アクスカリバーTD
デバスズメ
WAVE0:チュートリアル
「あーまずい、完全に迷った」
田舎に引っ越してきたばかりの僕は、家から少し離れた森の中で完全に迷子になっていた。もうどれだけ迷ったか分からない。とりあえずまだ日は高いけど……。
「ん?なんだあれ?」
僕の目に止まったのは、古い切り株だ。それも、とんでもなく大きい。テーブルみたいな大きさだ。そして、そこに白銀に輝く斧が刺さっている。
僕はそれに吸い寄せられるように近づいて、そして斧の柄を掴み、引っこ抜いた。
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「おお!予言の通りや!聖なる斧を通じて、異世界から勇者様がおいでなすったでー!」
「「「「ウオオーッ!勇者!勇者!勇者!勇者!」」」」
「……え?」
僕はいきなり屈強な男たちに取り囲まれた。全員が全員、チェックのシャツを着て、オーバーオールを履いていて、斧を持っている。間違いなく木こりだ。
「おお、勇者様!どうか我々、ランバージャック王国をお救いくだされ!!」
「僕が、勇者?というか、ここはどこ?ランバージャック王国って?」
何が何だかどうすればいいかとうろたえていた、その時だ。
ブオオーッ!!笛の音が轟いた!
「敵襲やーっ!!」
遠く見張り台から声が聞こえる。
「敵襲や!」「敵襲やで!」「ほな行くぞ!」
屈強な男たちは斧を手に持ち、一目散に駆けていく。
「さ、勇者様も行きましょか!」
一人取り残された僕に、陽気な声の年老いた木こりが声をかけてきた。
「いやいや待ってよ!勇者って何?僕まだ15歳だよ!」
「なんや、もう大人やないですか。ま、いうても勇者様が怪物を直接しばき倒すちゃうんで。安心したってな」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
「ま、詳し話は見張り台に行ってからや。ささ、行きましょ!」
「いやいやいやいや……」
僕は年老いた木こりに釣れられ、強引に見張り台へと案内された。
見張り台から周りを見渡すと、この城が山の上に立っていることがわかる。山は豊かな森林で覆われ、城下町には多くの木の家が立ち並ぶ。
「あれがワシらの宿敵、魔物軍や」
年老いた木こりが麓を指差す。見ると、棍棒を持ったゴブリンやら巨大な斧を持ったトロールやらが登山道に向かって来ている。
「奴らは数日に一度、この城を奪おうと軍隊を仕掛けてきよります。ワシらはこの城と、そして森を守るため、戦っとるっちゅーわけや」
城の入り口を見ると、斧を持った屈強な男たちがガッツリと構えている。男たちは手に手に自慢の斧を持ち、赤チェックシャツとオーバーオールで武装した、バトル木こり達である。
「申し遅れましたがワシは、勇者様のサポートを勤めさせていただくサポジイっちゅーもんや。よろしゅうな」
老いてなお屈強な男があいさつする。
「ほんで、勇者様のお役目やけど、アクスカリバーでご先祖様を呼び出していただきます」
「アクスカリバー?」
「勇者様が手に持ってる斧のことや。聖なる斧、聖斧アクスカリバーやで。覚えたってな」
手に持つ斧、つまりはアクスカリバーをまじまじと見ると、どことなく聖なるもののような気がしてきた。なんというか、輝きが魔力あるというか。
「どや?ただモンやない斧やろ?アクスカリバーは選ばれたモンしか使えんのや。それが勇者様っちゅーわけやな。さあ、勇者様が感じるワシらのご先祖様の姿をイメージするんや」
「あ、ああ……」
イメージするって言ったって、木こりのご先祖様ってことは木こりだろうし……。
「こう、かな?」
木こりを強く念じると、山道の中腹に木こりの幽霊が5体現れたのだ!
