もう1人の幼馴染の話
ナズ森
第1話小学六年生
小6の春、これ以上ないほど最悪のタイミングで父さんの転勤で隣町の小学校に転校することになった。仲の良いやつらと、一緒に卒業式に出られないのは正直寂しかったけど、もう仕方のないことだ。おれは、新しい学校でも頑張る。そうだ。くよくよしてても始まらない。大好きな美代ちゃんにはフラれたけど、また好きな子できるといいな。友達も、良いやつらがいるといいな。
「今日から、みんなと一緒に勉強することになった、堀内義史くんです。堀内くん、自己紹介してもらえるかな?」
始業式の日、見慣れない教室にいる見慣れないクラスメイトをぐるっと見渡し、おれは出来るだけ大きくて明るい声を出した。父さんからのアドバイスだ。人間、第一印象が大事らしい。
「山海小から来ました、堀内義史です!勉強は苦手だけど、バスケが好きです!よろしくお願いします!!」
最後はとびっきりの笑顔。これが一番重要らしい。
「はーい」「よろしくね!」「バスケやろーぜ」「仲良くしようねー」
ぱちぱちと拍手とともにみんなから歓迎の言葉が向けられた。なんだ、良かった。すっげーいいクラスじゃん!おれ、これなら大丈夫かも!
「じゃあ堀内くんの席は、窓側の、一番後ろの席ね」
「はい!」
すげー。テレビとかでよく見るのとおんなじだ。本当に転校生はこの席なんだな。
移動中、クラス中の視線を感じながら指定された席に座る。えっと…隣の席のやつは…。
「羽澄くん、堀内くんに色々教えてあげてね!」
「はい」
「はずみ?下の名前はなんてーの?」
「嘉」
「ひろか!ひろ、よろしくな!」
「あぁ…うん、よろしく」
はずみひろ、か。男だよな?すげー可愛い顔してるけど、ズボン履いてるし。よし、まずは友達一号だ!
「なあなあ、山海小ってどんなとこ?」「うーんそうだなーこえー先生がいっぱいいた!」「まじかよ!」「でもね、うちの先生も結構怖いんだよ〜」「へえ〜そうなのか?」「そうだよ!怒るとね、こ〜〜んな顔するの!」「あはは!こえー!」
休み時間になると、おれは席を立つことが出来なかった。みんながおれの席に集まって、質問責めになるからだ。まあ、悪い気はしない。
「なあ、昼休みはバスケしよーぜ!」「おっ、やるやる!」
ただ…ひろとまだ一回も話せてないんだよな。それがちょっと気がかりだったり。でもまだ時間はあるし、大丈夫だよな?
……とかなんとかいってるうちに放課後になってしまった…。なんでだ!隣の席なのに全然関わり持ててないって逆にすごい気がする。明日こそは話したいな。一号って決めたからにはぜってー友達になってやる。
そんな強い意志を固めたおれは、職員室で先生から色んな書類を貰って、家に帰るため朝来た道を戻る。戻る。戻るだけだ。戻るだけだけど。
「やべぇ…ここさっきも通った気がする…」
なんてことだ、これじゃ迷い子だ。いや、おれは迷い子じゃない!家までの道を忘れただけだ!迷い子じゃない!
「でもここどこ!」
「なにしてんの」
「うわああ!?」
ガッデム!となってたとこに突然声をかけてきたのはなんとひろだった。ランドセルを背負ったまま、不思議そうにおれを見ている。あ、なんかちょっと可愛い…じゃなくて!
「ひろこそ、まだ帰ってなかったのかよ」
「学校に忘れ物したからとりきた」
「ああ…そうなんだ」
「うん」
「…」
「…」
沈黙。なんていうか、こいつ大人しいやつだな。全然喋んねーし。話しかけたら、まあ、話す感じ?おれとしては物足りない気がしなくもないけど…。
「……学校、一緒にくる?」
「え?おれ忘れ物してねーけど?」
「そうじゃなくて…」
なんだ?変なやつだな。
やっと話かけてきたかと思ったら変なこと言うし、俯いて変な顔してるし、わけがわからん。
「……………るよ」
「えっ?なに?聞こえなかった」
「……だから!先生に住所聞いて、おれが送ってやるって言ってんの!」
「うおおっ!?」
こいつ、こんな大声だせるのか!?はあはあと息きれて顔真っ赤だけど……でも、そっか。なーんだ。
「おまえ、いいやつだな!」
「は?」
「さっすがおれの友達一号!頼りにしてるぜ!」
「なに?話が見えない……っておい!ひっぱるなよ!」
おれはぐいぐいひろの手を握って走った。嬉しくてたまらない。優しくされたこともそうだけど、なによりひろと話せたことが、嬉しくしょうがないんだ。
「ひゃっほーい!」
「おまえうるさい!」
その後、結局すごい勢いで迷ったおれはひろに怒られた。でも、学校につきひろの忘れ物を取ったあと、先生に事情を説明して、ひろの案内で無事家にたどり着くことができた。並んで歩いたその帰り道、おれたちはたくさん話をした。おれは、また明日ひろに学校で会えることが、楽しみでしかたない。
「おはよう!」
朝、教室の入り口でクラスに挨拶しながら入る。
「おはよう!」「堀内くんおはよー」「義史!昨日のお笑い見た!?」
すると思いの外反応してくれるやつらがたくさんいた。やっぱこのクラス良い。
「見た見た!面白かったよな!ひろ、おはよう!」
ランドセルをロッカーにしまって、席に座る。すでに席で本を読んでたひろにも声をかけた。
「…おはよ」
本からちらっと顔をあげておれを見たあと、小さな声でそういい、またすぐ本に目を向けてしまう。ええ〜〜嘘だろ〜〜。
「おまえ、元気ないの?」
「…別に」
冷たい!なんか昨日と雰囲気違う気がする!
