第4話 報酬と今後

「・・・・・」

何かが聞こえ痛みを顔に感じて目を開けるとバルアートが黒川の顔を叩いているので手で払った。

「やっと起きたか?」

「何だよ!」

不機嫌に言うとバルアートは部屋の中を見渡していった。

「お前が言っていたガキが見つからないんだがどうなっている?」

「あぁ、そのことか」

起き上がり部屋の中を見渡したがルドルがおらずベットの下も覗いて居ないか確認をした。

「何しているんだ?」

「さっきここに居たんだがどうやら両親のところに帰ったみたいだ」

「そうか、あのガキの両親も無事だといいな」

黒川は立ち上がって背伸びをすると腰や肩がポキッとなる音が聞こえた、深呼吸をすると口の中がジャリジャリする感覚があり、頭を触るとタオルを巻いてあるが髪の毛が硬くなっているのが感触でわかる。

「水を飲みたいしシャワーも浴びたいんだが」

言いながら自分の顔を触ると汗と汚れでドロットした肌触りであった、バルアートの顔を見るとバルアートはあの後も必死に働いていたのか顔が光っていって髪の毛が額に張り付いて疲れが顔に見えた。

「その後に来てもらいたいところがあるんだ」

「なに?」

するとバルアートは疲れているらしく近くにあった椅子に座った。

「お前がコンデ人の大半を始末してくれたから王様がお礼を言いたいから連れてくるように俺をつかわしたんだがな・・・・」

そこまで言うとため息をついたので興味はないが一余聞いた。

「どうした?ため息なんかついて?」

「どうやらこのままだとブールボン皇国との戦争になるかもしれないな、ファル様の命が狙われて大勢の人間が死んでしまったんだ、兵士を派遣しなければ国民にも示しが付かないだろうから、王様も黙ってることはできないだろう」

「でも、お前はファル様の護衛なんだろ、なら戦争になってもファル様の護衛をしているから前線で戦うよりも安全じゃないのか?」

「普通に考えればそうなんだが、今回は何とかファル様が自分で逃げていたらしく無事発見されたからいいがな・・・・・、ファル様の護衛としては失格だろうから前線に飛ばされるかも知れない・・・・」

確かに今回の事件で責任があるとすればこいつだ、黒川は近づいていきバルアートの肩に手を置いていった。

「お前は確かにむかつく奴だったが、俺がこの城に来て一番文句を言ってきた奴だったからな、みんなが忘れても俺は覚えておいてやるよ」

言いながらニヤリと笑ってバルアートを見ると黒川を睨んでいて肩に置いていた手を払った。

「俺もお前が逃げ出そうとしたのを言うからな」

「お好きにどうぞ」

言って素足のままブーツを履いて黒川は自分の着替えとタオルをタンスから取って髭を剃る道具を探した。

「昨日、水を飲もうとしたらとめられたんだが、もう飲めるようになっているのか?」

「検査をした結果大丈夫だ、シャワーも使える」

返事を聞きながら髭剃りを探したが見つからない。

「髭を剃る道具は何所にあるんだ?」

「そんなのシャワー室に備え付けてるからそれで剃ればいいだろ」

外に出ようとするとバルアートが椅子に座ったままだった。

「お前そこにいるのか?」

「疲れてるんだから少し眠らせてくれ、お前がシャワーを浴びて帰ってきたら起こしてくれ」

そういうと返事を聞かずに机に腕を枕にして眠ろうとしているので黒川は部屋の外に出た。

夜あたりが暗かったので周りが見えていなかったが壁には銃弾が当たった弾痕がいたるところにあり掃除をして片付けている青い服を着た若い兵士と私服なのかわからないがそれを手伝っている男や女が居て黒川のことに気が付くと近くの人と黒川を見ながら話を始めた。

(むかつく野郎達だ)

