終焉に向かって。

@haruku0323

第1話 死のウイルス

ある平凡な月曜日。

桜散り、初夏を迎えようとする頃。

それは起こった。


『臨時ニュースです。アメリカの秘密結社により製造が行われていたウイルス「D-507」が何者かによりばら撒かれ、アメリカは恐怖に包まれています。現場の酒井さん!?』


『はい、こちら現場の酒井です!今、ホワイトハウス前はかなりの混乱が起きています!先程から何名もの人が救急車で運ばれて行きます!外に出るのはかなり危険ということで、私たちはガスマスクを装着してリポートをしております…あ、誰か近寄ってきます!』


『酒井さん、その方にお話聞けますでしょうか?』


『はい、聞いてみます!あの、ウイルスについて何か知ってることが…!?』


『グルァ!!!』


リポーターに近づいてきた男。

男は急に叫び出し、背中からナイフを取り出した。


『や、やめてください!!うわぁ!?うわぁ!!』


ザー、というノイズ音と共にリポーターからの映像は途切れた。


『これはやばいでしょ…』


あまりのことに、スタジオは大慌て、スタジオの女性キャスターも何が何だかという顔だった。

次の瞬間、プツン!といきなりテレビが切れた。


「怖いわねぇ、ウイルスなんて…」


テレビのリモコンを握っていたのは妹の美玲だった。


「なんで消すんだよ!今見てたろ!?」


「だって、私ああいうの苦手なんだもん。それに、アメリカの話でしょ?日本にいる私たちには関係ないじゃない」


美玲はふんっ、と顔をそらした。


「あのなぁ、今のウイルスがいつ日本に来るか分からないんだぞ!?気をつけるに越したことはないぞ!!ほら、リモコン!」


「…ったく、しょうがないわねぇ。全く、雷人は本当自分勝手」


美玲の言葉を無視し、雷人はテレビの電源を入れた。


「あれ!?ニュース終わってる…あんなんだから長引くかと思ったんだけどなぁ」


「ほら、やっぱりみんな関係ないと思ってるのよ!さ、ご飯の買い物しないと…」


美玲は呆れた顔で言うと、玄関から出て行った。


「ちぇ、みんな甘く考えすぎだよ…」


雷人は文句を垂れながら自分の部屋へ入った。ドカッ、とベッドに倒れ込みスマホを見ると、「圭介」と書かれた人からメールが届いていた。


『なぁなぁ、ニュース見た!?ヤバくね!?あれガチだよなぁ…マジ心配だわぁ』


そのメールを見た時、雷人の顔はニコニコと笑っていた。

それは、自分の理解者がいた事への嬉しさからである。


「やっぱり圭介は分かってるぜ…心配だよなぁ…」


雷人は慣れた手つきでメールを打ち込み、送信した。


『見た見た!やばいよなぁ…本当、日本にだけは来ないでほしいぜ』


「ふぅ、大変なことになったなぁ…」


ウイルスが来たらどうしよう、とかウイルスが来たら自分は生き残れるのだろうか、とか余計なことを考えているうちに、雷人は夢に落ちていた。


「…さい!…きなさい!起きなさい!!」


美玲の叫び声で雷人は目を覚ました。


「なんだよ美玲…」


「これ見て!大変よ!!」


美玲の右手に握られていたスマホ。

その画面には、ネットニュースが映されていた。


「えっと…アメリカのウイルス、日本で初めての感染者!?原因は…来日したアメリカのアーティスト…」


そのニュースを見た時、雷人は夢であってくれと願った。

そして、自分の腕や頬をつねった。


「痛い…」


「こんな時に何してんのよ!!」


「いやぁ、夢であってくれないかなと思って…はは」


そんな会話をしている時、ピンポーンとインターホンが鳴った。


「はーい!」


美玲はドタドタと玄関に走った。

そして、ガチャっと開けたドアの先にいたのは警察官だった。


「あの、私警察の者ですが先ほどのウイルスのニュースはご覧になられました?」


「は、はい、見ました」


「あのウイルスはどうやら空気感染をするようなんです。ですので、外に出る際はこちらを…それと、暑いでしょうが自宅は完全戸締りでお願いします」


警察官が袋から取り出したのはガスマスクだった。


