ミッション5—4 江京の中心でスナック菓子への愛を叫ぶ

 八洲の国会議事堂や政府施設が近い江京駅前。

 そんな場所で、383人(うち231人は同一人物)が無許可のデモを起こせば、警察官NPCが集まってくるのも当然だ。


 複数の警察官NPCによって、デモ隊は行進をストップしてしまう。

 警察官NPCは、さっそくプレイヤーたちを職務質問だ。

 

「200人兄弟ですか? すごいですね。ここで何をしているんですか?」


「見たら分かるだろ! デモをしてるんだ!」


「許可は得ているのですか?」


「……許可? そういや許可ってとってるのかな?」


「巨乳ちゃん、デモの許可ってとってるのか?」


「許可って何です?」


「あ……これ許可とってないな……」


「デモの主催者、いる? ちょっと出てきて」


「はい、僕が主催者です」


 そう言って警察官NPCの前に立ったのはレオパルトである。

 堂々とした様子の彼は、警察官NPCの言葉を遮るようにして言い放った。


「無許可のデモは――」


「江京の条例違反なのは知ってます。道交法違反なのも知ってます。それでも、僕たちの行為をあなたたちが妨害することはできない。僕たちの集会の自由を妨害することはできない」


「……しかしね、迷惑している人たちも多いんですよ。許可がないデモは――」


「迷惑? NPCが迷惑? だからなんだ? NPCが1日迷惑被ることぐらい我慢すれば良いだけだ。僕たちの訴えを妨害する理由にはならない」


「……デモの中断はできませんか?」


「できるわけない! 僕たちはこの国の危機である、ロールとピッツァポテト販売終了に抗ってるんだ! 僕たちは戦ってるんだ!」


「…………」


 遠くからレオパルトの言葉を聞くファルとヤサカの思いは一致していた。

 今のレオパルトは、すごくウザい。

 警察官NPCも、AIが返す言葉を決められず黙ってしまっている。


 しかし、救出作戦としてはパーフェクトだ。

 警察官NPCたちはデモ隊に白い目を向けはじめている。

 このまま警察官NPCたちがデモ隊を敵と認識すれば、救出作戦はうまくいく。


「NPCこそ間違っている! あのロールとピッツァポテトが販売終了なんだぞ? あの味がもう食べられなくなるんだぞ! お前らはそれが許せるのか!? 黙って見ているのか!?」


「法律違反は法律違反です。デモを今すぐ解散――」


「解散なんかしないぞ! 警察が僕たちを弾圧するつもりなら、僕たちは警察とも戦う!」


「落ち着いてくだ――」


「僕たちは負けない!」


 声を張り上げ、ついにレオパルトが警察官NPCに殴りかかる。

 もちろんこれは演技なのだが、警察官NPCのAIは規定通りの対処を行なった。


「殴ってきた! 公務執行妨害で逮捕しろ!」


 レオパルトの望み通りの展開。

 警察官NPCに取り押さえられたレオパルトは、ここぞとばかりに叫ぶ。


「デモ隊のみなさん! 警察官NPCは僕たちを弾圧するつもりだ! ロールとピッツァポテトを見捨てる気だ! ロールとピッツァポテトを救うためには、警察とも戦わなきゃいけないんだ! 国家権力に負けるわけにはいかないんだ!」


