ミッション20—8 【バトル・ロスアン】コンドル II
遮蔽物の少ない、まっすぐの廊下。
銃を持ったドロイドを相手にするには、最悪の場所だ。
全速力で走ろうと、背後から撃たれてしまえば、コンドルの機関部に到着することはできない。
追ってくるドロイドの数は、優に100体は超えている。
階段をのぼってきたドロイドも少なくはないだろう。
つまりファルたちに向けられたライフルの数は、数十にも達するのだ。
そこでファルのコピーNPCの出番である。
走りながらも次々と、ファルはコピーNPC――特にいちご模様の鬼たちを増殖させ、ドロイドからの攻撃の盾とした。
「行け! 鬼たち!」
「鬼を銃弾の盾にするなんて……すごい絵面だよ……」
「おかげで助かってるだろ?」
「うん、それもそうだね。機関部まで急ごう!」
生み出されては即座にドロイドに蜂の巣にされる鬼たち。
あまりにも残酷かつ奇怪な光景だが、ここはゲーム世界だ。
SFとフィクションが混ざった世界観と思えば、特に問題はないだろう。特に問題はないだろう。
後方のドロイドによる攻撃は、鬼たちのおかげでファルたちには届かない。
しかし、ドロイドがいるのは後方だけではない。
廊下の十字路で、左右の廊下から13体のドロイドが飛び出し、ファルたちの前方を塞いだのだ。
突然のことに、ファルは対応できない。
対照的に、ヤサカは銃を構え、すぐさま攻撃を開始した。
前方を塞ぐドロイドを、一体一体確実に狙い、引き金を引くヤサカ。
ヤサカの持つMR4から放たれた銃弾は26発。
その26発すべてが、2発ずつ13体のドロイドに穴をあける。
「おお……すごい……」
「油断は禁物だよ!」
呑気に感心するファルに対し、ヤサカが声を張り上げ忠告した。
彼女の忠告は正しい。
残骸と化した13体のドロイドを踏み越え十字路を越えようとした時である。
未だ左右の廊下にドロイドが残っていたようだ。
数体のドロイドのうち、1体のドロイドが、至近距離でファルに銃口を向ける。
呆然として何もできないファル。
それでも彼に銃弾が突き刺さることはなかった。
ファルに向けられたドロイドの銃を、ヤサカが蹴り上げ吹き飛ばしてくれたからだ。
スラッとした脚に蹴り上げられ宙を舞うライフル。
そのライフルが地面に落ちる前に、ヤサカのMR4はドロイドたちを捉える。
短く、断続的に響いた銃声。
乾いた音の反響がファルの鼓膜を震わす頃には、3体のドロイドが地面に倒れた。
先ほど蹴り上げられたドロイドのライフルは、地面に落ちる直前にヤサカの手の中に収まる。
そして、反対側の廊下で銃を構えるドロイドたちへの凶器へと姿を変えた。
ヤサカは黒髪を揺らしながら、すぐさま振り返り発砲、動くドロイドに銃弾をばらまく。
ライフルの弾がなくなれば、ヤサカは太もものホルダーから拳銃を抜く。
彼女は少しの隙も見せずに引き金を引き続けた。
何十発もの薬莢が廊下に叩きつけられ、何十発もの弾丸がドロイドを破壊する。
ヤサカの持つ拳銃がスライドロックした時、十字路に動けるドロイドはいない。
ファルとヤサカの前方を塞いだドロイドたちは、皆ヤサカによってスクラップにされてしまったのだ。
「コピー鬼が減ってるよ!」
「え? あ、ああ! ちょっと待て!」
力強い瞳に黒く長い髪をなびかせ、ドロイドを撃退したヤサカに、ファルは見惚れてしまっていた。
それ故に、コピー鬼の増殖を忘れてしまう。
ヤサカに指摘され、ファルは慌ててコピー鬼の増殖を再開させる。
コピー鬼を増殖させている間、ヤサカはドロイドの集団に手榴弾を投げ込んだ。
手榴弾は弧を描くようにドロイド集団の中に入り込み、起爆。
大量の破片が音速を超えて飛び散り、爆風とともにドロイドたちをズダズタに引き裂く。
ただし、さすがはAIの中のAI。
ドロイド集団は手榴弾に対し恐れを抱くことも混乱することもなく、ファルたちを追い続けた。
後方から迫るドロイドたちは、増殖させたコピー鬼に任せておけば良い。
数体のコピー鬼を出現させ、ファルとヤサカは走る。
「機関部まであとどのくらいだ!?」
「100メートルぐらいだよ!」
