飲み会、宴会承ります

如月灯名

第1話

「しっかし、あっついなぁ~……」


私、木佐木 鞠は、暑さに耐えかねて上着を脱いだ。


今日は酷暑だって朝の天気予報で言っていたことを、もう一日が終わりそうな夕方になんて思い出している。


だって、仕事場はクーラーをかけてあるから。


さっきまでいた仕事場のことを思い浮かべて、顔をしかめた。


ちょいちょい嫌なことはあるが、今日は何時にも増して嫌すぎることがあったため、思い浮かべるだけでも何だかテンションが下がる。


「家に帰ったら、もわぁってなりそうだわ……」


留守宅の密閉された室内は、きっとすんごいことになっているだろうと思われる。


私は一瞬だけ立ち止まって考え、何処かで一息ついてから家に帰ることにした。


カフェ、居酒屋、ファミレス…………


頭の中に知っているお店を思い浮かべる。


しかし、ここに行きたい!という気持ちになれるような場所がない。


「……知らないお店とか入ってみるのも面白そうだよね。」


小さく呟きながら辺りを見回してみる。


怪しげなお店は危険なので入りたくないが、そう言っていると何時ものお店に行くしかないような気もする。


しばらくキョロキョロしながら歩いてみたが、どの店にも決めることができないで目の前にはコンビニしかなくなってしまった。


やっぱり、行き慣れた店に行くしかないようだと大きな溜め息を吐いてからUターンして歩き出す。


……と、異様に響くヒールの音。


私は、トンネルの中を歩いているような感覚に驚いて辺りを見回した。


先程と変わらない風景。


どうやら、私の気のせいだったようだ。


それから、しばらく歩いて『居酒屋 蒼海』


の青い暖簾をくぐった。


「へい、らっしゃいませぇ~!」


店に入った途端、威勢の良い声が響いてくる。


その声に会釈をしようと目を向けて、目を剥いた。


そこに居たのは、見慣れた店員ではなかったのだ。


声の主は金髪短髪で碧眼の少年だった。


その横をジョッキを運ぶ白髪ロングの髪を一つに束ねた色白な青年が通り過ぎ、奥の厨房にいる人は黒髪短髪で肌も黒い。


お店を間違えたのだろうか?と思ったが、その人たちが着ている服はやはり『蒼海』でいつも見る制服で、青い浴衣のようなものだ。


外国人ばかりを雇うようになったのだろうか?つい数日前に来たときには、日本人の店員ばかりだったのにいきなりこれは有り得るのだろうか?


驚きすぎてその場から動けないでいると、金髪の少年がこちらへやって来た。


「いらっしゃいませ!お一人ですか?カウンター席、座敷席どちらになさいますか?」


「え、あ、はい。お一人、です!座敷席に。」


まるで、私の方が外国からやって来たかのように片言になってしまっている。


「では、こちらへどうぞ!」


案内されながら、他の客を見てみる。


客も国際色豊か…………


普段、ほとんど仕事帰りのサラリーマンとかOLばかりなのに、今日は色んな髪色、色んな肌の色、色んな目の色の人たちがごっちゃ混ぜで楽しく飲んで語らっている。


その様子に、私は言葉は通じあっているのだろうかとか考えてしまう。





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