「おお、さすが勇者様!ええセンスやで!」
「えへへ、そうかな」
サポジイはゴキゲンだ。僕もちょっとだけ調子に乗せられた。
「あれはバトル木こりのご先祖様やな。ほんで、ご先祖様が戦ってくれるっちゅーことは、ワシらの木こり達が怪我せんでもええっちゅーことやからな」
「ご先祖様にそんなことさせていいの!?」
「ええに決まっとるやないですか!ご先祖様かて戦いたくてウズウズしとるんやで」
木こりの幽霊たちを見る。
「やったるわーっ!」「たたっ斬ったるでーっ!」
……確かにやる気にあふれているようにみえる。
「さあ!ご先祖様の活躍をご覧あれ!最初に来るのはゴブリンが5体。敵も一気に進軍してくるわけやないで。ここはお互いに小手調べっちゅーわけや」
ブオオーッ!ブオオーッ!
魔王軍の笛が鳴る!
◆WAVE0-1 START!◆
ゴブリン5匹は山道を登ってくる。何度かの折り返しを経て、バトル木こり達のもとにたどり着く。
「「「「「「やったるわーっ!」」」」」
バトル木こりとゴブリンの戦闘が始まった!
「「「グギャーッ!」」」
3体のゴブリンが直撃を受けて霧となって消滅!
「「「「「「やったるわーっ!」」」」」
バトル木こりが更に攻撃!
「「グギャーッ!」」
2体のゴブリンが直撃を受けて霧となって消滅!
◆WAVE0-1 CLEAR!◆
ご先祖様木こりはいとも簡単にゴブリンたちをやっつけた!
「さすが、勇者様が呼んだご先祖様や!アッパレやで!」
なんだかだんだん楽しくなってきた。
「さあて、次の部隊が来るで!」
麓を見ると、さっきより数が多い。
「7匹いる」
「せや。しかも2体はトロールちゅーて、ゴブリンよりもごっつい奴や。いくらご先祖様が元気ゆーても、かなわんやろな」
「ええ!?それじゃあこっちまで来ちゃうじゃないか!?」
「心配あらんがな。今こそアクスカリバーの力を使うときや。ええか?小ぶりな片手斧を持った木こりをイメージするんや。さっきみたいなご先祖様とちゃう、もっと身軽なご先祖様や」
「うーん……」
サポジイの言葉に従って、小ぶりな斧を持つ木こりをイメージする。すると、青いチャックのトマホーク木こりの幽霊が5体現れた!
「すんばらしい!彼らはトマホーク、つまり手投げ斧を使うんや。山道を登ってくる怪物どもに、必殺の一撃をおみまいするっちゅーわけや。試しに山道の入口付近に配置してみましょか」
サポジイの言うとおりに念じると、トマホーク木こり達は山道の入口付近に移動した。
「ええ感じの位置や!さあ、手投げ斧部隊の活躍をご覧あれ!」
サポジイが言うが早いか、敵の部隊が山道を登り始めた!
◆WAVE0-2 START!◆
「「「「「かましたるーっ!」」」」」
5人の手投げ斧が同時に放たれた!
「「グギャーッ!」」
3本の手投げ斧がゴブリンにヒット!3体のゴブリンが消滅!
「ゴゥッ!」
2本の手投げ斧がトロールにヒット!1体のトロールが消滅!
手投げ斧部隊を突破したのは2体のゴブリンと1体のトロール!
「「「「「ほなさいなら」」」」」
手投げ斧部隊は斧を投げ終えると一時撤退。生き残ったモンスターは参道を登り続ける。待ち構えるのはバトル木こり達だ!
「「「「「「やったるわーっ!」」」」」
バトル木こりがゴブリンに攻撃!!
「「「グギャーッ!」」」
2体のゴブリンが攻撃を受けて霧となって消滅!
「「「「「「やったるわーっ!」」」」」
バトル木こりがトロールに攻撃!
「ゴワーッ!」
1体のトロールが攻撃を受けて霧となって消滅!
◆WAVE0-2 CLEAR!◆
見えているモンスターは全滅!
「「「「「ウオオーッ!勇者!勇者!勇者!勇者!」」」」」
木こり達の勝鬨の声が山にこだまする!
