Egoist

№4

Season

Number:0



桜ヶ丘高校の中庭。

夕日の光が差し込む中、俺は不良グループと絡みながらタバコを吸っていた。



「はぁぁ……ん、このタバコまずくね?」

「おいおい、それ結構うまいって評判のやつだぜ?」

「……それにしちゃ不味いだろ。」



十五歳の高校一年生。

そんな俺は今、タバコを一本手にしてそれを吸っているのだ。

もちろん、犯罪であり校則を破っている。けど、これが不良の世界。これが当たり前のようなものだ。



「シルバーさぁ、結局好きなタバコは?無いの?」

「……今んとこ一番はロベルグって奴。」

「あー、あれもうまいよなぁ。」



シルバー……それは俺の事だ。本名は魅夜 茜。

俺は不良の世界でも結構名の知れている者で、力もそれなりにある、そして知力も学年トップを取れるくらいだ。

けど、授業中に暴走するいかれ狂った不良ではなく、俺は一般の人間、ただたんにタバコを吸い、喧嘩をする……言ってしまえばタバコを吸うホモサピエンスのような人だ。

シルバー。正確にはスモーキングシルバー。

煙を吸うシルバー。

ちなみにシルバーとは俺の髪色、銀色の長めの髪からつけられたあだ名だ。



「でもロベルグって高くね?」

「このヒノマルよりは安いよ。」

「マジかよ!俺これからロベルグ吸うわ!」



タバコなんて決してかっこいいとはいえないし思えない。

出来ることならこんな不良の世界からは立ち去りたいさ。

でもな、簡単じゃないんだ。

タバコ中毒とかそういうの以前に………俺は……煙草煙依存病という新型の病気の被害者なんだ。

辞めたくてもやめられない、ではなく正しくは、やりたくなくてもやる……だ。



「んん?おやおや?君たちはどこの連中の不良でちゅかぁ??」



俺達のナワバリに数体のハイエナが寄ってたかって入ってきた。

俺が喧嘩する時はいつもタバコを加えながらだ。



「……って…あれ、タバコに…銀髪…」



そして、白き狼を目にしたハイエナは襲いかかろうとするも……タバコを加えた狼を見たハイエナは鳴く。



「……スモーキングシルバー…ッ?!」

「気がつくの遅いんだよ。雑魚が───」



加えて、俺のグループ『白縄』に喧嘩を売ったものはその喧嘩を必ず買われ、そして……秒にして血の海に流し込まれる。

今の時代、不良でなくとも政府までもが白縄の名を聞いてはビビって手を出さない。

それは不良を怖がっているのではない。

俺、スモーキングシルバーを恐れ、近づこうとしないのだ。



「ひ、ひぃ!!い、命だけはァ!」

「俺、大して筋肉とかないんだけど……なんでそんなに弱いの?」



小さな疑問だった。

大して筋肉質でもなければ腹筋も割れてるか割れてないかくらい、微妙。

それに対して今の俺の前にいるハイエナはモリモリと筋肉があるし、見たところ腹筋よりかは胸筋の方がある。それに背も二メートルはあるんじゃないか?

それなのに、なんでお前のような連中はか弱そうな俺一人に勝利の二文字を収めることが出来ないのだろうか……?



