VRからの贈り物 夏物語

武 瞬

第1話 ゲームオタクとリア充女子高校生3名が繰り広げるVRMMORPG奮闘記&珍道中

 梅雨入り前の、強い日差しとさやかな風が吹きはじめた6月の初め、静岡市内にある高校の昼休み、木崎晃はゲームマニア仲間の春日雷太、山川哲郎と教室の片隅でゲーム談義に花を咲かせている。


 雷太も哲郎も小太りでメガネをかけており、雷太の方が身長も高い巨デブである

「晃氏は今日もお手製弁当であるか、そんな肉のほとんど入ってない弁当ではすぐ腹減るよ、だからいつまでたっても、ひょろひょろ色白もやしなのだ」

と雷太が僕の野菜ポトフ弁当を眺め、焼きそばパンの次のカレーパンを食べながらつぶやく、その後にカツサンドが待っている、哲郎も2個目の焼きそばパンを食べながら、頷いている。


「ハンティングワールドオンラインの俺たちも強くなったし、晃氏も組もうよ、昨日みたいな場面なら俺たちの攻撃力も役立つぜ、ランカーでもある晃氏が加われば無敵なんだよなぁ」


「前にも言ったけど2人とも22時以降の接続を親から禁止されているよね、24時まで活動している僕はみんなが落ちたあとすごいボッチ気分になるんだよ」


「確かに俺たち高校2年だから、受験にむけてゲームばかりしてるな! ってなっちゃうのよね、晃みたいに両親海外赴任でハンティングワールドし放題なんて羨すぎだぜ」と雷太が言ってきた。


 などと毎日かわらぬやりとりをやりながら、いつもの日課である斜め左後方にいる姫宮沙羅をチラ見する、ストレートロングの茶髪、長い睫毛と大きくて鋭い眼光を持つ、気の強そうな美人さんである。今日もひとりでメロンパンと牛乳ですな、たまに近寄ってくるリア充男子グループや女子グループの話に適当な感じで相槌を打っている。


 彼女とは1年生の時から同じクラスだが晃は喋り掛けることも無いまま今に至っている。彼女がひとりで食べている理由を晃は知っていた。1年生の時にいつもつるんでいた親友の龍ヶ崎葵とその双子の妹である龍ヶ崎桜が2月に交通事故に遭い、下半身不随になったため、その治療のために、龍ヶ崎家が東京に引っ越ししてしまったからである。じっと見つめていると目があった……。

 いつもならギロッと睨み返され、目をそらされるのが日課だが、今日は何か訴えるような眼で見つめ返して来た、普段ない展開にびっくりしながら目をそらした。


「晃氏、また沙羅殿を見つめてましたなあ、俺たちには異次元の女性とは接点を持とうなんて、最初から無理な話ですがな……」


 俺たちの親世代はリアル女子を3次元と呼んだそうだが、VR3次元アニメ全盛の現代リアル女子は異次元へと昇格していたのである。


「雷太みたいなデブオタと違ってスリムな俺には華やかな異次元女子モテ期が待ってるはずさ……」

「はいはい色白ひょろひょろもやしゲームオタがよう言いましたなあ」


 「うるさいなあ」


 などといつもと変わらぬ会話を交わしながら予鈴のチャイムがなり、そして6時限目の授業も終わり。さあ今日も楽しいVRワールドが俺を待ってるとばかりに颯爽と家路についている。


 5分ほど歩いて帰宅生も散らばったあたりで後ろから

「ちょっと待ちなさい!」


と女子の声が……、振り返ると姫宮沙羅がこちらに向かって来た。


「ぎゃっ! 姫宮さん?」

 想定しなかった人から声をかけられ晃の声はひっくり返っていた。


「なんてリアクションとるの……、これだからキモオタは」


 そう言われたとたんに、回れ右しながら

「失礼しました!」

とその場を離れようとする。


「ちょ! ちょっと待ってよ! 用事があるから木崎君に声をかけてるの!」


 ヘビに睨まれたカエルの様に固まり、真っ赤になりながら

「なんでありましょうか? 姫宮さん」

「あなたも1年の時から同じクラスだったから私の親友の龍ヶ崎葵は知ってるよね!」

「たしか妹さんが事故に遭って転校したとか……」


「話が早いわね、ちょうど良かった……、下半身不随になった葵の妹の桜は病院のべッドで寝たきりだけど、VR接続で私たち毎日会ってるから淋しくはないし、しかも桜の主治医によると、VRによるリハビリをこなせば将来的にはパワーアシスト装置によって足を不自由なく動かせる様になるらしいの……、それで私達は毎日VRのセンターシティで待ち合わせして、ショッピングしたり、映画見たり、喫茶店でお話ししたりして毎日楽しく過ごしていたの」

 と楽しそうに話す沙羅さんはボッチでメロンパンを食べてる姿と違って生き生きして輝いて見えた。


「そして桜の主治医が次のステップに行きましょう、とVRのスポーツゲームかアクションゲームで激しい動きをマスターする様に協力を頼まれたの、弱ったことに龍ヶ崎姉妹も私もゲームなんて生まれてこのかたやったことないのよね、そこでいろいろ調べたらハンティングワールドオンラインがゲームとして人気ナンバーワンで中身も充実していることなどはわかったの、クラスの女の子でゲーム好きと言ってた、田中美奈にいろいろ教えを請うたのよね」


 田中さんはたまにハンティングワールドでゲームをしてるメガネっ子で晃がランカーだと雷太達から聞いてからは、たまに攻略について聞いてくる、クラスの女の子の中では唯一、晃と挨拶以外の会話が成立する女子であった。


「ハンティングワールドオンラインの狩り生活を充実するためには、強い人に寄生して、レベルアップを手伝ってもらうのが一番だってね、しかも木崎君あのゲームのランカーなんだって?」


「まあそうですが……」


「そこでお願いがあるの! 木崎君今日から毎日私達とパーティーを組んで

私達を一人前の冒険者にして欲しいの……じゃないの……するのよ!」


「ええええ!」


 何やら晃の人生に急展開が待ち構えてそうな予感、その前に晃の日常を皆様に知って頂くために時計の針を24時間巻き戻すことにします。


 6時限目の終了のチャイムが鳴り、晃は待ってましたとばかりに教室を飛び出して行った、サングラス型の携帯端末を頭に取り付けると、目の前に15インチサイズのモニタ画面が浮かび上がる、歩き始めると向こうの景色が映るシースルータイプの7インチサイズに縮小、前から自転車が近づくとレーダー警告してくる。

 歩きスマホによる事故は年々増加中で政府は対策として、罰金などを課したが、メガネ端末やコンタクト端末などが現れると無効化されるイタチごっこが続いていた。

 そこで移動中の画面の大きさ、シースルー濃度、レーダーによる安全化などの規制を発売要件に加えることとなった。シースルー7インチモニターを使い、静岡JAのショッピングサイトを開き献立ポトフ2食分と口頭注文を実施、本日とれたての静岡産野菜がドローンによってJA倉庫に集められており、さっきの注文は10分後には、晃のマンションの宅配保管場所に屋上からドローン配達されているだろう。


 マンションに到着、荷物を受け取り部屋に帰宅、荷物をあけると必要分のじゃがいも、ニンジン、ブロッコリー、鳥もも、玉ねぎなどが入っていた。

 あとは目の前に浮かぶシースルーモニタの表示や指示にそってカット、湯がきながら、ブイヨン、塩、こしょうで味付け、塩の目分量が適当だったため、端末から

「塩分多すぎです、控えて下さい」と怒られました……。


 ごはんは米だけ入れておけば機械が勝手に毎日炊いてくれているので、明日の昼の弁当分も詰めておいて、早めの夕食をすましてしまう。


 さあVR世界に没入するぞ!


