第2話 異世界の国 フォートレー王国

目覚ましが鳴る音が聞えリンは右腕を振り回して目覚ましのアラームを止めて眠たい目をこすって目を開けるとカーテンが外の光で明るくなっているのが見え、止めた目覚ましを見ると時間は5時で城内は既に目覚めた人達が廊下を歩く音や仕事する音が聞えてきた。

リンは寝た時の下着姿のままベットから出て部屋に備え付けの洗面台で顔を洗い鏡で顔を見るとまだ眠たげで瞼が完全に開いていない自分の顔があり、目を覚ますために着ていた下着を脱いで湿らせたタオルで夜寝ている時にかいた汗を拭いた。

リンはほっそりとした体で白い肌と中位の胸の大きさで新しい下着を着けて壁に掛かっているメイド服を着て白い前掛けをつけ、黄金色の長い髪を白いヘアバンドで後ろに止めた。

ベットの上にあるカーテンと窓を開けると光と共に暖かい風が部屋の中に入ってきた、外から叫び声が聞こえ乗り出して下を見るとこの城の騎士団と歩兵の隊員が戦闘服を着て格闘訓練をして気合を入れる声や野次が聞えてきた。

すると一人の背の高く顔に幼さが残る隊員が上を見上げてリンのことに気付き手を振ってきた、その隊員は恋人のジロンでリンも手を振り返すと、ジロンの周りの隊員たちがリンに手を振ったことに気が付いたらしくジロンの周りの隊員たちがニヤニヤしながらこちらを見たりジロンの肩を叩いてリンは急に恥ずかしくなり急いで窓を閉めた。

「そろそろ行かなくちゃ」

独り言を机の引き出しからジロンからのプレゼントにもらった腕時計を左腕に付けて部屋の鍵を持って部屋の鍵を開けて廊下に出ると仲のいい先輩のシーヴァが偶然通りかかってこちらを向いた。

「リン、おはよう」

シーヴァはリンより四コ年上でリンが24歳なので28歳でリンより背の高いきれいな顔をしたブロンドの髪の毛の先輩でリンと同じファル様のお世話係として働いている。

「おはようございます」

リンは自分の部屋の鍵を締めているとシーヴァが聞いてきた。

「リンは今日も眠り人の世話なの?」

「はい、だから後で会えますね」

リンが答えながらシーヴァの隣に行き一緒に歩くとシーヴァは笑顔で言った。

「そうね、ファル様も自分の怪我が治って動けるようになってからは必ずあの眠り人のところに行きますからね」

「本当なんですかね?一ヶ月前のこと・・・」

「そうね・・・・、ファル様も心も体も傷ついたようですし、以前寄りも暗い顔をしている時が多くなったような気がします」

シーヴァはそういって小さく溜息をついた。

一ヶ月前ファル様が数人の護衛の騎士たちを引き連れて近くの森の中に散歩に行った時にトカゲのコンデ人に襲撃されたのだ。

ファル様を護衛する騎士たちは不意を突かれファル様を守るようにコンデ人と戦いながら逃げたが一人また一人と逃げているうちにコンデ人に殺されていったらしい。

コンデ人はリンやシーヴァとは別の人種でその姿はトカゲが大きくなった姿でリンたちと同じ言葉を喋り、隣国のブールボン皇国に多く、ファル様を襲ったのはブールボン皇国の者たちではないかと疑われ調査が行われている、ジロンに聞いたところ「殺されたコンデ人はブールボン皇国を示すようなものを何も持っていなかったが、そこが怪しい」と言っていた。

リンは二ヶ月前に一緒に散歩に行ったときのファル様の御転婆でかわいい笑顔を思い出し今のファル様と比べて見たがシーヴァの言う通り少しおとなしい感じになっていてリンは呟いた。

「早く元に戻ってもらいたいですね・・・・」

「そうね、眠り人が起きたら少しは元気になるかもしれないわね」

話しているうちにT字路に来た左がシーヴァが行くファル様の部屋があるほうで私は右に曲がり眠り人の世話をする部屋に向かう。

「じゃあね、リン」

「また後で」

そういって二人は分かれてそれぞれの仕事場に向かった、リンはファル様を救った眠り人のいる部屋に入った、本来病人は病気の伝染を防ぐために他の棟で治療を行うのでその眠り人も他の病人と一緒の部屋だったのだが、ファル様が眠り人のところに行くようになり、ファル様に病気が伝っては大変だという事と眠り人は病気の伝染の心配はなく、体の怪我も治っているのでファル様がいるこの棟に運ばれてきいた。

眠り人のいる部屋に入ると眠り人の診察を終えたらしい医師のブラマン先生が診察に使った聴診器を鞄にしまっていた。

「ブラマン先生、診察は終わったんですか?」

リンが言うとブラマン先生が部屋に入ってきたリンを見た。

「リン君かね?あぁ終わったよ、眠り人は傷も肩の怪我も治っていてほぼ完治しているよ」

いいながらブラマン先生は腕を組みながら長くて白い顎鬚を撫でていた、ブラマン先生は背が低くて痩せている見た目で頭が良いということが分かる五十代の男性で頭の髪の毛はブラウンで髭が白いので城の中どこにいても目立っている。

「そうですね、運ばれてきた時よりも大分顔色がよくなっていますからね」

リンがベットに近づきベットで寝息を立てている眠り人に近づいて顔をじっくり見た。

髪の毛が暗闇のように真っ黒で顔つきは伸び放題になっている髭でよくわからない。

「先生?」

「なんだい?リン君?」

「先生いろいろ物知りなんでしょ?この眠り人ってどこの人なんですか?こんな真っ黒な髪の毛や髭の人見たことありませんよ?」

リンがブラマン先生を見るとまだ腕を組んで髭を指先でいじりながら唸り声を上げた。

「それを私もここ一ヶ月考えていたんだ、その黒い髪と髭をしている男はどこから来たのだろうとね・・・・、ここら辺の人間ではないしコンデ人でもないみたいだからな、たぶん私もリン君も知らないような遠い国から来たのかも知れないな」

「遠い国ですか?」

リンが不思議そうな顔をしてブラマン先生を見るとブラマン先生は診療に使った鞄が置いてある机の椅子に座ってリンを見て笑って言った。

「遠い国とは自分で言ってもなんかへんな言葉だな、我々が知らない国って事かな、地図で名前を知っている国でも実際にどんな人が住んでいるかなんてわからない国があるからね、少しここで休んでいこうかな」

リンは部屋に備え付けの水道から水をポットに入れ、水の入ったポットを黒い石の上に置きその石に付けられているスイッチを押すと黒い石が熱を持ち赤くなり始めた。

「今お湯を沸かしますから、何を飲みます?」

リンが聞くとブラマン先生が言った。

「私は水でいいよ」

「そうなんですか?でも冷たい水は今ここにはないんですよ」

「ぬるい水でいいよ、歳をとると冷たい水を飲むと歯にしみるし喉も痛くなっちゃうんだよ」

リンは笑いながらコップに近くのビンに溜めてあった煮沸消毒をして置いておいた水を汲んでブラマン先生のところに運んでいくとブラマン先生はコップを受け取り一口飲んで溜息をついたのでリンが尋ねた。

「どうしたんですか?先生」

「いや、この後は病棟に行って病人の診察を行わなければならないと思うとね、溜息が出ちゃうよ、仕事で病人ばかりに相手にしているとなんだか疲れるんだよ」

リンはブラマン先生が座っている向かいの空いている椅子に座った。

「先生はファル様の診察もする立派な医師なんですから皆さん先生を頼って来てますから確かにお疲れになるかも知れませんね」

「でしょ」

ブラマン先生はいいながらもう一度水を飲んだのでリンは言った。

「先生疲れたらここに来てくださいよ、私もこの眠り人と二人しかいないんで暇をしているんですよ、眠り人はずっと寝ているんで私も先生に言われて話しかけているんですけど反応が無くてなんだかさびしくて」

リンはそう言って眠り人見るとやはり寝ているだけで反応が無い、ブラマン先生を見るとリンを見て顔を赤らめて笑っていたので、リンはあわてて言った。

「変な意味ではないですよ」

「分かっているよ、分かってるさ、でもこれからはここに時々寄らせてもらうよ」

「はい、お待ちしております」

リンが言うとブラマン先生は目の前にあるコップの水の残りを一気に飲み干すと立ち上がった。

「さてと、じゃあやる気を出して行って来るかな」

コップを置いてバックを持つと首を回した。

「それじゃぁ」

「行ってらっしゃい」

そうってブラマン医師は部屋から出ていってリンは一人になってしまったので、立ち上がって水を沸かしている黒い石のスイッチを切っていつもの仕事を始めた。


眠り人の眠っている部屋や他の部屋や廊下の掃除を終えて昼食をとり部屋に戻り窓を開けて空気の入れ替えをしていると風が心地よかった。

ガタンと何か物音がして顔を上げた、いつの間にか机にうつぶせて寝てしまっていたようで目を開いて音のした方を向いたが目がかすんでしまい何が見えているか分からなかった。

「おい、もう寝ているのか?暇なんだな」

その声には聞き覚えがあった。

「ジロン」

リンは声のする方を見ると机の近くにジロンが青い作業着を着て立っていた。

「寝てないわよ、ただ目を閉じて少し考え事をしていただけよ」

「えっ、俺がここに入ってから二分以上経っているけどその間ずっと考えてたの?」

ジロンがリンを見て笑いながらいった。

「もう、何ですぐに起こさないのよ!」

リンは机を両手で叩き椅子から立ち上がるとジロンはリンに近づきながら言った。

「冗談だからそんなに怒るなよ、少し寝顔は見てたけどな」

「ジロン、訓練は終わったの?」

「あぁ、大体は終わったよ」

いいながらベットのそばに行き眠り人の顔をジッーっと見つめた。

「なぁリン」

「何よ」

リンは少し棘のある言い方でジロンに返事をした。

「リンはいつもこの男に食事を食べさせたり裸にして体を拭いたりしているのか?」

「食事や体を拭くのはここに診察に来るブラマン先生が連れてくる男の人達がやっているわ、私が一人で男の人を着替えさせたりするのは難しいし、食事だって眠っている人に食べ物を食べさせるのは無理だからブラマン先生が栄養剤を注射しているから大丈夫よ、ただ・・・」

