ミッション10—5 メリアへ出発
見上げれば、そこには空中戦艦ヴォルケに覆われた空。
どうやら天気は晴れのようなのだが、ヴォルケのおかげで陽の光は拝めない。
リアル指向のイミリアにおいて、この光景は実にフィクションっぽい。
ヴォルケの影の中、ファルたちはホーネットに連れられ路地裏を抜ける。
地上における警備の数は、ヴォルケがやってきたためか先日よりも少なかった。
おかげでファルたちは、ヘレンシュタットのとある駐車場に停められた大型トラックのもとに、難なくたどり着く。
この大型トラックが、マフィアの武器密輸を行っているトラックなのだろう。
ファルたちは少し離れた場所で待機、ホーネットはトラックの運転手2人に話しかけた。
「エイミーさんの山登りは順調?」
「うん? ああ、順調順調。なに? 追加の荷物?」
「そう。あそこにいる、リンゴ200kg」
「新鮮そうな荷物だな。待ってくれ、積み込みの準備をする」
そう言ってトラックを降りた運転手たち。
遠目からその運転手を眺めていたファルは、思わず驚いてしまった。
「あれ!? あの運転手って、ビーフさんとキリーさんじゃないか!?」
「ビーフさんとキリーさん? ファルくんの知り合い?」
「大変です! ファルさんにレオパルトさん以外の友達がいたなんて、今日は槍でも降るんでしょうか?!」
「残念ながら友達じゃない。ビーフさんとキリーさんは、ゲーム実況界では有名な実況グループ『ガスコンロ』のメンバーだ。あの人たちのゲーム実況、面白くて結構見てたんだよ」
「私も知ってる。面白い人たち」
「お、ティニーも知ってたか。ガスコンロの起こした数多くのミラクル、笑えるよな」
「うん。見てて飽きない」
「有名なゲーム実況者さんの武器密輸に混じって密入国、なんだか不思議な組み合わせだね」
ガスコンロメンバーの2人に出会えたことで喜ぶファルとティニー。
ヤサカとラムダもガスコンロに興味を示していた。
意外な場所に意外な有名人がいるものである。
一方でキリーと話をつけてきたホーネットは、何食わぬ顔でファルたちのもとにやってきた。
そして彼女は、ファルたちに短く指示を与える。
「この建物の中にダンボールがある。4人とミードンはそのダンボールの中に入って。そしたら運転手の2人が、あんたたちをトラックに積み込むから」
「分かった。ホーネットはどうするの?」
「あたしは国境まで、遠くからヤサカたちを見守ってる。たぶん、顔を合わせられるのはここまで」
「そっか、もうお別れなんだね」
「あたしとしては、面倒事がひとつ片付いて嬉しいんだけどさ」
「意地悪だな~ホーネットは」
「冗談冗談。それじゃ、またね」
「うん、また会おうね」
友達同士の別れの挨拶。
ここはゲーム世界、死別はあり得ない世界のためか、ヤサカとホーネットは笑い合っていた。
仲の良い2人である。
「さよならです! お別れは寂しいです!」
「ばいばい」
「戦の女神様! 次に再会するとき、このミードンは真の英雄となっているであろう! にゃ!」
「出会いは最悪だったが、お前には助けられた。感謝する。じゃあな」
「じゃあね、あんたたちと一緒にいられて、まあまあ楽しかった」
手を振るティニーとラムダ、ミードン、そしてファル。
ホーネットも小さく手を振って、ファルたちを見送った。
ファルたちは振り返り、ダンボールが用意されているという建物の中に向かった。
だがファルは、肩を叩かれ振り返る。
肩を叩いたのは、悪戯な笑みを浮かべるホーネットだ。
「あんた、プレイヤーを全員解放してやるなんて豪語して、ヤサカと無茶な約束したんでしょ? その約束、果たせる自信あるの?」
「正直に言うと、自信はない。でもプレイヤーたちのためにも、ヤサカのためにも、プレイヤー全員解放はやり遂げるつもりだ。やってやるつもりだ」
「ああ……なるほど、そういうところか……」
「そういうところ?」