◆WAVE0 ALL CLEAR!◆
「どや?手投げ斧は強いやろ!」
「うん、でも……」
「ああ、心配せんでもええ。手投げ斧は強力やけど、1度攻撃すると、しばらく次の攻撃ができへんのや。時間が来ればほれ、見てみい」
参道の入口を見ると、再びトマホーク木こり達が構えていた。消えてしまったわけではないとわかって安心した。
「それから、バトル木こりも注意せんとアカンで。あんまり長い時間戦ってるとやられてもうて復活待ちになるさかいな」
バトル木こりたちを見ると、かなり疲れているようにみえる。今回の戦いもギリギリだったのかもしれない。
「まあ、これでしばらくは怪物ども来ないやろ」
「本当に?」
「はい……とはいいましても、また数日後にはやって来るやろ思います。けど、心配あらへん。損時はまた勇者様にお助けお願いします」
「ええ……」
「そんなこと言わんといてーな。ほれ、見てみい。みんな勇者様に感謝しとるんや」
いつの間にか見張り台の周りにはたくさんの木こり達や子どもたちが集まっていた。
「これで明日も働けるでー!」
「勇者様ありがとー!」
各々が笑顔だ。
「勇者様が来よるまで、ワシらはずっとご先祖様の力に頼らんと戦ってきたんや。せやけど、戦いばっかしとったらみんな疲れてしもて、もうだめかと思っとったんですわ」
「あ!」
僕は唐突に思い出した。
「どないしました?勇者様」
「僕、森で迷ってたんだ。早く家に帰らなきゃ」
とはいえ、どうやって元の世界に?
「お帰りでしたら、またアクスカリバーを切り株に突っ込めばええ」
「え!?そんな簡単に帰れるの!?」
「はい、アクスカリバーに選ばれたものは、いつでも何度でも、行ったり来たりできますさかい。せやから、どうかお願いします。また何日かしたら来てくれへんやろか?」
「うーん」
「頼んます!このとーりや!みんな勇者様を頼りにしてますねん!」
「僕を、頼りに……」
ちょっと悩んだけど、頼りにしてくれるのなら。
「うん、わかった!また来るよ!」
「おお!ほんまおおきに!」
僕はサポジイと硬い握手を交わした。
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一方その頃。魔王の城では!
「ははあ、勇者がでおったか」
水晶玉でランバージャック王国を覗く魔王の姿があった。
「魔王さま、どないしましょ?」
側近ゴブリンが話しかける。
「アクスカリバーを引っこ抜く手間が省けてちょうどええやないか。手を緩めずにガンガン行ったれ!」
「ハッ!」
「よーし、ノームの軍団を用意せえ!ガッツンガッツン攻め込んで、アクスカリバーを手に入れるんやーっ!」
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木こり達み見送られて、僕はサポジイと一緒に切り株の元に戻ってきた。
「ああ、帰る前に、1つお話が」
「え、なに?」
「勇者様が次に来るまでの間に、アクスカリバーの力を鍛えときます。化物ども蹴散らしたんで、魔力が溜まったんですわ。せやけども、全部強おするのは魔力が足りひん。何を強うするかは、勇者様に選んでもらわんと」
「強くするってどういうこと」
「説明します。バトル木こりを強化すると、タフになるんや。タフになればなるほど、怪物どもを抑えることができますねん。トマホーク木こりを強化すると、手斧の数が増えるんや。つまり攻撃回数が2倍になるっちゅーわけやな。せやけど、強化費用はナンボかお高いねん」
「今の魔力だと、どれくらい強化できそう?」
「まー、今の魔力やと、バトル木こり2段階強化か、トマホーク木こり1段階強化のどっちかやな」
トマホーク木こりが強くなればそれだけ早く敵を倒せる。でも、安定性を考えるならバトル木こりの強化だろうか。
「それじゃあ……トマホーク木こりの方にしようかな」
「まいど!ほんならやっときますんで、お帰りください」
「うん。それじゃあまたね」
「ほなまたな!」
僕が斧を切り株に打ち込むと、元の世界に戻っていた。
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時刻は夕暮れ時になろうとしていた。
「ああ、マズイ!早く帰らないと!」
……それからなんやかんやあって家にかえることはできた。そして僕はまた数日後、アクスカリバーを手にとるのだった。
WAVE0:チュートリアル 終わり
WAVE1:魔法使いノーム軍団 に続く
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