【TAS】TASさんが異世界を攻略するそうです。

ちびまるフォイ

Any% TAS - 7:15 (in Gliched)

【TAS】

ツールアシステッドスピードラン(Tool-Assisted Speedrun)の略称。

特殊なツールを使ってプレイするもの。



「ククク、愚かなる勇者め。世界を救うなどとやってきたようだが

 我の世界征服を阻むことなどできないぞ」


「魔王様、勇者のやつが冒険に出るようです。

 この水晶で見てみましょう」


「それはいいな。勇者がどんなやつなのか先に弱点を把握しておこう。

 魔王もただ玉座に座って待つだけではないというのを奴は知るまい」


水晶が輝きだして、勇者の旅立ちを映した。



*「おはよ... ▼」


▷はい

いいえ


勇者は会話を全スキップしてそのまま家に出る。

その奇行に魔王は言葉を失った。


「え、こいつ世界がいまどんな状態かわかってんの?」


「魔王様、勇者のやつ王様スルーして外出ましたよ」


「ええええ。もう完全に世界の危機知る気ないじゃん!」


勇者の装備はまさかの初期装備。

魔王から見ても着のぼっこと、ただの服を着ている一般人にしかならない。


「ハハハ。勇者のやつめ、無謀な冒険をはじめたようだな。

 勇者が現れると聞いて、村の周辺には多くの魔物を配置しておいたのだ!」


「ま、魔王様!!」


「どうした? 勇者が屍になったのか?」



「いえ、1匹とも遭遇せずに次のダンジョンに入られました!!」



「は、早ぁ!!!」


勇者はときおり道具袋を開いたり、ジグザグに歩いたりすることで

敵との遭遇を見透かしたように回避してすべての戦闘を避けていた。


けれど、魔王は慌てることはなかった。



「ふん、運のいいやつめ。だが死ぬのを避けただけではここまでは来られない。

 魔王城に来るまでの「虹の架け橋」は、魔王軍が四天王・ドヴォルザークが守っているからな」


「どうあがいても戦闘は回避できませんね、魔王様」


「せいぜい無残なむくろとなり果てるがよい! わーっはっはっは!」


棒きれと布のふくで勝てる相手ではない。

ここまで強くなる努力を怠った勇者のしっぺ返しになるだろう。




かいしんのいちげき!! 

かいしんのいちげき!! 

かいしんのいちげき!! 

かいしんのいちげき!! 

かいしんのいちげき!! 


してんのう ドヴォルザーク は むくろに なった!




魔王は持っていたエッチな本を落としてしまった。


「なん……だと……!?」


「魔王様、勇者のやつまた戦闘を回避して魔王城にやってきます!!」


「あいつ、あいつなんで会心の一撃連発できるんだよ! ずるいよ!」


「魔王様。勇者のやつ、転生時にチートもらえるのを断った見返りに

 TAS用ツールとかいうのをもらったらしいんですよ」


「だからって、棒きれでボスを瞬殺するって……チートより凶悪じゃん!!!」


「あああ! もう勇者がやってきますよ、魔王様ぁ!!」


魔王城に多く配置していたえりすぐりの魔物たちも、

勇者の戦闘回避技術によってあれよあれよとスルーされてしまう。


このまま勇者の存在を認知されないまま大将が討ち取られてしまうのか。


こんなにあっけなく世界征服の夢がついえるのか。


「お、おい!! すぐに魔王城にトラップをしかけろ!!」


「魔王様、モンスターを増やすのではなくトラップですか?」


「奴はモンスターとの戦闘を回避してしまう。

 だったら回避しきれないだけのトラップを用意しておくのだ。


 幸い、奴はまだレベルも上がってないし装備も整っていない。

 トラップで体力を削れば我との戦闘前に死ぬはずだ」


「わかりました、魔王様!!」


どうせ勇者とは遭遇しない。

それは魔物側も同じなので堂々とトラップ設置ができる。


魔王城のいたるところにトラップが設置され終わった。


「魔王様、トラップ設置が終わりました!

 毒にワープに矢に混乱に暗闇、なんでも仕掛けてきました」


「ようし、よくやった。いましがた仕掛けた罠なら勇者も見通せまい。

 せいぜいトラップの餌食となるが良い!」


どうかここまで来ませんように。

祈るように魔王は水晶越しに勇者を見ていた。


それでも勇者はトラップすら見透かすようにすいすい進んでいく。


「こ、こいつ!! トラップもきかないのか!」


そう思った魔王だったが。



カチッ。


勇者はトラップの作動スイッチを見事に踏み抜いてしまった。


「魔王様!! やりました! トラップに引っかかりましたよ!!」


「ぐっじょぶだ! 貴様は大臣に昇格してやろう!!」


「ま、魔王様! うしろに!! うしろに!!」



「え?」


魔王が振り向くと、勇者が眼前に現れていた。。



「ま、まさかワープ罠をあえて踏み抜いたのか!?

 しかもワープ先を玉座の間にしてショートカッ」


▷はい

いいえ


「ちょっ……まだ話」


▷はい

いいえ


「ま」


▷はい

いいえ



「聞けよぉぉぉ!!!」


次に何を話すかわかる勇者に会話は不要だった。


仲間もいない。

相手は改心の一撃を安定して出すバケモノ。


それでも魔王は引くわけにいかなかった。



「うおおお!! やってやる!! やってやるぞぉぉぉ!!」


負けられない戦いがここにある。

魔王はやぶれかぶれでTAS勇者に勝負を挑んだ。



まおうのこうげき!


ああああ に 120ダメージ!



ゆうしゃ は ちからつきた




「えっ……勝った? 勝っちゃった!?」


魔王のまさかの先制攻撃に勇者の姿は消えていた。


「やりましたね! 魔王様!!」


「あぁ、やっと! こんなにも死の恐怖におびえたことはなかった。

 本当によかった。これで安心して世界征服ができる」


やっぱり魔王は強かった。

そしてこの物語は静かに幕を閉じる。





「ま、魔王様……! 大変です! 勇者が、勇者が!!」


「いったいどうした!?」


「勇者がまた冒険をはじめました!」


「なんだって!?」


水晶越しに勇者は今までの行動をリピートするように

最短距離で魔王城までまたやってきた。


敗北した魔王は最後に勇者に問いただした。


「ど、どうして最初はやられたんだ!?」





「タイムが気に入らなかった」



このあと、魔王との会話スキップを忘れた勇者は

もう一度やり直すので魔王はまた殺されることになった。

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