Trial File - 3745
飼い始めてから4日と少し、相も変わらず何の反応も示さない。餌を与えようにも全く手をつけないので仕方がない、夜中寝静まった頃にこっそり栄養剤を注射しているので死ぬことはないだろう。
飼い始めてから10日あまり、少しずつだが心を開いてくれた。まだまだ警戒の色は消えないが、この調子でいけばやつれた身体ももとのように戻るだろう。
飼い始めてから3ヶ月が過ぎた、すっかり懐いて今では同じ布団で眠るほどだ。留守番を任せればゴネて吠え立てるが、それすらも嬉しく感じる。
飼い始めてから5年、明日は別れの日だ。ここまで幾らかの苦労もあったが、今ベッドで安らかな寝息を立てているのを見るとそんなことも気にならない。さて、今日の夕餉はすこし豪勢に振る舞ったせいで片付けが残っている。早急に片付けて私も休むとしよう。
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「最後のサンプルが全行程を終えました。」
内線08番に繋がった受話器から男性職員が報じたこの一言に、センター全体が安堵した。塵一つ落ちていないアイボリーで統一されたこの建物では、つい先ほど巨大な実験を終えた。曰く、「
「諸君、たった今実験が終了した。全3745行程に及ぶ長期計画だったが、無事に成果を得られて本当に良かった。この調子で一歩ずつ、道を開いていこう!」
職員たちによる力強い雄叫びが、センターを包んだ。
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「失敗ですね。」
打ちっ放しのコンクリートで囲われた40km四方に及ぶ巨大な空間で、端末の画面を覗き込みながら肩を落とす男たち。そのうちの、がっしりした筋肉を軍服をで包み、胸元を無数の勲章で飾った男が悲哀を孕んだか細い声で、
「この装置で何とかならんかね?」
そんな悲哀を孕んだか細い声で尋ねる。
白衣の男は頭を振り、否定する。
軍属研究機関では、地下に住まう悪魔たちを監視していた。端末から伸びるコードの先は、部屋のほとんどを占拠する強化ガラスのキューブに接続されていた。その中には中空の地球が鎮座し、地表では人々が、内部では悪魔たちが暮らしていた。これは現在の地球をリアルタイムで再現した高度なジオラマとも言える装置だ。悪魔たちが人間を研究している。この事実は、地下から侵攻してくる悪魔と鉾を交える軍部長官にとっては、目を回しそうな凶報であった。
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