 サングラス端末よりも少し大きめのヴァーチャルリアルティヘッドマウントディスプレイ(通称VRHMD)を装着ログインする、VR世界の入り口であるセンターシティに到着、センターシティにはたくさんのオフィスビル、ショッピングモールになどが存在し、オフィスビルには世界中の企業がビジネス参入している。移動費はかからないし、自動翻訳の活用もできるとあって、ビジネスチャンスの宝の山である。

 また元ニートや手足が不自由だった方々もここでで元気に働いている。まあ詳しい話は置いておいて……、


 目指すはハンティングワールドオンラインの入り口である、ショートカットしても良かったが入り口があるオフィスの受け付けの女性が晃を見つけると

「お帰りなさい! 今日も活躍期待してるわよ!」

っと言ってくれるのがうれしい、このゲーム会社の受付歴3年で、非常に明るい性格な方で、晃がランカーなのを知っており、たまに30分位立ち話をしたりもする。早い話がリアルで女友達がいない晃にとっては唯一の存在でもあった、

「行ってらっしゃい」

 と見送りを受けながら、門をくぐる……。


 そこにはハンティングワールドオンラインの舞台が目の前に広がる。

 ハンティングワールドオンラインは日本の大手ゲーム会社が共同出資して造ったVRMMORPGで潤沢な資金と海外の大手ゲームメーカーに負けてなるかの意識の高さまた、元ニートの人達がCGプログラマーとして多数雇用されており、

働ける喜び、ゲームへの情熱の集大成が反映された現実の世界のような高画質で精巧なビジュアルにあふれてた……。


 目の前には始まりの街が大きく広がり、

さらにそれを取り囲む様に、草原が広がっている!


 少しショートカットワープして少し離れた湖の側の草原にやってくる、この辺りはマッドアリゲーターやデスバファローの生息地であり、初心者グループが迷い込むと1撃でやられてしまう様なエリアだが、晃の様にひたすらレベルアップポイントを回避とスピードに振り分けているプレイヤーにとっては相性が良く、スルスル自動回避しながら妖刀で斬りつけたり、毒ナイフを投げつけたりしながら倒して行く。晃は忍者、アサシン(暗殺者)、盗賊系職業に特化しており、もっとも相性が良い敵であった。


 そして1時間程片手間に敵を倒しながら、学校の宿題をメールから取り出し、

右上方に視覚モニタとして映し出しながら、昨日深夜に放送されたアニメの録画データを左上方に投影させながら宿題とアニメ鑑賞の両方を器用にすまして行く。


 晃の両親は2人ともバイオ研究者で、台湾に研究所を立ち上げるために昨年から赴任していた。当然晃も台湾の高校への転校を打診されたが、台湾のVRゲーム事情を知っていたので、断固拒否。

 日本に残る条件として、学校の成績を上位40パーセントに保つ事が条件なので、いつもこの場所で宿題をまず済ませる。しかもVRゲーム内での体感時間は現実時間の2倍なので効率が良い。その辺りに目をつけた進学校や進学塾がカリキュラムにVR授業を取り入れ始めている位である。


 そんな情報を理由に22時以降の接続が禁止されている雷太や哲郎がどんなに親を説得しようと頑張っても、不可能だったらしい……。

 それには理由がある、親が子供の頃に第1世代のVR機器が発売され、第2、第3と改良が加えられ、現実の様な視覚効果と優れたゲームに熱中する人たちで溢れかえり……そうなると中にはVR世界にこもりっきりになり、食べる時と寝る時以外はVR世界に引きこもる。VR引きこもり、VRニートなどの言葉が当たり前となっていて一部の識者がもともとニートや引きこもり化の人間が存在していて、その人達が遊んでたゲームがVRゲームに置き換わっただけだと主張しても、VRがニートを育成するなどという論調が主流になってしまう。


 そして、団塊の世代の親達が残した財産をニートの息子たちが食い潰して巷にニート浮浪者が街に溢れかえる事態と深刻化していった。雷太や哲郎の両親達もそんな時代背景を経験しているため、VRには厳しい考えも残ってはいた。


 ではなぜ現代、VRが復権しているのだろうか?


 ニート浮浪者が溢れかえっている現状のなかであるひとりの男が立ち上がったのである、その人は祖父が首相経験のある知り合いを持つイケメンタレントのディーゴであった。

 かれは「ニートや引きこもりの人達が楽しく仕事や学校に通える世界を創造する」と公約に掲げ首相選挙に立候補したのである。

 しかし何の政治的バックボーンを持たない彼には若い女性票は集まっても当選確率は0パーセントと予想されていた。


 しかし投票日の当日人々はびっくりする光景を見ることと……


 投票所に溢れるメガネをかけた見慣れぬ人達……、普段投票に訪れる事なきニートや引きこもり、それには当てはまらないがやはり投票には訪れる事のない若い無関心層の人達が一斉にディーゴの投票に立ち上がり、当選へと導いたのである。


 晴れて首相となった彼の改革は国家プロジェクトとして、膨大な予算をつかいVRのサーバを強化することにより一つの都市をつくりあげることであった。

 センターシティと名付けられたその街からの仕事募集はニートや手足が不自由で働くことが出来なくなった人やまだまだ働きたいが体がついてこない老人などを中心に行われた。

 引きこもりニートの人が果たして、まともに働けるのかという疑問が初期は蔓延していたが、彼らは好きでニートになったのではなくて、イジメなどが原因であったり、人との交流下手などの理由を抱えていたことにより社会から距離を取らざるを得なかった人間が多い。


 センターシティにプログラマーとして雇われたある元ニートの一日は朝になるとVR接続して、仮想空間であるセンターシティのオフィスに出社しタイムカードを押してデスクにすわり、そのデスクの上の仮想パソコンを使って仕事を行う。

 昼休みはVR接続を切り弁当を通販で注文、ドローンが近くの配送センターから飛んでくるのですぐ、マンションなら宅配便集積所、一軒家なら徒歩1分以内にある共同集積所に配達される、それをエリア宅配登録アルバイト〔集積所エリア内の主婦など、エリアごとに数名登録〕が入り口まで持ってきてくれる。


 昼休みがおわるとタイムカードを押して17時30分まで働く。

 彼らは引きこもりのまま仕事が出来る喜びを大変感謝し、いろいろな才能を発揮していくこととなる、詳細はまたの機会に……。


 晃はひと通りの宿題を終えたところで最近解放されたばかりの新ダンジョンの近くまでワープを行なった。2日前のメンテで実装されたばかりのダンジョンで発表と同時にたくさんの冒険者がおとずれている。

 攻略ウィキによると、まだ地下18階までの攻略パーティーがあるのみ……今日もさっきから何10組ものパーティーが洞窟の入り口に吸い込まれていく。


 フロアボスを倒すとレアな武器やアイテムがドロップする上、初回討伐だと超レアな武器がもらえることもあり、みんな我先にと突っ込んで行っている。パーティーは8名が最大人数で、ただし人数が少ない方がドロップする一人当たりの量が多いので4~8名パーティーがほとんどであった……。


 さて晃はこの2日間ダンジョンには潜らず、ダンジョン周辺を探索していた。


 ダンジョンが解放されたということは、その周辺エリアも解放されたということになり、皆がダンジョンに向かっている間に周辺のレアな鉱物、植物をごっそり頂こうという姑息な作戦だがこの2日間は初めて見るモンスターはいたが、特にレアな物は見つからず、空振りを続けている。


 ダンジョンエリア西、北は調べ終わったので

「今日は東エリア探索といくか……」

「今日も空振りなら明日は諦めてダンジョンだな」

 などとボヤキつつ誰もいないダンジョンの東エリア散策を行う。おっ珍しい色の鉱石だなと新鉱石をツルハシでカンカンと採取アイテムボックスに収納していく。

「今日は当たりかも……」

 ひとりごとを言っていると、ふと背後から殺気を感じる。


 虎? 鋭く長い牙を持ってるタイガー系の新種みたいだ、右上にサーベルタイガーとまんまな感じの名前が浮かんでいる。

 とりあえず防御力には自信ないので木の上に飛び移り様子を見ようとするが、すぐに奴も強力なジャンプで追っ掛けてきた。かわしつつ他の木に飛び移り相手の様子をうかがう……。

