第3話 妖精の食卓~カラスノエンドウ
春になったかな、と思う頃に道を歩いていると、背丈は膝ぐらいから、せいぜい腰ぐらいまでの高さに、ピンク色の、いかにもマメ科の植物ですよという形状の、スイートピーを「選択→縮小」したような花をつけている植物が生えていることがある。草むらに、1~2本が混ざっている、という感じではなく、まとまって生えている。カラスノエンドウである。
カラスノエンドウとはよく名付けたもので、4~5cm位の長さの小さなサヤが成る。サヤを割ってみると、中には小さな緑の豆が4つ位並んでいる。これが更に成熟すると黒く、硬くなる。薄緑で柔らかだったサヤも、その頃には、乾いて茶色くなっている。指で押すとサヤはパチンと開き、皮はくるっと丸まってしまう。青い豆はサヤを開いても、一本の糸のようなものでサヤにくっついたままであるが、成熟した豆は、サヤが割れたとたんに、パラパラと落っこちてしまう。そうやって種子をばらまいているのだろう。
23区内でもちょっと緑が多い所には、これが生えているのを見ることができる。四十年近く前の通学路にもたくさん生えていた。当然、高確率で下校時の私の手の中にもポケットにもカラスノエンドウのサヤがいっぱい入っていた。
さて、カラスノエンドウに良く似た植物に、スズメノエンドウとカスマグサというものがある。
スズメノエンドウは、カラスノエンドウより小さいだけではなく、豆の数も2つほどしかないので、サヤは小さくて短い。花も、小さいカラスノエンドウより更に小さいのだ。
カスマグサは、カラスノエンドウとスズメノエンドウの雑種らしい。サヤの長さや大きさは、ちょうど両者の半分である。カラスとスズメの間だからカスマグサという名前がついたのだが、その間の大きさでちょうどいい鳥類はなかったのだろうかと思わなくもないが、鳥の種類とか大きさはネーミングには直接関係なさそうだ。
カラスの場合は、本来の物とよく似た野生の物、というような意味合いで使われるようだ。同じように使われるものとして「イヌ」がある。例えば、イヌムギという、麦だけれどもヒトが食べるものより野趣に溢れた形状をしている植物がある。
スズメの場合は、小さい、という意味でつけられるようだ。スズメが名前につく植物はたくさんあるので、後ほどまとめて書いてみたい。
ちなみにこのカラスノエンドウは、食用になるようだ。野草を使った料理の本に紹介されていたが、残念ながらまだ食べたことはない。まだ若いサヤのものを茹でておひたしにしたり、天ぷらにしたりして、食べるようだ。
小さなサヤエンドウは小さな妖精にぴったりだ。スープやサラダならともかく、妖精と天ぷらは似合わないだろうか。私は、妖精だって天ぷらを食べたいんじゃないかと思う。
カラスノエンドウを見かけたら、木や石の陰で天ぷらパーティをしている妖精たちを想像してみよう。
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