ理由だった! 君の中で俺はどんな扱いなんだ」
「え、えっと皮肉屋さん?」
今後の姿勢を改める必要があるのかもしれない。
「で、でも私はそういうチュウくんが、す……じゃなかった、えっと、い、いいと思うんだ。静かにしてるよりはずっといいことだよ。文句があるってことは願いがあるってことだよ」
まだ少し赤い顔で俺をじっと見て委員長が言った。
「し、静かに我慢することしか、私にはできないから」
委員長が笑いながら小さく言った。
「や、やっぱりね。願いを叶えることが出来る人間って少数で、一握りで、選ばれた人間だと思うんだ。それに私みたいな気弱な人間はきっとなれないんだ」
「委員長がそんなこと言うなよ、もっと出来の悪い俺はどうすりゃいんだ」
「ね、願いを叶える人って、何かに選ばれた人間だとは思わない?」
「そうだな、その何かはまったくわからないけどな」
「チ、チュウくんは、きっと選ばれるよ」
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