ミッション4—8 お宝ゲットだぜ

 多種多様な57匹のモンスターに囲まれたファルたち。

 4対57。ファルたちにとって不利な戦いとなるのは明白である。


「バギーに積んでた機関銃、持って来れば良かったです!」


「除霊、大変そう」


「4人で背中合わせに戦えば、死角は減らせるよ。油断しないようにね」


「油断する暇もないぞ、この状況」


 コピーゴブリンを出現させる準備をしながら、銃を握る手に力が入るファル。

 だがドラゴンを撃破した時点で、ファルのやる気はひと段落ついてしまっているのだ。

 この戦い、集中力がもつかどうか怪しい。


 ファルたちを囲んだモンスターたちは、一斉に唸りだす。

 そして、一斉にファルたちに襲いかかった。


「来た! みんな気をつけて!」


「ええい! こうなったらヤケだ!」


 コピーゴブリンだけでなく、コピー武装警察とコピーおっさんまでも増殖させるためメニュー画面を連打しようとするファル。

 

 その時であった。

 ファルたちに襲いかかるモンスターのうち数匹が、頭を撃ち抜かれ地面に転がる。


「ファル! 無事か!? 大丈夫か!?」


「俺様が救ってやるんだ! 今度こそ感謝しやがれ!」


「召喚士ちゃんと巨乳ちゃんを救うぞ!」


「今度は私たちがあなたたちを救う番よ!」


「フリーターの力を思い知れ!」

 

 どうやらドラゴンを倒したことで、塞がっていた出入り口が開かれたようだ。

 レオパルトとデスグロー、そして30人のプレイヤーたちがボスの間に突入してくる。

 彼らは容赦なく、ファルたちを囲むモンスターを撃破していった。


 一方的にモンスターを穴だらけにする数多の銃弾。

 一か所に集まった4匹のモンスターを吹き飛ばす手投げ弾。


 モンスターたちは次々と倒れていき、プレイヤーたちの経験値の糧となっていく。

 ファルたちが何もしなくとも、プレイヤーたちがモンスターを倒してくれる。

 今のプレイヤーたちは、坑道入り口で保険がなんだ警察がなんだと不安がっていたプレイヤーたちではないのだ。


「撃て撃て!」


「全部やっちまえ! 経験値稼ぎだ!」


「この程度のモンスターなら、私たちの相手じゃない!」


 ファルたちを囲んでいた57匹のモンスターは、あっという間に全滅した。

 助けられたファルは、ドヤ顔をしているデスグローを無視しプレイヤーたちに感謝する。


「ありがとう、助かった」


「ボス戦に参加できなかったんだ。このくらいは楽しませてもらわないと」


「そうだそうだ! 勝手にボスを倒しやがって! ま、楽しめたから良いけどな」


「陰陽師ちゃん、巨乳ちゃん、無事で良かった!」


 テンションの高いプレイヤーたちである。


 さて、ボスは撃破したのだ。

 次はいよいよ金銀財宝――なのだが。


「おい! なんか俺様、すげえの見つけちまったぞ! 宝物だ!」


 洞窟の奥、小さな横穴を覗き込むデスグローがそう叫ぶ。

 なんと、デスグローがファルたちよりも先に金銀財宝を発見してしまったのだ。

 これは由々しき事態である。


「宝物だと!?」


「ダンジョン攻略の報酬か!」


 テンションの高いプレイヤーたちは、宝物の発見にさらにテンションを上げる。

 対してファルは焦りを募らせる。


「おいおい……これじゃ金銀財宝が独り占めできないぞ!」


「……なんだか、ボス戦の時よりも焦ってるね」


「欲望の塊トウヤ」


 なんと言われようと、金銀財宝をプレイヤーたちに横取り・・・されるわけにはいかない。

 ファルはプレイヤーたちを押しのけ、宝の在り処へと向かった。


 洞窟の奥にある小さな横穴。

 そこには目もくらむような、黄金に輝く金銀財宝が無造作に積まれている。

 これこそファルが求めていたもの。

 

 しかしファルの企みなど知る由もないデスグロー。

 彼はプレイヤーたちに向かって叫ぶ。


「宝は全員で山分けだ! このダンジョンは全員で攻略したんだからな!」


 こんな時に限って常識的なことを言い出したデスグロー。

 残念ながらプレイヤーたちはデスグローの提案に賛意を示してしまう。

 ファルにとってはまずい流れ。


 事ここに至り、独り占めは諦めたファル。

 だが彼は諦めない。


「ボスを倒したのは俺たち4人だ! ということで、俺たち4人は少し多めに宝をもらっても良いよな?」


 嫌われることを恐れずそう言ったファル。

 黙り込むプレイヤーたち。

 しばらくして、フリーターチームの1人が答える。


「陰陽師ちゃんと巨乳ちゃん、それにヤサカさんの3人は、宝多めで良いかもな」


 この答えが、プレイヤーたちの意見を固めてしまう。


「賛成。陰陽師ちゃんは武器くれたし、巨乳ちゃんはメガビートルを倒してくれたし」


「ヤサカさんの的確な指示があったから、ダンジョン攻略ができたようなもんだしね」


 おかしい、ファルの存在が忘れ去られている。

 思わずファルは叫んでしまった。


「俺は!? ねえ! 俺は!?」


「あんたは特に何もしてないから」


「……クソ! 反論できない!」


 確かにこれといった活躍をしていないファル。

 さらに焦りを募らせるファルを見て、レオパルトが可笑しそうに笑っている。

 

