第2話 火の要らない花火~カヤツリグサ

 多摩川の野良アヒルは、羽村にできた動物公園に引き取られ、私は羽村から隣の秋川市(現あきる野市)に引っ越した。そこから毎朝電車に乗って、半年間は羽村の幼稚園に通い、四月からは自宅から子供の足で徒歩20分の距離にある小学校に通う事になった。

 登校時は、近所に母の遠い親戚が住んでいたので、そこの六年と五年のお姉さん、それからその友達の女の子の三人に、毎朝迎えに来てもらって登校していた。そこの遠戚の家には私と同い年の息子もいたのだが、一緒に登校した記憶が無い。いたかもしれないが。

 そういうことだから、行きはちゃんと時間通りに学校に着くことができた。問題は下校時だった。

 今は圏央道が出来た関係でその周辺も整備され、かつての通学路もすっかりきれいになってしまったが、その頃は色々と雑多な場所があって、四季折々の様々な植物を手に入れる事ができたのだった。

 イヌタデ、チカラシバ、オヒシバ、メヒシバ、スズメノテッポウ、カラスノエンドウ…それぞれに魅力があり、いじめっ子に石をぶつけられたりされない日は、ほくほくとそれらを摘んでは帰宅したものだった。母曰く「本当の道草」である。

 さて、そんな宝の山の中に、線香花火そっくりの草が生えていた。線香花火が盛んに火花を出している時の、四方に火花の線が飛び、その先でパッパッと火花が散る、あれにそっくりなのだ。茎は結構固く、角ばっているので、気を付けないと指を痛めてしまう。うまく抜けると、線香花火の燃える様を想像しながら指先でクルクルと回したりして、うっとりと眺めながら帰宅したものだった。

 あれはいったい何だったのか。後で調べてみると、カヤツリグサという名前であることが判った。茎の部分を割き、蚊帳かやをつる部分に見立てて遊ぶのだという。だけど、私が小学生になったころにはもう蚊帳を使っている家などほとんどなかったので、あまりピンとは来なかった。

 

いつまでも消えることのない花火は、あの頃の通学路に咲いていた。


 


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