 こちらと同じ敏捷性タイプで相性は悪そうだな、と思ってたら火を吐いてきた、かわしながら木を飛び移っていく、魔法も使う魔獣ですな、ただ生物系は毒に弱そうとニンマリしながら、奴が襲いかかってきたら毒ナイフを投げつけ、ヒットアウェイ戦法を使いながら毒ナイフ、しびれ薬を交互にぶつけていった。


 3セット位で相手の動きが止まり始めるあとは、超レア武器である妖刀イザナギで切りつける。


 妖刀の必殺スキル10連撃が炸裂、サーベルタイガーはポリゴンの光に変わって消滅、ポーションなどのアイテムをドロップした。敏捷性、回避性には優れるが 攻撃力、防御力が弱い晃はひたすらヒットアウェイで時間をかけながら相手を仕止めるのが得意戦法である。何事もなかったように、珍しい草花を収集しながら探索を続けて行く。


 すると前方にモノリスの様な長方形の平たい岩が見える、明らかに人工的なオブジェである。興奮を隠せないまま近づいて行く、晃がハンティングワールドの様な人気ゲームで全体で総合力9位のランカーである理由はここにあった……


 彼はソロゆえに他のパーティーが行かないようなエリアばかり探索して、裏ルートを見つけ出し、隠し部屋を見つけたり、裏ボスを1人で倒すことによって、莫大な初回討伐報酬や経験値を得ることに長けていたのである。縦1メートル横50センチのモノリスに近づき観察するが何もない、触ってみたがなんともない、そこで蹴飛ばしてみた。


 ズゴゴゴ......ゴゴゴと落とし穴が開き晃は落ちて行く……ひたすら落ちる……。


 気がつくと地下通路にいた。目の前には棍棒やら斧を持つたゾンビが3体ゆっくりとだが襲ってきた、アンデッドだけに毒ナイフは効かんだろうなと思いつつ妖刀イザナギと名刀村雨の2刀流で切りつける、斬撃は有効なようだ、相手の攻撃は余裕でかわせる。

 ノロイのがゾンビの醍醐味って今はなき映画好きのじっちゃがいってたな。

 親の代からはゾンビがスピードアップしてたのでゾンビは機敏だと、思っていたのだがじっちゃが見せてくれたゾンビ映画みたいにのそのそと動くので、余裕で3体やっつける。ふとまわりに20人位のゾンビが集結中であった。

「おいおい、勘弁してくれ」

 さっさと壁走でかわし逃げる……


 今度はスケルトン軍団のお出まし、剣やら弓で素早く襲ってくる斬撃をぶつけるが効かないようだ、ハンマーや斧で打撃しないと効かないのだろう。

 相性悪すぎだ、晃はほとんどの経験値を敏捷性回避等に振り分けるために、魔法スキルはあまり持ってなかったがヒーリング系といつか空を飛べるんじゃないかと風魔法だけは習得進化させていた。風魔法の呪文で数体吹き飛ばし……。

 スペースが出来たところをただひたすら逃げる今度はゾンビオオカミの群れがいる、こちらはかなりの素早い動きで攻撃を仕掛けてくるが、晃はハンティングワールド内ナンバー1のスピードの持ち主である。かわして逃げる……。

 火炎瓶を投げつけ開いた空間を、ひたすら逃げる。


 そして目の前に大理石で出来た扉が目の前に出現。


 進む前に考えを整理する、この裏ダンジョンはゾンビ、スケルトンなどのアンデッド系が中心であった、当然フロアボスもアンデッド系である可能性が高そうである。


 なお余談だが2日前に公開された、表ダンジョンは豚魔族、牛魔族など動物系魔族が多いと聞いている、アンデッド系のボスといえば、他のゲームでいえば元大魔法使いだった人間がアンデッドになり、魔法を使えるスケルトンであるリッチーだったりする例が多い、魔法は回避しづらいうえに、斬撃、毒ナイフ、毒矢、毒手裏剣、しびれ薬が効かなさそうなリッチーと晃との相性は大変悪いといえよう。


 風魔法と火炎瓶程度で立ち向かうのは得策ではない、扉の先にもし大魔法使いリッチーが現れたら相手の攻撃パターンを把握しながら、倒される前に逃げることに集中しよう、倒されて神殿に戻るとデスペナが発生し、半日は体力半分になってしまう。そうなると明日、雷太とかのパワーファイターとか連れてくるにしても、足を引っ張ってしまう事態になる。考えを巡らせながら扉を開けた。


 そこには身長5メートルはありそうな褐色の鍛えられ上げた筋肉の持ち主がこちらを睨んでいた、頭には2本の角があり、8メートルはありそうな大きな長斧を携えている!


「我は牛魔族の王オルトガイザーである……、宝が欲しくば我を倒せるか? 人の子よ」


 これは意外だ、いかにも相性が良さそうなパワーファイターじゃないですか。


 勝利を確信した晃は動画サイトにアクセス実況名は「ボス発見これから実況攻略開始! 場所はナイショよ」の名称で実況を始める、画面にはボスの姿を拡大して撮影。


 すると画面下のコメント欄に

・ナンカキタ!

・場所教えて3万出す

・俺なら5万だすぜ!

・牛魔族の王か20階層あたりのフロアボスじゃね?

・アキラってランク9位の? 初回討伐確定やん


 などのコメントが溢れ出す、観客数も300、3000、9000、15000、とうなぎ昇りに増えていくこれでビュワー数3分の1のお小遣いゲットだぜと喜びに溢れた笑顔を見せながら、晃は挑みかかる。


 それからが思い出すのも辛い戦いがはじまる、まずは相手の近くまで接近、

長斧がビュオオオオオオオオオオ! と凄い音をたてて襲ってくる、かっこよく軽く左に回避してみせる、がっ物凄い衝撃波に吹き飛ばされた……。

 かわしたはずなのにHPを20パーセント持っていかれる、ポーションで回復しながら、こりゃやべえ、直撃喰らったら即死だな、と考えつつ反撃開始、周りの大きな岩を利用した3角飛びのスキルを使い妖刀のイザナギで斬りつける、イザナギのスキル効果追加10連撃がカカカカカカカカーンと響き渡る、さらに追い討ちと火炎瓶3つも投げつけ爆音が響き渡る派手な攻撃を行う 。

 コメント欄も

・イザナギかっけぇ 

・妖刀ほしぃ

・火炎瓶えぐい! 攻撃容赦ねぇ


 などのコメントで溢れかえる 晃はコメントをちら見しながらニヤリとしてしまう、しかし爆煙のなかから姿を現したオルトガイザーは無傷に見えた、左上のHPゲージを確認、確かに減ってはいる、1ミリ程減っている何百分の一ダメージだろうか、なんて防御力なんだ、後は同じことの繰り返しが……。


 衝撃波を喰らう、ポーションで回復、攻撃を当てる、衝撃波を喰らう、ポーションで回復、攻撃を当てるの繰り返し、ギャラリーに飽きられないように、妖刀イザナギを名刀村雨や炎魔刀 火燕にかえたり、火炎瓶が尽きると毒ナイフなどと攻撃をかえてみたりした、


 コメント欄も

・火燕キタコレ

・毒ナイフ、アサシンスキルやるな


 などと騒がしかったが、30分もすると……。

・そろそろうちのパーティーの皆さん狩りに繰り出そうぜ!

・リーダーその言葉を、待ってましたぁ

・明日にはダイジェスト動画でてるよねぇ


 などと観客数が減りはじめ、1時間も経つと……。


・アキラって攻撃力弱くね?

・さっきからアキラさりげなく投げた毒ナイフや毒手裏剣回収してるんですけど


 だって仕方ない、無尽蔵にあるわけない、だから斬撃と投擲を繰り返しながら、回収もやってますよ、1時間30分を超えた辺りからはコメント欄に書き込みがなくなり始める……オルトさんのHPは? 半分まで減ったかな。

 そのあとオルトさんが第2形態に変身して攻撃力が上がったりHPが少し回復したり、などのイベントはあったがこちらの攻撃パターンは変わらず、4時間経ってようやくオルトさんは断末魔の悲鳴とともに光るポリゴンとなって消えて行った。


 牛魔族の王の討伐者の称号を得ましたとアナウンスが響く、観客数は1だった、その人のコメントは、


・さっき見始めたよ! もうおわったんだ、あっけないね、お疲れ様!     