「ただ?」

リンはベットのサイドテーブルまで移動しその上に乗っているスポイトを取ってその隣においてあるガラスビンを持ち上げると中に透明の液体が揺れているのが見え、ジロンはそれを見て言った。

「それは?」

「栄養剤が混ぜてある水をスポイトで口の中に湿らせる程度入れてあげるの、何も飲まないと口の中が乾燥するからこうやって」

スポイトでガラスビンの中の水を吸い取るとガラスビンを置き、その手で眠り人の口を少し開けるとスポイトを中に差し込んで水を入れた。

「こんな感じね」

リンはスポイトを置いて隣においていた布巾で眠り人の口からこぼれた水を拭った。

「いつもこいつにこんなことをしているのか?」

ジロンが腕を組んで少しむくれて言うのでリンはその様子を見て言った。

「妬いてるの?ジロン?」

リンが笑うとジロンは顔を見られないように反対側を向いた、少し意地悪だったかと思い場を変えるために聞いた。

「何か飲む?」

「そうだな、水を頼むよ」

リンはそういわれ煮沸消毒した水を溜めたビンからコップ二つに水を持って振り返るとジロンが眠り人の腕をベットから出して服を捲り上げて腕をつねっていた。

「何してるの!?」

「こいつが寝ている振りをしているんじゃないかとおもって、こうやってつねっているんだ、痛みで目を覚ますかもしれないだろ?」

リンはすぐにコップを置いてジロンに近づいていきつねっている手を払い眠り人の手をベットに置いた。

「何してるのよ!」

「だから、そいつが寝てる振りをしているんじゃないかと思って・・・」

金きり音のような声でジロンを攻めるのでジロンは両手を前に突き出してリンをなだめるようにしながら後ろに下がった。

「ファル様を助けてくれた恩人なのよ、それに病人なのよ!」

「分かったって、悪かったよ」

「早く仕事に戻りなさいよ!もう」

リンがそういってジロンを部屋から追い出し振り返り眠り人の腕を布団の中に入れるために近づき腕を掴もうとすると腕を掴まれた。

「キャーーー!」

叫びを遮るようにベットに引き倒されてすぐさま手で口をふさがれた。

「叫ぶんじゃない、おとなしくしろ」





黒川は腕に鈍い痛みがして目を開けようとするとバリバリとした感覚がして瞼が開いた、どうやら長いこと目を開けていなかったので目くそが固まっていたみたいだ。

痛みがした左腕を見るとベットに腕まくりをされていて痛みを感じた場所の肌の色が赤く変わっていた。

何か目の前で言い合いをしている声が聞こえそちらを見た。

「ファル様を助けてくれた恩人なのよ、それに病人なのよ!」

「分かったって、悪かったよ」

「早く仕事に戻りなさいよ!もう」

女性と男性が何か言い争っているようだが、たぶんだが起きていないか確かめたのだろう、起きてしまったので今度試されたら何か反応してしまうだろう。

そう思っていると女性は男性を部屋の外に追い出しベットに近づいてきて手を伸ばしてきたので黒川は今しかないと思いすばやく女子の手を掴んだ。

「キャーーー!」

女が叫び声を上げたのですばやく手前に引き倒して左手で口を塞いだ。

「叫ぶんじゃない、おとなしくしろ」

そういうと女は顔を何度も上下に頭を振って黒川を見た、黒川も女性を見ると金髪で水色の瞳をしたまだ若い女だということが分かった。

「おい、俺の喋っている言葉が理解できるのか?」

女は涙目になりながら上下に頭を振った、黒川は一瞬叫び声を上げられたので先ほどの男が入ってくるのではないかと思い男が出て行ったドアを見たが誰も入ってこなかった。

「おい、今から口から手を外すから叫ぶなよ?」

女が必死に頭を上下に振るので口から手を離すと手の平に女の涎が付いていて糸を引いたのでベットで拭って女を見ると怯えているのか浅い呼吸を繰り返していて黒川はできるだけやさしい声を出した。

「脅かしてすまないな、君の名前は?」

女は黙ったまま震えていた、黒川は自分の喋った言葉に違和感を感じた、久しぶりに喋ったようで自分の声がおかしい、なので今度は女も聞き取りやすいように唾を飲み込んでからゆっくりとはっきりした声で言った。

「脅かしてすまないな、君の名前は?」

すると女がこちらを見て目が合ったのが分かった。

「誰か助けて!誰か!殺される!」

女が目の前でいきなり大声で叫んだので黒川は一瞬耳がおかしくなりそうになったが慌てて女の口を塞いだ、するとドアの方から声が聞こえてきた。

「今の悲鳴は何だ?確かに聞えたぞ」

「確かに?どこから聞こえた?」

どうやら悲鳴に気が付いたみたいだ、黒川は女の口を塞いだままベットから降りると自分が白い下着を着ているだけの状態であった。

周りを見ると自分が着ていた服や持っていた拳銃や刀のようなものは見当たらない。

女を引きずりベットサイドにおいてあったスポイトを掴み女の喉に押し当てた。

「おい、次俺の命令に従わなければこれでお前の喉を刺す、分かったな?」

女は何か言ったが口を塞いでいるのでこもっていて何と言っているかわからないが頷いていた。

口を塞いでいる手を外して女の首に腕をすばやく回したが女は叫ばなかった。

「ここは何処だ?」

「病室よ」

「警察の病院か?」

「ケイサツ?分からないわ」

どういうことだ?黒川が疑問に思うのとほぼ同時にドアがノックされた。

「悲鳴が聞えたんですが?大丈夫ですか?」

黒川は部屋を見渡すと十二畳くらいの部屋でベットが置かれていてドアの丁度反対側に窓と机があり女を引きずって窓のほうに移動していると男の声が聞こえた。

「開けますよ、大丈夫ですか?」

ドアが開き若い男が部屋に入ってきて黒川が女の首に腕を回して盾にしている状況を一瞬で理解したようだ。

「ここだ、騎士を呼べ、眠り人が目をさまして女を人質にしているぞ!」

男が廊下に向けて叫んだと思うと近くにいたらしい男がすぐに駆けつけて中の様子を見て言った。

「おい、お前リンを放せ!」

男はそういうと部屋の中に入ってきたので黒川が言った。

「動くな、それ以上近づくな、この女がどうなるか分かってるんだろうな?」

黒川はワザとスポイトを男に見せ付けてから女の喉に押し当てた。

「ジロン、ジロン」

リンと呼ばれた女がいいながら手を男に伸ばした。

「おとなしくするんだリン」

ドアの奥の方に近くにいたらしい野次馬がたまってきて黒川たちがいる部屋を覗き込んでいる。

黒川は後ずさりしながら窓に近づいていき外を見ると大分下に芝生があるのが見えた、ここの部屋が地面から高い位置にあり飛び降りるとタダじゃすまないな。

「邪魔だ、どけ、道を開けろ!」

「退くんだ!」

部屋の中の黒川を覗いている奥から怒鳴り声が聞えたと思うと野次馬を掻き分けて青い何かの紋様が書かれた服を着た歳を取った男と若い男が部屋に入ってきて、目の前にいるジロンと呼ばれた男が振りかえり二人を見た。

「ツナト隊長、アマリ副隊長!」

「ジロン、お前どうしてここにいるんだ!」

若い方の男が言いながらジロンを睨み、睨まれたジロンは負けじと言った。

「俺のことよりもリンを助けてくださいよ!」

若い方の男の隣にいた歳をとった男が腰からトカゲ野郎が持っていたのと同じような筒の拳銃を取り出して黒川に向けた。

「アマリ、そいつのことはあとにしておけ、まずはこいつだ」

「分かりました、ジロンお前は後ろに下がれ」

歳をとった男が隊長で、若い男が副隊長のようで二人とも拳銃のような筒を黒川に向けるとジロンが間に割って入り手を大きく広げて拳銃を持った二人のほうを見ていった。

「ちょっと待ってくださいよ、リンに当ったらどうするんですか?!」

「邪魔だから退くんだ、アマリそいつをどかせ」

アマリと呼ばれた若い男が拳銃を向けたまま片手でジロンの胸倉を掴み引っ張ってどかそうとするがジロンは踏ん張り中々動こうとしない、するとリンが泣きそうな声で叫んだ。

「ジロン、止めて、ジロン」

黒川は今の状況を見て溜息をついてから言った。

「おい、ジロンという男、俺の言っている言葉が理解できるな」

呼びかけるとジロンの胸倉を掴まれていた手が緩んだのか振りほどき振り返って黒川を見た。

「リンを放せ!話はそれからだ!」

「ここはどこだ?」

するとジロンの後ろにいたツナトと呼ばれていた年を取った隊長が言った。

「何をいってるんだ?ここはフォートレー王国のフォレスト城内だぞ!貴様こそ何処の者だ!答えろ!」

フォートレー王国?黒川はフォートレー王国という国を必死に思い出そうとしたが思い出せないし、黒川は日本で橋から落ちたのだ、運悪く海にまで流されてどこかの島に流れ着いても東南アジアにはそんな国はなかった気がするし、どう見てもここにいるジロンやリンや部屋に入ってきた男たちもどちらかと言えば欧米系でアジア系には到底見えなかった。

黒川は思わず言った。

「日本って国は分かるか?ジャパンだ?」

するとリンが泣くように叫んだ。

「知らないわそんな国、さっきから何を言っているの?あなたはもう逃げられないわよ!」

「本当か?そこのお前どうなんだ?」

ジロンともみ合っていたアマリに向けて言うとアマリが黒川を睨みながら言った。

「そんなものは知らん、つまらない時間稼ぎをするな!」

アマリの表情は嘘を言っているようには見えない、黒川はわけが分からなくなった、だがこのリンとジロンは恋人同士なのだろう、状況がよくわからないがこれ以上問題を起こさないほうがよさそうだ。