だが、今はあいつ等にかまうよりもシャワー室に行きたいのでそちらに向かうとシャワー室の前に居た若い兵士は居なくなっていて中に入って使用することができた。

シャワーを浴びながら口を開けて水でうがいをして口の中のジャリを出して髪の毛を水で洗うと汚れた水が排水溝に向かって流れていった、髭剃りは着替えるところの壁にかけてある小さなナイフを使って髭を剃ったがシェービングクリームもなくナイフで髭剃りなんかしたことが無いので皮膚を三箇所切ってしまって血が収まるのまで待ってから汚れていない服に着替えてからシャワー室を出て水飲み場で吐きそうになるくらい水を飲んでから自分の部屋に戻った。

部屋の中ではバルアートが出て行ったときと変わらない体勢で机に伏せたままうるさいイビキをかきながら眠っていた。

汚れで少し灰色になったタオルはシャワー室で洗っていたので窓のひさしにかけて乾かしておき、汚れた下着や服は洗濯したいが何所ですればいいのかわからないのでとりあえずタンスの上に置いてタンスから靴下を取り出した。

バルアートは黒川が部屋に入ってきたのも気が付かずにまだイビキをかいているので相当疲れているみたいであったがかまわずに肩を叩くと頭を上げた。

「おい!こっちは終わったぞ」

「お前もう終わったのか?」

顔に枕にしていた手の跡が付いていて目が半開きで完全に開いていない。

「おわったよ、だが、服は何所で洗えばいいんだ?」

「洗濯室で洗えばいいだろう、何所にあるのか聞いてないのか?」

「聞いてないな、それよりも服は手で洗うのか?」

ブーツを脱いで靴下を履きながら言った。

「洗濯する装置があるが、お前のいた所では洗濯するときは手で洗うのか?」

「いや、洗濯機という機械があったが、それよりも俺を王様のところに連れて行くのだろう?いつ行けばいいんだ?」

黒川はブーツをつけてしっかりと靴紐を結んで立ち上がるとバルアートも立ち上がった。

「お前の準備が出来次第だがもう準備はできているか?」

黒川が洗っていない洗濯物の山を見るとバルアートも見て言った。

「洗濯物は後で良いだろ、行くぞ」

バルアートはそういって部屋から出て行ってしまったので黒川はため息を付いて言った。

「仕方が無い」

後を追って部屋から出た。


バルアートについて行った先は暗闇の中見えた大きな城で向かう途中に何度も兵士に止められて身体検査を受けて、バルアートは身に着けていた武器をすべて取られてたどり着いた大きな扉の前には兵士が十人立っていて隣に居るバルアートと黒川をジッと見ていた。

「おい、バルアート、俺は何で呼ばれたのに何回も身体検査を受けてここにこなきゃいけないんだ?」

「うるさい、おとなしくしろ、変に思われたら厄介なことになるぞ」

隣に居たバルアートが小声で言うと、兵士の一人が無表情でゆっくりと近づいてきた、その兵士はファルのところで見た若い兵士とはまず顔つきからして違い引き締まっていて眼光が鋭かった。

「おい、君たちどうしてここに来た?」

「はい、王様の命令でコンデ人を始末した眠り人を連れてきました」

バルアートが答えるとその兵士は黒川を品定めするように足元から頭までじっくりと見みると言った。

「お前がコンデ人を始末した眠り人か?」

兵士はゆっくりとはっきりした口調で黒川に言った、たぶんわかりやすくするために言っているのだろう。

「そうだがなにか?」

「いや、コンデ人を一人で三人以上相手をして生き残った男だと話を聞いていたから、どんなデカくて筋肉質の男なのかと思ったが、見たところ私と余り変わらないようでな」

兵士はそういって笑うと前歯の一部がかけているのが見えた。

「いや、必死だったからですよ」

「よっぽど強いんでしょう?もともと兵士なんですか?」

笑いながら聞いてきたが、黒川は本当のことは言わないほうが良いだろうと一瞬で判断した。

「いや、昔、父親に銃の使い方を習ったことがあっただけで・・・」

「そうですか、いい父親ですね」

(良い父親か・・・)

記憶にある記憶の大半は遺影に写っている父の姿であった。

「おい、なに立ち話している?」

背後から声が掛けられると話していた兵士は声の主に姿勢を正して敬礼をしたので黒川は視線の先を振り返り見るとそこには見たことがあるが名前が思い出せない若い男が立っていた。

