SOS団SS部

あたしと団員

第1話:YUKI観測記録

『会話』


 会話とは時間である。


 近年、有機生命体はソーシャルネットワーキングサービス、略称SNSの存在によって地球上のどの位置に存在する他の有機生命体ともコミュニケーションを行い、

自身が直接外界に出ずとも他者と繋がることが、有機生命体の常識となっていた。


 2017年6月7日。観測対象である『涼宮ハルヒ』は、ある公言をした。「ユーチューバーもいいけど、ツイッターってのも面白そうね」と。

すると涼宮ハルヒはコンピュータ研究部へ行き、文芸部でツイッターができるよう指示を出した。だが文芸部のXP端末ではスペックが低すぎることにより充分なツイートはできないことが判明。

私は『彼の指示』により、情報操作を行い、端末のスペックをツイッターをできる状態まで向上させた。


 こうして涼宮ハルヒはツイッターと呼ばれる一種のコミュニケーションツールを用い、フォロワーと呼ばれる無数の有機生命体と一度に会話を行う術を得た。


 涼宮ハルヒはツイッターを始めた当初、どのようにして使用すればいいのか、そもそもフォロワーを増やす方法も知らずにいた。

 そこで彼女は先にツイッターを開始していたSOS団をフォローすることにする。そして彼女は様々な世界の有機生命体とコミュニケーションを取る方法を見つけることとなる。

 タグと呼ばれるツイートを行い、そのツイートを他のフォロワーが反応すると相互フォローの申請ができるというものである。

 彼女はこのシステムを理解し、自らのタグを作成し、定期的に流す、という方法をとることでフォロワーを増やしていった。

 時には自ら他の有機生命体が流すタグに反応をして相互フォローを行うという手段も用いていた。


 ある時涼宮ハルヒは、朝比奈みくるにフォロー申請を送る。

 朝比奈みくるは一時間未満で申請を受け入れ、この日より涼宮ハルヒと朝比奈みくるによる『会話』が始まることになる。

 涼宮ハルヒがツイートをし、それに朝比奈みくるがリプライを送る。このやりとりにより彼女ら二人がコンタクトを取ることは定例化していく。

 

 その間も涼宮ハルヒはタグを流し続け、フォロワーの数を増大させていく。

 

 タグ流し、コンタクトの定例化、会話量の上昇、フォロワー数の増加。


 これらの要素は絡み合い、留まることなく、一種の情報フレアとなって爆発し、拡大し続ける。


 涼宮ハルヒの一日のツイッター時間は午後19時から22時であるが、日によっては一度に8名と同時進行で『会話』を行うことももはや定例化していた。

 それでも涼宮ハルヒは話続けた。

 朝比奈みくるは涼宮ハルヒがツイートしたと同時にリプライを送る。どれだけ時間がズレていても、朝比奈みくるからのリプライは日々継続され、その度に涼宮ハルヒは安堵し、感情を起伏させ、感謝の意を唱えていた。

 

 彼女らの『会話』は、八月十七日から八月三十日までの二週間を一万五千四百九十八回繰り返した私が観測し続けた彼女らのどれにも当てはまらない。

 

 涼宮ハルヒがツイートをし、朝比奈みくるがリプライをする。『会話』は幾度なく繰り返され、涼宮ハルヒが就寝する際、朝比奈みくるは「おやすみ」と告げる。

 この流れは半永久的とも思われるほど継続され、一つの流れとなっていた。

 その理由を彼女らに問うた。


 私は彼女らから解答を聴く。


 だが、その解を耳にしても、私は理解することができなかった。


 その為、『古泉一樹』そして『彼』に解を委ねることにした。


 彼らはこう答えた。 

 『涼宮ハルヒは願望を現実化する手段を用いずに、朝比奈みくるは未来人としてではなく、お互いを必要として『会話』をしている』と。

 

 私にはその言葉の意味を完全に理解することはできなかったが、これ以上の解答が必要ではないとも判断できた。

 

 涼宮ハルヒと朝比奈みくるがツイッターを継続する限り、私の役目も終わることはない。


 私の役目は観測だから。

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SOS団SS部 あたしと団員 @haruhi_suzumiya

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