「投降する、この女も解放する」

黒川が宣言すると拳銃を向けてきている男たちは表情を変えずに睨んできているがジロンは黒川を見ていった。

「本当か?」

「あぁ、本当だ」

言うとリンの首筋に当てていたスポイトを首筋から放し首を絞めていた腕を解いてやさしく言った。

「怖がらせて悪かったな、すまない」

リンは一瞬振り返り黒川を見て目が合った、泣いているのか目の周りが少し赤くなっていた。

「リン、こっちだ」

ジロンがいいながらリンの手を掴み抱き寄せるのが見え、黒川は手に持っていたスポイトを床に落すと砕けてしまった。

黒川は両手を上げて言った。

「降参だ、抵抗するつもりはない」

アマリがすぐに近づいてくると素早く地面に倒された。

「捕まえたぞ、ジロンこいつを牢屋に連れて行くのを手伝ってくれ」

「おい、抵抗はしないが俺はどうしてここにいるんだ?説明してくれ!」

ツナトが近づいてきて黒川を見下ろしていった。

「こいつを地下の牢屋に連れて行け!何処かの国のスパイかも知れないからな」

「違う、それは考えすぎだ」

ジロンが黒川の隣に来るとアマリとジロンは逃げれないように黒川を間に挟むように立たされ両腕をしっかりとつかまれた。

ツナトは黒川の前に立つと体を両手で触り始めた。

「何も持っていないだろうな?」

股間や尻の割れ目もしっかりと確認された。

「俺の質問にも答えてくれよ、おい、お前が隊長なんだろ?」

黒川は言いながらツナトを睨んだが、ツナトは黒川を見て鼻で笑った。

「体調はよさそうだな、牢屋はこことは違い快適ではないが大丈夫だろう、尋問が始まるまでおとなしくしているんだな、連れて行け!」

ジロンとアマリが歩き出し黒川も引きずられるようにして歩き出した。

「人の話を聞けよ!」

黒川が叫んだが無視をされ引きずられていくと部屋の外に出ようとすると野次馬がいて出られそうにないのを見てジロンが言った。

「道を明けるんだ!さぁ!」

野次馬たちが左右に分かれた、黒川を引きずり部屋から出て廊下に出ると野次馬たちが黒川の顔を見ようと近づいてきて進めなくなった。

「お前たち何をしている!」

女の声が廊下に響き渡り、野次馬たちがいっせいに声のした右側のほうを見てジロンとアマリは足を止めた。黒川には声の主は野次馬達が邪魔になり見えなかった、すると背後から部屋を出てきたツナトが声を荒げた。

「歩みを止めるな、それに誰だ、今の声は!」

「私だ、そこを開けるんだ!」

女の声がしたと思うと右側の野次馬たちが廊下の左右の壁に引っ付く勢いで分かれるとその奥に緑色の長い髪をした女の子が女性一人と男性一人の召使のような人を引き連れて立っていた。

「これはファル様ではございませんか?どうかなさいましたか?」

「どうかなさいましたか?ではないその目覚めた客人を放すんだ!私の命の恩人だぞ!」

ファル様と呼ばれた女の子が言いながら二人の召使を従えてこちらに近づいてくると周りの野次馬たちが頭を下げた。

「その二人、早くその手を離すんだ!」

召使の男の怒鳴り声が廊下に響き渡るが黒川を掴んでいるジロンとアマリは手を離さず召使の男と睨みあっているとツナトがファル様と呼ばれた女の子の前に歩き出た。

「お言葉ですがファル様、この男は女を人質にして逃げようとしていた身元不明の男ですよ?もしかしたらこの城に潜入するためにワザとあなたを助けたのかもしれませんよ?」

「私は信じています!あのときのこの男の命がけの行動と言葉を・・・・」

ファル様が言いながら黒川を見て黒川と目が合いファル様の目は燃えるように真っ赤で、見られた黒川は体が熱くなるのと同時に信じているといわれたことに恥ずかしくなり顔が一気に熱くなり真っ赤になっているのを感じた。

だが、目の前にいるツナトがはっきりと落ち着いた声で言った。

「私は信じられませんな、いくらファル様のお願いでも私は王に仕える騎士団の隊長としてこの男は取調べさせてもらいます」

ツナトが振り返り黒川たちを見て言った。

「牢屋に連れて行け!次は何を言われても止まるな!わかったな!」

「「はい」」

アマリとジロンが返事をするとファルと召使二人がいる方向に向けて歩き始めた。

「止まれ、止まるんだ、おい」

ファルが必死に言ったがアマリとジロンは一切歩みをとめず、黒川はファルを見ないように下を向いて黙っていた。



何回か廊下を曲がり階段を下りていくと床と壁が石でできた牢屋が並んでいてその中の一つに入れられ、中には薄い布と壁に蛇口が着いていてその近くにトイレが取り付けられていた。

ここにつれられてきてどのくらい立つのだろうか、食事が二回出たが、昼なのか夕なのか朝なのか、牢屋の中にいる黒川からは外を見る窓も外から吹く風も無かった。

ここに入れられた時のことを思い出した。

牢屋に黒川を連れてきたアマリとジロンは黒川を突き飛ばして鉄格子の中に入れられるとアマリの声が聞こえた。

「大人しくしていろ」

すると背中を蹴られて石の地面に倒れた。

「次人質を取ってみろ、許さないぞ」

声からしてジロンが蹴飛ばしたのだろう。

「止めておけ、隊長に見つかったらどやされるぞ」

黒川が体をひねってアマリとジロンを見るとジロンが睨んでいたがアマリに促されて鉄格子の外に出て鍵をかけるとどこかに行ってしまった。

牢屋に入れられてから一日はたってないだろうが何時間たっているのかわからない。

空気の流れが悪いのとすぐそこに便器がむき出しであるために湿度が高くて壁や地面の石に触っただけでべたべたする。

耳を済ませて隣の牢屋に誰かいるか確かめようとしたが何も音は聞こえ無かった。

どうするかと自分の顎に手を当てると少しひげが伸びているらしく手がジョリジョリして髭も伸びてきたようだ、俺が野々村一家を殺した時はちゃんと髭を剃っていたから髭の伸び方から見て三日くらいたっているのだろうか?

「ここから出してくれ!誰かいないのか!」

黒川はワザと叫んだり鉄格子を石の欠片で叩き音を出して騒いでみたが注意しにくる奴もうるさいと怒鳴るような牢屋に入っている囚人の声も無かった。

誰もいないのか、まったく相手にされていないようだ、考えなければならないことはたくさんあるのだが今考えてもわからないことが多すぎる、黒川はいざとなればすぐに脱出できるように眠って体力を回復させようと少し湿っている薄い布の上に横になり目を閉じた。



「おい、起きろ」

誰かの声に反応し素早く目を開けたが寝起きなので視界がぼやけていてはっきりとは見えないが鉄格子の反対側に人が二人立っているのが見えた。

「寝ぼけているのか?」

一人が鍵を開けて中に入ってくるのを黙って見ていた。

「立て」

男の声が聞こえ黒川は立ち上がろうとしたが足を湿った布に足を取られて倒れ、体を打ち付け肩に痛みが走った。

「なにやってるんだ?お前?」

痛みで視界がはっきりしてきた、そこには鍵を持ち青い服を着ているファルの隣にいた召使のような男が目の前に立ち黒川を見ていて目が合った。

「大丈夫か?」

そういって男が手を差し出してきた、一瞬黒川は手を差し出している男の顔を見た、年齢は五十歳を過ぎている様だが顔が脂ぎっていて力強そうな顔をしていた。

「どうした?」

男が笑いながら言いったので、敵意は無いと思いその手を取ると強い力で引っ張り上げられて素早く立ち上がると男は黒川より身長が高く180センチくらいだろう。

「ありがとう」

黒川が男に言うと男が折れた前歯を見せて笑いながら言った。

「どういたしまして、眠り人、どうやら言葉はわかるようだな?」

男に言われて気が付いたが確かに言葉は通じるようだ、この男たちも日本語を話しているのか?

「おい、お前、名前は何だ?」

「黒川だ」

すると男が眉間に皺を寄せた。

「何だって?」

「黒川だ」

「・・・?」

男が必死に何かを言おうとしているが声にならないのかうまくしゃべれていないようで何回か自分の名前を言ったがやはり同じであった。

「まぁ、いい、俺の名前はバルアートだ、お前は今から王様に謁見することになったその準備をするから取り合えずこの服を着るんだ、俺の服だから大きいかも知れないが着れるだろ、お前が着ている病人の服はそこらへんに脱ぎ捨て置けば掃除に来る奴が捨ててくれる」

バルアートが手渡してきた服と黒川がはいていたアーミーブーツを受け取って湿っていなさそうな地面に置き着替えた。

上着を脱ぐと素肌が見え下着を着てない、下半身も確認したがやはりズボンの下は素肌で下着をつけていなかった。

黒川は下半身を見られないように石の壁を向いて銃で撃たれた肩を見ると撃たれたところは塞がっていて新しいピンク色の皮膚が張っていた、トカゲ野郎に噛まれたところを探したが噛まれた跡は残っていなかった。

黒川は髭の伸びからして野々村たちを殺したときから三日くらいたっていると思っていたが銃で撃たれた肩の傷の治り方から見ると一週間以上たっているようだ、ピンク色の肌を触って痛みが無いか確かめた。

「おい、何をしているんだ?さっさと着替えろ」

「あぁ」

肩から手を離してズボンを脱いで全裸になってから床においてある服を取ったが下着はなく灰色のズボンを履き灰色のようなワイシャツを着て前のボタンを留めたが袖や足の裾が長く捲って長さを調節しワイシャツの裾もズボンの中に入れてブーツを履いてバルアートのほうに振り返った。

バルアートは黒川の頭から下まで見ると言った。

「準備はよさそうだな、ついて来い」

バルアートは黒川の返事を待たずに歩き出して鉄格子を抜けてそこにいた青い服を着た男に軽く頭を下げた。

一瞬迷ったがここにいてジロンや隊長と呼ばれていた奴等に尋問されるよりましだ、黒川もバルアートの跡に続き鉄格子から出た、青い服を着た男を見ると男は黒川のことを睨んでいるように見えたがすぐに視線を外した。

