ミッション20—9 【バトル:ロスアン】コンドル III
見上げれば首を痛めそうなほどに巨大なコンドルの機関部。
サダイジンによると、どういう原理で動いているのかなどの細かい設定は省かれた、とにかく大きなエンジン。
しかし、それを壊すのは決して難しいことではない。
「
「うん。ティニーとラム、好きに暴れて良いからね」
「やった」
「ニヒヒ、この大きな鉄の塊を壊すんですね! コンドルの機関部が壊れるか、興奮でわたしが壊れるか、勝負です!」
「あ、変なスイッチ入った」
こうなると、ティニーとラムダの2人は止まらない。
早速ティニーはC4爆弾を大量に生み出し、それどころか1000ポンド爆弾まで用意していた。
その間に、ラムダは榴弾砲の準備をしている。
ファルたちも彼女らを手伝い、巨大なエンジンにC4爆弾を貼り付けていった。
1000ポンド爆弾はC4爆弾と一緒に巨大エンジンの傍に添えるだけ。
「派手な花火になりそうだ」
「コンドルを墜落させるんだよ。そのくらいはしないとね」
「ねえヤサカ、なんでちょっと楽しそうなの?」
「昔、ホーネットと一緒に扶桑を墜落させた時のこと、思い出したんだよ。あの時は、レジスタンスメンバーと一緒にかなり無茶したよね」
「チートなんかないし、ヤサカも今ほど強くなかったからね。すっごく苦労した」
「私にとって、あの時のことは楽しい思い出なんだよ。その時の楽しさが、ファルくんたちと共有できた。それが、なんだか楽しくて」
「じゃ、俺たちチート使いが、ヤサカをもっと楽しませてやるか」
エンジン破壊の準備を進めるティニーとラムダに混ざり、メニュー画面を開いたファル。
彼はテキトーなコピーNPCたちを出現させた。
そしてそのNPCたちにSMARLを待たせ、命令する。
「お前ら、ティニーのSMARL発射に合わせて、一斉発射しろ」
「「「「了解シマシタ」」」」
より派手な花火をヤサカに見せるための準備は完了。
同時に、ティニーとラムダの準備も終わったようである。
大量のC4爆弾に1000ポンド爆弾。
なかなかに大規模な爆発が起きるだろう。
ファルたちは身を守るため、遮蔽物に隠れた。
「ティニーよ、早くC4爆弾を起爆させてください! もう待ちきれません!」
「はじめて、良い?」
「良いよ。盛大な花火を期待してるからね」
「任せて。
何やら呪文っぽく、カウントもなしにティニーは起爆スイッチを押した。
C4爆弾はティニーに従い、ほぼ同時に破裂する。
爆発の衝撃でエンジンの外装は吹き飛び、数多の破片が機関室に散らばった。
加えて、誘爆した1000ポンド爆弾により、エンジンだけでなく機関室の床や壁も抉られてしまう。
花火の第一段階は、想像していた以上の派手さだ。
爆風に飛ばされた破片が、ファルたちの隠れる遮蔽物に突き刺さる。
SMARLを持って待機していたコピーNPC数人も破片によって倒れているが、今はどうでもいい。
火炎が消え煙が充満する中、一部の機能を喪失し中身をむき出しにするエンジン。
それでも、まだまだファルたちは攻撃の手を緩めない。
「ラムダ! 撃ちまーす!」
少女というよりは少年のような笑みを浮かべてラムダはそう叫び、榴弾砲を発射する。
155ミリ口径の砲から撃ち出された榴弾はエンジン内部に入り込み炸裂。
炸薬によって飛散した砲弾の破片は、エンジン内部を食い散らかした。
「悪霊退散」
すでに痛々しいほど傷だらけになったエンジンめがけSMARLを発射するティニー。
そんな彼女に続いて、生き残っていたコピーNPCたちも一斉にSMARLを発射。
満身創痍のエンジンに引導を渡す。
複数のロケット弾が直撃し、エンジンは内部から崩壊。
コンドルのエンジンは完全に機能を停止させた。
先ほどまで機関部を揺らしていた轟音はピタリと収まり、聞こえるのは鉄のひしゃげる音ばかり。
