hope!

平カレル

プロローグ

「あなたの願いはなあに?」

 そうわたしに訊かれたのは憶えている。

 顔はぼんやりと白くてわからない。

 ただ優しく撫でてくれて、それをたまらなく嬉しく思ってわたしは答えた。

 その問いに、その時小さかったわたしはなんと答えたのか思い出せない。

 今のわたしの願いはなんなのだろう。

 昔、答えた時と答えは変わるのだろうか。

 わたしは何を願うだろう。

 何を幸せに思うだろう。

 幸せになるために願うのだ。

 わたしはこの世界のみんなが幸せであって欲しい。

 それがわたしの願いだ。

 でもみんなの幸せとはどうすれば叶うのか。

 幸せの形はどれもまちまちで、わたしはその形のひとつひとつを創れるだろうか。

 それはむずかしいことだ、とても。

 ならどうすればみんな幸せに成るのだろう。

 そうだ、一人一人が自分で創れるようにすればいい。

 きっと他人が創ってしまったら違う形になってしまうだろう。

 だって他人とは形が違うのだから。

 だから創れるようにしよう。その人自身で。

 想っていれば想っているほど、うまく創れるように。

 わたしは願う。

 人が自分で自分の幸せの形を創れますように、と。



 この世界は良いのだろうか、悪いのだろうか?

 こんな質問に例えばどこかの国の法王ならなんと答えるだろう。きっと神が創った世界だから良いに決まっていると説法をなさるだろう。

 例えば映画なんかで出てくる裏社会のドンならなんと答えるだろう。きっと俺たちなんかがのさばっている世界なんてロクなもんじゃないぜとニヒルに笑うのだろう。

 それはその人間たちの価値観で十人に訊けば十人、百人に訊けば百人の言い分が存在して、その人間の世界にとっては正しいことなのだ。

 人によって形が違うから。

 もし、神さまなんてものが本当に存在するとして、世界を上から全部見れたとしたら、なんと言うのだろうか。

 そんな益体もないことを考えながら、スマホに目をやって時刻を確認する。

 真夜中の暗闇の中で目が痛いほど光るディスプレイの中の日付が変わろうとしていた。

 いつもの時間だ。

 辺りは静まりかえっていて、真冬の夜の冷たい空気が耳に痛い。

 澄んだ空気の向こうの真っ黒な夜空を見上げる。自分の白い息が溶けたその先に光が現れる。

 星が、流れ始める。

 目の前の夜の帳を袈裟に引き裂くように。

 するり、はらり、と黒い空に一瞬白線が描かれすぐさま黒へと戻る。

 数多の星が流れている。

 いくつもの星が何本もの線を引いて流れては消え、また流れた。

 夜空にゆるやかな弧が幾本も描かれていき、自分が世界の中心になったように錯覚する。

 俺はそれをぼんやりと眺めながら先ほどの命題を頭に浮かべる。

 もし、その質問をされたとしたら。

 例えば俺ならこう答える。

 嫌いだ、と。

 なぜなら、俺には願うことなど一つもないからだ。

 こんなにも星が流れているのに。

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