先に行ったバルアートを見るとすでに牢屋の外に行くドアのところに立ち振り返って黒川を待っているので足早に向かった。


バルアートにつれられて歩き階段を上がると窓があり日の光が差し込んでいるので外を見ると中庭なのだろうか?周りを建物に囲まれた芝生の庭の中央に噴水がありとてもきれいであったが人影は見えなかった。

目の前を歩くバルアートに黒川が言った。

「おい、ここはどこなんだ?」

「・・・・・」

「バルアート、ここは何処なんだ?」

「・・・・・」

聞こえているはずだ、黒川はバルアートの肩を掴み強引に振り返らせた。

「おい、聞こえてるんだろ、返事をしろ」

バルアートは真剣な顔で黒川を見下ろして言った。

「俺はお前の質問に答えることはできないんだ、悪いが疑問があっても聞かないでくれ、だからといってお前をだまそうとしているわけじゃないんだ、大人しくついてきてくれ」

嘘を言っているようにも見えない。

ため息をついてから黒川は言った。

「わかった、大人しく付いて行くよ」

「すまないな」

バルアートは返事をしてから前を向いて黙って歩き出した、途中でジロンと同じような青い服を着た男女や色違いの黄色や緑などの服を着た人達やメイド服を着ている人とすれ違うと珍しいものを見るように黒川のことを見るので少し恥ずかしく目線を合わせないように少し下を向いて歩いていった。

五分くらい歩くと警備をしている兵士が二人立っている大きな扉の前に来るとバルアートが立ち止まって振り返った。

「ここから中に入ったら変な動きはするなよ、王様の護衛がすぐにお前に向けて発砲してくるからな」

「わかったよ」

「それと王様の質問には正確に答えろ、いいな?」

黒川は黙ってうなずくとバルアートは振り返り警備をしている男たちに言った。

「開けてくれ」

警備をしている男たちが左右の扉を開けると扉の向こうは大きなホールになっていて一番奥に大きな椅子に座っているのが王らしく近くにいる秘書だと思われる人物と何かを話していてその左右にも大きな椅子があり誰かが座っているのが見えた。

黒川がホールの中を見渡した、左右の壁には松明ではないが電球でもないものが白い光を放っていた。

バルアートが背筋を伸ばして行進するときのように手を振って歩くので同じように歩いた。

近づくにつれてぼんやりとしか見えなかった王が座っているらしきところの様子がわかってきた。

真ん中に座っている王は昔の絵画を見たときに書いてあるような王冠や赤いマントのようなものはつけてわいないがブロンドの髪とブルーの目をした四十歳くらいの目つきの鋭い男がゆったりと腰を椅子にかけた状態で隣にいる黒い上下のスーツのような服を着た男と何かを話していた、左右には若い女性が座っていてバルアートと黒川を品定めをするように見ていた。

王の五メートルくらい前でバルアートが足を止めたので黒川も足を止めた。

「フォレスト王様!連れてまいりました!」

バルアートが頭を下げながら言うので黒川も同じように頭を下げた。

「そのようだな、二人とも頭を上げるんだ」

黒川が頭を上げるとバルアートはまだ頭を下げていて黒川から三秒くらいたってから頭を上げた。

「その黒い髪の男がファルを助けた眠り人か?」

「眠り人?」

黒川がバルアートを見たがバルアートは振り返ることもなくフォレスト王に向かって言った。

「そうです、フォレスト王様」

するとフォレスト王が黒川のことを品定めするようにつま先から頭までをゆっくり見るとバルアートを見た。

「おい、眠り男は言葉がわかるのか?」

バルアートは黒川のことを振り返り一瞬見たがすぐにフォレスト王に向き直った。

「先ほど話すことができましたが、すべての言葉がわかるようではないようです」

「ほう?大体なら言葉がわかるのか?眠り人よ」

言いながらフォレスト王が黒川の方を見たので黒川は頭を下げながら言った。

「少しですが、おっしゃっていることは理解できます」

「すばらしいじゃないか!なぁ?」

隣でこちらを見ている黒の男や左右の椅子に座っている女性に向かって同意を求めた。

フォレスト王の左側にいた髪の毛が紫色をした気の強そうな女性がフォレスト王を見た。

「そうですわね、ですが、眠り人のような真っ黒な髪の毛の男は見たことありませんわ」

「そうだな、眠り人、そなたの名前は何だ?」

黒川はフォレスト王を見て答えた。

「黒川雅彰といいます」

するとフォレスト王は眉間に皺を寄せて言った。

「もう一度言ってみろ」

「黒川雅彰といいます」

先ほどバルアートに名前を名乗った時と同じように聞き取れていないようでフォレスト王が隣にいる黒服の男の方を見ると黒服の男は頭を左右に振った、さらに左右に座っている女性の方を見たがやはり首を傾げていてうまく聞き取れていないようだ。

「お前ふざけているのか?」

フォレスト王がまじめな顔をして聞いてきたので黒川は落ち着いていった。

「ふざけてはいません、私はちゃんと自分の名を名乗っています、先ほどバルアートさんにも名前を聞かれ答えたのですがみなさんと同じようにうまく聞き取れないようです」

「そうなのか、バルアート?」

フォレスト王がバルアートに尋ねるとすぐに答えた。

「はい、私も名前をここに来るまでに聞いたのですがうまく聞き取れませんでした、ですが名前以外は会話ができます」

「そうか・・・・・、ならお前はどこから来たんだ?」

「日本という国から着ました」

「日本・・・、聞いたことないな、その国はどこにあるんだ?」

黒川は思わず息を吸い込んで黙ってしまった。

「どうしたんだ?言えないのか?」

フォレスト王が聞いてくるが、黒川はどうするか迷っていた、本当のことを今すぐ言ったほうがいいのか、それとも本当のことは伏せておくかだ。

黒川はフォレスト王を見た、今いる所が判らないのにこちらの情報を教えるというのはよくない。

「遠くの方から海を渡ってきました」

「海?」

フォレスト王が首をかしげて言った、海がわからないのか、それとも言葉が違うのだろうか?

「海を越えたところの日本という国からきました」

「一人で来たわけではないだろう?」

フォレスト王の隣にいた黒服の男が言うのでその男を見ると男は白い髪の毛と肌をしていて痩せているが目が鋭く気味が悪かった。

「はい、船に乗っていたのでほかの者もいたのですが、私が夜中に甲板で夜風に当たっていると高波が当たったのか何かにぶつかったのか判りませんが大きく船が揺れて甲板にいた数人が海に投げ出されました、必死に叫んだのですが、船にも何かあったらしく一気に騒がしくなり海に落ちた人の声は届かず、落ちた人を助ける様子もなく離れて行ったのです」

黒川は考えをまとめるためにわざと大きく息を吸い込んでから続けた。

「海に落ちたわれわれはお互いに声を掛け合い必死に励ましあっていたのですが、いつの間にか一人また一人と海の波に飲まれて行き私もだんだんと体力が奪われていつの間にか気を失ってしまったらしくそこから記憶がありません」

「記憶がないだと?」

バルアートが振り返ってこちらを見て言った。

「私が聞いているんだ」

フォレスト王がバルアートに向かって言うとバルアートはすぐに頭を下げた。

「続けるんだ」

「目が覚めると陸の上に上がっていたのですが、周りに海のようなものもなくどうしてそこにいるのか判りませんでした、森の中にいるらしくしばらく歩きまわっていて声のするほうに近寄って行ったのですが、そこには見たことない私の住んでいた場所で言うトカゲに似た大きな生き物が人と争っているのが見えてその場から逃げましたが左肩を撃たれて思わずその場に倒れましたがすぐに立ち上がって逃げました」

黒川は思わず左肩を触ったが痛みはなかった。

「どこをどう逃げたかは必死に逃げたので思い出せませんが、緑色の髪の長い女の子がトカゲ人間に捕まっているのが見えたと思うと、いきなり後ろから足首をつかまれて振り返るとここに来る途中にいた兵士と男が血まみれの手で足首をつかんでいて『ファル様を助けてくれ』といわれました」

「それでお前は助けたのか?」

フォレスト王が腑に落ちないといった顔で黒川に聞いてきた。

「そのときにトカゲ人間に見つかりまして、殺されてたまるかと思い反撃したのですが、トカゲ人間を二人倒した時点で私も噛まれたりしましたので地面に倒れ、俺は死んだんだと思いました・・・、その後はこの城で目覚めてここにつれてこられました」

嘘も混じっているが大体は本当のことを黒川は言ったつもりだ、フォレスト王は隣にいる黒服の男と何かを話していてこちらを見た。

「お前が言っているトカゲ人間というのはだな、隣国のブールボン皇国のコンデ人だな、確かにあいつらはトカゲに似ているな」

フォレスト王はそういって軽く笑うと左側にいた気の強そうな女性が言った。

「やはり隣のブールボン皇国のコンデ人が犯人だったのですか?野蛮な連中ですわ」

すると黒服の男が冷静に落ち着いて言った。

「いや、死体がコンデ人だっただけで死体を調べましたが身元のわかる様な者は持っていなくブールボン皇国の者だと決まったわけではございません」

「ですが、ブールボン皇国はたびたびこちらを攻撃してきますし、今回のことだってきっとブールボン皇国のせいに決まっていますわ」

「どうだかな・・・・・」

フォレスト王はそういてブロンドの髪の毛をなでて考え始めてしまい、黒川はどうしていいかわからず黙ってその様子を見ていた。

すると先ほどまでたまっていた右側にいる緑色の髪の毛をした女性が言った。

「フォレスト王様、今はそこにいる眠り人ついて考えたほうがよろしいのではありませんか?」

「確かにそうだな」

フォレスト王は黒川を見ていった。

「眠り人、お前の話には納得できないところがある、お前は海でおぼれていたといったが確かなのか?」

黒川は心臓が高鳴り体がビクッとしそうになるのをこらえて言った。

「どうしてですか?」

「ファルが襲われたのはここから2時間くらいしか離れていない場所だが、生憎お前の言っている海はないんだ、もちろん湖もだ、どうして海でおぼれたお前が海のないところにいるんだ?」

