第31話 醒めない夢

31.

~深山康文と果歩の結婚生活  (28)



 私は一緒に帳簿を確認している夫に問い掛けた。




 「どうして、こんなことになってるの?

斉藤さんが来られない時間帯は新しい人に入ってもらっていて

人材の確保から言うといままでと同じ条件なのに人が

替わったからって、こんなことになるの不思議よね?


新人さんはよほど戦力になってないんじゃないの? 」





 「新人のせいじゃないさ、たまたまだよ。景気も悪いし

皆買い控えてるんじゃねぇ? ちまちま気にしなくていいって。

 その内また、上向きになるって。さてと、今夜のメニュー

何? 飯にしようぜ、腹減ったわ」



 ちまちまって何。大切なことなのに腹減ったって何?

 人事のように話す夫に腹がたってしようがない。


 そんな楽観視してていいのか、と言いたくなるのを

ぐっと堪(こら)えて、食事の支度を始めたのだった。



 もやもやして日々を過ごしていたある日、帰宅した夫が

言った。



 「斉藤さんね、とうとう辞めるって言ってきたよ。

その代わり仲間さんが穴埋めてくれることになったから

焦らなくていいんだけどさ。

 まっ、忙しくなりそうなクリスマスまではなんとか

勤めてくれそうだしね」


 


 「え~、彼女みたいに気働きができて信頼おける人って

なかなかいないわよ? 大打撃じゃない。ほんとうに大丈夫

なの? 斉藤さん、そんなにお母さんの容態良くなかったの?

 前お話聞いた時は退院できそうな話で、それまでは来れない

日もあるけれどお母さんが退院したらまた頑張ってフルで

来ますって言ってたのに。残念過ぎるよ」




 「しようがないだろ? 他所様にはよそ様の事情っていう

モンがあるんだから。俺が今までの倍頑張るから

心配しなくていいさ」


 そう言う夫はご機嫌で鼻歌を歌いながらビールを開けて

テレビニュースを見始めた。



 なんで大切な・・店の売り上げにかなり貢献度高めの

従業員がいなくなるっていうのに、呑気にしてられるの?

 大丈夫なわけないのに。


 あれからも売り上げは一向に快復の兆しを見せていない。





 

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