 と書かれていた、 メールは10通くらい来てたかな、雷太や哲郎からも来ていた

「哲郎と見てたぜ、さすがは晃だな! また詳しく明日聞かせてくれ 雷太より」

と3時間30分も前に来ていた、観戦時間30分ですな……、友達なんてそんなもんだわな、その中にお目当のメールがあった。

「ゲームプラス 編集長の岩田です。商談希望なので明日、学校の後にでもオフィスに寄ってくれ」

 了解メールを返信しながら、晃はすっかりくたくたになっていた、VR時間は効率が良いとは言え何せ4時間の戦闘だ、その前のダンジョン駆け巡り時間もあるし、現実でも23時30分を超えていた、戦利品の整理をしてから寝るか……。


 初回討伐報酬として数々のレア合金、武器や防具の強化素材、自分の職種では装備できないがオルトガイザーが装備していた武器やガード一式が初回討伐記念オリジナルデザインでアイテムボックスに収納されていた、とくにオルトガイザーが使っていた斧は衝撃波で範囲攻撃できるスキルがあり人気が出そうである。


 武器や防具に関してはオリジナルデザインは晃だけが手にすることが出来るが、今までの例からして、同じ能力の武器、防具が先着10パーティーまでは討伐報酬に加えられる、だからコメント欄に金を出してでも場所教えて、などのコメントが載っているわけである、もちろん売り先は決まっているし、それが晃が総合力の高い9位ランカーでいる理由である。

 そう言えば今回の戦いのお陰でかなり経験値が増加しており、強化ポイントも10追加されていた、それをいつものように敏捷性、回避などのスピード項目中心に振り分けていく、だが今回は攻撃力にも3ポイント振り分けた、アキラって攻撃力弱くねってコメントにムキになってしまった......。


 斬撃、ナイフ投げ、手裏剣、弓、ヒーリングのスキルも上がっていた、晃は他には柔術、打撃格闘のスキルも高いのだが、今回の相手に組みつこうとは思わなかったのでそちらは増えてない。

 満足しながらも、ここで眠るわけにはいかない、幸い部屋の奥に地表に出るための梯子を発見した。良かった、またアンデッドの群れと追っ掛けっこしなくて済みそうである。

 地表に出てはじまりの街にワープ、いつもの宿屋に泊まってログアウト。24時30分を超えていた、疲れたもんだ、グレープフルーツジュースを飲んで就寝した。


そのあとは冒頭の事件に戻ります。


 目の前には気の強そうな美人さん姫宮沙羅がいる「話は分かったわよね、ハンティングワールドオンラインのはじまりの街の入り口前に18時集合! 私と葵、桜の3人で待ってるから」


「え、え、え、えーと」


 状況把握出来てない僕はひたすら訳のわからない呻きを発する


「木崎君あなたに反論認めないの、分かった? じゃ後でよろしくねー」


 と踵を返して早歩きで去って行く……


姫宮沙羅から喋りかけられただけでも、一杯一杯の晃はまさしくバーサク〔混乱〕状態に陥っていた。「あわわわ!」と訳のわからない言葉を発しながら、時間があまりないので、パン、サラダ、ミルク等を注文しながら、急いで帰宅。今日は自炊する気にならないし、16時40分を回っているため、時間もあまりない。


 口の中にパンとミルクを流し込みながら、VRにログイン、センターシティにアクセス、ジャケット姿に着替えて、商談先であるゲームプラスのある高層ビルの前までワープを行う。


 エレベーターに乗り、44階まであがり、ゲームプラスオフィスの扉をあける、受付嬢なんている訳なくつかつかと入って行く20人くらいの社員が、忙しそうにパソコンに向かっている、その中のひとりと目があった、確か佐久間さんだっけネームはヒロシと名前が表示されてはいる。

「晃君こんちは、昨日は大活躍だったね、編集長待ってるよ」

「ありがとうございます」

 と慣れた足取りで奥の編集長室の扉をノックする、

「入って」

 中から声が、扉をあけると、45才くらいの髭面の痩せ気味の不健康そうなおじさんが大きなデスクの奥に座っている、岩田慎司である、ネームにはSHINJIと浮かんでいる。

「晃君いらっしゃい! 早速来てくれてありがとう」

「まあ情報は新鮮な方が高く売れますからね」

「さすが分かってるね」

「で、昨日のボスはダンジョン以外の別ルートなんだろ?」

「なんで分かったんですか?」


「昨日20階層のフロアボスにたどり着いたパーティーがいて、それまでの階層の敵が牛魔族や豚魔族などのパワー系ばかりいたのでそれ向きの準備を整えて入ってみたらなぜかフロアボスはアンデッドの大魔法使いリッチーで、みんな準備不足で倒されたという情報は入手してたからな、まあ今日の午前中に倒したパーティーが攻略法売り込んできたよ、もちろん買ってやったよ」


「君がダンジョン潜ってるという噂は聞いてなかったし、それに君の場合は攻略法は実況で教えてくれてたから、場所を商売に使うんだろうなと……」


「さすがは岩田さん鋭いです、ははは」

「昨日の中継ビューイング数はどうだった?」

「45000まで伸びました」

「15000円の小遣い稼ぎか高校生としては、十分だな」

「そんなの武器ガチャ代であっという間に無くなりますよ」

「ランカーがランクを維持するのは大変だな」

「で今回君の見つけた裏ルートなんだが、ゲームプラス独占ということで30000円出そう。」

「中継のコメントにこんなのあったよ」50000と書かれたやつです。

「こりゃ参った商売上手だね! 同額で勘弁してくれ」

「わかりました」

 データを提供して行く、

「アンデッドねぇなるほど、でなぜかあっちにリッチーがいて、こちらが牛魔族の王とはな、運営のいたずらだな、ハハハ! 早速ゲームプラスの有料会員にメールしてあげよう」


「あとお願いがあるのですが、急用ができて昨日の実況編集する暇がないのです。ダイジェスト編集と公開希望なのですが」

「その場合お前の取り分半分になるけど、いいのか?」

「ええ構いません、当分忙しくなりそうなので……」

「そういえばお前なんかいつもよりニヤけてるぞ、なんかいいことあったのか?」

「そんなんじゃありませーん、それじゃあ失礼します」

「えらい慌ててるな、まあまた情報頼むぜ! 謝礼は振り込んでおくからまたよろしく! あとお店にも落ち着いた時でいいから寄ってくれ!」

晃は急ぎ足でオフィスを後にする……


 みなさんお気づきでしょうが、晃達のアバターからID名まで本物に近いことに、

昔はもちろんアバターは男女自由、名前だって何種類も使えた時代があったが

VR社会が成立しはじめてくると、裏社会の人間が匿名で入り込んできたり、    ネット結婚をしたが相手が同性だと知って起こった傷害事件など数々の問題を抱えていた。

 ディーゴはセンターシティを立ち上げる際に実際の風貌、性別、年齢、本名に関連したIDの表記などを義務化した。そのことに同意した各ゲーム会社もセンターシティから本名登録に基づいたIDネームしか使えないようにしていた。

 だから晃は単純にアキラと登録していた。とはいえアバターはそれなりにデフォルメアレンジされているので、例えば70過ぎのおばあちゃんのシワは強調されることなく、かわいい感じになるので、センターシティにはかわいい年寄りも溢れている。


 腕時計をみると17時55分であわてて、直接ハンターライフにワープ、受付のおねえさんと昨日の話しをしたかったが、仕方がない、はじまりの街の直ぐ近くまで飛んで歩いて向かう。


 晃の服は忍者らしく黒装束に鎖帷子である、いずれも星7の超レア物で生地が高級そうにも見える、さて門の近くに3人の女性が見えた非常に目立っている、姫宮沙羅は白いワンピース、龍ヶ崎葵はグリーンのシャツにブランドっぽいスーツ風の黒ジャケットと黒スカート、龍ヶ崎桜はピンクのワンピースかなーって3人ともこの世界では浮きまくってるんですが……。


