第30話 醒めない夢

30. 加筆修正有2020.08

~深山康文と果歩の結婚生活  (27)



 あぁ、私としたことが何ということ!

 つい、油断してしまった。


 時は夏と秋の境目、長月に入り微風はあるものの

まだまだじっとりとした暑さが居座っている日のこと。


 次の従業員はどんな人に決まったのかしらンなんて

ちょっぴりワクワクしながら娘を連れて散歩がてら

店の様子を見に出かけたのだが。


 うちのコンビニは自宅からゆっくりと娘を乗せたバギーを

押しながら徒歩で17~8分のところにある。


  夫は毎日自転車で通ってる。雨の日は自宅前のバス停から

バスに乗って行く。


 

 ほんとうに嘘のように良い立地条件でお店を出店することが

できたのだ。そんな風だから節約も兼ねてお昼は我が家で

摂ることが多い。



 ここ最近お昼に帰ってくることが減ってるのだが、この日

店の中ををチラ見してその原因が判った。



 店にはどう見ても10代にしか見えないヤンキー風の

女の子と夫が仕事していて、夫はやけににニヘラニヘラして

いる。


 髪の毛は茶髪でふわふわゆるゆるパーマがかかっていて

 彼女はコンビニ用の制服の前ボタンをふたつも外し、鎖骨の

きれいな線が見えるよう着崩しており、柔らかなフリルがその

周りを飾り、胸元には洒落たひと粒ペンダントネックレスの

ハートシェイプネックレスが見えた。


 ハート型で真ん中がハート形に空洞になってるやつ。

 所謂ドーナッツ型。


 この一大事に・・

 やっと軌道に乗った仕事に・・


 自分の好みで選んだとしか思えないような人選に

私は激しくめまいを覚えた。


 

 私は面接に参加しなかったことを後悔した。


 前回は一緒に面接に立ち会い、夫と私の意見が

一致して斉藤さんに来てもらうことになったので

面接に対する夫の目を信じ込んでしまっていた。



 だから面接の話を全く私に振ってこなくても、まっ

いっかと、私のほうから改めて確認もしてなかったのだ。


  そしたらコレだ。

 この様(ザマ)だ。


 ホントに信じられない。

 私たちが今どんな状況なのか夫はぜんぜん判ってない。


 見るからに仕事なんか二の次のような女の子と果たして

今まで通り上手く店を回していけるのだろうか!



 私は店の前を2度3度彼らに気付かれぬよう、中を伺い

重い気持ちで家路についた。



 それから何度か散歩がてら店を覗きに行った。

 斉藤さんが居る日でも新人の仲間友紀がいることも

あった。


 どうなってるのかしら?2人もダブルで雇えるほど

の余力はないはずなのに。


 そんな風にいろいろ思うところもあったけれど

結局私は夫に何も言えずにいた。


 経営状況は私も必ず帳簿に目を通していたので

ごまかしはきかない。


 案の定、グラフは下降線の一途を辿っている。

 様子見していたけれど3ヶ月連続で急降下、もうだまって

なんていられなくなった。




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