「ご家族は何名で?」


「二人です…」


「ではこちらを」


警察官は二つのガスマスクを美玲に渡すと、では、とせかせか隣の部屋に向かった。

とても忙しいようだ。


「警察の人?」


美玲が部屋に戻ると、雷人はテレビのニュースに釘付けになっていた。


『臨時ニュースです!感染したと思われる男性が搬送された病院で暴れまわり、5名が死亡、10名が負傷をしたということです!あっさらに臨時ニュースです!来日したアメリカのアーティスト、マイク・レナード氏が搬送先の病院で死亡しました。さらに、感染者はどんどん増えていると…』


「は、ははは、やばいじゃん、日本終わるんじゃね?てか、日本どころか世界が…」


「雷人!!」


「は、はいっ!?」


「警察の人が外出るときはこれ被れって」


美玲は先ほどのガスマスクを雷人に投げつけた。


「あぁ、分かったよ」


「あと、家は完全戸締り。窓開けちゃダメよ!?」


「まじかよ、死ぬって」


雷人はあからさまに嫌そうな顔で答えた。

それにイラっとしたのか、美玲は無視してキッチンに向かった。

足元にある雷人の携帯が鳴った。


「おっ、圭介からだ」


『まじシャレにならんて!!やばいよな!?俺たちも感染して死ぬのかな…』


こんな状況、やはりいつもの圭介とは違うなと雷人は思った。


『だよなぁ…俺も心配だぜ。だけど、諦めちゃそこで試合終了だ!頑張ろうぜ!!』


なるべく圭介を元気付けるため、そして、自分を落ち着けるため、雷人は強気なメールを書き送った。


(はぁ、これからは命の危険と向き合って生きてかなきゃなぁ)


実感がわかない中、心の中で妹は俺が守らなきゃ、と雷人は誓った。


「はい、ご飯できたよ」


出てきたのはミートソーススパゲティ。

雷人の大好物だ。


「お、今日は俺の大好物のミートソーススパゲティじゃないか!」


「そうよ、たまには雷人の好物もと思ってね」


二人は、はははと笑いながら食事を囲んだ。

二人で迎える食事がこれで最後になるとも知らずに。

ご飯を食べ終わった雷人は、風呂に入り、は 歯を磨き、ベッドに潜り込んだ。

雷人のスマホが鳴った。


「圭介からだ」


『ヤベェよ、感染者どんどん拡大してるって!ついに東京でも出たみたいだし…マジ怖くて寝れねぇ…』


「マジかよ、東京まで来てんのか…」


『それはヤバイな…本気で今後のこと考えないとヤバく鳴って来たな』


(とりあえず今日は寝よう…)


暗い部屋で、雷人は目を瞑った。


ーーーーーーーー


次の日の朝、雷人は7時に起きスマホを

見た。

すると、通っている大学からメールが来ていた。


『ウイルスによる感染が東京まで来ているため、しばらくは休校とします。何かあればまた連絡します』


「大学も休みか…そりゃそうだよなぁ」


スマホをベッドに放り投げると、雷人はテレビの電源をつけた。


『ウイルスの感染は依然進行が止まりません。ついに、北は北海道、南は沖縄まで感染者が出始めました。これを問題視した政府は、アメリカから大量の予防剤と少量ではありますがワクチンを輸入しました』


テレビを見ていると、玄関からガタン!と音がした。何だろう?と思いながら雷人はガスマスクを被った。

そして扉を開け、扉の横にあるポストを見ると「ウイルス予防剤」と書かれた霧吹きが二本入っていた。


「さっき言ってたのはこれか…」


家に入り、ガスマスクを取るとテレビの前に美玲が座っていた。


「おはよう、美玲」


「あ、おはよう、雷人」


「これ、ウイルス予防剤だって。外でたり外のものに触ったらこれで拭けと。あと、外出たら家入る前にこれ服にかけてな」


雷人は説明しながら片方の霧吹きを美玲に投げた。


「分かったわ…はぁーふ」


美玲は大きなあくびをし、テレビに目を向けた。


『こちら東京の新宿から中継です!今、新宿の真ん中でウイルスに感染したと思われる男性がチェーンソーを持って暴れています!かなり危険です!今警察が取り押さえようとしていますが、かなり難航しているようです。現場からは以上です!』