 当然目立ちまくりで頻繁に複数の男性パーティーに近づかれては、声をかけられている。

 僕が視界に入ったのか、姫宮沙羅が

「木崎くーん!」っと手を振ってくる。

「はいい!」

っと近づいていく、男性パーティー達の羨ましそうな視線を痛いほど浴びながら、

晃が登場すると舌打ちしながら、他の連中は去っていく……

「ど、ど、どうもです」

「葵は1年同じクラスだったのでもちろん分かるわよね?」

「木崎君お久しぶりですわ」

「お久しぶりでございます」

 彼女は少し姫宮沙羅よりは大きな成長した胸をもつ、気さくな感じの美人さんでクラスの男子に人気が高かった、静岡発のネット通販で有名な龍ヶ崎家の御令嬢で、髪型は赤毛気味のブラウンでわずかにウェーブがかかったロングである。

「妹の桜はクラスは違ったけど、龍ヶ崎姉妹は有名だから知ってるわよね?」

「もちろん存じ上げてございます! 初めまして」

「桜だよ! 木崎君よろしくぅ! さっきから言葉が固いよぅ!」

 一卵性双子のためそっくりに見えるのを嫌がってか、昔から桜の髪型はストレートのベリィショート、色もシルバー風に染めてある、あと入院のせいか、かなり痩せていて、姉の葵に比べてかなり小柄な美人さんにみえた。

 みんなSARA、aoi、sakura名前が表記され周りを装飾文字で飾ってある。


「本当にみんなハンターワールドオンライン初めてなんだね! 職業欄が空欄になってる!」


「木崎君は忍者さんなんだねぇ、このゲーム内でトップ級に強いんだってぇ?」

と桜が質問をぶつける。


「まあ一応ランカーやってます」

 目の前にスクリーンを映し出しランキングを見せる上から8位にアキラの名前があった、昨日の激戦のお陰で1つランクアップしていた!

「あらまあ! このゲーム100万人以上が登録しているのよねぇ、その8位ってすごすぎですかも」と葵が感心しながら言う。


「いやぁそれほどでも」


とデレデレしてると、ギラッと姫宮沙羅に睨まれた。


「ゲームオタクなんなんだから当然でしょ! 早く狩りを教えなさいよ!」


「はいいい! 調子に乗ってすみませーん」


背筋がピンと伸びた。そのやりとりを葵、桜がニヤニヤ見ている。


「じゃあ主役である龍ヶ崎妹さんの職業から決めようか?」

「桜と呼んでいいよぅ、姉ちゃんも葵で良いよね?」

「もちろんですわよ」

「では桜さんはリハビリも兼ねてるとのことなので、動きまくる職業の方が良いかな剣士とか、なにか部活はやってました?」


「桜は中学時代はアーチェリー部だったよ」


「それはいいね! ただ狙撃系だとあまり動き回れないんだよね、うーん、そうだ!

忍者で弓も得意な、くのいちってのはどうかな?」

 アニメキャラで紫のくのいち衣装〔裾丈の短い和服〕と弓を持ったキャラを検索してスクリーンに映して見せる。

「いいねぇナイスセレクトだよ! 木崎くーん」

よほど気に入ったのか、桜は小躍りしている、こころなしか、姫宮沙羅も羨ましそうである。


「次は葵さん、何か部活は?」

「幼少の頃より、クラシックピアノ、ヴァイオリン、お茶をたしなんできましたわ、運動は苦手ですかも」


「じゃあパーティーに必要なタンカーやガーディアン役お願いできるかな?

大きな盾と剣で味方を守る役なんだが、あまり動き回らなくて良いという利点がある」

「でも私こんな大きな盾や剣扱えますかしら?」

「大丈夫! 筋力や防御力に強化ポイント振り分ければ問題ない、ただ武装にお金がかかるかも」

「それなら問題ないですわ、龍ヶ崎家の資金をもってすれば」

 話のスケールが急に大きくなった。

「桜を守るためにもタンカー役お受けしますわ」

「さて次は姫宮さんだが……ヒーリング役は桜さんに兼ねてもらうとして、やはり アタッカー、剣士とかランサー槍とかやって欲しいのだが……」

「私くのいちファッション気に入ったのよ、木崎君お願い私も忍者やりたい」


「しかしなあ、忍者2人もいらんよなあ」

 そこでアキラの心に悪魔の閃きが、スクリーンを出し薙刀の和服アニメキャラを映し出す、本当言うと、このゲームには薙刀はない、槍は相手を突いて殺傷する武器だが、薙刀は相手の足をないで動きを止めさせる女子向けの武器であり全くの別物であるが見た目が変わらんので分からない筈、姫宮沙羅を見やると、目を爛々と輝かせている。

「分かったわ槍をやるわ、短い剣はこの細身のレイピアが気に入ったわ」

「お願いします姫宮様!」

 後ろめたさから、思わず敬語を使ってしまった。


「それでは皆さん新規サービスで各職業の武器ガチャ防具ガチャがそれぞれ10回ずつ引ける様になってるでしょう? 桜さんは忍者魔弓ガチャ、忍者防具ガチャ、葵さんはタンカー武器ガチャ、防具ガチャ、姫宮さんは槍ガチャ、戦士防具ガチャ引いていきましょう。羨ましいことに初心者応援キャンペーン中で10連ガチャには必ず星4以上のレア物が入っているらしい」

「質問!」

「はい葵くん何でしょう!」

「星何個が最高ですか!」

「ガチャでは7個が最高です」


 ちなみに忍者武道大会優勝景品の妖刀イザナギは星8だが黙っておこう。さあみんながガチャを引き始めた。桜さんは星4のピンク色のくのいち衣装を引き当てて

満足そうにしている。魔弓は星5がでた、1年前だったらそれを引き当てるのに、ランカーで自営業している社長さんが100万以上つぎ込んでたな、かつてVRゲームにおける深刻な廃課金問題があり、ディーゴが改革を行い、月毎に収入の半分以上は課金できない規制をしていた。それでもそれだけつぎ込めるのだから、どんだけ収入あるんだよって!

 晃は親からもらっている、毎日2000円の食費を自炊で7割浮かせて、ゲーム攻略や動画の副収入を登録してたりするので、高校生としては、ガチャ回せる方ではあるが、社会人には到底敵わない。


 次は姫宮沙羅のガチャは! 防具ガチャの真っ最中、次々とでてくる金属性のガントレットやら肩当てやらに首をひねりながら「イメージと違うのよねえ」って呟いている、忘れてた、薙刀和服で騙してたんだっけ、戦士防具ガチャで和服が出るわけがない、殺されるかも……と息をひそめて見守る。

 最後に星4のシルバーに輝く胸が強調された鎧赤スカート付きが出てきた。胸のところをみながらニヤケている、どうやら命拾いをしたようだ、ホッとしながらこちらもニヤケていると、ギロッと睨まれた。

「なにニヤケてるのいやらしいわね」


 勘違い結果オーライ!


 さて葵さん……、

「また星5ですわね、これで6個目かしら、なかなか星7ないですわね」

 などとつぶやきながら、10連ガチャを何度も回している。

「あのう葵さーん、いったい何をしてるんですか?」

「星7出るまで回そうかしらっと思いまして90回目ですわ!」

最初の10回はサービスあとはまだクエストいってないのでガチャチケット持ってるわけなく、1回500円だから80回だと4万円!