「無駄話をするんじゃない!しっかり警備をするんだ!」

「すいません」

そういうとさっきまで話していた兵士は元立っていた場所に戻っていき、見覚えのある若い男の兵士が黒川とバルアートを見た。

「お前達どうしてここに?」

「我々は昨日の件でフォレスト王に呼ばれてまいりました」

「本当か?」

若い男はさっき戻った男に向かって尋ねた。

「はい、連絡がありました」

「なのでアマリ副隊長、中に入れてもらえますか?」

そうだ、こいつの名前はアマリだった。

「命令だからな、開けろ!」

アマリが言うと両サイドに居た兵士が扉を開けると、そこには大きな部屋で偉そうな男達が中央に置かれた大テーブルの上の地図を広げながら話し合っているのが見えた。

扉が開いたのでバルアートが入るのでで黒川も付いて入ると中で地図を見ながら他の兵士と話していたツナトがこちらを見た。

「アマリ、そいつらを連れてきたのか?」

「違います、ここで会ったんです」

ツナトは黒川を一瞬睨んだ。

「そうか、おい、バルアートと眠り人こっちに来い」

そういって手招きするので黒川は小声で言った。

「俺あいつ嫌いだから無視して王のところに行こうぜ」

「そういうわけにもいかん」

バルアートが歩き出すので黒川ため息をついてから近づいていった。

「王はそこの部屋の中に居るから早く行け」

「判りました」

ツナトが指で示す方向には立派な扉があるが護衛の兵士は立っていなかった、もう一度ツナトを見ると急がしいのか他の兵士と話していた、扉に近づいていくとバルアートは黒川の顔を一度睨んでからドアをノックした。

「バルアートです、眠り人のアイトを連れてまいりました」

返事が無いのでバルアートがもう一度ノックをして言った。

「バルアートです、眠り人のアイトを連れてまいりました」

「わかっている、入りなさい」

誰かの返事が聞こえたのでバルアートは扉を開けて中に入り黒川も後に付いて中に入るとそこは十五畳くらいの部屋で一番奥のソファのような椅子にフォレスト王が座り、その隣にはファルが座っていてフォレスト王に頭をなでられていた。

「すまないな、二人とも」

「いえ、そんなことはありません」

そういってバルアートが頭を下げたので釣られて黒川も頭を下げた。

「こっちに来てくれないかないか?アイトでよかったよな?」

「はい」

バルアートを抜かしてフォレスト王が座っているソファに近づいていくと壁側にはラフな姿でスカートを履いた紫色の長い髪の毛をしたアカリが壁に背中をつけてアイトを睨んだ。

「すまなかったな、客人なのにコンデ人との争いに込んでしまって・・・」

申し訳なさそうにフォレスト王が言う。

「いえ、どうやらファル様を助けた私の首に賞金が掛かっているようでして私も狙いの一つであったようですから・・・」

黒川が言うとフォレスト王はファル様の頭を撫でた、どうやらファル様は寝ているようで目を瞑り寝息を立てていた。

「そうか、君も狙われていたのか?」

「はい、私はついでで本当の狙いはファル様のようでしたが・・・・」

「フォレスト王、やはりブールボン皇国の仕業のようですな?そうなればブールボン皇国との争いは避けられそうにないですな?」

声のする背後を振り返るとこの前王様の横にいたアラシが背後から現れていった、アラシはフォレスト王のどんな役職なのかはわからないが、位が高くフォレスト王の信頼を得ているということは判った。