するとその場にいた全員が黒川を見たので思っていることを言った。

「確かに海に落ちたんですが、他に海に落ちた仲間もいない様子なので何がどうなっているのか私にもわかりません・・・・・」

「判らないといわれてもな」

フォレスト王はそういってため息をついた、黒川は思い切って言った。

「すいませんがフォレスト王様、あなた方も私の言っていることがわからないと思いますが、私もここがどこだがよくわかっていないので私もうまく説明ができません」

フォレスト王は隣にいる黒服の男と何かを話し始め黒川は黙ってその様子をしばらく見ているとフォレスト王の右側にいた髪の毛が緑色をした女がこちらを見て言った。

「眠り人、あなたにお礼を言わせてくだい」

「お礼ですか?」

「あなたが助けたのは私なのです」

「えっ!?」

驚いて思わす声が出てしまった、あの時見たのは小さな泥で汚れた女の子であったが今目の前にいる女の子は別人のようにしっかりとして大人びて見えた。

「あの時はあなたが助けてくれなければ私はコンデ人に人質にされているか殺されていたでしょう、あなたの命を掛けた働きに感謝いたします」

ファルは頭を下げると長い髪がはらはらと下に下りて美しかった、黒川は自分はただ死ぬ前に良い事をして自分を楽にしたかっただけなのだ、なのでお礼を言われるとなんて言えばいいかわからずにただ黙って頭を下げた。

すると後方から扉が閉まる音が聞こえたが黙って前を向いた。

「おう、待っていたぞ、早く持ってこい」

フォレスト王がそういうと背後から人が足早に近づいてくる音が聞こえて黒川の横を通りすぎてフォレスト王の前に向かっていったが、手には何かトレイを持っていて布が掛けられていて何が乗っているのかはわからなかった。

「それが用意しろといっていたものか?」

「はい、ですが乗らないものがありましたので、別の者がまだ運んできます」

そこまでいうと背後の扉が閉じる音が聞こえ走って近づいてくる足音が隣を通りすぎ、通り過ぎた男が持っていたのは黒川が持っていた刀であった。

「それは俺の刀」

黒川が言うとフォレスト王が言った。

「そう、これはお前のもっていたものだ」

刀を持った男がトレイを持った男の隣に立つとトレイの上の布を取るとトレイの上には黒川がコンデ人を殺したときに持っていたものが並べられており、拳銃、ナイフ、財布、携帯電話が目に入った。

「これはお前が倒れたときにもっていたものだがこれは何だ?」

そういって黒川が警察官から奪った拳銃を持った。

「それを持つんじゃない!」

黒川はフォレスト王に向けて叫ぶとバルアートがこちらを向いて飛び掛ってきたので黒川は叫んだ。

「それは危険だ!すぐに置くんだ!」

バルアートが掴みかかってきたので黒川は腕を振り払った。

「やめるんだ!二人とも離れなさい!」

言いながらフォレスト王が拳銃を黒川たちに向けたので黒川は両手を上げるとバルアートに地面に倒され押さえつけられたが言った。

「それは拳銃だ、人に向けて引き金を引いてはいけない」

「これが拳銃か?われわれのものとは随分違うな」

フォレスト王はそういって拳銃を回してじっくりと観察を始めた、見ている黒川は拳銃に安全装置を掛けたか考えたが思い出せずヒヤヒヤしたがすぐにトレイの上に置いてナイフを取った。

「これはナイフか見たことのない鉱石でできているようだな・・・・」

「鉱石・・・?」

代わった言い方をするなと思っているとさらに続けた。

「こっちはギザギザになっているのか・・・・」

ナイフをトレイの上に置くと財布を取り出して中身を探り始めると千円札や硬貨、クレジットカードや車の免許書が置かれるのが見えた。

「人の顔や風景が印刷されているがこれは?」

フォレスト王が千円札を持ってヒラヒラさせて黒川に見せた。

「それは日本の国のお金で千円札です、そちらの硬貨が大きいのが五百円・百円・十円・五円・一円です」

「それぞれ違う材質でできているのか・・・・。それに細かい細工がされているな、高い技術を持っているようだな」

言いながら免許書を一枚一枚めくっていったが興味がないのかすぐにトレイの上に置いて携帯電話をとった。

「これは見たことないな、どうやって使うんだ?」

携帯電話の電源は野々村たちを殺したときは着信があって気が付かれたらまずいと思い電源をオフしていたはずだ。

「電源ボタンを長押ししてください」

黒川が言うとフォレスト王は携帯電話を見ながら言った。

「お前の国の言葉で書いてあるからどれが電源ボタンか判らんぞ、ボタンの場所を言えボタンの!」

フォレスト王と普通に会話ができているが文字は違うらしい。

「説明しにくいので私に操作させてください」

するとフォレスト王の隣にいた黒服の男が口を挟んだ。

「それはいけません、そいつの罠かも知れませんのでバルアートに操作させましょう」

黒服の男はそういうとフォレスト王の持っていた携帯電話をすばやく受け取ると黒川を地面に押さえつけているバルアートに近づいてきてバルアートに携帯電話を無言で差し出すとバルアートは携帯電話を持った。

「爆発したりしないから安心しろ」

黒川が言うとバルアートが立ち上がり黒川を押さえつける力がなくなったので黒川は怪しまれないようにゆっくりと立ち上がり服に付いたゴミを軽く払った。

「どうするんだ?」

すると二つ折りの携帯電話を開けて両手で横に持っていた。

「そこのボタンを長押しするんだ」

黒川は指で示すとバルアートが違うボタンを指差した。

「ここか?」

「その右斜め下のボタンだ」

「これか?」

「あぁ、それを押してくれ」

バルアートが一瞬こちらを見て黙った、爆弾のスイッチだとでも思ったのだろうか?だがこちらを見たのは一瞬ですぐにボタンを押したらしく携帯電話の画面に「HELLO」と表示されてデフォルトのままにしていたので青い画面が現れるのが見えた、まだバッテリーの残量が残っていたようだ。

「すごいな」

バルアートが思わずつぶやいた。

「見せてみるんだ」

黒服が安全そうだと判断したらしく近づいてきてバルアートから携帯電話を受け取ってフォレスト王のところに持っていくと受け取ったフォレスト王が言った。

「なんだこれは、先ほどは黒一色だったのに青く明るいではないか」

そういってフォレスト王は何かボタンを押してどうなるか試しているようで隣の黒服が黒川に言った。

「これは何に使う物なのだ?」

「遠くの人と話をする機械です」

するとフォレスト王が黒服の男を見ていった。

「われわれが使っている通信機とはいろいろ違うな?アラシ」

「そうですね、これは後で調べさせましょう」

「その前に・・・、おい眠り人これで仲間と通信できないのか?」

フォレスト王が言いながら携帯電話を差し出したので黒川が近づいていくとバルアートが前に出て黒川を制止しようとしたがフォレスト王が手でバルアートに動くなと合図をしたのでその場に踏みとどまっているので黒川はフォレスト王に近づいて携帯電話を受け取り待ち受け画面を見て電波を確認したがアンテナにバッテンが付いていて電波は来ていなかった。

「ここでは通信ができないようで無理ですね、それとフォレスト王様、その携帯電話はバッテリーで動いていてなくなりそうなので電源を切っておいてもよろしいですか?」

「しかたないだろう」

そういって黒川は携帯電話の電源を切りフォレスト王に返してバルアートの隣に戻るとため息をついた。

フォレスト王は携帯電話をトレイに置き、刀を手にとって鞘から抜こうとしたがなかなか抜けないようで何度も力を入れて抜こうとした。

「中で引っかかっているようだな、おい警備兵」

すると何所からか警備兵が三人現れてフォレスト王の近くに行くと一人が刀を渡された。

「抜け」

その一言で渡された警備兵が力をこめて鞘から抜くと刃は赤黒くなっており錆か血で赤黒くなっており鞘から抜きにくかったのだろう。

「それは刀といってわれわれの国の昔の兵士が持っていた武器ですが、今はちょっと使えなさそうです」

警備兵が刀を動かして珍しそうに観察していると、ぼろぼろと赤い粉が落ちていった。

「そうか、しまってくれ」

警備兵が刀を鞘に入れてトレイの上に置くと元居た場所に戻って行き黒川の視界から消えてしまった。

「聞きたいことは以上だ、下がってよい」

フォレスト王が言うとバルアートが深々と礼をしたので黒川も礼をするとファルが言った。

「お父様!」

「何だ?」

黒川が思わずファルを見るとファルもこちらを見ていて目が合ってしまったのであわてて頭を下げた。

「その眠り人をどうするつもりですか?」

ファル様が言うとフォレスト王が言った。

「どうなるんだ?アラシ?」」

「はい、眠り人は元いた場所、正確に言えば牢屋に戻されてわれわれの警備兵が尋問を行います」

アラシが淡々といい、それを聞いた黒川は『また牢屋に戻るのか?まぁ、私が何所の人間か判らないんだから当然か』と思い浅くため息をついた。

フォレスト王がアラシの言葉を聞くといった。

「だそうだがなにか問題があるか?」

「お父様、そこの眠り人は私のことを命を掛けて救ってくれた恩人ですよ?恩人を牢屋に入れるのですか?この国はそんなに恩知らずな国なのですか?」

言われたフォレスト王が苦笑いをした。

「どうしたんだい?ファルそんなに怒って?」

「だから今言ったじゃないですか?眠り人を牢屋に入れるのを反対です、それなりのもてなしをしてください」

ファルが言うとすぐにアラシが言った。

「それはできません、名前もわからない、何所の国の人間なのかもわからない、目的もわからないような者ですよ、なにかが盗まれたり殺されたりしたらどうするんですか?眠り人だって別に拷問したり殺したりするわけではありませんし、王族の方々の安全が保障されますから牢屋に戻すのが一番良い方法だと思いますがどうでしょう?」