「ちょっと待った! 葵さんこずかいいくらなの?」

「龍ヶ崎姉妹にはカードが与えられていて、月1000万円までは自由、それ以上欲しい場合はお父様に使用内容をプレゼンすることとなってますわ」

「はあ」ため息が出てきた。

「星5でも十分です、また今度時間がある時にお願いします」

「それもそうですわね、わかりましたわ、明日にでも揃えさせていただきますわ」

 結局揃えるのね、ハイハイ金持ちは別の人種ですな……、

周りを見渡すと、桜さんはピンク色のくのいち衣装、頭には鉢巻の金属版鉢金、腕には鉄の腕当て、肩に弓。

 姫宮沙羅さんはシルバーのガントレットに肩当て、先ほどの胸盛鎧に赤いスカート、槍も星4だったか、頭にはオデコに付ける防具が、運営により女性用の頭防具は顔が見えるようにできていて、それでいて、フルフェイスと変わらない防御力があるように、粋な計らいがなされていた。

「レイピアがないとさみしいわね」沙羅が言う。

「桜も刀欲しい」

晃が「敵を倒していけば、ガチャチケットどんどん落ちるから待って10連で引けば星4でるから効率いいよ」

沙羅が感心したように「さっすがあ! 木崎君、教室でのヘラヘラした雰囲気と違って頼りになる!」

まあゲーム好きなら誰でも知っていることだからなあ……

「待たせましたですわね」葵さんも着替えていた。

 すべて星5の鎧、ガントレット、肩当て、金属防具スカート、大盾、大剣、すべてゴールドに輝いていてとても初心者には見えない……。

 そのあと、はじまりの街の訓練所に寄って武器の扱いチュートリアルを受けてもらう。


 よし狩りに繰り出そうか!


 さあはじまりの街の周辺の草原だ、2年前のゲーム初日思い出すなぁ!

モンスターはクレイジーラット、マッドラビット、あとはあれだな青い球体がぴょんぴょん跳ねている。

「何あれ可愛いい!」

 姫宮沙羅が不用心に近づいていく、その時スライムはタックルとともに、彼女をこけさせる、しかも液体グチャグチャ攻撃でエロい!

「あらあら!」葵が笑う。

「沙羅姉エロいぃ」桜も吹き出しそう。

「もう! 笑ってないで助けなさい」

 スライムが固体になった瞬間、妖刀一閃! スライムは光るポリゴンになる。

「木崎君かっこいい」

 桜が囃し立てる、スライム倒してこんなに騒いでる奴らみたことない……普通は。

「スライムは襲ってくる前か、襲ってきた瞬間に攻撃をすれば倒せるよ」

「はーい」

 スライムを数体倒して3人ともレベルが2にアップ10ポイントの強化ポイントを得る、

「では葵さんはひたすら防御力とパワーに振り分けましょう」

「了解しましたわ」

「桜さんは回避、スピードに割り振りを、あとヒーリング治癒魔法にも2ポイントお願い」

「はーい」

「姫宮さんはとりあえず攻撃力とパワーですねひたすら脳筋を鍛えましょう」

「なんか私だけ頭悪そうな感じがするような」

「気のせいです」

「次は魔物の群れをやっつけましょう」

「はーい」今度はクレイジーラットの群れに相対する、

「タンカーである葵さんが相手の攻撃を大楯で引きつけて、姫宮さん、桜さんが後ろから攻撃するのが基本戦法だからね」

「はーい」

 クレイジーラット7匹か先に4匹を晃が倒して、3匹を彼女達にまかすか、と晃が飛びだし4匹を倒す、晃のレベルだと一振りで4匹とも光のポリゴンになっていく、振り返ると言いつけ通り、桜さんは葵さんの後ろから弓で攻撃しているが、姫宮さんは単独で戦っている、なんとか3匹とも倒したようだが……


「おーい! 姫宮さんなんで、葵さんの後ろにいないのかな?」晃の問いに、

「だってアンタだって飛びだして行ったじゃない」沙羅がサラリと答えた。

「……わかりました。フォーメーション練習しましょう、基本的に回避力のある桜さんはたまに飛びだして相手を撹乱するのはありですが、防御力のない姫宮さんは常にタンカーの葵さんの後ろから槍で攻撃して下さい。わかりましたか姫宮さん?」


「……はい」不満そうに生返事する、姫宮さんも可愛い。

「ではフォーメーションとして、モンスターの群れが向かってきたら、葵さんが一歩前にでて大楯を構える。大楯の後ろ右から桜さんが弓で遠方攻撃、右上から葵さんが大剣を一番近い的に当てる、今度は上から僕が毒ナイフを投げつける、続いて左から姫宮さんが槍で攻撃する、この要領で一回練習しましょう」

「はーい」

 やってみると、姫宮沙羅が

「キャハハハッ」と受けている。


「わーい! ローリングダンスだあ!」

 桜さんものりのり、どうやらアイドルグループがよくやる一人の後ろから別の人達が顔を出していくやつに見えたらしい。

 それからしばらく群れをみつけてはローリングでやっつける、を繰り返し、1時間程経つと

「次はローリング2、3の順で行くわよ!」

 なぜか姫宮沙羅が仕切っている、しかも2、3は攻撃の順番を変えただけの遠隔攻撃から先に、の鉄則を無視した順番だが、相手も弱いし、息を合わせる練習としては良いかなと容認している。

 しかし他のパーティーから見ると、異様に目立つだろうな。この辺りにはさすがにパーティーはいないので助かった……。

 さらに30分経過、彼女達のレベルは5まで上がった。

「大分レベル上がったわよね。少し休もうよ」沙羅が言うと、

「賛成」草原にみんなで、座り込んだ。

「ログアウトしてドリンク補給行ってくるね」晃が言うと、

「はーい」3人が声を合わせる。

 部屋でミルク補給「ふぅー」と大きな溜息をつく、夢じゃないよね、だって今まで1年と2ヶ月同じクラスだったのに、会話をした事のないクラスナンバー1美人姫宮沙羅、更に転校してしまったが学校のアイドル龍ヶ崎姉妹と一緒にVRゲームでパーティーを組んでるとかありえない……。

 きっとリア充どもが組んだ新手のイジメに違いない……。

 僕たちが見るようなアニメにはあまりないが、女子向けのアニメでたまに見たことがある、冴えない女主人公にいきなり、クラスナンバー1イケメンが壁ドンして告り、主人公がびっくりリアクションを取ってると周りからイケメン仲間が面白がりながら出て来る→イケメンも賭けに負けたから仕方なくなんて、主人公を泣かせる→でもそれがきっかけで本当の恋愛が始まるみたいな……

 それと同じだとすると、凝りすぎハハハ、バカらしくなってきた、戻るか……再度ログインを行う。

「おかえりなさい」

 とみんな明るく迎えてくれた、罪悪感少し……、

 どうやら3人でTVドラマを見ていた。姫宮沙羅が

「あんたも見なさい」

 と左4分の1にスクリーンが広がった、学園ドラマが写しだされる、昨日放送されていたイケメンばかりの学園ドラマだ

「タックン最高! なんて美しいの……」

 姫宮沙羅がつぶやく、タックンとは滝沢光、今人気の高校生アイドルだ、映画やドラマにひっぱりだこなのは、晃みたいなアニメゲームオタクでも知ってる。


 動画を無許可で公開するのは、法律違反であったが5人までの友達同士なら共有可能にディーゴが改革済みであった。

 姫宮沙羅が「ちょっとタックンのドアップ見たいので潜るね!」

言った途端に動かなくなった。

「行ってらっしゃい」

 葵さんが説明をしてくれる、

「5分までなら、VRドラマモード無料なので沙羅ちゃん、今ごろヒロインの髪の毛の中に隠されたナノVRカメラでタックンのドアップを堪能中ですわ、私達に頼めばいくらでもVRモードで見られるのに……私達とは親友でいたいから、お金の貸し借りは無しよって突っぱねるのですわ」


「葵さんや桜さんは何がきっかけで姫宮さんと仲良くなったんですか?」


「木崎君は知らないかもですけど、沙羅ちゃんはお父さんが中1の時に病気で亡くなり、決して裕福ではない環境で育ったせいで、女の子の間ではイジメまでは行かないけど、無視されてたの……でもあんな美人がボッチなのは嫌だった私はしつこいくらいに接しようとしたわ、でも無理だった……金持ちお嬢様の虎の威を借りたくないわって言われたかしら」


