第37話迷宮の宿命……宴


 ダンジョンの宝物庫の隠し部屋に現れた神獣7尾白狐の正体は、ハーフエルフであるルークとアリシアの母親であった。


 母親の人型に姿を変えた白狐に抱きつき涙を流すアリシアだったが、かなり落ち着きを取り戻したようである。


「アリシアよ、立派な大人に成長してわらわそっくりの美人になったな! ははは!」


「母上も昔と変わらない若さのままですね!」

 涙を拭きながらアリシアが笑顔で答えた。


「神獣もエルフと同じで長命じゃからな、あと数百年は生きられるぞ!」


「ルークもすっかり大きくなって、父親に似て男前になったな! あの人も元気にしているか?」


「親父も現役のエルフの里の守り神をやっているさ」照れながらルークが答える。


 アリシアが慌てながら晃達を振り返りながら「おお! そうだ、みんなに説明しなきゃな! この方は私達兄妹の母親じゃ!」


「えええええっ!?」

「ワン!?」


 みんな驚きの声を上げる。


 あらかじめ雰囲気を崩さないように、打ち合わせをしていた。

 晃などは、腰が抜けて尻餅をついている。


「ちょ! キャハハ! 晃君やりすぎ!」

 沙羅に笑われてしまいました。


「みんなの戦いぶりはモニターで見ておった!  よくぞ私の元にルークとアリシアを連れて来てくれた。 特に晃の戦いぶりは、見事であった」


「えー! なんてハイテク!?」

 これにはさすがに驚いた晃である。


「私には真のダンジョンのマスターとして、このダンジョンの成長を見守る責務があるからな!  みんながアニメとかいうものを、楽しそうに見てるのを、どんなに羨ましく思ったことか!」


「そういえばルーク達のお父さんは1人で、最下層まで兄妹を連れて来たってってことは、無茶苦茶強いのでは?」晃の問いに、


「まああの頃はダンジョンが出来たばかりで10階層が最下層だったからな! わらわがいろいろスカウトしてエリアボスを集めて来たのだ! ダンジョンは魔素が濃くなり、さらに強い魔物を生み出しながら成長していくのだ!」


 コタローが尻尾を振りながら白狐に近づく、

それを抱き上げて頭を撫でながら、「この子もダンジョンで生まれたみたいだし、わらわの子供みたいなものだな!」


 ルークがすかさず「コタローは僕ら兄妹の子供だから、お母様はコタローのおばあちゃんですね!」


「あらあら、わらわをおばあちゃん扱いするな!」


「はははは!」

「おほほほほ!」

「ワン!」



 アリシアが「母上、一緒にエルフの里に帰りましょう! 父上も大喜びするはず!」


 白狐の表情が曇る「わらわも出来る事ならそうしたいのだが、どうやらわらわにはこのダンジョンのマスターとして、ここを離れられない宿命を

負わされておるみたいなのだ」


 アリシアも悲しげな表情に変わり「えー!

そうなのか、それは残念過ぎる……」


「そうだ! 晃とやら、わらわにアニメの録画データをもらえんか? モニターで見れるはずだ、ちょうど良い暇つぶしになるだろう」


「お安い御用です!」晃が持ってる全てのアニメデータやら電子書籍やらをダウンロードして行く。


 本来他人にデータをコピーするのは法律違反だが、まさかAI相手にアニメデータ渡すなんて発想は、さすがに政府も想定したこともないだろう……ははは!

 

 ただアリシアの母親だけに腐女子化するのは間違いないね!


 葵が「そういえば白狐さんは、毎日食事とかどうしてますの? ルークさんやアリシアさんのお母上だけにやはり肉好きですの?」


「もちろんだ! 肉がなにより好物だ! アスタロト君が毎日モンスターを狩って、肉を持って来てくれるのだ」


「げっ! アスタロト!?」

 思わず晃が叫ぶ!