 おそらくこの流れは変えられない。

 そこでファルは方針転換、ヤサカとティニー、ラムダに耳打ちした。


「お前ら、あの中で一番高いと思う宝を持ち帰ってこい」


「もう、仕方ないなぁ」


「分かった」


「わたしの目利きを信じてください!」


 金銀財宝独り占めというファルの目論見は、虚しく散ったのだ。

 ファルが多くの金銀財宝を確保できるかどうかは、ヤサカたちにかかっているのだ。


 とはいえ、ファルも落ち込むばかりではない。

 宝に群がるプレイヤーたちの表情は、金銀財宝以上に明るい。

 ネガティブな感情は、この場にない。


 ダンジョンを攻略した達成感、報酬の宝を手に入れる喜び。

 どれもゲームだからこそ得られるものだ。

 ゲームはこうであってこそだ。


 プレイヤーたちは完全に、自分たちがいる世界がゲーム世界であるという認識を取り戻している。

 救出作戦はまた一歩、前進したのだ。


「プレイヤーの笑顔が最高の宝ってことか。――いや、そりゃないな。最高の宝は金銀財宝に決まってる」


 話を綺麗にまとめようと思ったが、ファルの心はまとまらない。

 やはりファルは金の亡者なのである。


 宝の山の一部・・を握り、金色に輝く硬貨やジュエリーをインベントリーにしまうファルは、ため息が止まらない。

 本来ならば、ここにある金銀財宝全てをインベントリーにしまうはずだったのだ。

 無念である。


 ファルとは対照的に、笑顔を浮かべているのはヤサカだ。

 彼女は側にいたティニーに話しかけた。

 

「みんな、イミリア発売日と同じ顔してるね。ファルくんはすごいよ。事件以来プレイヤーのみんなが無くしてたあの笑顔を、こうやって取り戻しくれたんだから」


「トウヤは特別な力の持ち主。当たり前」


「ティニーもファルくんのこと、信頼してるんだね」


「……ヤサカ、私に妬いてる?」


「え、ええ!?」


「ヤサカ、トウヤを私に取られるの、心配?」


「な、なんで、そういうことになるの!? 別に……私はファルくんのこと、まだ好きなわけじゃ――」


「まだ?」


 ティニーの言葉に顔を赤くして、目を逸らすヤサカ。

 そんなヤサカを見て、2人の話を聞いていたラムダはニタニタとしながら口を開いた。


「ヤーサの顔が赤いです! どうかしたんですか?!」


「ヤサカ、照れてる」


「て……照れてないよ!」


 反論するヤサカに、ニヒヒと笑うラムダ。

 残念ながら、彼女らの会話をファルは完全に聞き逃していた。

 金銀財宝を独り占めできなかったショックが、ファルの耳を閉ざしていたのである。


 何はともあれ、ダンジョン攻略は無事に終わったのだ。

 その後ファルたちと30人のプレイヤーは、坑道入り口に置かれたワゴン車で爆睡するクーノを叩き起こし、各々自分たちの家に帰っていったのである。


    *


 護衛艦『あかぎ』艦内。

 ファルとレイヴン、シャム、ミードンは、アビリティー『目利き』を持つレジスタンス隊員から、机を挟んで金銀財宝の鑑定結果を聞く。


「皆様が持ち帰ってきた宝の価値が分かりました」


「いくらです!?」

「いくらだ!?」

「いくらですの!?」

「いくらなのだ!?」


「まずは硬貨やジュエリー、聖杯、銀食器の価値です。これらは累計で、約800万圓ほどになりますね。この宝石まみれのネックレスと銀食器が特に高かった」


「800万!? 1回のダンジョン攻略でそんなに!?」


「命をかけた者への報酬が高いのは当然なのだ!」 


「すごいですわ! 800万なんて大金が1日で得られるなんて!」


「4等分すりゃ200万だがな。ま、1日で200万なら、自衛官の危険手当なんかよりよっぽど高いんだがよ。現実よりゲームの方が優しいぜ。800万も稼げりゃ御の字だ」


 目標金額3000万には届かなかったが、そもそも3000万は高すぎるのだ。

 たった1日、命をかけるだけで1人200万ならば、十分すぎる稼ぎである。

 

 こうなるとファルの期待値は上がる。

 というのも、まだ鑑定結果を知らされていない宝が2つ残っているのだ。


「ティニーが持ち帰った、なんかよく分からない長い筒と、ラムダが持ち帰った、なんかよく分からない車みたいな形した箱、あれの価値は?」


「結構なデカさだったから、それなりの額にはなるんじゃねえか?」


「5億とかいくかもしれませんわね!」


「高価なものだったら、魔王を倒すための装備が揃えられる! 美味しいご飯がいっぱい食べられる! にゃ!」


「ああ……あのふたつなんですが――」


 胸を高鳴らせ机に乗り出すファル。

 鑑定師は息を大きく吸い、はっきりと答えた。


「あれはゴミ同然です。無価値です」


「……は? いやいや、何かの間違いだろ? 売ればそれなりの額に――」


「使用済みのティッシュでも買うような人相手なら売れるかもしれませんね」


「嘘だろ……」


「あり得ない! この世に無価値な物などないのだ!」


「ミードンの言う通りですわ! どんな物にも使い道はあるのだから、価値はありますわ! あの筒と箱の使い道は思いつかないけど……」


「よしファル、2200万をこのゴミで稼ぐぞ。部屋に置いておけば幸せになれるとか言えば売れる」


「それ詐欺ですよ!? レイヴンさん、自分が何を言ってるか分かってます!?」


 錯乱状態のレイヴン、言葉を失うシャムとミードン、頭を抱えるファル。

 3000万を回収するのは、まだまだ先になりそうだ。

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