第42話  醒めない夢

42.

~深山康文と果歩の結婚生活  (39)



 息を吐くように簡単に嘘を重ねることができて・・

浮気のハードルが極端に低くなっている・・


 夫が言ってきた女とは別れるという言葉

の何と軽いことか。



 だが、口にした手前また以前と同じように家に

帰って来るようにはなった。


 反省の色も・・そして言葉も無かったけれど。


 夫のいる景色は霞んで見える。

 夫?


 この男(ひと)が私の人生のパートナー?

ンなわけないよね?


 だけど夫なの?

 この人、誰なんだろう?

 私にとって誰ナンだろう?


 夫といるとイライラしてしまう。

 それなりの会話はするけれど、以前のような親密さは

持てるはずもなく、息苦しささえ感じてしまう。


 こんなあからさまに嫌悪感の混じった感情を持つことは

初めてかもしれない。


 不安や悲しみだったり、悔しさだったり、怒りだったり

そんな感情は経験していたけれど、吐き気を催す程の嫌悪感は

初めてのことで自分でも驚いている。


 だから夫の前で普通に見えるよう、取り繕うのが大変。



  けれど、夫の家に帰ってくる頻度が増えてほっとしている

自分がいるのも確かで・・人間ってつくづく矛盾を孕んで

るものなんだなぁ~って自己分析したりしていたある日のこと。




 自宅に仲間友紀がやって来た。


「私、お店でバイトしている仲間と言います。

オーナーの奥さんでしょうか? 」




「ええ、そうですが」



「大事なお話があって、それで何とかこちらの住所を

調べて尋ねてきました。え~と、お時間いただいても

いいでしょうか? 」



「判りました。ここではなんですから、近くにあるお店で

どうでしょう? 」




 私は産休と育休中はもっぱらお家ごはんがメインなので

というか、勤めてる時はお弁当か病院内の食堂もしくは

近くの食堂で食べたりということはあったけど、家の

近所でほとんど外食したことが無かったので、ちょっと

焦ってしまった。


 さりとて彼女をうちに上げてリビングでなんて

とてもじゃないけれど・・有り得ないし、何となく

普段道すがら目にしていた店に彼女を連れて行った。


 

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