『先生、これはウイルスと関係あるんでしょうか?』


女性キャスターが白髪の老人に話しかけた。


『えぇ、大いに関係あると言えます。アメリカでも感染した一部の人がこのように暴れていることから、このウイルスには人を凶暴化させる作用もあると言えますね。ま、それは人によっては起こらない人もいるようですが』


「新宿ってすぐ近くじゃない!怖いわねぇ…」


美玲は勢いよく振り返り言った。


「そうだな…」


(はぁ、学校の友達は平気かな…)


その時、圭介から一通のメールが届いた。


『コロス、イマカラお前の家に行く。コロシテヤル』


メールの内容はそれだけだった。

最初は悪戯だと思っていたが、雷人は先ほどのニュースを思い出した。


「これって…ヤバイな」


「どうしたの?雷人」


「圭介って分かるだろ?あいつ、感染したっぽい」


そう言った雷人の顔は真剣で、どこか焦っているようだった。


「う、うそ…それで、どうしたの?」


「うちに来るって、殺すって…とりあえず着替えろ、家を出るぞ」


雷人はそう指示しながら着替え始めた。


「え、でも外へ出たら…」


「今はそれどころじゃない、イカれた圭介が家に来る。殺される前に逃げるぞ」


雷人は袖を折った白い長袖シャツに、ジーパンを着て、肩掛けバッグを持った。

バッグには予防剤と多少の水、財布が入れられている。


「分かったわよ」


美玲はいつも陸上部で来ている長袖長ズボンのジャージに着替え、リュックを背負った。


「さ、マスク被って行くぞ」


二人はガスマスクをかぶり、玄関を飛び出した。


「でも、どこ行くの?」


「とりあえず街をうろつきながら決めよう」


二人が街を見回すと、人は少なく歩いている人はみなガスマスクをつけている。


「はぁ、まさか圭介が狂っちまうなんて…くそっ!」


「一番仲良かったもんね…」


二人は住んでいる浅草を出て、新宿方面に向かうことにした。

外に出る人は会社員や警察くらいで、道路は殆ど車が走っていない。

そんな道を歩いている時だった。


「雷…人…」


「誰だ?」


これのする方には、黒髪の女が立っていた。


「君は…沙織さん?」


「誰?」


「大学の友達だよ。よかった、無事だったんだね」


雷人は沙織に近づいた。

すると、沙織は「ギャァァア!!」と叫び始めた。


「マジかよ…沙織さんもか!?」


雷人は後ずさり、美玲の手を引き走り出した。


「クソ!!逃げるぞ!!」


沙織は包丁を取り出し、雷人達の後を走って追いかけて来る。


(速い…!さすがは陸上サークルのエースだ…)


沙織はどんどん距離を詰めて来る。


「殺させデェ!!」


「ヤバイよ雷人!追いつかれる!」


「分かってるよぉ!!」


雷人は見つけた路地裏に入り、置いてあったゴミ箱を倒した。

すると、沙織はそこで詰まりかなり距離が離れた。


「よし、今のうちだ!」


二人はコンビニに飛び込み、商品棚に身を隠した。


「あ、あのー…」


ガスマスクをつけた店員が慌てて話しかけて来た。


「はぁ、はぁ、すみません、少し隠れさせてください!」


「え?わ、分かりました」


隠れながら店の外の様子をうかがっていると、店の前を沙織が通り過ぎて行った。


「はぁー、助かった…」


「ガスマスクってすごい邪魔ね…」


「だな…」


息が戻ったところで、二人は立ち上がった。


「あまり家から遠くないところで身を隠そう」


「そうね、ならこの近くに漫画喫茶があるわよ?」


「本当か?よし、それじゃあそこ目指して歩こう」


二人は店を出ると、漫画喫茶に向けて歩き出した。

その二人を、路地裏から人影が覗いていた。

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