第6話 君に会えれば良いのに

樹木町ききまち甲斐子がいこは悩んでいた。それは看板メニューのすき焼き丼の売り上げに陰りが見えてたからである。そもそもすき焼きとは生卵をくぐらせて食べる牛肉の食感にある。しかし丼とした時点で生卵をくぐらせると言う行程は不可能になるのだ。苦肉の策として牛丼の上に温泉卵を乗せてごまかしている。そこにいつもの口部くちべ多夫たおからの電話。


「君に会えれば良いのに」


そうだ。卵の黄身の凝固温度も牛肉のたんぱく質の凝固温度も68度である。その凝固温度のちょっと手前で低温保温して牛肉と黄身を和えるのだ。そうすれば加熱殺菌されながら究極のレアの火の通りになる。それが固まる直前の黄身がソースになるのだから、誰も味わった事の無い味のはず。


そうだ。牛肉も焼くのでは無く煮る。それも水で無く牛脂を使って低温フライヤーで68度に保温すれば熟成させながら調理できる。だって牛乳の低温殺菌は60度30分なのよ。逆に言えば60度で保温すれば永遠に腐らない。冷蔵庫が時間を止める貯蔵法なら、保温貯蔵は熟成加速貯蔵方法なのよ。


黄身に和えれば良いのにってヒントだけを与えて、すべてが貴方の手のひらの上で踊っていただけなのね。


「貴方を信じて良かった」


「花田伸二って良かった?。やっちゃたの?・誰なの?花田伸二!?」

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