「それでも彼女を観察し続けたら、週1回は男子から告白を受けていて、そのたんびに的確に相手の弱点を突きコテンパンにしてから、断って後腐れを残さない見事な手口を見てしまったのよね桜?」

「あん時の沙羅姉ちゃんカッコよかった!」


「私達も週1回は告られてたけど、龍ヶ崎家の昔からの商談手法を幼少のころから叩き込まれていたおかげで……」葵が言うと、

すかさず桜が「相手には絶望感を持たせない、今後のプレゼン次第では取り引きの可能性あり、何度でも挑んでこい」


葵が「それが災いして相手に希望を残したため、ストーカーさん達が出来てしまって後を尾けられたり、ヤバイ事件がいつ発生してもおかしくない状況になってたこともあり、沙羅ちゃんに相談したのですわ、そうしたら『任せなさい!』沙羅ちゃんはストーカーひとりひとり、にあなた達ではどれだけ龍ヶ崎姉妹と釣り合わないかを延々と具体例をあげて、絶望するまで説き伏せた。それでも諦めようとしない連中には、龍ヶ崎姉妹公認のファンクラブを設立して、龍ヶ崎姉妹をストーカーから逆に守る役に任命したのでありますわ、私達もファンクラブの方には、1日1回メールをして励ますことにしたら、彼らも張り切ってくれたわ」


「そんなことがあってからは沙羅姉ちゃんと私達はどこにいくのも一緒、お金のやりとりは無しで、高級ブティックで葵姉が買い物してる時は沙羅姉ちゃんが見守り、庶民的なファッションセンターで沙羅姉ちゃんが買い物の時は葵姉が見守りって感じだよ! 私が事故にあって直接は会えなくなったけど、今でもセンターシティで毎日3人待ち合わせて買い物したりしてるよー」桜が楽しそうに話す。


「そんなことがあったんだね、姫宮さんがイジメを受けてたなんて、同じクラスなのに気がつかなかったな」晃がびっくりしていると、

「沙羅ちゃんは木崎君の事も話しした事ありますわよ、君がゲームオタクである事をクラスの男子がイジメに使ってるのを見て、アイツなんでヘラヘラするかな、趣味なら趣味でどうどうと自慢すればいいのにって」

 姫宮が僕のことをね……苦笑いしてたら、その時!

「人のウワサ話ししてないよね、さっきからクシャミ止まらないんですけど」

 沙羅さんがいきなり、喋りだした。


「滝沢光カッコよかったですか?」


「もちろんよ! 目と鼻の先にタックンの美しいお顔が……」

 どうやら話しすりかえ成功したらしい、姫宮って真っ直ぐなタイプで意外と

かわしやすいタイプかも知れない。葵さんと桜さんがニヤニヤしてる......

 30分ドラマも終わり、狩りの続きに入るか、


「これからは、少し遠出をして、初心者には厳しいエリアに行きますが、私が先頭で戦いあと1撃で倒せるところまでモンスターのHPを減らします。

それを3人で倒して周りましょう。それにより一気に皆様の経験値が上がります」

「はーい! 先生」

 そして砂漠地帯までやって来た、この辺りはデススコーピオン、ジャイアントアント、デザートマンモスワームなどかなり初心者には厳しい場所ではあるが経験値は高い場所である、さっそく彼女達を後方待機させジャイアントアントに妖刀イザナギで斬りつけた、一撃で白いポリゴンとなって消えていった……

「あ」……後方から、

「ブー、ブー」ブーイングが聞こえる……星3の刀に持ち替えジャイアントアントを2回弱攻撃……。

 いい按配でHPが減ったアントを彼女達のいる方へと誘導する……まず葵さんがアントの攻撃を大楯で受け止めながら大剣で攻撃、後ろにいた桜さんがジャンプしながら弓を放つ、そして左から姫宮沙羅が槍で突くと白いポリゴンとなって消えた。


「わーい! 一匹倒しただけでレベルが2も上がった !わーい」

3人とも小躍りしながら喜んでいる!

「強化ポイントはいつも通り振り分けてね!」

「木崎君私そろそろスピードや運にも振り分けたいのよね」

「姫宮さん器用貧乏は結局普通になってしまいます。ひたすら脳筋を鍛えて下さい」

「ムスッ」

「なーにーかご不満おありでしょうか、先生の言うことが聞けないみたいですねぇ」

「あっなんか調子に乗ってるキャハハハッ」

「はいはいゲームですから楽しくやりましょう! すんません調子に乗りました」

 やはりリア充さん達は会話の流れをうまくコントロールしてくるなぁ心地よいかもね。

「そろそろ強化ポイントだけでなくスキルポイントもかなり貯まったはず技をクリックして見て下さい」

「本当ですわ、色々な技名が点滅してますわね」葵さんがうれしそう。

「葵さんはタンカーですから、パリィという盾で相手の攻撃に対してタイミング良く弾いて相手のバランスを崩す技がおすすめ!」

「パリィさんですね、まるでゆるキャラのような、お名前ですことホホホ」

 本当に存在してたような、話がややこしくなるので敢えてウィキを開けるのをやめておいた。

「桜さんは大ジャンプと三角飛びをマスターして、弓の威力が上がるし、弓を避けようとする相手がこれから増えるが、角度を変える事によって当てられる」

「はーい! お師匠」


桜さんには先程の休憩の時に僕の忍者哲学の集大成を伝授すると伝えてあり

それからは尊敬の眼差しで見てくる。

「姫宮さんは5連突きがおすすめ単純に威力が上がります」

「また私だけ脳筋! なんか華麗な技ないの?」

「千里の道も一歩からと……」

「はいはい!」

 という感じで皆の技の習得を見届け、次はデススコーピオンの群れに晃が先頭で突っ込んで行く、HPを削った数匹が彼女達に襲いかかる。でも2、3撃で倒せる様に弱らせてあったので技スキルを使いながら撃破したようだ……ただ何やら騒がしい。

「沙羅姉? 顔色が青いよ?」

「何か寒気がするのよね」

 近ずきながら

「なんだデススコーピオンの毒にやられたんだね、名前の横のステータスにPってなってるだろ」

「ポイズンの略ですわね、お医者さんに連れて行かないといけませんわね」

さすがゲーム初心者だなと思いつつ、姫宮沙羅にポイっと毒消し薬のビンをトスするつもりが……なぜか投擲技スキルが発動! 猛スピードで彼女のスカートに激突、ビショビショに……。


「ちょ!」沙羅の顔が引きつる。

「わーい! お師匠何のプレー」桜が囃し立てる。

 やばい、このままでは鬼畜扱いだ

「よく見なさい! 彼女のPマークが消えたでしょ」

「あっ! 本当ですわ」葵が感心する。

「このようにポーションや毒消し薬は相手にぶつけても効きます、飲んだ方が効き目は高いですが、緊急の時はぶつけて助けてあげましょう」


「さすがお師匠!」

 となんとかごまかせたようだ……、

「なんか複雑だわね、服を濡らされて感謝するシチュエーションって、

でも仕方ないわね! ありがとう木崎君」

 感謝はさすがに後ろめたさが……もっと彼女にも何か伝授しなきゃな。

「姫宮様、もう少しスキルポイントが貯まったら、ランサーの中でも最も華麗な大技、槍を使って、棒高跳びの大ジャンプをして強力な攻撃を行なったり、大型モンスターの上に飛び移り攻撃を行う技を教えてあげます、見た人はみんな姫宮様のとりこになるでしょう。」

「それよそういう華麗な技こそ、私がやりたいのは! 期待してるわよ!」

「お師匠、姫宮様だって」

「あらあら、きっと何か後ろめたいことでもあるのですわ、オホホホ」

 後ろから囁き声が聞こえてくるが、あえて無視。それからモンスターの群れを狩りつつ1時間30分位経ったでしょうか……

 彼女達のレベルも15位まで上がり、初日としては充分過ぎる成果を見せていた。

晃が敵ののHPを下げてやるという、彼女達にとっては寄生状態なのが、経験値獲得に貢献していた。


「では休憩入ります!」


「木崎君あんたもドラマのデータかなんか出しなさいよ」

「ほいよ!」

「何これアニメじゃない! これだからキモオタは」

「師匠お子ちゃまだ」

「あらあら、ホホホ」


と彼女達のスクリーンに映ってるのは少し前に流行ったアニメでVRゲームの世界から何らかの事情でログアウト出来なくなった主人公がひたすら俺TUEEEEEE......

