第4章 やっぱりダンジョンですし
ミッション4—1 稼ぐ方法
朝、護衛艦『あかぎ』艦内の船員室。
目を覚ましたファルは、ベッドがいつもよりも狭いことに気がつく。
なぜだろうと、寝ぼけた頭で周りを見渡すと、答えが分かった。
「……なんで
ファルが眠っていたベッドの3分の2を支配するロケラン――SMARL。
なぜこんなものがファルのベッドにあるのかは分からないが、ファルは二度寝のためにもSMARLをどけようとする。
少しばかりSMARLを動かしたその時であった。
どうやらSMARLにはティニーが抱きついていたらしい。
ベッドの上に横たわるファルの真横に、ティニーが転がってきた。
「おいティニー……クワァ!」
幼さと大人らしさの両方が拝める体が、眠りこけるティニーのはだけた和服からのぞいている。
和服なのだから、下着はつけていない。
ティニーの寝息とともに動く柔らかい肩、想定より大きな胸、和服から飛び出る細長い脚に、ファルの体温が上がった。
「あの、ティニーさん、起きてください」
無意識に丁寧語で語りかけるファル。
するとティニーは目を覚まし、体を起き上がらせた。
「トウヤ、おはよう」
目をこすり朝の挨拶をするティニー。
彼女の右肩から和服はずり落ち、鎖骨から胸に至るまでの肌が露わになっている。
いくらなんでも、これは無防備すぎる。
「ティニー! 胸見えそうになってるぞ! ピンクの部分が見えちゃうぞ!」
「ピンクの部分?」
「それ以上は俺に言わせるな! ともかく、服をきちんと着ろ!」
「……面倒。二度寝する」
「おい! 俺の二度寝を邪魔するな!」
ファルの言葉も虚しく、ティニーは再び横になり目を瞑ってしまう。
困ったファルは、ティニーの胸を凝視しながら彼女に質問した。
「というか、どうしてティニーが俺のベッドで寝てんだ?」
「トウヤの横で寝れば、霊力が高まると思った」
「そんな理由で俺の二度寝は邪魔されてるのかよ……せめてSMARLはどけてくれないか?」
「ダメ。SMARLは手離さない」
「…………」
呆れ返るファル。
だが、ロリ体型かつ可愛らしい寝顔のティニーを、ファルは追い出す気にはならない。
仕方なく、ファルはティニーを自分のベッドで寝かせたまま二度寝に突入しようとした。
直後である。
甲高い声がファルの鼓膜を震わせた。
「ファルお兄さんとティニーお姉さんが……まさか……」
「
ファルの二度寝を邪魔する、頭にミードンを乗せたワンピース姿の女の子。
この女の子の名前はシャム。プレイヤーの1人で、15歳以上対象のイミリアになぜかいる12歳の女の子だ。
レイヴンがどこぞで拾ってきたらしく、レジスタンスのアイドル的存在である。
シャムは大企業の社長の令嬢を自称、口調もお嬢様を気取っている。
もちろんそれがキャラ作りであるのは、誰もが知っているのだが。
そんなシャムが、両手で口を押さえ、ファルとティニーをじっと見ている。
彼女は震える声で叫んだ。
「……朝、1つのベッドで男女が2人、しかも1人は服がはだけている……ファルお兄さんとティニーお姉さんは、そういう関係だったのですか!?」
「にゃ! ゆうべはお楽しみだったということなのだ!」
このマセガキと未来の英雄ネコ型通信機器は、ものすごい勘違いをしている。
おそらくこれは面倒事に直結するだろう。
ファルは勢いよく起き上がり反論した。
「違う! ティニーが俺の霊力欲しさに勝手に潜り込んできたんだ!」
「霊力欲しさ……それは何かの隠語ですのね!?」
「隠語でもなんでもない! そのままの意味だ!」
「あり得ませんわ! そんな意味の分からない言葉、隠語に決まってます!」
「意味が分からないのは同意だが……おいティニー、お前も反論しろ!」
「大きて硬いSMARL……ムフフ」
「大きくて……硬い……やっぱりですわ! ファルお兄さんとティニーお姉さんは、そういう関係に……!」
まずい、非常にまずい。
もはやシャムの勘違いを取り除くのは至難の技だ。
「お嬢様! このミードン、お嬢様に言わなければならないことがあるのだ!」
「なんですの?」
「男女の関係というのは、他人が干渉して良いものじゃないのだ。
「そ、そうですわね。令嬢であるこのわたくしが、下品なことはできませんわね」
