僕の友達はもうすぐ死ぬ。

そへ

忘れられない物語

僕の友達はもうすぐ死ぬ。


僕の友達(女)は、生まれつき心臓が悪く、齢15にして、先日、医者に半年以内に死ぬと宣告された。

しかし彼女は、弱音を一切吐かずに生活している。

僕が、大丈夫?と声をかけても、

「君が心配することじゃないよ。」

と、笑って返す。

クラスのみんなも、彼女を心配して話しかけるが、彼女は、

「全然心配いらないよ!すぐ治すから!」

と、言う。みんな、その言葉に安心した。

でも、僕には分かる。

たった15歳の少女が、死ぬのが怖くないわけ無いのだ。

しかし、僕には言えない。

「ねえ、本当は死ぬのが怖いよね?」

なんて、言えない。

――――――――――――――――――――

一ヶ月後


彼女は、もう病気なんて無かったかのように振舞っている。

クラスのみんなも、彼女はもう大丈夫だ。と思っているだろう。

でも、そんなわけがない。彼女は心の中では不安だろう。本当に、大丈夫なのだろうか。

僕が、そんなことを考えていると、

「何してるの?」

と彼女がやって来た。

「君のことを考えてた。」

「えー?なにそれ?へんなのー。」

「君の病気のことをね。」

彼女が真面目な表情になった。

「…そんなのどうでもいいって。」

「え?そんなわけないだろ。死んじゃうんだぞ?」

「いいから、もうやめて!」

「よくないよ!」

「ねえ!!ほんとにいいから!!!やめて!!」

彼女は泣いてしまった。

大きい声を聞いて先生が飛んできた。

「どうした!?」

彼女は早退した。僕はこっぴどく怒られた。なぜ泣かせたのかと。

そんなの、こっちが聞きたいよ。

家に帰って、母にこのことを話した。

すると、

「今すぐその子に謝りに行きなさい。」

と言われた。

「…わかった。」

彼女の家に行くと、彼女の母が出てきた。

彼女は家に帰って部屋に入ったっきり出てこないと言う。

「あなたが部屋まで呼びに行きなさい。」

仕方なく、僕は部屋の前まで行った。

「僕だ、謝りたいんだ。開けてくれないか?」

少し経って、鍵が空いた。

「…入って。」

僕は彼女の部屋へと足を進めた。

「ごめん。君に嫌なこと言って。」

「…もういいよ。私も気が動転してた。」

「…」

「…」

無言が続く。

僕は、周りを見渡した。

ザ、女の子って感じの部屋だ。

ぬいぐるみがあったり、

可愛い小物がいっぱい置かれていた。

すると、ある物に目がいった。

それは、彼女の病気についての本だった。

そしてそれは、何十冊も積まれていた。

「これは…」

「…私ね、実は死ぬのが怖い。」

知ってた。

「一ヶ月前、お医者さんに半年以内に死ぬって言われて、すごく怖かった。毎晩に泣き続けた。」

それは、知らなかった。

「それで、私、病気のこと、色々勉強したの。そしたら、私の病気はもうどうにもならないことが分かったの。」

「でも、悲しんでたってもうどうしようもないでしょ?だから、みんなには悲しんでる姿は見せないって、そう決めた。」

「でも…やっぱり私、死にたくない…生きていたい…生きて、君と、みんなといっしょに歩みたい…ううっ…泣いたり笑ったり、青春したいよ…」

その時、僕の頬に、一粒の涙が流れた。

「僕も、君と、いっしょに生きたい。いっしょに遊んで、笑って、喧嘩して、同じ時間を歩みたい。だから、だから、生きるのを諦めないで!生きたいという、その思いを決して忘れないで!」

