第13話 生物は公然猥褻

 特にどの植物という事ではない。お金を貰って引き受けている書き物が行き詰まり、色々と他の事を検索して遊んでいたら澁澤龍彦先生をモデルにしたキャラクターが文豪ストレイドッグスの映画で活躍していたというのを見つけて、澁澤先生のエッセイのどれかで読んだある事を思い出しただけだ。

 曰く、人が性器を外に出して見せたら捕まるのに、植物は自身の生殖器官=花をあからさまに披露しているとかなんとか、ホントの所はどういう書き方だったか、かなりうろ覚えなのだが、それを始めて読んだときに発想の違いに衝撃を受けたという、衝撃の記憶だけは残っているのだが、そう言われてみれば花は植物の生殖器官だ。

 春になり、カエル達は池のほとりで乱交パーティーを繰り広げ、ユスリカは蚊柱を作って交尾の相手を探し、花は鮮やかな生殖器を開いて受粉を今か今かと待ち焦がれている。春は新たな命の始まりの季節であるが、もっとハッキリ言ってしまえば生殖の季節なのだ。

 先日、新宿眼科画廊の展示で、増田ぴろよ氏の巨大ミラーボールペニスと対になるかの様に展示されていた、ろくでなし子氏ご自身の女性器を型取って作った石膏像「初心回帰」を見た。以前、同様の作品が猥褻物陳列罪で裁判沙汰になったのだが、思っていたよりつつましやかな形状だった。もっとも、彼女はこの作品群を製作する前に女性器の整形をしているので、元々の物のままだったらもっと違ったものになったろう。なお、女性器の整形もアート活動の一環で、女性器を型取りして作った作品は、その続編という位置付けらしい。ミラーボールペニスとクリスタルカントの展示は、猥褻というより哲学的ですらあった。ご本人たちの意図とは完全にずれた感想ではあろうけれども。

 植物は花を咲かせて鳥や昆虫にアピールし、花粉を運んでもらう。これらを利用しない植物は風に花粉を運ばせる。コケは雨が降ると造精器の精子が雨の中を移動して造卵器に達し、受精する。イソギンチャクやサンゴは海中に卵と精子を放出する。魚は生まれた卵に精子をかける。動物は交尾をする。性器そのものを飾るもの、自分の能力をキレイな羽や素敵なダンス、ケンカの強さでアピールするもの。偶然を利用するもの。生殖器を隠すもの、隠さないもの、形状が単純なもの、複雑なもの、色々とあるけれども目的は生殖、ただ一つだ。

知恵と文化を手に入れたヒトは生殖のためだけに生きるものではなくなった。けれども生殖が無ければ種は滅びる。本能と知能の葛藤の間で猥褻という感覚が生れるのではないか。植物にはそれがない。

 種村季弘先生のエッセイに「澁澤さん家で午後五時にお茶を」というのがあって、その中に、鎌倉の澁澤家に集まった種村氏を含むメンバーが庭でアミガサタケを採取して調理し食べるというエピソードが出てくる。白いレース状の網をまとったアミガサタケはフランス料理の高級食材だが、これの仲間のスッポンタケは網が無くペニスそっくりの形をしているというくだりも、確かこのエッセイに書いてあったはずだ。それで、ダーウィンの娘がこのスッポンタケを毛嫌いしたという話も知ったと思う。ダーウィンの娘はスッポンタケをペニスの様だと毛嫌いしたし、或る種の食虫植物にも猥褻さを思わせる形状のものがあるから、植物は猥褻ではないという書き方は嘘になるのだが、それでも猥褻であると感じるヒトの脳が無ければ、やっぱり猥褻ではない。

今、本が手元にないので全部記憶で書いているから、所々、記憶違いがあるかもしれない。実家に取りに行くのは2時間半かかるが、そのうち確認しに行こう。

 仕事の合間に澁澤氏と種村氏について、ちょっと書くつもりが2時間もかかってしまった。

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