途中からは警報も加わり、機関室は赤い光に包まれる。
「お、エンジン止まったみだいだな」
「うるさいサイレンと赤い光ってことは、そうなんじゃない?」
「ヤサカ、どうだった? 今回の花火は」
「ど派手な花火、楽しんでくれましたか!?」
「すごかったよ! 扶桑を壊した時以上の迫力だった!」
現在を楽しむヤサカの、目を輝かせた笑顔に、ファルも一安心だ。
エンジンを破壊したことよりも、ヤサカのこの笑顔を見られた方が、ファルにとっては喜ばしいことである。
他方、ティニーがいつもの無表情なまま手を挙げ、口を開いた。
「質問」
「どうした? まだSMARLが撃ち足りないなら、エンジンに撃ち込んでも構わないぞ」
「違う。気になること、ある」
まじまじとファルの顔を見つめるティニー。
そして、真剣な無表情をしながら言う。
「どうやって、逃げる?」
「あ……そ、そういえば考えてなかった……」
エンジンが停止し、おそらくもう墜落をはじめたであろうコンドル。
ではそのコンドルからどうやって逃げるのか。
これについて、ファルはまったく考えていなかったのだ。
とはいえ、ファルが考えていなくとも、ヤサカとホーネットは脱出方法を考えているはず。
ファルは振り返り、ヤサカとホーネットに聞いた。
「なあ、どうやって脱出するんだ?」
聞いた途端、ヤサカとホーネットはファルから顔を背ける。
いくら質問しようとも、2人はファルに視線を合わせようとしない。
「もしかして……お前らも考えてなかった?」
「あんたなんかと一緒にしないでよね。あたしは、コンドルを墜とすことを必死に考えてたの」
「つまり、脱出方法は考えてなかったんだな?」
「ファルくん……ごめんね……すっかり忘れてたよ……」
「マジか」
いくらヤサカとホーネットの2人でも、そこはただの人。
ゲームを楽しむ少女2人だ。
こうして大事なことを忘れることもあるだろう……というわけにはいかない。
「ええと……どうすんの?」
「と、ともかくコンドルの甲板に出ようよ! そうすれば、自動撃墜機能も止まってるだろうし、ラムダの乗り物で逃げられるかもしれないし!」
珍しく狼狽したヤサカは、たった今思いついたようなことを口にする。
しかし、彼女の言った方法以外に、良い脱出方法は思いつかない。
ここで再び、ティニーが手を挙げ言った。
「パラシュート、用意できる」
「よし、ラムダのヘリでもパラグライダーでも、ティニーのパラシュートでも、脱出の選択肢はある。ヤサカの言う通り、甲板に急ごう!」
コンドル墜落までの時間は決して長くないだろう。
これほどの巨体、墜落してもファルたちが死ぬことはないだろうが、確実に生き残るには脱出をしてしまいたい。
その思いは、ファルたち全員が共有していることだ。
ところが、こういう時に限ってラムダがまともなことを言うのである。
「甲板に行くには、廊下に出なきゃいけませんよね?! 大量の戦闘用ドロイド、どうやって相手するんですか?!」
ラムダの疑問に足が止まるファルとヤサカ。
しかしラムダの質問に答えたのは、ニタリと笑ったホーネットであった。
「ひとつ、方法がある」
「どんな方法ですか?!」
「こういう追い詰められた時、ゲームではよくやる方法。それは――」
「それは?! なんです?! 気になります!」
「――ゴリ押し」
「おお!」
ついにヤケクソになってしまったホーネット。
ところが、ファルとヤサカも半ばヤケクソ状態だ。
ラムダとティニーも、ホーネットの言葉に反論しないどころか、乗り気である。
ということで、ファルたちのゴリ押しがはじまった。
大量の戦闘用ドロイドを突破し、甲板に出て、コンドルから脱出するゴリ押しが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます