第81話 醒めない夢

81.

~果歩が消えた日から 32




  「内ポケットに、あなたのサインと保証人のサインも

ちゃんと書き込んである離婚届けが入ってたんです。

 もう私は神様にどんなにか感謝したことでしょう!

 こんなことってほんとにあるんですね。そして私は

その届けを持って役所に行き離婚届を出したのです。

 ですから、私と溝口はれっきとした正式な夫婦なんです」




 「そんな・・」



 「お前、離婚届けを果歩さんに突き付けてたのか? 」



  「ただの、脅しですよ・・本気じゃなかった、ホンキジャ」



 

 「馬鹿かお前は。そんなもの脅しで妻に渡すようなもの

じゃないだろ。けっきょくそれで自分の首を絞めたって

わけだな。もうお前にはどうにもできない。今まで

散々果歩さんを振り回し、苦しめてきたのだからな。

 果歩さんの新しい生活を祝福してあげなさい。お前に

できるのはそれしかないさ」



 そう義父が康文さんに助言してくれた。




  「酷いよなぁ~、俺は誰とも結婚しないで待ってたのに」




 そんな皮肉な一言を今更言われましてもねえ~

結婚して一緒に暮らしてた時に私一筋ならこうはならなかった

というのに、私が居なくなった途端、清廉潔白妻一筋だった

なんて言われても、なんかちゃんちゃらおかしいんですけど?


 誰とも結婚してないぃ~? 私も母も知ってンのよ?

 あなたがあの仲間友紀とあの後すぐに暮らし始めてたこと。

 どうやら話を聞いていると籍は入れてなかったみたいだけど。


 実際私を待ってたなんて信じられないわ。たまたまでしょ?

 たまたま女性と縁が作れなかっただけ、たぶんね。




 「そういうことですので、お義父さん、お義母さん

すみません」



 「「いいのよ、康文のことは自業自得なんだから」」


 「気にせんでいいよ」



 話は終わろうとしていたその時、康文さんが言った。


 これで最後になるだろうから、果歩とふたりきりで

話がしたいと。  


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る