ミードンのおかげでシャムが落ち着きを取り戻した。
勘違いされたままではあるが、少なくともこの話が拡散することはないだろう。
一安心したファルは、話を変えるためにシャムに質問する。
「なあシャム、何かの用事でここに来たんだろ?」
「ああ! そうでしたわ! ヤサカお姉様から、朝食が完成したとの伝言ですの!」
「分かった、すぐ行く」
ヤサカの朝食と二度寝のどちらを優先するか。
当然ヤサカの朝食だ。
ファルは飛び起き、またティニーも同じく飛び起き、2人は食堂へと向かう。
*
本日の朝食は、昨夜の残り物であるシチューにヤサカお手製の石窯パン。
これに、ファルだけは
ヤサカの朝食に、ファルとティニー、ラムダ、クーノは朝から幸せ気分だ。
食堂で朝食をとるのはファルたちだけではない。
レイヴンとコトミ、シャムもまた、ファルたちが囲む机の対面で食事中である。
「3000万……3000万……」
「レイヴンおじさま、昨日から3000万としか言っていませんわね」
「
「迷惑ってわけじゃねえが、頭は痛えな。バラマキ財政で吹き飛んだ3000万、どっかで回収しなきゃならねえ」
「3000万ぐらい、わたくしにとっては安い金額ですわ!」
「ほお、じゃあシャム、今日中に3000万圓用意してくれよ」
「そ、それは無理ですわ!」
「だろうな。サラリーマンの
「違うもん! ……違いますわ! 本当のこと言わないでよ――くださいまし!」
仲睦まじい光景に、コトミも思わず聖母の笑みを浮かべている。
話の内容が、3000万圓をどう稼ぐか、というのが残念ではあるが。
レイヴンの話を聞いていたファル。
300人以上のプレイヤーがログアウト条件その1を満たしたのだから、3000万圓を使ったことにファルは後悔はしていない。
後悔はしていないが、レイヴンから恨めしい視線を突きつけられるのは辛い。
「なあヤサカ、なんとかならないのか?」
「う~ん、3000万圓をすぐに用意するのは難しいかな」
「銀行強盗とかすれば良いんじゃないですか?!」
「誘拐ビジネスも悪くない」
「いっそのことォ、偽札作るとかァ」
「まともな手段はないのか!?」
「まともな手段はないの!?」
ラムダとティニー、クーノの提案に同時に叫ぶファルとヤサカ。
ファルたちはチート持ち、ヤサカはログアウト条件を完全に満たしており、死ねば確実にイミリアから追い出されてしまう。
だからこそ、なるべく危険を冒したくはないのだ。
「ここゲーム世界だろ。短時間に稼げる方法がなんかあるはずだ」
「……そういえば、
「え? ダンジョン? このゲーム、ダンジョンあるのか!?」
「いくつかね」
「マジかよ……世界観的に、イミリアにはダンジョンはないと思ってた……」
ヤサカからもたらされた衝撃的な情報。
ダンジョンという、いかにもゲームらしい単語の出現に驚くファル。
一方で、ヤサカの話を聞いていたレイヴンは小躍りしていた。
「よく言ったヤサカ! そうだ、その手があったのを忘れてたぜ! ダンジョン探索だ! ダンジョンに眠るお宝でがっぽがっぽ稼ぐぜ!」
「お宝?」
「ヘッヘ、良いこと教えてやるぜファル。俺たちレジスタンスはな、ログアウト方法を探すためにこの世界を探索しまくった。結果、幾つかのダンジョンを見つけた。で、そのダンジョンの最奥に、金銀財宝があるっつう情報を手に入れたんだ」
「金銀財宝……」
「そうだ、金銀財宝だ。ギラギラピカピカに光るアレだ」
「……おいヤサカ! ダンジョンはどこにある! 今すぐに行くぞ!」
やる気と欲望が大爆発するファル。
苦笑いを浮かべたヤサカは、ひとつ提案した。
「どうせなら、プレイヤー救出作戦の一環で、ゴミ拾いクエストに参加してくれたプレイヤーも誘おうよ」
「ナイス思いつきだヤサカ! ただし、分け前が減らないよう気をつけろよ!」
「さすがトウヤ。今から分け前のこと考えてる」
「ファルさんよ、抜け目ないですね! 金に目がないですね!」
「もう、ファルくんは本当に金の亡者だね」
「お前ら、俺を貶めようとしてるのか?」
こうして、ファルたちはダンジョンへと向かう準備をはじめたのである。
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