「うん…!うん…!」

その日、僕達は夜まで泣き続けた。

「ありがとう。なんか、少し気が楽になったよ。」

「僕の方こそありがとう。それじゃあ。」

「あ、待って!」

「ん?」

「今週の日曜日、空いてる?」

「え…えと…うん。空いてる。」

少し照れながら、僕は、返事をした。

気のせいか、彼女の顔も、少し赤くなっていた。

――――――――――――――――――――

日曜日。

「ごめん、待った?」

「ううん、今来たとこ!」

「それ、人生で1度は行ってみたいセリフじゃん!」

「あ、そうだ。今日はどこ行くの?」

「うん、博物館!」

「へえ、いいね!」

そして、博物館に着いた。

「へえー、いろいろあるんだな!」

「わ!これすごい!ティラノサウルスだって!」

「うお、かっこいい!」

「男の子ってティラノサウルス好きだよねー。」

「当たり前だろ、強そうだし!」

「あ、これは何?足跡の化石…?」

「足跡も化石になるんだ、勉強になるなあ。」

そんな他愛も無い会話をしながら、博物館の展示物をゆっくり観賞した。

「あ、そろそろお昼だね、食べよっか!」

「どこで食べる?」

「えっとね、私、実はね…お弁当作ってきたの!」

「え!本当に!?すごい!」

「へへーん。じゃあ、あそこのベンチで食べよ!」

「うん!」

彼女がお弁当を取り出す。

「おお…!」

とても美味そうだ。それに、僕の好物ばかり。

「お母さんに教えてもらったんだよ!」

「へえ、すごいね!いっただきまーす!」

「うん、この玉子焼き、すごく美味しい!」

「よかったー。私、人生で一度は誰かの為にお弁当を作って、美味しいって言ってもらいたかったんだ。」

「そうだったんだ。」

正直。驚いた。彼女が、ちゃんと自分に向き合ってくれたことに。それが、すごく嬉しい。

「うん、本当に美味しいよ。」

「ふふ、ありがとう。もっと食べて!」

昼食後、僕達は博物館の観賞を再開した。

「わー、すごいなあ。」

「…」

「どうしたの?」

「…これ」

「んー、カゲロウ?」

「うん。このカゲロウってね。生まれてから24時間しか生きられないんだって。」

「えっ?」

「私は、最大であと5ヶ月。カゲロウに比べれば、私って全然まだ生きられるんだね。」

僕は、その言葉に、上手く返すことができなかった。

あと5ヶ月。

まだ5ヶ月。

そして、―――もう、5ヶ月。


それから、僕達は、たくさん遊んだ。まるで、未来の自分たちの分まで、遊ぶように。

――――――――――――――――――――

4ヶ月後


プルルルル…プルルルル…

家の電話が鳴った。

「誰だろう?」

いつもの、塾の勧誘か何かかなと思いながら、電話に出た。

しかし、それは僕が今一番聞きたくなかったものだった。

彼女の容態が急変したとのことだ。

今は落ち着いているそうだが、僕に会いたいと言っているらしい。

僕は、走った。

そして、急いで彼女が入院している病院に行き、彼女の部屋の前まで来た。

「あなたと二人っきりにして欲しいそうよ。」

彼女の母が、部屋の前で、僕にそう言った。

コンコン、と僕は戸を叩いた。

「入っていいですよー。」

「大丈夫!?」

「来てくれたんだ!うん。今は、全然大丈夫。」

「はあ…良かった…。」

「ふふ、騒がせちゃって、ごめんね?」

「いや、大丈夫だよ。そういえば、なんで僕と二人っきりに?」

「んー、なんでだろ?よくわからない。」

「え?」

「もしかして、エッチなこと考えてた?」

「ば、ば、ばか!そんなわけないだろ!」

この状況でよくふざけられるな。

「そうだねー。強いて言うなら、君が、私のことを一番よく知ってるから、かな?」

「ふーん。そうなんだ。」

「うん。だって君は、私の初めての『友達』だもん。」

「そうかもね。僕も、本当の意味での『友達』は、君だけだよ。」

「ありがと。それでね、私、君に言いたいことがあるの。」

「何?」

「それはね―――」

彼女の声が途切れた。そして、彼女は苦しそうに胸を抑えて息を荒げ始めた。

心臓の発作だ。

「おい!大丈夫か!!」

「どうしたの!?」

彼女のお母さんが声を聞いて入ってきた。

「いきなり苦しみだして…!ナースコールを!」

ナースコールを鳴らす。すぐに、ナースがやって来た。

ナースが処置をしている間、僕は彼女の手をずっと握っていた。

「神様…!お願いします…!彼女を助けてください…!」

「ハア…ハア…ねえ…」

「!」

「言いたいこと…が…ある…の」

「うん!聞くよ!」

「私…君と出会えて…幸せだった…病気は辛かったけど…幸せだった…」

「僕も!幸せだった!君が笑ってるのを見ると、僕まで楽しくなった!」

「君のこと…忘れないよ…永遠に…」

「やめろ!そんなこと言うな!今を生きるんだろ!」

「君と過ごした時間は…私の…一番の宝物だよ…」

彼女は、最後の力を振り絞り、僕にこう言った。

「あ…り…が…と…う…。」

「…ご臨終です。」

「うわああああー!!」

――――――――――――――――――――

後日、僕は、彼女の家に呼ばれた。

「これ…娘が、自分が死んだ後に、君に渡してほしいって言っていたものです。」

「…ありがとうございます。読んでもよろしいでしょうか。」

「ええ。」

――――――――――――――――――――

君がこれを読んでいるということは、私はもう死んでいるんだと思う。

あーあ、やりたいこと、まだいっぱいあったのになあ。

でも、君といっしょにいれて、良かった。

すごい楽しかったよ。

それから、私のことをどうか忘れないで。

忘れないでいてくれるだけで、私は君の傍にいつもいることができるの。

別れは寂しいけど、悲しまないで。私は、ずっと傍にいるから。

今まで、本当にありがとう。

――――――――――――――――――――

「…!」

僕は、すぐに家に帰った。

そして、こんな手紙を書いた。

――――――――――――――――――――

僕の方こそありがとう。

君から、いつも元気を貰ったよ。

君のおかげで、僕は、幸せというものを知ったんだ。

別れはすごく辛かった。

でも、また、来世で会おう。

来世になっても、僕は君を、必ず見つけよう。だから、その時まで、天国で楽しくやってくれ。

――――――――――――――――――――

僕はその手紙を、紙飛行機にして、大空へと放った。

「お、よく飛ぶなあ。我ながら、いい出来だ。」

紙飛行機は飛ぶ。

二人の想いを乗せて。



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