「ふと思ったんだが、機関部に到着した時って、3手に分かれた俺たちだけじゃなく、あのドロイド集団も全部合流するんじゃないか!?」
「大丈夫だよ! 機関部の直前に、分厚い防火戸があるんだ! それを閉じちゃえば、ドロイドも追っては来られないよ!」
「その防火戸、どうやって閉めるんだ!?」
「こうやるの!」
廊下の奥に視線をやり、MR4をスナイパーライフル――SR24に持ち替えたヤサカ。
彼女は全速力のまま、SR24のスコープを覗く。
ファルの目にはまだ見えていないが、ヤサカが狙うのは、廊下の先にある文庫本程度の大きさのパネルだ。
防火戸を操作するためのパネルである。
ヤサカは走った状態で、そこに銃弾を撃ち込もうとしているのだ。
アビリティ『スナイパー』によって、ヤサカの銃の精度は高められている。
ここにスキル『ロックオン』を発動することで、パネルに銃弾が命中する可能性は普通よりは高い。
姿勢をぶらさず、ある1点に銃口を固定。
息を止め、ヤサカは人差し指をわずかに動かす。
瞬間、炸薬の破裂と同時に銃弾は空気を切り、パネルめがけて一直線。
わずかな迷いすらなく、銃弾はパネルのスイッチに命中した。
すると、廊下の先から警報が鳴り響き、防火戸が閉まっていく。
「当てた!?」
「すぐに防火戸が閉まるよ! 走って!」
今はヤサカのスナイピングの腕に驚いている場合ではない。
ゆっくりとはいえ、防火戸が機関部へと続く廊下を封鎖しようとしているのだ。
ファルとヤサカは素早さステータスを全開にして走った。
しかしどうにも、コピー鬼の数が心もとない。
多少の遅れは覚悟して、ファルは数体のコピー鬼を出現させる。
2人が防火戸に到着した時、防火戸と床の隙間はわずか30センチ程度であった。
その狭い隙間を、ヤサカはスライディングして通り抜け、ファルは這いつくばりなんとか突破。
再びファルが立ち上がる頃には、防火戸は完全に閉まり、廊下は封鎖される。
ドロイドたちは防火戸を破壊しようとしているらしい。
防火戸に銃弾の当たる音が響いているが、防火戸はビクともしない。
機関部への侵入を防ぐ目的も兼ねた防火戸が、そう簡単に壊れることはないのだ。
「なんとか逃げ切ったな……」
「コピーNPCのおかげで助かったよ。さあ、機関部に向かおう」
「よし、行くか」
1体のドロイドもいない廊下を歩き、階段を下りると、そこはもうコンドルの機関部。
機関部にはすでに、ホーネットが涼しい顔をして待っていた。
「元気そうだね、ホーネット」
「うん? まあね。あのくらいなら余裕だった」
「お前、ホントに化け物だよな。せめて暴れ馬だ」
「うるさい。というか、あたしよりも強いプロゲーマーはごまんといるから」
「世界ヤバイ」
ホーネットの言葉にファルが呆然としていると、突如として背後が騒がしくなった。
なぜ騒がしくなったのかは、確認しないでも分かる。
「大変です! ドロイドたちが追ってきます! 機関部までドロイドが来ちゃいます!」
「何か、重大なこと忘れてる」
まったくティニーの言う通りだ。
途中でドロイドが現れたため説明できなかったのもあるが、ティニーとラムダは防火戸を閉めていないのだ。
これは大問題である。
それでも、ヤサカとホーネットの2人は冷静。
階段を上り切りながらも焦りに焦るティニーとラムダに対し、2人は的確な指示を与えた。
「ティニー!
「分かった」
ホーネットに言われて、SMARLを構えたティニー。
彼女は階段を吹き飛ばし、機関部につながる通路を遮断した。
続けてヤサカがラムダに言う。
「戦車だよ! 戦車で階段を塞ぐの!」
「おお! それは面白そうです! ええと……ポチッとな!」
メニュー画面を開き、ラムダは慣れた手つきで戦車を出現させる。
戦車は階段を塞ぎ、ドロイドたちがやってくるのを拒んだ。
これでなんとか、機関部にドロイドたちが流れ込むのを阻止したのである。
次の標的は、ファルたちの背後で轟音を鳴らす巨大なエンジン。
1000メートルもの巨大空中戦艦を浮かせ動かす、ビルのようなエンジンだ。
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