「彼はこまめに肉持って来てくれるだけでなく調理もしてくれるし、私がヒマそうな時には会話相手にもなってくれるいい奴だ!」

 黒服スーツを着た青白いイケメンのアスタロトの料理姿が目に浮かぶ。




「悪魔幹部をパシリに使うとか、ルーク、アリシアの母親恐るべし……ははは」


「キャハハ!」

「おほほほほ!」

「ワン!」


 葵が「実はルークさんとアリシアさんがモデルを務めてから、龍ヶ崎G系列ファションモールの売上がかなり伸びてますの、お父様からお二人に特別ボーナスを出すようにいわれてますのよ……」


 ルークがすかさず「お金ならダンジョン報酬でたっぷりあるから、そこまでしてくれなくてもいいさ!」


「そう言うと思いまして、ダンジョンを出てからみんなで食べようと松坂牛をたくさん買い込んであるのですわ、お母さんもここを離れられないならば、いっそここでバーベキューをと思いまして……」


「それは嬉しいぞ!」白狐が満面の笑みを浮かべながら答える。


「よっし! バーベキューだ!」晃がアイテムボックスから金網やら炭を取り出していく。


「ちょうどお腹がすいてたところでござるよ」

「松坂牛楽しみね!」

 桜と沙羅が火魔法で炭に火を着けていく。


 葵さんが「今回は大人のために、ビールだけではなくお高いワインのシャトーマルゴーも用意しましてよ、私達高校生はぶどうジュースよ!」


「カンパーイ!」

「ワン!」


「なに、このワインこの世の物とは思えないくらい美味いぞ!」白狐が叫ぶ!


「……」ルーク、アリシアがあまりの美味さに絶句中。


 葵が「さあお待ちかね! ヒレ肉の中でも希少部位シャトーブリアンのステーキよ!」


「驚いた! こんなに美味い肉は初めてだ!」

 ルークをはじめにみんなで、美味い美味いを連発していると……。


 白狐が入り口方向を見ながら、「復活したみたいね、覗き見してないで出て来なさい! あんたも一緒に食べる?」


 みんなが一斉に入り口を見ると……。


 黒服を着たイケメン悪魔アスタロトがうらやましそうな顔をしながら現れた!


「げっ! アスタロト!?」晃達はびっくりして箸が止まる。


「復活したら、隣の部屋からものすごくいい匂いがしたもんで、俺としたことが……」


「突っ立ってないで、あなたも一緒に食べるのじゃ!」アリシアが声を掛ける。


「いいのか?」



「毎日母上に料理を用意してくれていたんだろ! なら当然さ! 早く座って座って」とルーク。


「母上?」

 訳がわからんといった顔をしたアスタロトにみんなで説明をしてあげた。


「では改めてカンパーイ!」

「ワン!」


「美味い! この葡萄酒も肉も食べたことのない極上の味だな、魔王には内緒にしておかなければ……嫉妬で処刑されてしまうな! ははは! しかしアリシアとやら、大怪我させてすまんかった」アスタロトがアリシアに謝罪する。


「怪我は治ったし、昨日の敵は今日の味方というじゃないか、水に流そう、ほれ! このビールも美味いぞ、飲め!」とアリシアがビールジョッキを渡す。


「美味い! そういうことなら今後は兄妹が母親に簡単に会えるように、二人はスルーパス出来るように、各階層ボスに通達を流しといてやる」


「それは助かるぜ」ルークがアスタロトとグータッチをした。


「さあさあ次はサーロインステーキよ! たっぷり用意してますわ!」


「おー!」





 その頃、ハンティングワールドオンラインの運営事務所では……。

「部長! こいつら裏ボスを見つけてくれたところまでは良かったんですが、戦わずにバーベキューパーティーを始めちゃってますぜ?」


「はははは! ハンティングワールドオンラインらしくていいじゃあないか! クリアした事にしてやれ!」


 晃達にメッセージが流れた!

「ダンジョンの裏ボス討伐がクリアされました、

またこの場の冒険者全員に『神獣の焼肉仲間』『悪魔幹部の焼肉仲間』の称号が授与されました」



「美味い!」

「ちょ! マジでやばいくらい美味しいわ」

「おほほほほ!」

「ワン!」


 盛り上がったままバーベキューパーティーは

続いていくのでありました……。

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