アラシはフォレスト王に向かっていい、それを聞いたフォレスト王はうなずいていた。

「確かに、身元がわからないといっている人間をもてなすのはアラシの言うとおり危険だ、もし何か起こったらファルお前が責任を取ることができるのか?」

フォレスト王は笑いながら言い、黒川は意地悪だなと思いファルを見ると顔から血の気が引いているのが人目でわかった。

(責任なんか取らない方がいいに決まっている、それにファルはまだ中学生か小学生といった年頃だろう面倒ごとはしないほうがいいからやめておけ)

心の中で思っているとファルがこちらを怯えた目で見て目が合ったので黒川は顔を横に振って合図をした。

こちらを見ていたので確かに伝わっただろうファルは黒川から目を離してフォレスト王を見た。

「私が責任を取りますので、この眠り人を任せてください」

「何を言っているんですか?」

アラシがすぐに止めにかかるとファルが言った。

「私が責任を取るといったんです、お父様それでよろしいのでしょう?」

「本当だな?」

「はい、お父様の名誉に賭けて誓います」

そこでフォレスト王は声を出して笑い始めとなりに居た紫色の髪の毛をした女が立ち上がって必死に叫んだ。

「危険です、王様おやめください、そのようなことをさせるのはファルのためにも良くないと思います」

フォレスト王は紫色の髪の毛をした女に向かって笑いながら言った。

「いいじゃないかアカリ?ファルの決断力には見直したよ、もしかしたら俺以上の大物になるかもしれないな、それに俺の名誉に賭けて誓われてしまったら俺も認めざる終えないだろ?」

「何を言っているんですか?アラシも何か言って頂戴!」

「そうです王様」

ファルが加わり四人で話し合いを始め、黒川はファルの面倒にはなりたくないと思い紫色の髪の毛のアカリといわれた女を応援していた。

バルアートはどうすればいいかわからず黙ってその様子を見ていた。

「どうされましたか?」

背後から扉が開く音と声が同時に聞こえ振り返ると騎士団の隊長のツナトと副隊長のアマリが部下を従えて走ってくるのが見え黒川はまた殴られるのはごめんだと思い両手を挙げて何を持っていないことを示すとアマリが一瞬にして黒川の腕をねじり上げ動けなくなった。

「どうなさいましたか?王様?」

「すまんなツナト、ちょっと議論が白熱をしてしまってな」

フォレスト王の前にいたツナトは黒川を振り返って一目見てからフォレスト王を見ていった。

「とりあえず、この眠り人を牢屋に連れて行きます、議論はその後にしてください」

「でも」

「いいですね、王様」

ファル様が口を挟んだが、ツナトが鋭い声で制した。

するとフォレスト王は苦笑いをしながら言った。

「しかたないな、お前の言う通りにしよう」

ツナトが振り返ると鋭い眼で黒川を睨んで言った。

「面倒は起こすなよ」

すると黒川の背後を見て言った。

「アマリ少しでもへんな真似をしたら容赦せずに殺せ、わかったな」

「判りました」

アマリが耳元で大声で返事をしたため耳が一瞬おかしくなった。

「おら、行くぞ、しっかり歩け」

黒川は腕をねじ上げられて痛みから逃げるように歩き出し、その周りをツナトの部下たちが取り囲みながらこの部屋の開けっ放しになっている扉に向かって歩いていった。

牢屋に戻された黒川はどうすることもできずただ天井の木の板を見つめているとさっきのファル様の幼い顔が頭に浮かび『私が責任を取る』というといった声が頭に響いた。

「私が責任をとるか・・・・、その前にここは何所なんだよ・・・」

黒川は一人つぶやいて目を閉じて、何も考えないようにしてただ時間が過ぎて行くのを待った。



牢屋の中で二回目の食事でパンを食べ終えて石の床で寝ていた。

床が固いために体がこわばってきたのでストレッチをして硬くなった背中や肩を伸ばしてから床に寝転んでいると床の振動で誰かが近づいてくるのを感じて起き上がり通路を見た。

するとバルアートこの前見たときと同じ服を着ていて黒川を見て黙って手に持っていた鍵で牢屋の柵を開けた。

「出るんだ」

黒川は息を吸い込んで残してあった水差しの水を一気に飲んで一息ついてからひざに手を当ててゆっくりと立ち上がった。

「ゆっくりしてるんじゃない!早くしろ」

「うるさいな、疲れてるんだよ」

黒川が面倒だが答えるとバルアートが睨んできた。

「俺もお前なんて連れて行きたくないんだが、ファル様が連れて来いというから仕方なく迎えに来たんだ」

毒づきながら言われて黒川は檻から出た。

「結局あの後どうなったんだ?お前俺が連れて行かれた後もあそこにいたから知ってるんだろ?」

「いいから黙って付いて来い!わかったな!」

バルアートは相当ストレスがたまっているのか黒川に向かって怒鳴ってから歩き出したので黒川は驚いて一瞬黙って立ち尽くしたが置いて行かれないように後についていき階段を上ると光が差し込んできた、どうやら日中見たいだ。

階段を上がり終えると中庭が見え、今度は誰かが散歩しているのが見えた。

(今なら走れば逃げることができるかもしれない・・・、だが逃げた後どうすればいいかが思いつかないし俺は一体どこに逃げればいいんだ?とりあえずここが死後の世界ではなさそうだ)

思わずため息をつくとバルアートが一瞬振り返ったがすぐに前を見えて歩き始めた。

黒川は何か情報を得ようとあたりを見渡してみたが古いヨーロッパの城のようなつくりをしているがなんと言い表せばいいかわからなかった。

しばらく歩いているとバルアートが立派な装飾をされた扉の前で立ち止まり振り返って黒川を見た。

「変な事をしたらわかってるな」

「何がだ?」

「お前が変なマネをしたらお前を殺す許可は得ているということだ」

「あぁ、そんな事か別に構わないよ」

(どうせ拾った命だしな)という言葉は飲み込んだ、バルアートが一瞬黒川を睨んだが前を向いてから扉を開けると中が明るく一瞬目がくらんだ。

すぐに目が慣れてくるとファル様と呼ばれている女の子が部屋の一番奥の銃や剣が飾られている壁の前に置かれている大きな椅子に座っておりその両サイドにメイド服を着た女性が立っていて一人には見覚えがあった。

「入りなさい」

女性の声が聞こえたと思うとバルアートが頭を下げた。

「失礼します」

中に入って行くので後に付いて行くと立ち止まったので黒川も止まった、部屋の中はさすが王の娘の部屋といった感じで高そうなテーブルが左右に並べてありその上には高そうな花瓶や皿が置かれていた。

「眠り人を連れてまいりました」

「よろしい、下がれ」

バルアートは黒川を睨みながら後ろに下がった。

ファルのいる所は黒川が立っている地面より三段高くなっていた。

黒川はファルとメイド達の前に残されてどうすればいいか迷っているとファルが言った。

「眠り人よ、すまなかったな、命の恩人を牢屋に閉じ込めてしまうようなことをして」

「いえ、そんなことはありません」

黒川はすぐに否定するとファルが少し笑った。

「お前はここが何所だかわからないそうだな?」

「はい、私は死に掛けていたので死後の世界という奴かと一瞬思いましたが違うみたいです」

「死後の世界か・・・、なら私は死人か?」

ファルが笑いながら言った。

「いえ、違います」

黒川が生真面目に答えるとファル様の横にいる見覚えのないメイドが小さく笑い出した。

「本当にここが何所だかわからないようだな、だが安心しろお前は私が責任を持って面倒を見ることに決めたからな」

ファルが言うので黒川が言った。

「ファル様」

すると黒川の言葉をさえぎるようにファルが言った。

「もうこれは父親と話し合い決めたことだからお前が今何を言っても変わらないからな」

ファルがまっすぐな目で見てくるので黒川は目をそらした。

「判ったか?」

「はい」

「違う、私の目を見て言うんだ」

黒川はファルの目を見ると赤い瞳が見えた。

「さぁ、言え」

「わかりました、ファル様」

黒川が言うとファルは満足そうな顔をした。

「よし、いいだろう、このリンを覚えているだろう?」

ファル様はそういって左にいたメイドを見た、確かにそのメイドのリンには見覚えがあった。

「俺が人質にした女性だろ、すまなかったな」

黒川は言ったがまだ怯えているようでファルも気づいたようだ。

「リンはお前が眠っている間約一ヶ月間世話をしていたんだ」

「えっ?」

ファル様の言葉で体中に寒気が走った。

「一ヶ月?一ヶ月間俺は眠っていたのですか?」

「そうだ、一ヶ月間リンが世話をしていたんだ」

その後もなにか言っていたが黒川の耳には届いていなかった。

(一ヶ月か・・・、だから体の銃で撃たれたあとは完全にふさがっていたのか、それになんで眠り人と呼ばれているか判らなかったが一ヶ月かも眠っていたからか・・・・)

思わずため息をつくとファルは黒川がどうしてため息をついたか気が付いたようだ。

「そうか、眠っていたから一ヶ月もたったことに気がつかなかったのか?」

「はい・・・・」

少しの間沈黙がながれたが黒川は思い切って言った。

「すいません、ファル様、私に大体のことで良いですからこの国に事を教えてくれませんか?」

「判っている、最初からそのつもりだが、お前のいた国の事も教えてもらうぞ」

「はい、わかりました」

するとファルの隣にいたリンではない年上のメイドの方がファルに耳元で何かささやくとファルがメイドのほうを見て何か言っているが黒川には聞き取ることができなかった。

「眠り人、名前をもう一度言って見よ」

そうだ、なぜか名前が聞き取れていないのではっきりとゆっくり言った。

「黒川雅彰です」

「もう一度だ」

「クロカワマサアキです」

ファル様はメイドの顔を見たがメイドも聞き取れてはいないようで首をかしげた。

「何か言っているのかわかるのだが、うまく聞き取れないな・・・」

ファル様が首をかしげて言うと年上のメイドが言った。

「ですが、いつまでも眠り人と呼ぶわけにも行きませんよ、ファル様」

「しかたない、私が仮の名を決めよう」

すると部屋の天井を眺めながら考え始めた。

(まじかよ、だがここで止めてくれといっても話が進まないので止めないが変な名前だけは勘弁してもらいたい)