 このレオパルトの叫びが、プレイヤーたちの闘争心を焚きつける――ことはなかった。

 先ほどから、プレイヤーたちはレオパルトの叫びに呆然としている。

 さすがに強引すぎたらしい。


「あれ、ヤバくないか?」


「レオパルトくん、痛い人扱いされちゃってるよ……」


 頭を抱えるファルとヤサカ。

 2人にはプレイヤーたちの価値観が分からない。

 アホみたいなデモ行進には熱くなれるのに、レオパルトの叫びには冷めた反応を示す意味が分からない。


 なんにせよ、いきなり救出作戦が危機的状況になった。

 このままプレイヤーたちが現実思考を取り戻してしまえば、現実で救出作戦が中止されてしまう。


 しかし、この危機的状況を打破する少女が1人。

 ティニーだ。


「面倒。警察に喧嘩売るの、もっと簡単」


 それだけ言って、おもむろにSMARLスマールを包んでいた袋を捨て、SMARLを構えるティニー。

 突如としてロケランを構えた陰陽師姿の少女に、誰もが言葉を失う。


 ティニーは表情ひとつ変えずSMARLを発射。

 警察官NPC3人が盛大に吹き飛ぶ。


「な……何やってんだあいつ! 喧嘩売るって、売りすぎだ! 喧嘩の出血大サービスとかやめてくれ!」


「ファルくん、起きたことは仕方がないよ! 次の行動に移ろう!」


「そ、そうだな!」


 大いに焦りながら、すぐにでも集まってくるだろう警察の大群に備えるファルとヤサカ。

 一方で、デモ隊のプレイヤーたちは大混乱だ。


「陰陽師ちゃん!?」


「マズイぞ! 警察が集まってくる!」


「私たち、完全にテロリストみたいになっちゃった! どうするの!?」


 攻撃を受けた警察官NPCよりも右往左往するプレイヤーたち。

 警察に喧嘩を売ったは良いが、プレイヤーたちは暴徒と化すどころかデモを続けることすらできない状況。

 救出作戦が危機的状況であることに変わりはない。


 そこで立ち上がったのがレオパルトだ。

 彼は浮き足立つプレイヤーたちに言った。


「みなさん! 僕たちは警察の弾圧にも負けず、警察を追い払う道を選んだ! 最後まで戦う道を選んだ!」


 選んでいない。

 ティニーが無理やり引きずり込んだだけだ。

 だがそんなことは気にせず、レオパルトは続ける。


「もう僕たちは引き返せない! 僕たちは戦わなければならない! ロールのために! ピッツァポテトのために!」


 目が泳ぎ回るレオパルト。

 きっと、レオパルト自身も自分が何を言ってるのか理解できていない。


「ここで逃げれば、警察の敵にはならないかもしれない。だがその代償に、ロールとピッツァポテトが失われるんだ! そんなことを許せるのか? あのサクサク食感と濃厚チーズが失われるんだ! それで良いのか?」


 良いんじゃないかな。と思うのはファルとヤサカ。

 しかし、プレイヤーたちの思いは違う。


「いや、許せない。絶対に許せない! あの味が失われるなんて、許せるわけがない!」


「私たちの愛したあの味、守れるのは私たちだけ!」


「俺たちの愛が、警察に負けるわけない! 国家権力に負けるわけない!」


「戦おう! ロールとピッツァポテトのために!」


「そうだそうだ! ロールとピッツァポテトのために戦うぞ!」


 なぜか今度はレオパルトの叫びに応じ、警察に立ち向かうプレイヤーたち。

 彼らはすでに、警察とどう戦うのかの話し合いをはじめている。


「ねえ……警察と戦うって、どうやって戦うの? 武器はないよ?」


「お前、俺たちには陰陽師ちゃんがいるんだぞ。武器なんていくらでも召喚し放題だ」


「ああ! そうだった! 陰陽師ちゃん、頼りにしてるからね!」


「任せて」


「みんな! ラムに注目です!」


「なんだ? どうした巨乳ちゃん?」


「実はわたし、乗り物を召喚できるんです! どんな乗り物でも召喚できちゃうんですよ! ほら!」


「うおお! 戦車だ! 戦車を召喚したぞ!」


「巨乳ちゃん、そんな特殊技を持ってたのか!?」


「勝てる! これなら私たちでも勝てる!」


「よし! みんな、声を上げるんだ! ロール販売終了反対!」


「「「ロール終了販売反対!」」」


「ピッツァポテト販売終了反対!」


「「「ピッツァポテト販売終了反対!」」」


「国家権力には負けないぞ!」


「「「国家権力には負けないぞ!」」」


「販売終了撤回まで戦い続けるぞ!」


「「「戦い続けるぞ!」」」


 プレイヤーたちが何を言っているのか理解できないファルとヤサカ。

 彼らを熱くさせた張本人であるレオパルトも、いまいち理解できていない様子。

 むしろなぜ、ティニーとラムダはプレイヤーたちの謎の勢いについていけるのだろうか。


「あいつら……絶対おかしい」


「で、でも、救出作戦はうまくいきそうだから、良いんじゃないかな?」


「……もうなんでもいい。ともかく、暴動の規模が大きくなるまであいつらに死なれちゃ困る。俺たちはあいつらを援護するぞ」


「うん。プレイヤーのみんなの援護、それにファルくんの援護は任せてね」


 クイックモードを起動し、ファルは拳銃を、ヤサカはスナイパーライフルを手に持つ。

 2人の準備は万全だ。


 戦うことを決意したプレイヤーたちに近づく数多のパトカー。

 プレイヤーたちは、ティニーから配られた武器を持ち、ラムダの戦車を中心に警察を待ち構える。

 江京の中心でスナック菓子への愛を叫ぶプレイヤーたちの戦いがはじまろうとしているのだ。

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