「堀内やめとけ。羽澄はいっつもこんなんだから。」「そーそー、つまんねーんだよなー」
さらに何か言おうとしたとき、他の奴らが声を挟んできた。正直名前も知らない。
「こんなんって?」
「なんつーか…暗いんだよな!」
「……はあ?」
本人の前でそんなことを堂々と言うこいつにも呆れたが、「たしかに〜」と頷く周りのやつらにも呆れる。こいつらはほんとのひろを知らない。この学校は2年ごとのクラス替えらしいけど、1年で気づかなかったのか?
「ひろは暗くないし、つまんなくもないよ」
「そうかあ?おれらそうは思わないけど」
「うるさい!ひろはおれの友達だ!友達を悪く言うなよ!」
しまったと思ったときにはもう遅い。クラスの時間が止まったみたいに静かになり、一瞬であたりに張り詰めた空気が漂った。
怒鳴るつもりなんてなかったのに。しかも2日目だぞ。どうすんだ。
「やっと静かになった」
その沈黙を破ったのは、変わった色の髪をした男子だった。白髪?あいつ、この歳で白髪なの?
「おまえら朝からうるさい。あと、ひろを悪く言うなって何度言えば分かるの。頭悪いね」
外人みたいな顔したそいつは、綺麗な見た目とは裏腹な、きつい言葉をさっきのやつらに放った。遠くから、「白咲くんだ〜」と嬉しそうな女子たちの声が聞こえてくる。
「…で?謝るの?」
腕を組んだポーズはさながらモデル。でも声は本当に冷たい。鬼か、こいつは。
「……ごめん」「悪かったよ」
「…気にしてない」
なんとか収まったみたいでほっとする。まだムカムカするけど、ひろ本人が許してるから、おれは何も言えない。
クラスもまた何事もなかったかのように騒がしくなっている。
白髪くんもいつの間にかいなくなってるし。ひろも、あんなことがあったのに、本当に気にしてない様子でまた本を読み始めていた。こういうやつのことを鉄のメンタルって言うのか?
「……おれ、おまえの友達だったの?」
そのときおもむろに小さく口が開いて、ひろがおれに聞いてきた。目線は本のままだけど。
「そう!昨日言っただろ?おまえは、おれの友達一号だって!」
胸を張って言う。大事な友達だ。
「………ふーん」
興味なさそうに呟いて、ひろは本で顔を隠してしまった。謎だ。ほんとにこいつは、謎だ。
「ところでさ、さっきのやつ。ひろの友達?」
「……ああ、檬架?うん、ていうか、幼馴染」
白髪くん、もかっていうのか!シャ、シャレオツだぜ…。
「ふっ、ふははは」
「…こわ、なに笑ってんの」
友達の友達はおれの友達。ちょっとこえーけど、ひろの友達ならぜってーいいやつに決まってる!
「ひろ!おれ決めたぜ!」
「うわっ、ちょっとなに!?」
ひろの肩をがっしり掴んでおれは声高々に宣言した。
「もかを友達二号にする!」
どうやらもかは、白咲檬架という名前みたいだ。朝はなぜかおれらのクラスにいたが、本当は隣のクラスだったらしい。その見た目から、女子に人気で、学年で知らないやつはいないと言う。
「すげーんだな、檬架」
「馴れ馴れしいよ、おまえ」
放課後、おれはひろの家にいた。一日中頼みこんで、家に来させてもらったんだ。
ひろともかは家が隣同士で、放課後はほとんど、ひろの家で過ごすらしい。そうと聞けばやることはひとつだろう。
「ていうかひろの部屋広いな〜〜ベットもふかふかだし!」
「おまえ、宿題やるんじゃなかったのかよ」
「あー!檬架!おれの名前教えただろー!?よしふみ!堀内義史だよ!」
「だからなに。宿題やるのが約束だったんだろ」
「うぐ……っ」
正論だ。たしかにおれは、ひろと「宿題やるならいい」と約束した。でも、そんなひろといえば…。
「あ、死んだ」
絶賛赤服ヒゲオヤジを操作中である。
「おまえら、いっつもこんな感じなの?」
「こんな感じって」
「だから、もかは宿題、ひろはゲーム。お互い別々のことして楽しい?」
素朴な疑問だった。普通、学校が終わって友達といたら、サッカーしたり、ゲームしたり、おやつ食べたりして遊ぶだろ?
ところがこいつらときたら部屋でダラダラするだけ!会話無し!
「楽しいとかじゃなくて、これがおれたちの普通」
檬架はさらっと答えて、また宿題をやり始めた。
「考えたことなかった」
ひろもコントローラーの手を休めることなく言い放つ。
こいつら、熟年夫婦みたいな雰囲気だしやがって…まだはえーだろーが…。
「でもさでもさ!たまにはパーッ!としたくならね?」
「「ならない」」
「あぁ!!仲良いなくそ!!」
おれの空回り感半端ない。
でも…冷たくあしらわれるし、友達らしいことひとつもしてないけど、受け入れられてるのは感じるんだよな。結局、こいつらは人がいいんだ。おれにはわかる。何も言わないし、反応も薄いけど、認められてる…と思う!よし!なんか元気でた!
「宿題終わったら、3人でゲームしようぜ!」
「テンションうざい」
「すぐ死にそう」
……多分。
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