【1話完結型】仕返し屋
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第1話
僕はイジメを受けている。
何故かって? そんなの知らない、イジメっ子に聞いてくれ。
とにかく、生きているのが嫌になった。
放課後、僕は屋上に来た。
飛び降りるため、この辛い人生を終わらせるため。
安全用の柵を乗り越える僕 怖くない、と言えば嘘になる。
でもこのままイジメ続けられるより、マシだ。
僕は深呼吸をし、飛び降りた。
飛び降りたはずだった。
だが、僕は落ちなかった。
身体が空中で止まっている。浮遊しているのだ。
「お前は実に馬鹿だな」
僕の上から声がする。
首を上に傾けると、そこには黒いローブを着たおそらく人がいた。
おそらく、というのは、その人が人間かどうか分からなかったから。
その人も僕と同じように宙に浮いていたのだ。
「確かにお前が死ねば、お前がイジメられることはなくなる。実に単純な話だ。だがそんなの、俺はクソだと思うね」
「お、お前なんなんだよ」
わけのわからない状況だと言うのに、僕は冷静だった。その人に何者か尋ねるくらいの思考能力はあった。
「俺が何者か、か。そうだな、俺はエスパーかもしれないし魔法使いかもしれないし宇宙人天使悪魔かもしれない。でも今日の気分はエスパーだな、エスパーと呼んでくれ」
どうやら僕が浮遊しているのも、この男の仕業らしい。
エスパーは多分サイコキネシスで、俺を屋上に着地させる。
「さっきの話の続きだ。お前が死ねば、イジメられることはなくなる。だが、もっといい方法がある」
いい方法?
「簡単さ、イジメっこを倒せばいい」
エスパーは笑いながら答えた。僕は思う。この男の言うことは確かに正しい。でもそれは無理な話だ。イジメっこは僕より強いから、倒せない。
それにやり返せば、今よりもっとイジメが過激するかもしれない。僕はそれが怖い。
「マンガは小説に出てくる正義感の強い探偵や刑事は、口を揃えてこう言う。『復讐は無意味だ。復讐しても新たな復讐を生む』と。俺が嫌いな言葉の1つだ」
突如、自論を語りだすエスパー。僕が何の話だと聞いても、無視して彼は話を続ける。
「最初に仕掛けてきたのは相手の方なのに、何故復讐した方が責められる? 何故復讐した人間が逮捕される? 逮捕するなら、相手の方だろう。そうは思わないか」
確かに、そうは思うけど……。
「もし俺が小説の登場人物なら、復讐者にこう言うね。『復讐は、お前がやったとバレないようにやれ』ってな。今一度、お前にこの言葉を送ろう。名刑事も名探偵も見抜けないような完全犯罪で、イジメっこを倒せ」
そんなことも言われても、僕には完全犯罪なんて無理だ。
「だろうな。完璧な犯罪を思いつく頭があったら、自殺なんてしないだろうな」
だったら、倒せなんて言うなよ。
「だから、俺を雇え」
え?
「俺は、お前のようなイジメられっ子の代わりにイジメっ子を倒す、言わば『仕返し屋』だ。俺に任せてくれれば、イジメっ子を確実に倒してやろう」
僕は迷った。
確かにイジメっ子は憎い、できることならやり返したい。
でも僕には、カツアゲされたせいで、男を雇うお小遣いがなかった。
「金のことなら心配するな。お前からは1銭も貰うつもりはない。それどころか、イジメっ子からカツアゲされた金額を取り返してやるよ」
どうやらこの男は、サイコメトリーの能力を持っているらしく、僕の思考を見抜いた。
「でもそれって、お前……いやあんたにメリットが無いんじゃ」
「そんなことはない。復讐にかかった費用は、イジメっ子の家から頂戴する。それに……」
それに?
「……お前、スカッとジャパンってテレビ番組を知っているか?」
確か、ムッとした状況に対してスカッとした話をショートドラマ化する、あの番組だ。
「俺は昔、1度だけその番組を見たが、全然スカッとしなかった。俺は、嫌なやつはとことん地獄に落ちろ、と思っている。あの程度じゃ俺は全然満足しないんだよ」
エスパーは話を続ける。
「さっきお前は、俺にメリットが無いと言ったな。メリットならあるさ。俺はな、イジメをするクズに地獄を見せてやりたいんだ」
ニタニタと笑うエスパー。彼の顔にゾッとした。
「さあ、どうする? 俺の話を聞いて、自殺する意思が変わらないなら、もう俺は何も言わない。勝手に死んでろ。だが、少しでも復讐したいと思うのなら、俺の手を取れ。選びな」
僕に手を差し出すエスパー。
さっきの彼の顔にゾッとはした。でも同時に魅力も感じた。
今まで先生も親もクラスメイトも、誰も僕を助けてくれなかった。
でも、この人なら、僕を助けてくれるかもしれない。そう確信した。
だから僕は、男の手を取った。
「契約完了だ」
僕の選択を喜ぶエスパーさん。
ところで復讐って、具体的には何をするの?