黒川は祈っていると一分間くらいたった時に思いついたようにファルが口を開いた。

「そうだ、眠り人お前はこれからはアイトと名乗るんだ」

「アイトですか?」

黒川が思わず言うと隣にいた年上のメイドが注意するように言った。

「ファル様、それは昨日読んでいた本の主人公の名前じゃないですか?」

「いいだろシーヴァ、仮の名なんだし、それにアイトは正義の味方で良い奴だから別にいいじゃないか?なぁリン」

「えっ?」

いきなり話を振られたリンは返答に困ったようだがリンの返事を待たずにファルは黒川を見た。

「これからしばらくの間はアイトと名乗ってくれ」

しかたがないと言うと言葉を飲み込んで黒川は言った。

「判りました」

するとファル様の隣にいたシーヴァが空気を切り替えるようにわざと大声で言った。

「さてと、ファル様、これからはお父様と約束した勉強のお時間ですよ」

「そうだな、アイト、近くに小さい部屋を用意してあるから今日からそこで眠ってくれ、リン、案内してやってくれ、それにアイトにこの国のことを教えるものを向かわせますのでしっかりと話を聞いてくださいね」

「はい、判りました」

リンがそういって黒川に近づいてきた。

「私の後に付いてきてください」

そのまま歩いていくので黒川はファル様を見たがシーヴァというメイドと何か話していたので取り合えず礼をしてから振り返りリンの後を追った。

リンは部屋を出ると左に曲がり5個目の扉の前で立ち止まった。

「ここがあなたの部屋になります」

部屋を開けるので中に入っていくので黒川も中に入るとベットとテーブルとタンスが置かれた7畳くらいの部屋で一番奥の壁には窓があり日差しが差し込んでいた。

「急いで用意したので少し古いものですが、ちゃんと使用できますよ、それとトイレとシャワー室は部屋を出て左に行って突き当たりを右に曲がり一番奥にあります」

「そうか・・・」

黒川は部屋の中に入り薄い毛布が引かれたベットを手で押してみたが少し沈む程度であったが石の床に寝るよりは良さそうだ。

「アイトさん」

黒川は声がしたので振り返ってリンと目が合うと自分はこれからアイトと呼ばれるのを思い出して答えた。

「何ですか?」

「ファル様はあなたを信用しているのかも知れませんけど私やシーヴァはあなたを信用していませんので変な事をすればすぐにバルアートに通報しますのでいいですね?」

黒川がリンの顔を見ると水色の瞳がまっすぐに黒川の目を見ていてその言葉が冗談ではなく本当のことを言っているというのがわかった。

「わかってますよ、小さい子供の気まぐれみたいなものでしょ、それに俺はここが何所だかわからないからどうしようもないからね」

言いながら黒川はベットに座って突っ立っているリンに言った。

「俺は本当に一ヶ月間も眠っていたのか?」

「本当よ、私が世話をしたんだから感謝しなさいよね、それが人質にされるなんて悲しいですわ」

そういって冷たい目で黒川を見た。

「すまなかったな、俺も混乱してたんだ、森の中で倒れていたはずなのに見覚えのないところにいたんだ」

するとリンはそれが本当なのか嘘なのか見破ろうとしているのか黙って黒川の顔を見てきたので耐え切れなくなった黒川は言った。

「それで俺にこの国のことを教えてくれる人は君なのか?」

「私ではありません、バルアートかシーヴァのどちらかになると思います」

「そうか・・・、それと俺の持ち物はどうなるのかな?返してもらえるのか?」

「それも私は知りません、バルアートに聞いてみてください」

リンは愛想なく答えた、どうやら人質にしたことで警戒しているのか恨んでいるのだろう。

「わかったよ、俺はここで誰かが来るのを待っていればいいんだな?」

「そうです、おとなしくしておいてくださいね」

リンは自分の言いたいことを言うとすぐに部屋から出て行ってしまった。

「どうするかな?」

黒川は先ほどまで眠っていたのでベットに横になっても眠れそうになく立ち上がり部屋の中を調べ始めた、窓から外をのぞくと城の外が見え外には家の屋根が見えた。

建物は高くても五階建てくらいの大きさしかなくコンクリートでできているのが見え高層ビルなどひとつもなく遠くまで見渡すことができ、人が歩いているのが見えたがその姿は何所となく日本よりも時代の古さと異国な感じを受けた。

「もしかして俺はタイムスリップしたのか?」

そしたらこの古臭い感じも納得できるし、この国の事だって知らないのは俺が世界史の勉強を真面目にしてこなかったからか・・・・。

だが肩に噛み付いてきた巨大トカゲのコンデ人のことを思い出した。

「タイムスリップはしてないのか?」

答えがでないのでタンスの中を調べて見たが下着と服がそろえて入っていたがサイズがわからないので履ける者なのだろうか、上着を取り出して着ると少し大きめでゆったりしているので動きやすかったが黒川が日本で着ていたものよりは繊維が荒い。

上着をタンスに入れてから部屋を見渡すと電球が天井からぶら下がっていてスイッチを探すと入ってきた扉の隣にスイッチがあったので近づきスイッチを押して電灯を見たが光らなかった。

黒川は接触が悪いのかと思い何回かスイッチを入れたが反応しなかった。

「壊れてるのか?」

すると急にドアが開きぶつかりそうになった黒川は一歩後ろに下がった。

「あら、すいません」

そこにいたのはシーヴァと呼ばれていたメイドの女でその後ろにはバルアートがいた。

「さっそくですが、バルアートがあなたに質問があるみたいですよ」

「俺も聞きたいことがあるから早く始めよう、その前に」

黒川はスイッチを押していった。

「これ点かないんですけど」

するとシーヴァがスイッチを二回オンオフを繰り返してからスイッチがついているパネルをはずして裏の配線を確認するといった。

「どうやら使ってなかったからストーンを入れてなかったみたいですね」

すると背後にいたバルアートが言った。

「俺がひとつ持っているぞ、これを使え」

そういってバルアートは黒川に投げてきたのでキャッチしてまじまじと見た、渡されたものは真っ黒な三センチの正方形の石であった、黒川は石をひっくり返して反対側を見たが特に変化はなかった。

「どうするんだ?これ?」

いうとシーヴァが苦笑いをした。

「なに言ってるんだ、お前?」

バルアートがシーヴァを押しのけて黒川を睨みながら近づいてきたので黒川は言った。

「だから、俺はこれがなんだかわからないからどうすればいいかわからないんだよ!」

怒鳴り返すと今度は二人とも驚きと疑問が混じったような顔をしいてシーヴァが黒川を見た。

「本当にわからないんですか?これは違う国でも使われているものですよ?」

黒川は思わず頭を掻いてしまったが、知らないものはどうしようもない。

「俺のいた国では使っていなかったから、本当にわからないんだ」

「マジかよ」

バルアートが思わずつぶやいた、黒川は手に持っていたストーンを二人に差し出すとシーヴァが受け取って言った。

「これはこうするのよ」

スイッチのパネルの裏を指差したのでそこを見る正方形に何かを取り付けれるようになっていてシーヴァが持っていたストーンを中に取り付けるとぴったりと納まってパネルを閉じた。

「これで灯が点くはずです」

シーヴァがスイッチを押すと灯が点くと同時に黒川は何か重くて黒いものが背中を伝うのを感じて思わず立ちくらみがした。

(どうやら黒川はタイムスリップとかそういう問題ではないみたいだ)

すると黒川の様子がおかしいことに気が付いたバルアートが声を掛けてきた。

「大丈夫か?」

黒川は深呼吸をして心を押しつかせてから答えた。

「いや、今ので大分衝撃を受けたよ」

「別の部屋で質問するから付いてこい」

そういうってバルアートが部屋を出て行くので黒川が後に付いていくと黒川の後ろをシーヴァが付いてきた。

食堂のような広い部屋のテーブルが並べられた場所の片隅に座って話をした。目の前にはバルアートが座りバルアートの隣にシーヴァが座った、バルアートの話によるとここはフォートレーという国で昨日見たフォレスト王が七代目の国王で左右に居た女性が王の四人の娘のうち城内にいるアカリとファルで黒川かが助けたのがファルという一番年下の王の娘であった。

バルアートはシーヴァに地図を持ってくるように言いシーヴァが立ち上がりどこかに行ってしまった。

黒川はシーヴァが地図を取りに行く背中を見てからバルアートに言った。

「なぁ、バルアート、俺の持っていた持ち物は帰ってくるのか?」

「だめだろうな、お前が持っていたのは我々が調べているからあの通信ができる機械は戻ってこないと思ってくれ」

「いや、それはいいんだ、荷物の中にペンダントがあったら返してもらえないか?」

「どうしてだ?」

するとバルアートが黒川を見て睨んだので黒川は慌てていった。

「いや、怪しいことはないんだ、その中に俺の家族の写真が入っているんだ、それだけは返してもらえないか?」

「写真とは何だ?」

すると黒川は周りを見ると額に入った絵が飾られていたのでそれを指差した。

「家族が写った絵の精密なものだよ」

「じゃぁ、お前はその日本の王家か貴族の者なのか?」

「どうしてそんなことになるんだ?」

黒川が首をかしげながら聞くとバルアートが言った。

「絵なんか描いてもらえるのはどこかの貴族が王家だけだからな?違うのか?」

「いいや、日本ではそんな特別なことじゃないんだよ、誰だって持っているものなさ」

するとシーヴァが巻物を持ち、その隣に小さな帽子を深くかぶった子供が銀色のトレイにコップとポットを倒さないように運んでくるのが見え、バルアートも黒川の視線の動きが気になったのかシーヴァのほうを見た。

「くそ、またあのガキか」

黒川がどういうことだという前にシーヴァがやってきて巻物をテーブルの上に置き、その隣に帽子の子供がトレイをテーブルに置くとバルアートが言った。

「どうしたんだ、その子供は?」

「アイトのことを言ったら話が聞いて見たいといって付いてきたのよ、いいでしょバルアート?」

そういってシーヴァはバルアートの肩に手を置いて微笑んだ、するとバルアートは顔を少し赤くした。

「シーヴァが言うならいいだろう、だけどおとなしくしてるんだぞ」

「わかってるよ」

帽子をかぶった子供は返事をしながらポットの中の水をコップに入れると自分のコップを持ってなぜか黒川の隣に座った。

(なんで俺の隣に座ったんだこいつ、シーヴァの隣に行けよ)