「なんでもない。それよりヤサカとの約束、ちゃんと果たしなさいよ。ヤサカってああ見えて結構な頑固者だから、あんたが約束破っても、きっと1人でプレイヤー全員を救出しようとするはず。それで、1人で疲れきって、消耗しちゃうはず」
ホーネットは真剣な眼差しを、ファルに向けている。
「いい? ヤサカを1人にしたら、ヤサカの親友であるこのあたしが承知しないから。ヤサカとの約束は絶対に守ってもらうから」
「ああ、分かってる」
「ホント? ホントに分かってる?」
「しつこいな、分かってるって」
「なら良いんだけど。もし、あんたが約束を守ったら、あたしはあんたをヤサカの仲間だと認めてあげる。じゃ、Bye」
「じゃあな」
「もう2度と顔見せないでよ」
「それはこっちのセリフだ」
今度こそ別れの挨拶を済ませたファルとホーネット。
2人は互いに背中を向け、互いにヤサカのために戦う道を歩む。
さて、建物はどうやら倉庫であるらしく、建物の中にはありとあらゆるダンボールが並べられていた。
その中に、中身が空っぽの巨大なダンボールがひとつ。
これがホーネットの言っていたダンボールであろう。
「ファルくん、何してたの?」
「いや、ちょっとホーネットが喧嘩ふっかけてきてな」
「まったく……ホーネットは懲りないんだから……」
口を尖らせながら、しかし微笑むヤサカ。
ティニーとラムダは、どうにかしてダンボールの中に入ろうと悪戦苦闘中だ。
「このダンボール、4人で入るには狭すぎます!」
「ラムダ、胸が邪魔」
「そういうティニーも、
「ごめん」
「苦しい……苦しい……にゃ!」
ダンボールが倒れ、床に投げ出されるティニーとラムダ、ミードン。
なかなかに大変な作業になりそうだ。
時間もあまりない。
なんとかして4人と1匹全員がダンボールに入るため、指揮はヤサカがとった。
ヤサカは箱と自分たちの体型を考え、ダンボールに入る順番を決める。
「まずはファルくんがダンボールに入って」
「よし、入るぞ」
「次は……ティニーがファルくんの膝の上だね」
「よいしょ」
「で、このファルくんの両脇にある隙間に私とラムダ」
「おお! 体と体を密着させるんですね! ファルさんよ、興奮必至ですね」
「うるさい! 早く入れ!」
「はいはい、入りますね! 入っちゃいますね!」
「ここに無理やり……入った! ミードン、空いてる場所に入って!」
「了解! にゃ!」
最後にダンボールの中に飛び込んだミードン。
ティニーはダンボールのふたを閉め、準備完了。
あとはキリーとビーフがやってくるのを待つだけだ。
右腕にラムダの巨乳が当たり、膝の上にはティニーが乗り、ヤサカの顔が目と鼻の先にあるこの状況。
暗がりとはいえ、いや、むしろ暗がりだからこそ興奮するファル。
しかし不安も尽きない。
もしこれで、間違えて他のトラックに載せられるなどしたら、悲惨だ。
「これが追加の荷物か」
ダンボールの外から聞こえてきた声。
外から聞こえてきた声は、間違いなくキリーの声である。
ガスコンロのゲーム実況を見てきたファルとティニーは、ビーフとキリーの声をよく知っているのだ。
直後、ダンボールは持ち上げられ、どこかに置かれ、細かい振動が伝わってくる。
おそらく台車で運ばれているのだろう。
しばらくすると、ダンボールは再び持ち上げられ、そして放置された。
ダンボールの外からは、何やら扉を閉めたような音が聞こえてくる。
「トラックに載せられたのかな?」
そのヤサカの言葉が正解であった。
扉を閉めたような音がした後、重々しいエンジン音が鳴り響き、再び細かい振動がファルたちを揺らしたのである。
トラックはメリアに向かって動き出したようだ。
この先は、ファルたちにはどうしようもないことだ。
ビーフとキリーが無事に密輸を成功させることを、祈るしかない。
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