していくだけの、もはや古典と言っても良いくらいのありふれたジャンルのアニメだがハーレムハーレムしてなかったから、女子ファンも多かったはずである。しばらくして、姫宮沙羅が

「ちょ! 何これ、面白いじゃない! 暇な時まとめて見るから、データ最終話までよこしなさい」

「師匠! 桜の分もプリーズ!」

「確かにハンティングワールドで桜を守るための参考になりますわね」

 と概ね好評でなにより、

「おれの黒龍爆炎斬を食らいやがれ」

 桜さん……リア充がそんな厨二病的な言葉を……やめて!

 それから少しハンティングをしたところで、実際の時間も23時近くになっていた。

「そろそろ夜も遅いし、解散にしましょうか?」

「まだ1時間くらい平気よ、楽しいし!」

「こんな夜更けに桜を1人に出来ませんわ、桜が眠る直前まで一緒にいますわ」

「姉ぢゃんありがと!」

「木崎君なにか用事でも?」

「ちょっと武器防具の店に寄って行こうかなと!」

「面白そうじゃない、私たちもついていくわ」


 というわけで始まりの街からかなり離れた、王国まで彼女達をワープで連れて来た、これで彼女達も単独でワープしてこれるだろう。

 王国周辺の敵を倒すには、初心者からだと数ヶ月は修行しないと、この周辺のモンスターを倒すことは出来ない。

「へえ、大きな街なのね、木崎君と待ち合わせしてた時間の少し前に3人で始まりの街を散策してたけど、こっちの方が断然大きいわ、夜景もキレイだし」沙羅が回りを見回しながら言う。

「確かに綺麗ですわね」

 などと散策しながら目的の武器防具屋についた。

「こんばんわ!」

 と扉を開ける、呼び鈴が鳴っている、

「おっさっそく来てくれたか、晃君」

 声の主はゲームプラス編集長、岩田慎司であった。彼はセンターシティで働く前はニートでひたすらオンラインゲームをやっていたとかで、特に1世代前の狩りゲームではナンバーワンクランをマスターとして率いていた強者だったらしい、しかしこのハンティングワールドに於いては生産系スローライフを満喫しており、強化ポイントを全て生産系に回しているため、星7以上の武器を改良できるスキルを持っているのはこの人だけであった。


「おっ今日はえらい可愛いお嬢さん達を連れて来たもんだな……晃君」

「まあちょっとした成行きみたいなもんですわハハハ」

「そういうことなら、まあ邪推はやめておこう……で実はお店に寄ってもらった訳はだな……」

「昨日の初回討伐報酬の牛魔王の斧オリジナルデザインが目的なんでしょ?」

「さすが分かってるじゃないか? 君の職業では装備出来ないから、手持ち無沙汰だろう?」

「でも補助装備として持っておけば星7レアだけに、総合力の嵩上げにはなりますよね……」

「それはそうだが、オリジナルデザインを補助装備として扱うのは勿体無すぎだよな? 唯一の物だからな、そこで昨日の動画をみて、君のイザナギの攻撃力不足に気づいて、俺なら星8のイザナギの攻撃力をアップ出来ると確信した訳だ。どうかな? 晃君」

「よろしくお願いします」

 大人の戦略に押し切られたような気がしないでもないが、晃が喉から欲しいイザナギの性能アップには彼の生産系スキルしか頼れないのも事実、商談成立である。


 しかし、何か違和感を感じる……周りを見渡して見る。違和感の正体が判明した。あまりにも、3人娘が静かだったからである、彼女達の目はショーケースに並ぶ星6.7のレア武器、防具に注がれていた……それらは美しく機能的なデザインもさることながらレインボーのオーラを放っている、晃の武器や防具も本来そういうオーラを放てるが、目立ちたくないのでオフにしてある……。

 葵が「この店にある星7の武器や防具全部譲って貰えるかしら? おいくら万円ですの?」

 と店主の岩田に質問をした。

「はっはっは! 何かの冗談かね? お嬢ちゃん、さては完全な素人さんなんだねよーく見たら、まだレベル15の素人じゃないか、他のお嬢ちゃん達も……知らないとはいえ、冗談にも程があるなぁ……」

「ちょ! 岩田さん言い過ぎ! このお方はあの龍ヶ崎グループの長女ですので……やばいって」

「えっ? あの静岡県のJAと組んでドローンを使った配送、流通網の革新を行い、全国に静岡の新鮮な生鮮物を農家からお届けさせて有名になった……」

「それはお爺様の代のお話ですわ」

「えっと、それからその仕組みを評価され取り引き農家は全国に広がり、世界に日本の生鮮物をひいては、先進国の農家も龍ヶ崎グループと取り引きを行ない始め、

今や世界中の農家が龍ヶ崎グループに注目しているとい……」

 岩田さん汗かきながら声も裏返っている、しかも彼女達から見えない角度で7インチスクリーン展開して、ウィキ棒読みなんですが……

「それは済まなんだ。龍ヶ崎の……」

「葵ですわ、それに妹の桜、友人の姫宮沙羅」

「よ、よろしく……」

「先程は厳しい言い方をして悪かった、でもこちらの商店で物を買うにはゲーム内通貨が必要だし、ましてや星7や6の超レアに関しては現実のお金を費やして家庭崩壊も辞さない覚悟でガチャを回した人達の汗と涙の結晶なんだ、ゲーム内通貨では売ってないんだ、リアルマネーでの取引は規約上出来ないので、同じレアの他の武器、防具との物々交換なんだ。」

「わかりましたわ、よくシステムを理解していなかった私にも落ち度がありましてよ、今後ともよろしくですわ!」

 ふぅ、助かった何事も起こらずに済んだようだ……。

 岩田さんに牛魔族の王の斧を渡して、イザナギと必要と言われたレア合金のインゴットやら牛魔族の王の角を渡す。


 そしてみんなで、表に出た。もう現実時間でも24時過ぎであった


「それでは、そろそろ解散にしましょう」


「木崎君大変楽しかったですわ! それから桜と相談してたのですけど、今後木崎君のことを晃君って呼んでもよろしいかしら?」

「もちろんです」

 すると葵さんは姫宮沙羅に目をやってる、すこし間をおいて、

「……わかったわよ、私も木崎君のことを晃君って呼ぶわ、私の事を沙羅と呼ぶのも特別に許可するわ」

 なんかうれしいぞ、ついついニヤケ顔が止まらない……。


「ただし調子に乗って学校でもその名を呼んでも無視の刑だからね」

「へい! ガッテン承知です。沙羅様」

「キャハハハッ何それ!」

「オホホホ」

「晃師匠面白いよ!」

「今日はありがとうですわ。本当に楽しかったですわよ! 明日も同じ時間集合でよろしいかしら?」

「イザナギの受け取りもあるのでこの場所集合で良いかな」

「よろしいですわよ」

「お師匠ありがとー」

「ありがとうね晃君」

 近くの宿屋に入って和やかにログアウトした。


 部屋でひとりベッドに入ったが、夢のような1日に、興奮してすぐに寝れそうもないや……と思いながら夜更けも過ぎていった


 翌日朝、雷太や哲郎に教室で

「おっはよう! ゲームオタク達、昨日もゲームライフを楽しんだかね!」

「晃氏なんかハイテンションだな」

「いやいやそんな事ないよ」

 などと返しながら姫宮沙羅に視線を向ける、目があった瞬間そらされた……

「またまた晃氏、朝からお盛んだなあ、異次元は無理だってのに」

「うるせーいつか僕にもモテ期が……」

「なんかいつもより晃、上機嫌だなあ」

 うっ! するどいな哲郎のやつ。


 晃は見逃していなかった……


 実は沙羅の口元がかすかに微笑んでいたのを……

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