「……まぁいい、答える必要は無い。もうお前は飽きた。」



そう言って俺が右手をゆっくりと上げると、俺の周りにいた狩人たちは皆目を細くし目の前のハイエナを───



「殺れ。」



狩る─────。



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ」



───しかし、そんな白縄の未来もそう長くはなかった。

誰にもやられないと評判の無敵グループ。

それが終わる方法はたった一つ、そう思った政府は遂にやらかした。



「魅夜 茜、貴様を別の高校へ移動させ、ほかの白縄の連中は少年院へ送る。」



もちろん、そんな現実を瞬時には受け止められなかった。



「はぁ?何調子乗ってんのおじさんっ」

「手は出さないで欲しいものだ。タダでさえ我々は君を退学にせず、向こうの学校でも君の正体は隠し通すつもりでいるのだ。」



そんなのハンデ、正直俺には必要無かった。

だから、俺は自分の拳をふるおうとした。



「っ!!!」

「動くな。」

「なに………?」

「手荒な手段は取りたくない。だから、その拳を収めなさい。」



政府が俺に向けたのは銃口。

十五歳の高校一年生にやっていいことではない。それを政府はわかった上でこの行動をとっている。

そうだ、今思えば俺一人と莫大な権力を持つ政府……俺達は今ボロい吊り橋に立たされている。

それは詰まり、俺が政府は俺にこんなことをしているんだと言ってしまえば政府は大量の批判を浴び、耐えられなくなる。

それに対して政府は俺を大人しいひとりの人間にするため、正体を隠し、ほかの高校へ飛ばす。

俺が政府のしていることをばらせば両者とも終わる。

これはどちらがより我慢できるかという不良の俺が大の苦手とする我慢ゲームだ。



「よし、大人しくなったな家畜。」

「……で、あんた達、俺に何をしたいの?何をさせたいの?」

「うむ、今から君を送る学校というのは普通の学校ではなく、君の大好きな喧嘩がメインの学校だ。」



政府が俺に持ち込んできた話、聞けばそれはあまり悪い話ではなかった。



「名前は椿学園。先程喧嘩、と言ったが正確には自由な学園なんだ。そして、君に過ごしやすくするため我々が開発した機会で時間を戻し、一からそこで高校生活を送れるようにしておく。」

「………一から?」

「そう、生憎これは君にとって悪い話ではないはず。だが……我々の立てていた裏の計画、それは時間を巻き戻すため全てが消える。」



その言葉を聞いた俺はなにか嫌な予感を感じ取った。

なんせ、政府たちだけにペナルティーがありすぎだからだ。

そして、数秒後、俺の嫌な予感は不幸にも的中してしまう。



「そして、君の作り上げた白縄も……無かったことになる。」

「なに!?」

「だが、考えても見たまえ。悪い話ではない。これは人生のやり直し。タバコも裏では好きなだけ吸うといい。」



俺はその後、必死になって抗った。

けど、政府が持つ拳銃で俺は何度も体を撃ち抜かれては立ち上がり、血だらけになってまでも現実から逃げようとした。

だけど、抗いに抗ってようやく理解したのは……俺がいくら嘆いたって現実は変わらず、政府の命令に対して俺に拒否権なんてないという事だった。

正直、俺の中にはもう喧嘩とかそういうのはなくなって、全てがどうでもよくなったというか……全てに絶望した。



「…………。」

「うむ、拷問は終わりだ、直ちに計画を実行する。」



こうして、白縄の伝説は幕を閉じた。

それ以来、俺は何日も目を覚めることなく眠り続け、最終的に目を覚ましたのは四月の三日。

俺の記憶が正しければこの日は高校の入学式。

そう、俺はあの日、自分の汚れたベッドの上で目が覚め、そこから急いで学校へ向かった。

俺は政府の言葉を信じ込んでしまい、目を開けるその瞬間までドキドキしていた。



「………マジかよ。」



そこは知らない部屋だった。

スマホも俺自身のものではなかったし、開いても画面は真っ黒。

部屋を歩き回ってみたら一階しかなく、やけに狭く、俺の私物しか置いてなかった。

少しビビりながらも俺が寝ていた部屋のカーテンをバッと勢いよく開いてみる。

すると、俺の目の前にはまた事の無い景色が写っていた。



「嘘だろ……。」



そこは大都会。どこかは分からない。でも大都会。

しかも俺がいるのはマンションのだいぶ高い位置。

これで分かったのは……本当に政府の計画に俺が使われてしまっているということ。

本当に俺は政府の手により、住処を移動させられ、学校までをも変えられた。

しかも……ご丁寧にロベルグのタバコがダンボール五つにガッツリ詰まって置かれていた。

完全に舐められている。



「………もう、最悪だ。」



これが俺の二度目の高校生活のスタート。

最悪な政府共と俺の戦いの初め。

この時、俺は胸にある目標を抱いた。

それは、いつか政府を潰せるほどの戦力を手に入れるということ。

その野望が俺の中で芽生えてから……俺の中の何が黒く変色し、ドクドクと音を鳴らす。

そして、聞こえた。



『破滅。破壊。崩壊。全ての魔の力を与えます。契約を、、、してくださ。い。』

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