黒川が子供を見ていると急にこちらを向いて子供が言った。

「おじさんがアイトでファル様を助けた人なの?」

黒川が思わず固まるとシーヴァが言った。

「そうよ、この人がアイトさんでファル様を助けた人よ」

(そうだ、俺はここではアイトという名前になったんだ)

「誰に俺の名前がアイトとだと聞いたんだ?」

いいながら睨むと帽子の子供はシーヴァを見たので黒川もシーヴァを見るとシーヴァは平然として黒川に言った。

「私が言いましたが何かまずかったですか?」

「いや、ついさっき名前を決めてもらったばかりなのにどうしてこの子供が知っているかと思っただけだ、そんなことよりも持ってきた地図を見せてくれないか?」

すると帽子の子供がシーヴァが運んできた巻物を机の上に広げた。

「何所なの?アイトがいた国は?」

黒川はその地図を見て思わず固まって血の気が引き背中に悪寒が走った。

「・・・・・・」

「・・・・・・・」

何か周りで言っているがぜんぜん頭に入ってこない、そこに書かれている地図は小学生か中学生の時に読んだファンタジーかSFの小説の最初についている地図のようなもので黒川が知っている世界地図とは明らかに大陸の形が違う。

それに地図には城の絵が数個かかれていたり大きな湖が書かれていて黒川には読めない字で何かが書かれている。

すると肩を触られて黒川は驚いてそちらを見ると黒川の反応で驚いた帽子の子供が眼を丸くしていた。

「大丈夫?アイト?」

子供が黒川の方をさすりながら心配そうに言ってきたが、全然大丈夫でない。

「あぁーくそ」

思わず汚い言葉を口走っていた、人を殺した人間は天国にはいけず地獄に落ちると聞いたことがあったがここはどちらでもない。

「どうした?説明しろ!」

バルアートが黒川の異変を感じとり怒鳴るようにいい部屋の中に響き周りで立ち話をしたり掃除をしていた人が振り返りこちらを見たが、バルアートは気にせずに黒川の肩を揺らしながら更に言った。

「どうしたんだ!おい!」

黒川はうつろな目をしながらシーヴァを見た。

「これは世界地図なのか?」

思わず睨んでいたのかシーヴァは黒川を怯えた目で恐る恐る口を開いた。

「世界地図?これは今わかっている範囲の国が書かれた地図ですが、世界地図とは何ですか?」

動揺してまずい言葉を口走ったようだ、シーヴァの言葉でバルアートや帽子の子供も気が付いたようで黒川を見ていった。

「どういうことなんだ、アイト?」

「それはだな・・・」

頭をフル回転させて言い訳を考え、できるだけ平然とした表情を作り落ち着いて答えた。

「もっと大きい範囲を示している地図だ、だがこの地図じゃ俺の居た国の場所すらわからないぞ」

するとバルアートが黒川を睨んで言った。

「お前そもそも船に乗っていたといったが本当なのか?王様はお前の説明を聞いて何か考えていたようだが、お前嘘をついてないか?」

「俺だってどうしてあの場所に居たのか知りたいぐらいなんだ」

黒川はわざとため息をついてアルバートの質問をはぐらかして言った。

「わけが判らん、俺は一体どうなったんだ?」

みんな黙ってしまい会話が続かなくなってしまった、すると突然背後から声が聞こえた。

「おい、どうしたんだ?みんな黙ってしまって?」

「おぉカズ、厨房にいなくていいのか?」

バルアートが手を上げて挨拶したので、黒川がそちらを見ると背が高い少し太った男が近づいてきて、その顔には汗と油で光っていて黒川を見た。

「お前が眠り人か?」

「違うよ、アイトだよ」

帽子の子供が怒ったように言った。

「ごめんよ、坊や、だが一目見ておきたいと思ってな、それにほらこれ」

そういって紙袋を黒川に差し出した。

「お前のところに俺の作ったパンを持っていこうと思っていたところだったんだが、ちょうどここにいたんでな、うまいからちゃんと食えよ」

そういってカズが部屋から出て行ってしまうとシーヴァが言った。

「どうします?これから」

「こいつも混乱しているようだから終わりにしてやる、だが明日は朝からきっちりと質問に答えてもらうからな」

するとバルアートは立ち上がった。

「シーヴァ、そいつにこの城の案内をしてくれないか?俺にはファル様の警備で仕事が残ってるんだ、こいつに構ってられない」

「わかったわ、バルアート」

隣にいる帽子を被った子供がシーヴァを見た。

「ねぇ、僕も付いていっていい?」

シーヴァは微笑みながら帽子の子供を見た。

「いいわよ」

「やった!」

シーヴァにいいと言われてうれしかったのか帽子をかぶった子供は跳ねるように椅子から降りて黒川を見た。

「早く行こう!」

黒川は子供に向かって言った、黒川は子供に聞いた。

「お前名前は?」

「僕はルドルだよ、よろしく」

といって黒川のことを満面の笑みで見てきたが黒川はシーヴァを見ていった。

「君の子供?」

するとシーヴァは顔を赤くしたがルドルを見て笑った。

「違いますよ、この城で働いている人の子供ですよ」

何で顔を赤くしたのか気になったが、言葉を発するより前にルドルが黒川の手を掴んで引っ張った。

「早く行こうよ!」

「わかったから引っ張るなよ」

黒川は面倒くさがりながら立ち上がるとシーヴァがみんなが飲んだコップをトレイの上に片付けていたので黒川は自分の目の前に置かれているコップの中の水を一気に飲んでトレイの上に置き地図を持ちまじまじと見た、だがいくら見ても見覚えのない地形であった。

さっきは黒川が期待していた世界地図ではなくて動揺してしまったが黒川が野々村たちを殺したN県の地形かもしれないと思いしっかりと見たが、ピンと来るような場所はなかった。

「ちょっと急ぎすぎなんじゃないですか?」

「えっ」

シーヴァの声が聞こえたのでシーヴァを見た。

「アイトは一ヶ月くらいずっとベットの上で眠っていたんですよ、すぐに思い出せない事だってありますよ」

そういって黒川を安心させるためにワザと微笑んだのだろうが黒川も笑い返してごまかした、すべてわかっているのだが、どう説明していいのか判らない。

「その地図はアイトさんが持ってていいですよ、この国のことがわからないみたいですからそれで勉強してください」

「いや、そうしたいがこの地図に書いてある文字が読めないんだ」

ルドルが黒川の手を引っ張ったので見ると首をかしげて言った。

「会話はできるのに字は読めないの?」

「どうやらそうみたいだ」

するとシーヴァが困ったような顔をした。

「ならその地図を持っていても読めないなら意味がないわね」

「僕が教えてあげるよ」

ルドルがそういってシーヴァの手を引っ張るとシーヴァは困ったような顔をした。

「どうしようかな?」

シーヴァが黒川を見た、どうやら黒川に決めさせようということらしいのでいった。

「俺も教えてもらいたい」

ガキならバルアートやシーヴァと話しているよりも情報を引き出しやすそうだし、黒川が間違えて変なことを言ってもガキならごまかせるだろう。

「でしょ、ほらアイトがそういっているんだからいいでしょ?」

ルドルはいいながらシーヴァのメイド服のエプロンを掴んで何回も引っ張って揺らした。

「わかりました、でもアイトには余計なことは教えないでくださいね」

厳しい顔をしてシーヴァは黒川のことを一瞬見てからルドルに言ったので黒川は思わず苦笑いをするとルドルがシーヴァを見た。

「そんなことしないよ」

怒ったのかそういって部屋の扉に走って行き、シーヴァ立ち上がり歩いていくので黒川もカズが持ってきたパンの袋を持ってシーヴァの後に付いていった。



食堂のような部屋を出たあとは歩きながらシーヴァとルドルが城を案内してくれたが、すべてではなく、案内というよりは城の中の立ち入っていい場所と立ち入り禁止の場所を教えられただけだ。

しかも立ち入っていいといわれた場所は一階の中に中庭と共同のトイレと風呂とバルアートに尋問された食堂だけが自由に行き来できる場所だといわれそれ以外は一人での立ち入りは禁止されてしまった。

ルドルが「案内するほど場所がないじゃないか」と怒り出したのでシーヴァがなだめているのを見ていた。

案内は十分で終わり他の仕事があるシーヴァと分かれて黒川は与えられた部屋に戻るとルドルが付いてきて椅子に座ると机の上で地図を開いて地名を一つずつ示しながら読み始めた、どうやら黒川に教えるつもりのようなので黒川はもう一つ空いている椅子に座った、まったく読めない文字に読み方を言われたところでまったく頭に入ってこなかったがルドルが何回も繰り返して言うので少し地名を覚え、ルドルが指を刺した地名を二個言い当てるとルドルは満足したようにうなずいた。

「明日は僕が昔使ってた教科書を持ってきてあげるからそれで勉強しよう」

といって黒川を見て笑い、黒川は内心(俺はこのガキ以下かよ)と思い苦笑いをするとそれがOKの返事だと思ったらしく喜んでカズからもらったパンを取り出して二つに割って一つを黒川に向けて差し出した。

「はい、アイトの分」

元々俺のものだろと思いながらも受け取ってパンを一口かじるとフランスパンのように固かったがなかなかうまくてルドルのほうを見ると眉間に皺を寄せて噛付いていた。

「おいしいけど、何かいつもと違うな」

「十分おいしいと思うがな」

そういって会話をしているとだんだんと気持ちのいい天気と温度で眠気がしてきたルドルを見るとルドルは眠たいのか瞼が落ちかけていた。

黒川は気分を変えるために窓を開けて机に座るとすでにルドルは完全に眠っていて寝息を立てていた。

黒川はここに来て怒った事を整理しようと目をつぶって考えた。

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