「今俺の手を触った時、サイコメトリーでお前がされたイジメの経験を読み取った。とりあえず、お前がされたことと同じのをやつに味わわせてやろう」
プライバシーって言葉知ってますか?
「そう怒るな。まずはそうだな、カツアゲされた小遣いを返してもらおう」
そう言うとエスパーの手に、財布が突然現れた。
その財布に僕は見覚えがあった。イジメっ子の財布だ、間違いない。
「テレポートでやつの財布をぶんどった。……へえ、結構持ってるな。足りなかったら親の財布もいただこうと思ったが、これならその必要もないな」
財布から1万円札を10枚ほど抜き取り、僕に渡すエスパーさん。残りのお札や小銭は彼が貰い、財布を投げ捨てた。
「さて次だ。確か教科書を目の前で燃やされたんだっけな。そうだな……よし、やつの部屋の物、全部燃やそう」
そんなこともできるんですか?
「本当はやつの家を丸ごと燃やす方が簡単なんだがな。そんなことしたら、ご近所さん宅に飛び火する可能性がある。ちと手間はかかるが、やつの部屋だけを火事にしよう」
指を鳴らすエスパーさん。
すると、西の方角に黒煙が立ち上った。あの方角はイジメっ子のある方だ。
「さて、最後だ。お前がされた暴力を、そのままやり返そう。今すぐに、と言いたいところだが、いろいろ準備がある。ちょっとここで待ってろ」
そう言うとエスパーさんの姿が消えた。どうやらテレポートでどこかに行ったらしい。
10分後、彼は屋上に戻ってきた。
「ただいま」
おかえりなさい。何をしてたんですか?
「イジメっ子を、誰もいない廃墟に監禁して来た。路地裏でウロウロしてたから捕まえやすかったぞ。さて次は……」
また指を鳴らすエスパーさん。
すると僕の目の前に、僕が、もう一人の僕が現れた。
「お前の分身だ。こいつにはアリバイを作ってもらう。そうだな、駅にでも行っててもらおうか。あそこなら防犯カメラの一つでもあるだろ」
エスパーさんは僕の分身に命令する。分身は「分かりました」と言って、屋上から去っていった。
すごい、この人は何でもできるんだ……!
「まあな、大抵のことはできる。……じゃあ、そろそろ行くか」
彼は僕と一緒にテレポートした。
次の瞬間、僕達は廃墟にいた。本当にテレポートしたらしい。
そして目の前には、イジメっ子がいた。やつは目隠し、手足をロープで拘束、猿轡、耳栓をされていた。
「さあ、時は来た。思う存分やれ」
僕はゴクリと唾を飲む。
今、目の前でイジメっ子が、僕を散々苦しめられたイジメっ子が、何もできずにいる。
時間的に、今頃分身は駅に到着している。アリバイは完璧だ。
僕は手始めに、いじめっ子の顔を殴った。思いっきり憎しみを込めて。
人を殴るというのは、幼稚園児時代の喧嘩以来だった。
うーうー、と唸るいじめっ子。
僕は、笑った。
今まではこいつが僕より上位にいたが、今は僕の方が強い。
僕は思い思いに殴り、蹴った。
時には怒り任せに、時には音ゲーをするようにリズミカルに、やつに暴力を加える。
誰もいない廃墟に、僕の笑い声が響いた。
数日後、やつは引っ越した。
引っ越すまでの、この数日間、やつは不登校になっていたから、イジメられることはなかった。 警察が事情聴取に来たが、その時間僕は駅にいました、と言った。
僕の復讐は、完全に成し遂げられたのだ。
「ありがとうございます、エスパーさん」
屋上で僕は彼に礼を言う。
「どういたしまして、俺もスカッとしたよ」
お互いに握手を交わす僕達。
これでエスパーさんともお別れか。ちょっと寂しいし、不安でもある。
「心配するな。もしまた、お前が別のやつにイジメられたら、その時はまた助けてやる」
本当ですか!
「本当だ。だが、もし、お前が誰かをイジメた時は、俺は躊躇無くお前に仕返しをする。覚えておけ。相手が誰だろうと、たとえ元依頼人でも、俺は絶対にイジメをするやつを許さない」
はい、分かりました。
「それじゃあ、学園青春楽しめよ」
そういい残し、エスパーさんは消えた。
ありがとう仕返し屋さん。
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