「そうだな・・・・・」

フォレスト王は言いながら声を詰まらせると静かになってしまった、大きな決断をするんだ、いくら王様でも時間が必要なのだろう、気を使った黒川は言った。

「すませんが、どうして俺をここに呼んだのですか?何か用があるんじゃないのですか?」

フォレスト王が顔を上げて言った。

「そうだ、君には多大な迷惑をかけたし何か御礼をさせてもらえないか?」

「眠り人にお礼をする必要はありませんよ」

アラシが言ってフォレスト王に近づいていくとフォレスト王が手を上げて制していった。

「いや、ファルが責任を持つといっているが、ファルの責任は親である私の責任でもあるからな、何か願いは無いか?」

黒川は一瞬考えて言った。

「願いは一つだけですか?」

「贅沢だぞ、アイト」

バルアートが怒鳴る声が背後から聞こえた。

「お前は黙っていろ、それに眠り人、アイトはそれくらいのことをした、それよりもお前はファルの護衛を任されているのに見失っていたらしいじゃないか?」

フォレスト王が鋭く言うと黙ってしまった。

「処分は後で考えるから心しておくんだな」

「はい」

バルアートが肩を落とし力なく返事をするのが聞こえ思わず笑い出しそうになったがぐっとこらえた。

「何か願いはあるかアイト?」

「そうですね」

言いながら黒川はファルを見てからまだ壁に寄りかかって腕を組み黒川を睨んでいるアカリをニヤニヤしながら見ると、アカリは黒川を睨んだ。

「アカリ王女と結婚させてもらいますかね?」

「何を言い出すんだ!貴様は!」

アラシが声を張り上げる声が聞こえ、今の声で寝ていたファルが目覚めて驚いて辺りを見渡すと、アカリが顔を真っ赤にしながら近づいてきたと思ったら平手で顔をはたかれていい音が部屋に響いた。

「あなた最低の人間です!」

アカリはそのまま怒って部屋から出て行てしまうと後ろからバルアートに肩を掴まれた。

「おい、アイト何を言っているんだ!?」

「冗談ですよ、冗談、皆さん本気にするんだから、本当は第一に身の安全を保障と武器を持つことを許してもらいたいですね、命を狙われているみたいですから、あと私から奪った物も返してもらいたいですし」

笑いながらはたかれた頬をさするとフォレスト王が安心したのかため息をついて言った。

「それはわかったが、今度から冗談を言うなら人を怒らせないようなものにしてくれ」

「わかりました、それと」

するとアラシが言った。

「おい、お前少しは遠慮しろ」

「まあいい、言わせてやれ」

フォレスト王が言うので黒川はアラシを見て鼻で笑ってから言った。

「これはこちらのお願いなんですが、フォレスト王のためにもなると思いますよ」

「どういうことだ?」

フォレスト王が聞くとファルが状況が良く読めていないのか黒川とフォレスト王を何度も交互に見ていた。

「どう伝わっているか知りませんが私はコンデ人に捕まる前に、この城の兵士に捕まって人質になっている彼女を救うために強制的に人質交換に使われたんです、結果私は助かっていますが死んでいたかも知れないんで、その兵士を処罰してもらいたいんですが?」

「それがどうしてフォレスト王のためにもなるんだ?」

アラシが黒川を睨みながら聞いてきた。

「そいつは確か向こうの部屋に居たツナト隊長の部下だったな、名前はジロンといっていたな」

振り返るとバルアートが黒川を睨んでいたがフォレスト王を見て言った。

「そいつがもし自分の彼女がコンデ人に捕まったときファル様やフォレスト王と人質交換しないとは断言できないし、そもそも騎士団だっけな、そこにいる資格は無いだろ、ファル様の客人の俺の安全よりも自分の彼女を助けるのを優先したんだからな」

「わかった、わかった、お前の望みはそれだけか?」

フォレスト王が言ったので笑顔で言った。

「以上です」

「なら下がってくれ」

「失礼しました」

黒川はおとなしく部屋から出て行くとバルアートも後から付いてきてツナトのいる隣の部屋に移動するとバルアートが黒川を見ていった。

「これであのジロンはどこかに飛ばされたな」

「お前と一緒の場所になるかも知れないな、そのときはよろしく言っといてくれ」

黒川が笑いながら言うとバルアートが顔を真っ赤にしながら胸倉を掴んでくると異変を感じたアマリがすぐに駆け寄ってきた。

「ここを何所だと思っているんだ、やめるんだバルアート」

アマリが黒川とバルアートの間に割って入るとバルアートは黒川を突き飛ばし黒川はよろけて倒れそうになったのを見てアマリが言った。

「大丈夫か?」

「大丈夫だ」

アマリに答えるとその隙にバルアートはさっさと歩いていってしまった。

その後は黒川は一人で自分の部屋に戻るとたまっている洗濯物の洗濯を行った。

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